(禁手化なしで)どうやって戦えばいいんだ!!   作:赤いUFO

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12話:奪還

 ソーナ・椿姫・憐耶は本来仲間である筈の桃・留流子と交戦していた。

 彼女らは訓練の時に培った連係を見せているが、その顔に感情の色はなく、機械的な攻撃を繰り返す。

 

 ――――ゾンビ化。

 

 リアスからもたらされた情報からソーナはすぐにその回答に辿り着いた。

 ルー・ガルーが一緒に行動していた筈だが、この場に居ないことから、他の者を襲っているのか。それともゾンビ化しても意味がない状態なのか。どちらにせよ無事ではないだろうと結論付ける。

 なんとか2人を取り押さえようと動くが、それをしようとした瞬間。

 

「くっ、また!?」

 

 ソーナたちから見えない位置での狙撃。

 敵が複数潜んでいるのか、高速で移動しているのか、どの場所からでも矢が飛んでくる。

 じりじりと追い込まれながらどうすればと焦るソーナ。

 そんな中での戦闘で留流子の蹴りがソーナを捉えると、その足を掴む手が見えた。

 

「ヴァーリ・ルシファー……」

 

「事情の説明はいい。共有した情報から大体想像はつく。彼女たちは既に死体だ。このまま手心を加えていれば、自分たちが殺されるぞ」

 

 矢が飛んでくる前に留流子を投げ飛ばす。

 ヴァーリの言葉にソーナは苦い表情をする。

 

「彼女たちを戻す手はあるのか?無ければ、ここで切り捨てろ」

 

 禁手の扱えない今のヴァーリでは目の前のシトリー眷属2人を抑え込むのは手間だ。

 それにここで時間を食うのもマズイ。

 ヴァーリの質問にソーナは頷いた。

 

「可能性の話ですが、ヴァレリーさんの聖杯なら、あの子たちを元に戻すのも可能なのではないかと考えています」

 

「なるほど……情だけで彼女たちを仕留めなかった訳ではないということか」

 

 命を扱う聖杯の神滅具なら、もしかしたら彼女たちのゾンビ化を解除できるかもしれない。藁にも縋る可能性だが、それでもあきらめきれないのだ。

 

「分かった。ならば俺が彼女たちを無力化しよう。その後、其方は2人が抵抗しないように、見ていればいい」

 

「……いいのですか?」

 

「あぁ。君は狙撃の方の対処を頼む」

 

「分かりました」

 

 話が決まり、さっそく行動に移ろうとすると、影の世界の空から一条の光が落ちてきた。

 それに一瞬だけヴァーリは意識を向ける。落ちてきた光の中に知ったオーラを感じて。

 

「そうか。彼もここに来ていたのか」

 

 誰にも聞こえない声量でヴァーリはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王町の戦場に戦闘服の上に全身を覆う外套を着たロスヴァイセは一息吐く。

 

「何とか、戻って来れましたね」

 

 色々な方々の協力を得て戻って来たロスヴァイセ。

 カミラによって埋め込まれた愛も近くに居なければ長時間効力を維持できないらしく、つい数時間前に彼女への想いは消えて行った。

 ロスヴァイセは自分と一緒に駒王町に着いた青年に声をかける。

 

「貴方はどうしますか?」

 

 ロスヴァイセの質問に男は手短な解答を口にする。

 

「そうですか。今回は味方同士です。こちらの妨害さえしなければ私からは何も言いません。ですが、どうかご武運を」

 

 それだけ口にすると相手は苦笑してロスヴァイセの傍を離れた。

 ロスヴァイセはずっと握り締めていた薬瓶を見てから術式を発動させた。この場に居る味方全員に通信機で情報を伝える。

 ここに逆転の一手は打たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影に覆われた駒王町に存在するD×Dメンバーにその声は届けられた。

 

