二人の時間
意気地なしの彼女達の幸福な時間
リクエスト[ガチ百合]から考えました。
百合と言えるか分かりませんが、楽しんで頂ければ幸いです。
「先輩は何で図書委員になったんですか?」
「え、何? 私が図書委員やってたら可笑しい?」
夕暮れ。利用する人がめったにいない図書室で、適当に取った本をパラパラと捲っていた私は唐突に話しかけてきた彼女に驚き、少し強めに答えてしまった。
「すみません。でも先輩、去年委員が決まってすぐは辞めたいっていたのに、今年も図書委員なのでどうしてかなと思いまして……」
私が怒ったと思ったのか、一言謝罪を入れ補足を入れる。
「去年は、居眠りしてたら勝手に決められて……部活もして無いのに放課後の時間を取られるのって嫌じゃない? だから辞めたいって言ってたの」
偏見かもしれないが、部活に所属していない人のほとんどは放課後、自分の時間を縛られたくない人たちだと思う。少なくとも、私は放課後の時間は自分の為に使いたい方だった。
「なら、なんで今もここにいるんですか。今年も居眠りですか?」
「さて、なんでだろうね~。当ててみる?」
「はあ。いいえ、先輩が答える気が無い事が分かったのでいいです。」
「ばれたか」
溜息をつき、読書に戻る彼女を見ながら冗談の様に返し、私も読書に戻った。
文章を目で追いながら、先ほどの事を思い返す。
本当は、何故今年も図書委員なのか聞いて欲しかった。しかし、自分から伝える勇気は無かったから、おちゃらけて軽く返したのだ。
でも、いつも通り軽いノリで返せたのか、自信はなかった。落胆の感情が漏れていないか、心配になる、ばれない様に視線を本から彼女に写した。
彼女は、先ほどまでと同じ様に本を読んでいる。変化は無いように見えた。安堵し息を吐くが、私の落胆の感情が届いていたとしても、彼女の態度は変わらないだろうという事に気づきまた、落ち込んでしまう。
「もしかして」
静かな図書館では、小さな彼女の呟きも大きく聞こえた。
「どうかした?」
バレたかも、そう思った。
に私の思いが伝わったのか。そうであれば、彼女は答えを言ううのだろうか、それとも、確証を取りに来るのか。
心臓の鼓動が激しくなっていくのが分かる。考えながら、言発しようとしている彼女の言葉が恐ろしかった。
「あ、その……もしかして、先輩も読書が好きになったのかなって」
彼女の口から出た言葉は、私の望んだものでは無かった。
確かに、図書委員をやっている人なんて彼女の様に本が好きな読書が趣味な本の虫が大半だろう。
「確かに、図書委員になってからよく読むようになったよ~」
「知っています。委員を始めてすぐはスマホばっかり触っていましから」
「アハハ、あんまり本って読んだ事無かったから」
「先輩が今読んでいる本、私も読んだ事あるんです。」
知ってる。私が本を読むようになったのは、彼女のせいだから。
そこから、お互いの読んだ本の話をした。彼女は、自分の読んだ本に対して、感想を言い合える相手が出来た為か、饒舌に語ってた。
「あ、先輩そろそろ閉める時間です。」
「え、もう? じゃあ、片付けしてて、鍵を取って来るから」
楽しい時間は直ぐに終わってしまう。
名残惜しさを感じながら、職員室に図書室の鍵を取りに向かう。
彼女といられる時間はとても少ないと思う。彼女との接点は、図書委員だけだから。チャラく見られる私と、読書が趣味の地味な彼女。一年委員会を一緒にしたのに、私は彼女の事をあまり知らない。
好きなお菓子は? 好きな音楽は? 得意な教科は?
話したい事はたくさんある。でも、私は自分から話しかける事が出来ない意気地ないしだった。
だって、初めてだから。
だって、女と女だから。
彼女に否定される事が怖いから。
先輩が鍵を取りに行く後ろ姿を見送る。
時間は何故立ってしまうのか、今の私には、チクタクと時間を刻む時計がとても憎らしい物に思えて仕方なかった。
「先輩は、私の事どう思っているのかな」
言葉がこぼれた。
慌てて辺りを見渡すが、人影は無く安堵の息を吐き、戸締りを始める。
先輩が今年も図書委員で嬉しかった。でも、去年先輩が図書委員を嫌いっていた事を知っていたから、勇気を振り絞って思い切って聞いてみたが、誤魔化されてしまった。
もし、もしだ。先輩も私と同じ気持ちで私に会うために図書委員を続けてくれているのなら……
なんて、思うだけだったらいいですよね。
もし私に勇気があったら、意気地の自分を変えて、今まで読んだどんな本より素敵な事がで貴方に思いを告げたい。