キルクリース山の遥か上空、リディアは雲の上で光の玉に向かって跪き、両手を差し出している。オブリビオンに住むデイドラロードの一人、メリディアだ。かつてリディアはホワイトランの従士となったドラゴンボーン共に、従士がブリークフォール墓地から持ち帰った宝石をここへ届けたことがあった。死霊術師マルコランに奪われた聖堂を解放したことで、彼女が聖剣と呼ぶドーンブレイカーが与えられ、代償として信者にされたてしまったのだ。リディアは熱心なタロス崇拝者ではないが、ノルドとして人並みに信仰心は持っている。デイドラを頼るという考えはあまりに突飛なものに思えたが、ドーンガードは従士が吸血鬼の味方になったとすれば命を狙うに違いないし、ステンダールの番人も同じだ。ストームクロークや帝国軍はポテマの配下になりかねないし、故郷ホワイトランのバルグルーフ首長さえポテマには逆らえない。
その点、デイドラは自分の都合しか考えない分、今のリディアにとってはむしろ好都合な相手だ。不死を嫌うメリディアはデイドラの中でも嫌われ者。善きデイドラと呼ばれる存在の一人だからだ。不死を嫌うデイドラと言えばアズラの方が有名だが、従士はネラカーというハイエルフに唆され、黒き星なる魂石欲しさにアズラを裏切り激怒させてしまっていた。
「なんということです。我が運び手が、狼の女王に乗っ取られたと言うことですか」
「はい、メリディア様。従士様をポテマから助ける方法をどうかお教えください」
「運び手の魂は、ドラゴンボーンたるポテマに吸収され亡骸の中で眠りについています。ポテマの亡骸を我が浄化の光で焼き払いなさい。我が名において聖剣で切り伏せるのです。さすれば運び手は死霊術師の手から解放され、スカイリムは我が栄光と共に甦るでしょう。それまでは、あなたを新たな浄化の光の運び手に任命しましょう。ドーンブレイカーを改めて授けます。我が光で新たな一日の始まりを告げるのです」
「ありがとうございます。ですが、宗教の勧誘はよそでやってください」
「構いません。草木は太陽のぬくもりを運ぶ光をえり好みしないものです。あなたがドーンブレイカーを帯びる限り、我が光も届くでしょう」
気が付くとリディアは地上に下ろされていた。結局メリディアは何の助けにもならなかった。ポテマの亡骸はポテマが持っているからだ。ポテマはジョディスがプラウドスパイヤー邸からドーンブレイカーを持ち出したことに気付いているに違いない。この剣をぶら下げて歩くだけでドール城のダンジョンにぶち込まれるだろう。衛兵や帝国軍がポテマに逆らえない今、リディアはソリチュードに近づくことすら不可能なのだ。
背後の階段からかすかな物音がした。リディアはすかさずドーンブレイカーを抜き、盾を構える。ホワイトラン衛兵隊に支給される何の変哲もない盾に見えるが、例によって従士が鍛え抜いたそれは、巨人の棍棒を弾き飛ばし、ドラゴンの炎にもビクともしないアーティファクト級の一品だ。
「隠れたって無駄よ!」
鬱蒼とした木陰から、暗褐色のフードを被った怪しい人影がこちらを覗いていた。魔術師か、死霊術師の類だろう。メリディアの司祭という可能性はない。スカイリムに彼女の信者はいないからだ。居たとしても、九大神の司祭が着用する黄色いローブを付けているだろう。
「必要があれば殺すわ!」
リディアは肩を回して闖入者を威圧する。
「きっとここだと思いましたわ。あなた、彼のお友達ですわよね。その剣はジョディスが持っていたものですもの」
「あなた誰? 嫌な目をしていますね。何かに飢えた、不気味なものを感じます。まさか……」
まだ日も高いのに吸血鬼が出歩いているとも思えないが、スカイリムの吸血鬼は太陽に当たれば燃え尽きるような軟弱物ではない。
「私は……吸血鬼でしてよ。ですが、今は言い争ってる場合ではありませんわ。私と一緒にドーンガード砦へ来てくださいな。話はそれから致します」
「どうして吸血鬼を信用しなければならないのかしら?」
「あなたとこうしてお話するのはとても楽しいですけれど、とにかく今は急いでくださいませんか。ソリチュードから追手が向かっておりますの。今すぐに逃げなければ、私達2人とも捕まってしまいますわよ」