(禁手化なしで)どうやって戦えばいいんだ!! 作:赤いUFO
「ちがうっ!!」
怒声を目の前のヒトガタにぶつけるとそれは光の粒子になって消えた。
呼吸を整えることを忘れてマヌエラはぶつぶつと呟き、こうじゃないと鬼気迫る表情で生き残った家族の写真を見続ける。
「アドルフは、もっと……」
上手くいっている筈だった。
禍の団が本格的に活動し始めたという情報を得て、教会との協力と連携。
少なくとも、ディオドラ・アスタロトとリアス・グレモリーのレーティングゲーム。あの時に起こった旧魔王派の襲撃。
多くの勢力が協力したあの戦いでは誰ひとりとして失うことなく事件を終えた。
転落の入り口となったのは、英雄派による各地による神器使いや異形が送り込まれるようになってからだ。
大半がチクチクと針を刺すような1つ1つの襲撃は大したことはなかったが、ランダムで起こる禁手の発現というイレギュラーにより敵の能力が大幅に増大。もしくは変化し、対応が遅れた結果多くの教会騎士や術師。そして、アドルフとエトウィンが殺される結果となった。
その事件から教会とは少し距離を取りつつ禍の団に対する情報収集や細々と動いていた構成員を潰して回っていた。
しばらくして旧魔王派がほぼ壊滅し、英雄派が捕らえられてから表舞台に出て来た初代ルシファーの血を引くリゼヴィムと共に行動している無限龍の情報を得たことで彼らの討伐のために教会と連絡を取った。
当時の展開を仕切っていた天使長であるミカエルはもたらされた情報に礼を言うと、新設されたD×Dというテロ組織特殊対策チームで対応する旨を伝えられ、滅却師たちにはこれまで通り小さな芽を摘んで欲しいと遠回しに参戦を拒否される。
これには滅却師側が猛反発。
特にD×Dメンバーに禍の団に所属していた白龍皇チーム(離反したのはこの時に知った)の名前があったことも反発が強くなった理由でもあった。
今まで協力関係にあった滅却師よりも一度テロリスト側に就いた者を信用するのかと。
それでもこの時の滅却師たちは白龍皇チームの存在をひと先ず置いてD×Dに協力すると譲歩したがミカエルは首を横に振った。
当時は自分たちの力や存在を侮り、軽んじられていると思っていたが、本当のところは兵藤家に保護されているオーフィスに繋がることを怖れていたのだろう。
だが、滅却師たちの意見に肩入れしてくれる者も教会の内部に少数だが存在した。
彼らは禍の団により仲間や家族、もしくは大事な物を奪われた信徒たちだった。
テロリスト討伐と復讐。2つの行動理由を持っていた彼らが意気投合し、ミカエルの言葉すら跳ね除ける結束を持つには充分だった。
特に、自分に賛同してくれる誰かがいるという事実が心強かった。
それこそ、危険性を麻痺させる麻薬のように。
こうして速攻で行われたリゼヴィムと
結果として彼らは大敗退した。
どう転んでも戦いの結果が決まっているモノを勝負とは言わない。そう思えるほど完膚なきまでの敗北だった。
15人居た教会の者は治療系の神器を宿した聖女ひとりを残して全滅。
滅却師もドミニク、パウロ、ハイニ、ターニャ────そして、ルートヴィヒを失った。
ここまで犠牲が出れば流石に身の振り方も考えざる得ない。
マヌエラはここに来てようやく、シャルロッテとカミラに戦いから外れるように言い聞かす。
今回の件で教会とは連絡を取り辛くなってしまったが、幸いにもここ数カ月、各地を転々としていたことで教会以外にも伝手は出来た。
滅却師としての技術を代価にすれば生きていくことは出来るだろう。
最悪、カミラの能力ならどこへ行ってもやっていける。
だが、2人の解答は否だった。
彼女たちの世界はあまりに狭く、滅却師として生きるというよりもマヌエラ、もしくは死んだルートヴィヒ以外の者の庇護に置かれるという想像が働かないのだ。
