俺が未来のゴブリンスレイヤーを見つけてから早10年が経過した。あの後、助けた姉弟の様子を見に行ったが姉の方は簡単に見つかった。なんでもゴブリンに犯されそうになったことがトラウマとなり神殿に入ったそうだ。だが、PTSDを患ってなお気丈に振る舞い同時期に入った娘を励ましたり、幾何か先輩である娘から相談を受けるなど原作のゴブリンスレイヤーの姉そのままといった具合である。その姉が絶えず心配していたのは弟のことで、姉が神殿に入ったその日の夜に行方を眩ましたそうだ。俺自身そのことを神官長から聞いただけに過ぎないが、おそらく原作の通りにレーアに師事し訓練をしているだろうと考え放置した。そして、俺の考えている通り彼は5年後再び現れた。
それからは、彼に気付かれないよう姿を変えたりしながら彼の活躍を傍観している。俺はあくまでこの世界を存続させるのが目的の存在であるがために、彼1人を贔屓に手を貸したりしない。いや、そんなことをせずとも彼は知略を巡らし、練習を怠らず、絶えずゴブリンを殺す手段を考え続けている。強者になればなるほど止めてしまうことをもう5年も続け、ゴブリンを殺し続ける。正にゴブリンスレイヤーと呼ぶのが相応しい存在へと成長している。
そんなゴブリンを殺すことしか考えていないと周りから思われている彼が唯一常時苦戦するのが、ゴブリン退治を行った後に必ず行っている神殿への挨拶。つまり、彼の姉への生存の報告だ。彼の姉は弟が冒険者になったことを知ったときに泣き崩れてしまい、兜で顔が見えないはずの彼が慌てながら姉を慰めている様を見た時は、周りに気付かれないように爆笑したものだ。やはり、弟という存在はどれだけ強く成長したとしても姉には勝てないらしい。冒険者になったことを伝えただけで泣き崩れた姉が、弟がゴブリンを殺すことを目的として生きていると知った時は、もう泣きながら説教をしていた。やれそれがどれだけ危険なのか、ゴブリン程度と言っても死んでしまうことがあるだの、独りにしないで欲しいだの、心配する身にもなれだの、支離滅裂になりながら彼を引き留めようとしていたが、彼のゴブリンへの憎悪と顔に出さない秘めた思いを聞いて苦渋の決断として認めたようだ。残念ながら俺はその場に居合わせなかったので後日神殿でその様子を見ていた姉の同僚から上手く聞き出したのだが、その時の盛大な姉弟喧嘩を生で見たかったと切に思う。
そして、姉がゴブリン退治に行く弟に出した条件というのが
1つ 大きな怪我をしたら完治するまでゴブリン退治を休むこと
2つ ゴブリン退治を終えたら自分の下まで来て生存の報告をすること
3つ 冒険者としてやっていけなくなるような怪我をしたのなら、無理をせず辞めること
というものだった。本心から弟を心配する優しい姉の心使いなのだろうが、今の彼にとっては面倒な約束だったろう。しかし、俺からしたら正に願ってもいない条件を出してくれた。
何故なら俺のこの世界での目的は、前世で嵌っていたゴブリンスレイヤーの主人公である彼が幾多の困難を乗り越える様とその彼に惹かれていくヒロイン達をどうにか結婚させて、冒険者から夫にジョブチェンジさせてやりたいと思っていたからだ。その前世からの妄想が叶う可能性が出てきたのだから俺としては楽しみで仕方ない。原作と違い姉だけは助け出せたので彼も少し柔らかくなっているし、原作同様幼馴染の牛飼い娘の牧場で寝泊まりしている模様。時折彼の様子を見にギルドに行けばどう見ても彼にゾッコンとなっている受付嬢の様子も確認してある。今正に俺の幾百年かの妄執を叶える時が来たのだ!