『皆さん、ロスヴァイセです!今から神器所有者全員に禁手を奪還するための薬を送ります!体の一部でも神器本体でも構いません!その薬に触れてください!禁手を奪われてない方も、この薬に触れて浸透すれば、奪われる心配は無くなる筈ですっ!』

 

 その言葉が終わると同時に神器所有者全員に黒い薬が送られた。

 地面に落ちたそれを一誠は裸足で踏み、匙は指で触れる。

 薬が身体に浸透し、相棒が戻って来たのを感じて一誠は笑みを浮かべた。

 

「なんだ?気でも触れたのかよ」

 

 一誠に触れようとしたターニャが動きを止める。

 しかしそれに答えずに一誠は相棒に話しかけた。

 

「よぉ、ドライグ。奪われてたのは数日程度なのに、もう随分離れてた気がするぜ……」

 

『こちらは中々に心休まる休暇だったぞ。何せ、相棒のようにおっぱいおっぱいなどと言わんし、くだらん事でわざわざ俺の力を使わんからな』

 

「おい」

 

 ドライグの発言にしかめっ面をする一誠。そこにドライグがだが、と続けた。

 

『だが、あまりにも退屈過ぎるな。ここ最近周りが騒がし過ぎて会話もできんというのは思った以上につまらん。なにより、ただの禁手程度ではもはや物足りなくなってしまったぞ』

 

「ハハッ!ならこれから思う存分に暴れて滅却師たちに見せてやろうぜ!俺たちが、この1年で育てた力をっ!!匙ぃ!!」

 

「応っ!!」

 

 2人は自分の胸に手を当てて叫んだ。

 

禁手化(バランス・ブレイク)っ!!』

 

「しまっ!?」

 

 2人の叫びにターニャとシャルロッテは距離を取る。

 オーラの奔流が治まると現れたのは真紅と漆黒の2種の鎧。

 

 真紅の赫龍帝と罪科の獄炎龍王。

 龍を司る2つの禁手にターニャは焦り顔をする。

 

「クソッ!?禁手を取り戻しやがった!赤龍帝のパワーもそうだがヴリドラの呪いの力は――――」

 

「……」

 

 ターニャは焦り、シャルロッテも言葉にせずに冷や汗を掻いて距離を取る。

 

「今まで散々好き勝手やってくれたなぁ!こっから反撃開始だぜっ!!」

 

 手始めに一誠は砲台を展開し、膨大な魔力が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご協力に感謝します。シェムハザさま。ガブリエルさま」

 

 ロスヴァイセを組王町に戻したあと、グレイフィアは禁手奪還する薬の製薬に協力してくれた2人に頭を下げた。

 出された紅茶を一口飲むとガブリエルが話し始める。

 

滅却師(クインシー)。彼らは我々天使に近い存在なのです。教会と彼らが長く手を取り合えたのも、それが理由の1つでした。故にその弱点も似ている」

 

 悪魔が光を嫌うように、天使は負の感情を力とする呪術に対しての耐性が低い。

 ガブリエルのような最上位の天使ならばそのハンデも大したものではないが、力の弱い天使は通常の人間以上に呪いに対する耐性が無いのだ。

 

「滅却師が初めに戦ったのは呪いの力を持つ異形だったと聞き及んでいます。彼らは呪術に対する抗体が全くない種族なのです」

 

 只人でも大した効果のない弱い呪術でも滅却師が喰らえば死に至ることもある。

 だからこそ彼らの身に付ける防具には呪術を跳ね除ける効果を幾重にも張り巡らせている。

 

 シェムハザがガブリエルの話を引き継ぐ。

 

「データ集めに残して置いたヴリドラの黒炎の力を一滴でも神器に浸透させれば奪還させることも可能なのです」

 

 今頃奪われた禁手は取り戻せているだろう。この事件が集結するのも時間の問題だとこの場に居る3人は考える。

 

