愉悦道中記(凍結)   作:壇クロト

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また1人称に戻ります

時系列はオーガを倒した後の何気ない日常


3話

世にも珍しいパーティの結成から半月。ゴブリン退治の成否の確認の為にギルドに向かってみれば、珍しいものを見ることが出来た。普段は薄汚れた鎧で全身を覆っているゴブリンスレイヤーがなんと軽装でギルドへと来ていたのだ。思わず2度見した俺は悪くないと思う。幼馴染の牛飼い娘と別れた彼は、その足で冒険者の装備を揃える工房に向かうのかと思ったが、その逆方向にある神殿へと向かっていった。恐らく姉への報告をするのだろうが、普段鎧を着込んでいる奴が軽装な場合十中八九装備が大破するような大怪我をしたと考える。そんな状況であの過保護な姉に報告するのだ、絶対に面白いことになる!

 

案の定俺の予想は当たっていた。何度も言うが、彼は神殿に向かう際も鎧を着込んでいるので余り良く思われないが、鎧を着ていなければ誰だか分かって貰えなかった。その時点で俺の腹筋は痙攣を始めているのだが、弟が装備を脱いで神殿に来ていると知った彼の姉が血相を変えて走ってきていた。彼が報告をする前にいきなり拳骨を落として、何があったのか全て話せと威圧感たっぷりに迫るさまは、傍観している俺でも多少冷や汗が出てきた。彼が拳骨のダメージから抜け出せず途切れ途切れに報告を進めれば、顔色を青くしたり、赤くしたりの一人百面相を始め最後にはどうしてそんな無茶をしたのかと、震える声で静かに怒っていた。これには彼も焦ったらしく、どうしてもやる必要があったことや切り札を用意していたことを説明したが、逆に切り札があるなら直ぐに使えと怒られていた。最後は無事に帰ってきてくれて嬉しいと抱きしめていたが・・・。よく考えて欲しい。2人は姉弟であるが、いる場所は神殿で若い娘が修行を積む場所だ。そして10~20代の娘が一番好きなものは恋愛話と相場が決まっている。つまり、弟を抱きしめている姉だが、普段その弟は鎧を着ているため他の娘から見れば自分たちの同僚が見知らぬ男を抱きしめているように見える訳だ。これで盛り上がらない訳がない!更に彼もいきなり抱きしめられると思っていなかったのか、普段表情が分からないのに赤面しながら姉に離すように懇願する始末。俺の腹筋は大崩壊を迎えた。

 

あまりに笑いすぎて呼吸が止まりかけたが、そこは腐ってもチート転生者の俺だ。彼が何故かやつれた顔をしながら工房に向かったのを見届け、彼の姉に挨拶だけでもしようと思い話しかけた。先に言っておけば彼の姉は俺の存在を知っている。なんでも神殿に入ったときにお告げを受けて知ったそうだ。が、俺の目的自体は知っておらずあくまで自分たちを助けた存在が誰でどんな奴なのかをぼんやり理解している程度だという。話がそれた。俺が話しかけたら何故弟があんなになるまで傍観していたのかとすごい剣幕で言及されたが、白金等級の冒険者が銀等級の冒険者一人を贔屓にするわけにはいかないと伝える渋々引き下がった。その後は彼女の弟自慢と早く冒険者を引退して子どもを抱かせて欲しい等と言った望みを語られたのでうっかりおばあちゃんかと呟いてしまった。・・・その後の事は言いたくないが、一言いうなら白金等級だって痛いものは痛いのだ。

 

その後は、取り立てて何かがあった訳ではない。彼と同じ銀等級の槍使いが彼の素顔を知らずに気安く話しかけてるのを見てニヤニヤし。彼と冒険を共にしていた神官娘が位階が上がったことを彼に嬉しそうに報告している様子を眺めていたら犬の耳と尻尾を幻視してニヤニヤし。オーガを倒したパーティに仲間と話しているのを見ながら彼も成長したんだなと感慨深く思っていたら、エルフになにやらフラグが立っていそうなのを見てニヤニヤした。俺なんかずっとニヤニヤしている気持ち悪い奴になりつつあるが、今度は受付嬢から熟練の冒険者が新人を指導しているのを聞いて感慨深そうに見つめている内に受付嬢から軽い脅しを込めた注意を受けて焦る彼をみてニヤニヤした。

 

全く今日1日でどれだけ俺のコイツ面白いゲージを満たしてくれるのやら・・・

 まぁ、最後に一つだけ火種を放り込んで撤退するとしよう

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「誰だ!」

―辺りを警戒しながら鋭く尋ねるのは、先程まで幼馴染の牛飼い娘と会話をしていた彼だ

 

「いや、悪い悪い。あの子には聞かれたくないから気配を消していたんだが、逆に警戒を強めてしまったか?まぁなんであれすまないな」

 