ある日久しぶりに彼の様子を見に行くかと彼が所属するギルドに行った時の事だ。俺は顔が割れているので変装をしながら彼の様子を見るのだが、丁度彼がギルドに着いたようで依頼の確認をしている時に聞こえてきた陰口に俺の気分は最低へと叩き落された。
―小汚い装備。自分たちでももう少しましな装備をしている
―あれが自分たちと同じ銀等級か。雑魚狩専門でもなれるだ
―銀等級のくせにゴブリンしかやらない臆病ものだ
聞いていて腹が立ってくる。俺からすればお前たちの存在など取るに足らない塵芥程度でしかない。少し腕が立つ程度で一番被害を出すゴブリンを格下と見下し、初心者にやらせようとするお前たちの方がよほど意味のない存在だというのに・・・。
実入りが少ない?それはそうだ。依頼するのは国が確認することもできない小さな村なのだから金などない。面白くない?それはゴブリンという存在の本当の恐ろしさを知らない馬鹿が宣うことのできる言葉だ。有象無象のお前達が少しばかり大物を倒した所で、苦しんでいる村は救われない。ゴブリンへの復讐をしているだけの彼の方がよほど、冒険者として沢山の命を、人の笑顔を守っているというの・・・。本当意味のない肉塊どもだ・・・。
そんなゴミ共への不満を漏らしている内に彼が面白い話をしていた。受付嬢のゴブリンは何故村を襲うのかという質問に対して、彼の返答は完結だった。それを聞いて知らず知らず笑みが浮かぶのが分かる。彼は、俺が何もしなくともちゃんと原作通りゴブリンスレイヤーとなっている。俺がコイツぶっ飛んでるけど面白いな!と感じた主人公そのままだ。やはりこの世界は面白い。彼が受付嬢の逆鱗に触れて角を出させてしまっている様を上から覗いて人知れず笑みを深くする俺だった。
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最近パーティを組んでいる神官の娘と彼がゴブリン退治に向かったのちギルド内にいる冒険者もまばらとなった頃、俺はそれとなしに受付嬢に話しかけた
「銀等級の彼は今日もゴブリン退治ですか・・・」
「あ、貴方は?」
「そうですね・・・。彼のファンだとでも言っておきましょうか」
「へ、へぇ、そうですか(ゴブリンスレイヤーさんのファン?それだとしたら何故直接本人に言わないのかしら?)」
「ギルド内での彼の評判は余り芳しくないようですね。彼がゴブリンを退治することで近隣の村などは安心して暮らせているというのに・・・」
「!そうですよね!ゴブリンスレイヤーさんは、自分がどれほど人を助けているのかもっと客観的に見て受け止めるべきだと思うんですよ!」
「その通りです。汚れた装備はゴブリンを相手にするのに臭いを消すため。煌びやかな上物の装備を使わないのは万が一の可能性を考慮して。常に考え続け戦い続けることが出来るというのが、どれほど凄いのか彼も彼を批評した塵(ry。う、うん!同業者も理解すべきなんですがね」
「!(この人はゴブリンスレイヤーさんをちゃんと評価してるんだ!)あの、貴方は?ゴブリンスレイヤーさんのファンだと言ってましたが?」
「ええそうですよ。私は彼のファンです。彼の行く末がどうなるのか見届けたいと思っている偏屈な旅人ですよ。
しかし、彼ももう20。そろそろ人生の伴侶を見つけてもよい頃でしょうに」
「人生の伴侶!?そ、それってつまり、あの、お、奥さんという事でしょうか?」
「ええ。冒険者はいつも命がけです。何時命を落としてしまうのか分かりません。そんな折に命を懸けて戦い続けた彼らが残せるものは何でしょう?武勲?平和?装備?いいえ違います。必死に生きて戦い続けた彼らの血を残すことが大切だと考えているのですよ。私は。
特にあちこちを旅していますと優秀な冒険者の血を残すことの大切さを痛感しますね」
「ああ!白金等級の冒険者さんの血を残すべきですもんね!」
「残念ながら、白金等級は血筋ではなく光の神の祝福を受けることが出来ればそこいらの村娘でもなることが出来るので余り意味は無いんですよ。本当に残すべきは銀等級、金等級と言った、人の中から己の力で駆け上げる冒険者の血ですよ」
「詳しいんですね・・・」
「ええ。何かと関わることも多いので。私としては、彼のような人としての強さを持つ冒険者の血が末代まで残ってほしいと思う所存です。
彼のお姉さんもそれを望むでしょうし」
「ええ!?ゴブリンスレイヤーさんにお姉さんがいらっしゃるのですか!?」
「はい、この町の神殿に入っていると聞き及んでますよ?彼もゴブリン退治を終えた後にはいつも報告をしに行っていると聞きました。一度お会いしてみては如何ですか?」
「わ、私がゴブリンスレイヤーさんのお姉さんと!?」
そう仰天した後顔を赤く染めながらぶつぶつ言っている受付嬢を放置して俺は帰途に着いた。脳裏には、彼と一緒にゴブリン退治に向かった神官娘が原作と同じだったことに神への感謝と、新しい火種をどうやってぶち込むか考えながら・・・
白金等級の冒険者が生まれる過程については真勝手ながらオリ設定とさせてもらいます