「今回の一件、頭が痛いのはむしろ事件が終わった後です。各神話勢力にオーフィスの居場所を知られることになりました。現状、どの勢力も戦争をする余裕が無いのが救いですが」

 

 トライヘキサの討伐に各勢力の強力な神々や主神を隔離結界領域に送り、残った者たちは頭のすげ替えに時間が経ってないため、自分たちのことで手一杯の状態だ。

 だから少なくとも今回の件は各勢力に糾弾は避けられなくとも、争いまで発展しない。いや、できない。

 そんなことをすれば共倒れになるだけなのだから。

 

「それも、今後の私たちの対応次第ですが。今回の事態を少しでも丸く収めるために、我々も動かなければなりません。その為には先ず――――」

 

 ガブリエルの言葉にグレイフィアは表情を動かさずにやはり、と問う。

 答えたのはシェムハザだった。

 

「今回の戦。どう結末が転ぼうとも我々三大勢力は2人のオーフィスを切ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禁手を取り戻す薬を転送した後にロスヴァイセも急いで誰かと合流しようと急いだ。

 飛翔し、近くにいる味方を探す。

 すると、光の矢が雨のように落ちてきた。

 

 

 瞬時に防御壁を展開してロスヴァイセは敵の攻撃を防いだ。

 

「まったく。余計なことをしてくれる。いずれは奪い返されるだろうとは思っていたが、もう少し戦力を削りたかったところだが。こちらの思惑通りにはいかんか」

 

 現れたのは滅却師側の副代表であるルートヴィヒだった。

 相手の能力を知らないロスヴァイセは即座に敵を叩く為に術式を幾つも展開し、迎撃に入る。

 ルートヴィヒはロスヴァイセでも追い切れない速度で移動し、各方面から矢を射る。

 

 だが、自分の矢が障壁に阻まれ、貫通しないと判断すると、人ひとりを呑みこむ程に巨大な矢を作り、射る。

 しかしその矢ですら多少の衝撃を与えてもロスヴァイセの防御を貫通することは叶わなかった。

 それに構わず敵対した2人は空を駆けながら互いに攻防を繰り返す。

 ロスヴァイセが魔術を撃てばルートヴィヒが回避し、矢を射る。そしてそれを防ぎまた魔術を放つ。

 互いの攻撃で放たれた光と空を駆ける2人の姿は演舞のような美しさがあった。

 攻防の繰り返しの中、ロスヴァイセの魔術がルートヴィヒの腕に掠り傷を与える。

 そこで一旦2人は動きを止めた。

 

「君のような存在は厄介なので、即座に墜としたかったが、上手くいかないな」

 

「そう簡単にはやられません!!貴方の攻撃は確かに速く正確ですが、私の防御を突破できる火力はない。少なくとも時間がかかる筈です。ならばこの状況は私に有利です!」

 

 いくら速かろうとルートヴィヒの攻撃はロスヴァイセには届かない。しかしロスヴァイセの攻撃はルートヴィヒの防御を突破できる。

 時間はかかるだろうが、増援さえ来なければこの戦いはロスヴァイセの優勢だった。

 

 ルートヴィヒは傷つけられた腕を見る。

 

「なるほど。掠めただけでこちらの静血装を抜いてくる。直撃を受ければ俺もタダでは済まんな」

 

「貴方は、ここで私が倒します!!」

 

 決意と共に再び放たれる複数の魔術。

 ありとあらゆる属性の攻撃がルートヴィヒに襲いかかる。

 

「だが、君たちはまだ滅却師(俺たち)を知らない」

 

 これまで、一定の距離を取ったまま、攻撃と回避の中距離戦を繰り返していたルートヴィヒがここに来て距離を詰めてきた。

 

「なっ!?」

 

 驚くも距離を取ろうとするが、素の速度では向こうが上の為、弾幕を回避しながらも少しずつ接近する。

 そして腰に下げていた剣の柄のような筒を1本手に取った。

 

