『第2次レッドダイヤモンド戦争』   作:長命寺桜

5 / 17
第5話 スカイリムの再統一

 内戦終結――スカイリムの誰もが意図しなかった形で、帝国とストームクロークの和平は実現した。正確にはセプティム復古王政がウルフリック率いる反乱軍と、ソリチュードを筆頭とする帝国派諸侯に停戦を命じたのであり、帝国自体は蚊帳の外に置かれていた。とは言え、公平なエリシフあらため、エリシフ=セプティムと、ウルフリック=ストームクロークが講和条約に調印し、ムートが全会一致でシビル=ステントールをスカイリム上級王と認めた事実は、各首長を通しスカイリム全土に瞬く間に広まった。ノルドでなく、人間ですらないシビルの戴冠にスカイリムの住人は複雑な心境であったが、ストームクロークは白金協定を全否定するポテマの強硬姿勢に文句の付けようがなく、帝国派にしてもセプティム家に喧嘩を売る度胸を持った首長や勢力はいなかった。ポテマが肉体のみならず、自身も疑いの余地のなくドラゴンボーンであることも、ノルドの心情には効果的であった。アルドゥインを倒したのはポテマだった、などと言う噂もまことしやかに流れていた。ブレイズのグランドマスターデルフィンは、公式声明としてこの噂を否定したが、それが噂の拡散にますます拍車をかけた。

 メイビン=ブラック=ブライアだけはポテマからの要求をいくつか跳ねのけたが、それでもリフトがセプティム朝の一員となることを拒絶できなかった。ドヴァーキンのゴールデングロウ農園での失敗や、フロストの盗難と宿屋ブラック=ブライアでの虐殺、盗賊ギルドとの関わりまで持ち出し、狼の女王相手に脅しをかけて自分の地位と利権を守り切ったのだ。

 スカイリムを再統一したポテマは、アルドメリ自治領を含めたタムリエル各国に使者を送り、マーティン=セプティム以前の状態に復帰するよう通告した。皇帝タイタス=ミード2世と元老院はこの要求を黙殺。エレンウェンや司法高官、カジート工作員の首を送りつけられたアルドメリ自治領は、ポテマの妄言を無視したうえ、帝国に対しスカイリムに対しあらゆる手段で白金協定を順守させるよう最後通牒を突きつけた。ハイロック、モロウィンド、ブラックマーシュはどっちつかずの曖昧な回答でお茶を濁していたが、スカイリムと事情が似通ったハンマーフェルだけは、"復帰"こそ拒絶したものの帝国及びサルモールとの戦いには協力の用意があるとの回答を送ってきた。

 タムリエルのほとんどすべての人間が、タロス崇拝者でさえポテマの帰還を疎ましく思っていたが、一部には歓喜を持って迎えられていた。すなわち各国の死霊術師や吸血鬼達である。サマーセット群島でも、サルモールに反感を抱く魔術師の勢力は、ポテマを奉じて反乱を起こすためスカイリムへと集結しつつあった。各国は死霊術への締め付けを強化し、各地で小競り合いが頻発することとなった。後に第2次レッドダイヤモンド戦争と呼ばれるポテマを巡る血塗られた戦いは、既に始まりつつあったのだ。

 

 ソリチュードの神々の聖堂では、ポテマとエリシフの結婚式が執り行われていた。ポテマはもちろん意図的にここで式を挙げることを選んだ。タイタス=ミード2世の従妹がストームクロークとの和平に捧げられるはずだった場所で。

「ダン、ディディダン、ダンディダン、ダンディディディダンダダン」

「ダンディディ、ダンディディ、ディディダンダン、ダンディディ、ディンディディ、ディディディーダン」

 パンテア=アテイアの美声は、この場所において明らかに場違いだった。ソリチュードの住人で結婚式を素直に楽しんでいるのは鷲の目のノスターくらいで、その彼も吸血鬼向けに用意された血塗れテーブルには目を向けようともしない。式にはロッグヴィルの姿もあった。通常なら首のない死体は蘇生できないと言われているが、ポテマ自らが彼の首に命を吹き込み、首だけで参列させたのだ。姪のスヴァリやその友人ミネット・ビニウスはほとんど半狂乱で泣き喚いている。

 ドヴァーキンの友人としては大学からブレリナ・マリオンがひっそり参加していた他は、ナミラ信者のエオラが吸血鬼に混じって人肉を貪り食っていた。私兵たちはどうやらリディアの方針に従うと決めたようで、ポテマを従士とは認めないことで一致していた。同胞団はポテマ襲来は政治問題として不介入を決め込んでいたものの、保険として新人のリアを代表として派遣していた。

 件のヴィットリア=ヴィキの結婚は反故になっていた。両親からの反対もあったが、ポテマの手前シロディールとの関係を深めるような結婚を進められる状況にはなくなったのだ。今やヴィキは敵国の人間としてドール城の牢獄で厳重な監視下に置かれており、彼女と皇帝を護衛するはずだったペニトゥス=オクラトゥスは帝国軍から手配され、かつてのブレイズが如くバラバラに四散するありさま。今では散々嫌がらせを受けていたエヴェット・サンからも同情されている。東帝都社自体はまだ活動を許されてはいたが、ポテマが高い関税をかけて利益のほとんどを奪い取っているのだ。

 吸血鬼達が集まっている一角には可愛らしい子供の姿もあった。並々と血が注がれたゴブレットを手に、少女は保護者らしきアリクルの戦士――ナジルの元に戻った。

「素晴らしい結婚式ね。私、結婚式大好きなのよ。それに、こんなに美味しいワインが飲んだのはずいぶん久しぶりだもの」

 唇を真っ赤な血で染めながら、少女は喉を鳴らしてゴブレットを空にする。ナジルはうんざりした様子で吸血鬼の少女から新郎新婦へと目を移した。

「バベットよ、我々はどっちの皇帝を殺せばいい。憎きシロディールか? それとも友なるスカイリムか! この際、いっそ両方とも殺してしまおうか」

「それを確認するために、アストリッドは私たちを送り込んだのよ」

「そうだろうな。ただ……おそらくポテマは自分を殺して欲しいと言うに違いない。ウォーヒン=ジャースの本を読んだことがあるか? 彼によれば、狼の女王はスカイリムの歴史上一番狂った女なんだ。私はこれまで彼の歴史家としての資質に疑念を抱いていたのだが、どうやら認識を改める必要がありそうだからな……」

「だけどポテマが振る舞ってくれたワインはとっても美味しいわよ。サマーセット産の絞りたてだもの。もう一杯頂いてこようかな」

 ナジルは吸血鬼に混じって赤ワインに口をつける。赤ワインと言ってもソリチュード名物のスパイス入りワインのことだ。ここ連日続く式典やパーティーの影響でエヴェットの店は大繁盛している。彼女の店だけでなく、ソリチュード中が好景気に沸いていたが、それを喜んでいる者は誰一人としていなかった。

「シシスにかけて、お前の出すワインは美味いぞ聞こえし者よ。それにしても、夜母の次はポテマに取りつかれるとは。あれほど死体に愛される男を、どうして羨まずにはいられよう!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。