この時になって初めてマヌエラは自分が幼い家族に戦いを強いていたことを悔いた。
再三の説得は無駄となり、3人で改めて行動することになる。
そして、あのトライヘキサ復活という最悪の知らせが届いた。
7つに分かれた獣の1体。それを喰い止めるために教会の戦士や転生天使などと協力して微力ながら参戦した。
それこそ、吸血鬼や悪魔陣営までも協力して山岳地帯で戦闘を行っていた。その中には白龍皇チームも居たのだが、幸いにも鉢合う事はなかった。
たとえ互いの存在を認識していても構っている余裕があったかどうか。
だが、トライヘキサだけでなく偽赤龍帝や邪龍の存在もあり、ここで、シャルロッテがトライヘキサの巨体に圧し潰された。
シャルロッテが潰される場面を1番近くで見ていたカミラは絶叫し、戦線を放棄して逃亡した。
トライヘキサは隔離領域結界に抑え込まれる形となって戦闘が終了。
多くの力ある神族や魔王などの隔離領域結界に送り出すことで世界の崩壊は防がれた。
戦闘が終わり、沸き上がる歓声。
独り取り残されたマヌエラがその声をどのような思いで聞いていたのかは他者が推し測れる筈もない。
ただ、戦闘を終えた歓声の中をフラフラと歩きながら、焦点の合わない瞳で呟く。
「取り戻、さないと……」
思考に没頭していく中でマヌエラの口元が歪な形に吊り上がる。
「からだ……肉体さえあれば、あの子たちはきっと戻って来れる……だから、用意してあげないと……」
戦いで同胞を失った喪失感からの現実逃避。
孤独になった彼女が自身を慰めるその行為を一体誰が責められるだろう。
何故ならそれは現実味な理屈など何もない。ただの空想であり、妄想であり、幻想であり、想像でしかなかった。
「だいじょうぶ……こんなことでみんなを失くしたりしないから」
だが、性質の悪いことに、彼女は、その想像を現実に置き換えることのできる存在だった。
こうして、マヌエラは戦勝の雰囲気が残る場を後にした。
それから数日、マヌエラはひとり部屋に閉じ籠ってひたすらに作業に没頭している。
「あと……3人……」
ひたすら記憶を掘り起こし、空想を束ねる作業だけを行い続けた。
傷の手当ても、食事も睡眠も無視してひたすら残された写真と記憶の対峙。
そうして、ひとりひとり、家族の肉体を創造していく。
「
それが形になったのは彼女の愛情の証明であり、執念の成せる業だった。
「何度消えても……何度失っても……私が、蘇らせるから。だから、私たちの望みを何度でも紡ぎましょう」
完成させた魂のない空の肉体を撫でて、狂人の想像は続いていった。
「
デュリオから聞かされた真実にリアスが唖然となる。
リアスの驚きに頷いてデュリオは噛み砕いて説明した。
「違和感があったのは、リアスちゃんとあのルートヴィヒって人と話した時だった。彼が出した、サマエルの毒のレプリカ。アレを見た時だったんだ。そんな大それた物が簡単に作れるのかな? って」
「それは、私もそうは思ったけど……」
そんな物がポンッと作れるのなら、二天龍や龍神を含めて脅威度は大幅に下がっただろう。
しかし、リアスはそれがどうして彼らが人形である、という仮説が生まれたのか理解できない。
「この町での滅却師たちの暴走じみた行動。前に言ったでしょ? 彼らが教会と行動していた時はそんな馬鹿な行動はしなかったって」
「え、えぇ……」
「10人も居た彼らの誰もが一般人の殺しとかに罪悪感や躊躇とかが無かったこともちょっと疑問だった。でもそれが、たったひとりの意志統率の下で行われていたら? って考えたんだ。ついでに言うと、英雄派が前に各地で暴れてた頃に、何人か殺されていたのはうちで確認されているし。町が影で覆われた前日に教会から届いた資料にトライヘキサとの戦いで生存が確認できていたのは彼女だけだったんだよ」
曹操に視線を向けると彼も説明する。