「いや、敵意が無いことは分かった。それで貴様は一体・・・!?アンタは!?」

 

「おー。あの時以来会っていなかったのに覚えていてくれるとは嬉しいね。少年?」

 

「アンタはあの時の!?しかし、あの時から年を取ったようには見えない。一体どういう絡繰りだ?」

 

「そこは気にしなくてもいいところ。俺は君と軽く話をしたいだけさ」

 

「・・・。(敵意はないが信用する訳にはいかない。しかし・・・)いいだろう。ただし、手短に頼む」

 

「ありがとよ。話つってもそこまで沢山ある訳じゃない。君がゴブリン退治しかしないことに口を出す気もない。ただ、俺が気になっているのは、俺を怨んじゃいないのか?ってことさ」

 

「?何故俺がアンタを怨んでいると?」

 

「・・・難しい話じゃない。あの時俺は君と君の姉以外を助けられなかったからな。

もう気付いているだろ?俺がどういう存在か」

 

「あぁ・・・。アンタはギルドの位階1位である白金等級の冒険者。その頂点に君臨している<生きる伝説>だろ?」

 

「御明察。ま、だからと言って何か変わるって訳じゃないが、あの時何故もっと早く来てくれなかったのか、とかあの幼馴染の両親を助けてくれなかったのか、といった具合に糾弾されても不思議じゃないからな」

 

「・・・あれは仕方のないことだった。いきなりゴブリンが襲ってくるなど当時の俺たちには考えもつかないことだったからな」

 

「それでもだ。俺が何を成し遂げてきたか位知ってるなら理不尽に怒ってきても仕方ないと思うのは普通だろ?」

 

「・・・何度も言うが、あれは仕方のないことだ。仮にアンタがもっと早く助けに来てくれても村は無くなっていただろう。今さらどうしようもないことだ。

逆に俺から尋ねるが、何故今になって俺の前に現れた?」

 

「・・・、只の気紛れさ。」

 

「そうか・・・」

―辺りに夜特有の寒さを含んだ静けさが満ちる

 

「あ!あともう一つ気になってることがあるんだが、聞いていいか?」

 

「構わん」

 

「それじゃ遠慮なく。君は、あの幼馴染のことをどう思っているんだ?」

 

「?大切な存在だが?」

 

「あーいや、そうじゃなくて異性としてどう思っているのか聞きたいんだよ。君の周りには、親身になってくれる受付嬢だったり、一緒に依頼をこなす神官娘だったり、また冒険を一緒にすることを約束したあのエルフだったりと異性が多いだろ?そんな中で君は彼女たちのことをどう思っているのかと思ってね」

 

「・・・よくわからんな。誰も大切であることに変わりはないが」

 

「なら質問を変えよう。もし今挙げた娘たちがゴブリンに犯されそうになったらどうする」

―明確に彼の周りの空気が変わった

 

「殺す。生まれてきたことを後悔するように無残に殺す!」

 

「ほら、分からないと言っておきながら、そうやって感情が表に出てくる分君は彼女たちの事を気にかけているんだよ」

 

「そう・・なのか?」

 

「ああ。人生の先輩が言うんだ間違いない。ただ、俺が言いたいのは、人は一人までしかちゃんと向き合って愛せない存在だ。君がどのような選択を取るのかまだ分からないが、今の言葉を心のどこかに置いておいてくれ。」

 

「そもそも、俺に懸想するようなもの好きがいるとは思えんが・・・」

 

「そうかもな。まぁ、今は置いておこう。長話に付き合わせて悪かった」

 

「いや、大丈夫だ。」

 

「君は明日も早そうだからなもう休むといい。俺ももう帰るしな。

 ・・・これはなんでもない助言の一つだが、もし困ったことがあるのなら自分の心境を残さず吐き出して、助けを求めるといい。案外救いの手というのはどこにあるか分からないものだからな」

 

「ふむ、覚えておこう」

 

「じゃーな少年君、いや、ゴブスレ君」

―そう言い放った後その場から一瞬で消える白金等級であった。

 

「・・・なぜ、奴は俺のことをそこまで詳しく知っているんだ?」

―疑問が残るゴブリンスレイヤーを残してこのお話はお終い

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

―もし君が彼を失いたくないと思っているなら、君の心の中で燻っているもの全てを彼にぶつけるといい。それで何かが変わるという保証はないが、何も変わらないという事は絶対にない。自分の心に正直になれ

 

どこか別の場所で助言を貰う娘がいたことは、誰も知らない・・・

 




ゴブリンスレイヤーは神々に賽子を振らせない
だが、それは彼が冒険をするときの話だ。
彼の行く末がどうなるかの賽子は既に振られようとしている
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