「シッ!」

 

 息とともに振るわれたそれは、先から光の刀身が出現し、ロスヴァイセの防御壁を切り裂いた。

 幸い、ロスヴァイセの身体にこそ当たらなかったが、自分の防御を切り裂いたその武器に驚きの表情をする。

 

「滅却師にはこういう武器もある」

 

 光の刀身を見せるように腕を前に出す。

 

魂を切り裂くもの(ゼーレ・シュナイダー)。滅却師で唯一、刃を持った武器だ」

 

「ゼーレ・シュナイダー……」

 

「これならば、君の自慢の防御を切ることも可能なようだな!」

 

 再び高速で接近し、ルートヴィヒはロスヴァイセに迫る。

 障壁を展開するが、刀身が止まったのは一瞬。まるでカッターで発泡スチロールでも切るような容易さで切り裂かれる。

 

「ゼーレ・シュナイダーは武器としての形式はチェーンソーに近い。出された光はオーラの高速振動であらゆる防御を切断する。もうご自慢の防御術式は通用しないな」

 

 嘲るでも自慢するでもなく、ただ事実のみを口にするルートヴィヒ。しかしロスヴァイセとて勝機がないわけではない。むしろまだ優勢なのはロスヴァイセの方だった。

 

「その()の前では私の防御は大した効果を得られない。ならば、その刀身が届かない距離で戦えばいいだけのことです!!」

 

 更に距離を取り、先程より多くの弾幕を魔術で用意する。

 

「その()が届く前に、貴方を倒して見せます!!条件が同じならば、勝敗を決するのはリーチの差なのですから!!」

 

 距離を取っての圧倒。それがロスヴァイセの答えだ。

 放たれた魔術はもはや壁と例えられるほどに隙間のない攻撃の嵐だった。

 それにルートヴィヒは距離を取って避け続ける。

 

(このまま、反撃の隙を与えずに倒します!)

 

 そう決意したロスヴァイセ。

 しかし、そこでさらに情報が追加される。

 

「すまないな。少し説明不足だった」

 

 ルートヴィヒは左手から弓を作る。

 

「確かにゼーレ・シュナイダーを剣の代用とすることもあるが、これは剣ではない」

 

 ゼーレシュナイダーを矢として構える。

 

「俺たち滅却師は、弓矢以外の武器を使わない。終わりだ、銀の戦乙女(ヴァルキリー)。君の言う通り、勝敗を分けたのは、射程(リーチ)の差だったようだ」

 

 ゼーレ・シュナイダーを射る。

 高速で接近したそれはロスヴァイセの魔術を穴を通すように隙間を抜け、とっさに張った障壁を貫いた。

 そしてロスヴァイセの胸――――心臓へと正確に射抜かれる。

 

「あ――――ごふっ……!」

 

 心臓を破壊され、血を吐きながら空中をふらついていると眉間に光の矢が貫かれる。

 ロスヴァイセの頭部から大量の血が噴き出し、地面へと落下した。

 傍まで下りたルートヴィヒはゼーレ・シュナイダーを回収し、振り返りもせず、拠点の城へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無理!

 あんな怪物とは戦えない。

 アレは、人間が戦える存在じゃない!

 

 その時のわたしは、ひたすらに逃げることだけを考えて振り向かずに走っていた。

 666の獣(トライヘキサ)

 黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)

 

 2つの無限と並ぶ最悪の怪物。

 別れたその1体の迎撃にわたしたちは教会と協力して対処していた。

 でもダメだった。

 蟻が巨象に挑むようなものだ。

 あんなの、どうにかできるわけない!

 恐怖に勝てず、わたしはひとりその場を去った。

 守らなければいけなかった人たちも。

 一緒に戦ってくれた仲間も。

 愛する家族すらも見捨てて自分ひとりだけ生き延びようと。

 

 

 

 ――――わたしはその場から逃げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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