「実際俺も、禁手に至った部下から滅却師を殺害の報告は受けていた。ここに来る前にガブリエル殿からも彼と同じ情報を貰っていた。だから俺は、彼女に滅却師の能力を与えられた他人か。もしくは何らかの方法で死体を動かしているのだと思っていたが。おそらく彼女の能力は────」
「木場きゅんの剣を創造する能力みたいに、自分のイメージを現実に映し出す力なんじゃないかな? サマエルの毒やこの影の世界も全て、彼女のイメージによって創られ、維持している」
「そして、あの男が消えたのは、存在を維持するだけの集中力が切れたからか」
曹操の言葉にデュリオが頷く。
「神器なら、間違いなく上位神滅具クラスの能力だ。そして本当に恐ろしいのは、この影世界やサマエル毒のレプリカ。そして今回の事件で戦った滅却師たち。彼らが本物とどれだけ同じかは判断できないけど、とんでもないことだよ、これは。彼女は曲がりなりにも人間と大差ない精巧な人形を創造して見せたんだ」
それはどれだけの執念があれば為せる業なのか。
だが、この事件に関わった誰もが滅却師たちを人間だと思っていた。少なくとも他人からは生きた存在として騙せたのだ。
生命の流れを知覚する小猫と黒歌の仙術使いですら多少の違和感を覚える程度。
執念。執着。後悔。そして、愛情。
そうした能力があったとしても、どれだけ強い想いがあれば、そんなことが可能なのか。
だからこそ、デュリオは彼女に止まって欲しかった。
これ以上、自他を傷付ける行為を。
「でも、なら、それなら────っ!?」
デュリオの説明にリアスがなんとも言えない顔で叫ぶ。何を言えばいいのか整理がつかないままに。
ただ、胸にあるのは自分の眷属たちはそんな
ルートヴィヒが消えた跡で座り込んでいたマヌエラが鋭い視線で立ち上がった。
「さっきから聞いていればごちゃごちゃと……っ!!」
視線に込められた殺意。
その瞳に宿った狂気に触れてリアスは一歩後退った。
「あの子たちを、私はちゃんと蘇らせた!! そうよ! 私がいる限り、皆は何度だってやり直せるんだから────!!」
張り付いていた仮面が剥がれ落ちるように感情を露にするマヌエラ。
きっとそう思わなければ、自分を保てなかったのだろう。
喪失感を埋めるために代わりを用意し、自らを慰めなければならない程に、彼女の精神は崩れていた。
だからこそ、これから真実を突き付けることに罪悪感が芽生える。
もしかしたら、自分の言葉で彼女が本当に壊れてしまうのではないかという予想も含めて。
「あのルートヴィヒって人が消えたのは、貴女が自分が助かるために彼への意識を断ったからだ」
デュリオの言葉にマヌエラの肩が僅かに跳ねた。
それでも、現実を受け入れさせなければならないと言葉の刃を続ける。
「自分がいれば、何度でもやり直せるって言ったよね。つまり、貴方は彼らをそういう物として認識していたから、切り捨てんだ」
「……黙りなさい」
「家族と言っておきながら貴方は彼らを自分自身で否定し、殺し────」
「五月蠅い黙れぇっ!!」
デュリオの言葉が終わる前に矢が放たれるが、それを氷の壁を作って防いだ。
「煽ってどうする」
「いや、事実を認識してくれればもしかしたら戦意喪失して事が収まるかなって。俺のやること全部裏目に出るなぁ、今回……」
肩を落とすような仕草をしながらもこうなることも想定内だったためすぐに意識を切り替えた。
同情の念が無いわけではないが、ここで取り逃がせば必ず戦力を取り戻して襲いかかってくる。どうあってもここで止めなければならない。
幸いにして相手の実力は知れている。この面子なら取り押さえることも不可能じゃない、と考えた。
矢を防がれて黙っていたマヌエラが揺れた。
「本当に煩わしいわ……」
「!?」
後ろに現れたマヌエラに3人は驚いて振り返る。
(速いっ!? さっきまでとはスピードが!?)
こちらが振り向くと同時に放たれた矢を曹操が珠宝で攻撃を受け流そうとするが、力づくで押し切られ、壁に衝突する。
だが、曹操もその間に女宝を忍ばせ、マヌエラの異能を消し去ろうとする。
女宝から放たれた光がマヌエラを包む。
「これで貴女はもう滅却師としての能力は使えまい!」
マヌエラが力を取り戻す間に決着を付けようと動く。
しかし、曹操の周辺に石製の腕が4本造り出され、襲いかかってきた。
それも、先程よりも動きが速く、正確に。
「ちぃ!」
聖槍のオーラで腕の2本を破壊し、3本目の腕を蹴って距離を取る。
だが、着地した場所にはマヌエラが待ち構えていた。
弓矢を構えて曹操に放とうとする。
しかしここで別々の場所から真紅のオーラと白銀のオーラの砲がマヌエラに襲いかかった。
「リアス! デュリオ! 無事か!!」
「2人ともナイスタイミング!」
現れたのは真・女王形態の一誠と禁手化状態のヴァーリだった。
砲撃は直撃する直前に高速で移動し、回避していた。
「後から後からと……」
忌々し気に呟くマヌエラ。
リアスを背にした一誠が話す。
「ここに来る途中、朱乃さんを襲ってた滅却師と戦って途中で消えちまって。どうなってんだ? もう残ってるのはあの女の人だけなのか?」
「朱乃が!?」
「あぁ。怪我してたからフェニックスの涙を渡して休んでもらってる。俺には先に行ってくれって」
「そう……」
安堵の息を吐いた後にリアスがキッと顔を上げて一誠に説明をした。
「……今まで私たちが戦っていたのは、彼女が創った人形だったの。でも、私たちとの戦闘でそれを維持している余裕が無くなって、他の滅却師たちは全て消えたわ」
「人形!?」
説明を聞いて驚いている一誠にデュリオが付け足す。
「でも、他の滅却師たちを維持する必要が無くなって、強くなったみたい。いや、元に戻ったっていうのが正確かな? とにかく、すごく強いから気をつけて」
「だが、この面子相手ではどうしようもあるまい。もっとも、俺はひとりでやってもいいがな」
残った左腕で構えながら言うヴァーリ。
神滅具4人に囲まれた状況。しかしマヌエラは特に慌てた様子を見せない。
「確かに、この状況は今の私でも手に余るわね……」
言うと、右手の甲に五芒星の意匠が誂えてある手袋を見せる。
「無限龍を始末する時まで使いたくなかったけど。ここまで追い詰められたら仕方ない。私も、奥の手を使わせてもらうわ!」
その手袋を外すと、膨大なオーラが光の柱となってマヌエラを包んだ。
もう、死ぬしかないと思った。
あのトライヘキサという怪物との戦いから逃げ出して数日。
飲まず食わずで移動していたわたしは戦場近くに在った村で倒れ保護されたが、家族を見捨てた罪悪感から食事が碌に摂れなくなっていた。
そんなある日、わたしの保護者を名乗る女性が迎えに来たと言われ、現れたのはマヌエラ姉さま。
再会した時は、自分だけ逃げたことで怯えていたがマヌエラ姉さまは以前と変わらない笑みでわたしを抱きしめてこう言ってくれた。
「無事で良かった。すぐに迎えに行けなくてごめんなさい」
それを聞いて、わたしは堰を切ったように泣き出し、ただひたすらにごめんなさいごめんなさいと謝り続けた。
わたしが泣き止むまで待ってくれたマヌエラ姉さま。そして、次に理解のできないことを言った。
「さぁ、外で皆が待ってるわ。私たちの家に帰りましょうか」
「え?」
何を言っているのか理解できない。
もう残っているのは自分たちだけなのだ。
いったい、誰が待っているというのか。
病院の外へ出ると、そこには信じられない光景があった。
死んだはずの家族がそこに居て、自分に駆け寄ってくる。
「カミラ、無事で良かったよ。怪我とか、ないか?」
「探すの、苦労した」
ターニャとシャルロッテの姉妹が近づいてくる。
わたしはただ、状況が飲み込めずにいると、マヌエラ姉さまが優しく後ろから肩に手を置く。
「みんなは甦ったのよ。また前のように一緒に居ることが出来るわ」
そこで見た、マヌエラ姉さまの表情。
慈しむような。それでいて決定的に何かが破綻している微笑み。
わたしにはその顔がとても怖ろしく感じた。
次から次へとみんなが話しかけて心配してくれる。
もう取り戻せない筈の現実が目の前にあり、わたしはこう感じた。
────きもちわるい。
同じ姿の筈なのに何かがズレたこの家族もどきに接せられることに堪らなく不快感でいっぱいだった。
────きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいっ!!
その受け入れがたい光景に耐え切れず、わたしは空っぽの胃から中の物を吐き出した。
残り3話で完結させます。