(禁手化なしで)どうやって戦えばいいんだ!!   作:赤いUFO

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最終話、投稿。


18話:ゼロからのはじまり

 爆発音が消えたのを確認してカミラは小さく息を吐く。

 

「これで、良かったんだよね、みんな……」

 

 カミラが爆破したのは滅却師の始祖。その遺体が置かれている祠の奥だった。

 アレに皆で祈りを捧げ、自分たちはそれぞれ固有の能力を発現させた。

 それがどういう理由なのかは結局解らずじまいだったが、カミラはアレをこの世に残して置いても碌なことにならないのではないかと思い、処分することに決めた。

 もう、誰の目にも触れさせないように、カミラが出来る術式。そして爆薬を用意して祠ごと吹き飛ばした。

 

 マヌエラの亡骸は故郷を滅ぼされた時に作った同胞のお墓に他の家族の遺品と一緒に埋葬した。

 しばらく、教会がここを調べ回っていたので少し時間がかかってしまったが、ようやく肩の荷が下りたとカミラは1人背筋を伸ばす。

 

「これから、どうしよ、かなー」

 

 行く当てなんてどこにも無い。

 それも今の自分は各勢力に指名手配されているだろう。

 明るい要素を探す方が難しい。

 

「とりあえず、ちゃんとした寝床が欲しいなぁ」

 

 いっそのこと、適当な金持ちに能力をかけて匿ってもらおうか。

 どうせなら、好みの異性を捕まえ(洗脳し)て、侍らせたりするのも悪くないかもしれない。

 何せ、自分は愛されることに特化しているのだから。

 

「そう思うと、ちょっとは幸先良くなってきたかな?」

 

 ただの空元気だ。でもこれからの旅立ちくらいは明るく在りたい。

 カミラは遠くに見える故郷へと振り返り、満面の笑みで。

 

「行ってきます!」

 

 そう、別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス・グレモリーは私室で淡々と今回の事件に関する後処理に追われていた。

 あの戦いでリアスたちに被害をもたらされ、この後処理だけでもう一週間ろくに睡眠を取っていない程の忙しさだった。

 

 まず、住民を冥界に避難させた件については、駒王町にあるとある薬品会社から事故に因り有毒ガスが発生。ガスが広範囲に広がる事態を想定し、避難施設に移動していたという記憶を植え付けた。

 それに伴い、今回犠牲になった一般人もその事故で亡くなったものと処理させた。

 亡くなった人たちには申し訳ないが、真実が明るみに出ることはないだろう。もし真実が出たとしても、それは一般にも自分たちの存在が明るみに出た後になるだろう。

 リアスに出来ることは亡くなった方々の遺族に遠回しな何らかの支援をすることだけだ。

 

 ソーナが手伝ってくれれば大分楽なのだが、今の彼女は冥界の精神病院に入院中だった。

 滅却師の攻撃で眷属の大半を失ったソーナの心は病んでしまった。壊れた、と言ってもいい。

 眷属を失ったことを現実として受け止め切れなかった彼女は、その事実を無かったことにしてしまった。

 今も彼女は、死んだ眷属に話しかけ、幸せそうに過ごしている。

 匙やリアスがどうにか現実を受け止めさせようとしたが、何を言っているのかがまるで理解できていない様子だった。

 空想の中の仲間たちと幸せそうに話している。そんな親友の痛々しい姿を見続けるのが辛く、シトリー家に事情を話して帰らせた。

 今はソーナの世話をベンニーアが受け持っているらしい。

 彼女も彼女で、最後の戦いに参加できなかったことを悔いているとソーナの両親から聞いた。

 ソーナには、きっと現実を受け止める時間が必要なのだ。

 時間がかかっても彼女は立ち直ってくれるとリアスは信じている。

 

 重傷を負った裕斗は、近くに通りかかったアーシアたちによって一命こそ取り止めたものの、未だに目を覚ます兆候はなく、冥界の病院で眠り続けている。

 

 アーシアは今回、滅却師側についたことを気に病み、生存者たちへ献身的に治療を行った。

 一時期は疲労と睡眠不足から倒れる事態になったが、今では落ち着き、人手が足らなくなった生徒会でゼノヴィアや匙、イリナと一緒に駒王学園で生徒たちの安定に努めている。

 ただ、時折何か考え事に没頭しているようなのが気になるが。

 

 レイヴェルは戦闘後に小猫の遺体を抱きかかえている姿を朱乃が発見した。服の下の滅却師の攻撃による傷痕が不死鳥の特性やアーシアの治療でも消しきれず、火傷の痕のような痣が残り、仲間を多く亡くしたこの戦いで一時的に自室に籠っていたが、今はそれを振り切るようにリアスと一緒に事後処理を行っている。

 

 ヴァーリは一度、孫悟空の下へ訪れ、今回の戦闘で美猴が亡くなったことを報告しに行き、今はこの兵藤邸に戻っている。ルフェイも兄であるアーサーが死んだことを報告に実家へ戻っていった。

 泣き腫らした顔で、それでも周りを責めずに実家に戻ったルフェイの痛々しい姿はリアスの心を締め付けた。

 

 デュリオはこの町に残ってリアスの手伝いをしてくれている。どうやら、今回の件をガブリエルに報告し、指示待ちのようだ。

 

 オーフィスは1人でいることが増えた。

 兵藤家の屋上にある御社で何かを考えこむようになった。

 そして以前はいつも一緒に居たリリスを避けるように行動するようになってしまっている。

 

「リアスさん。夕ご飯、出来たわよ」

 

「あ、はい! 今行きます」

 

 一誠の母に呼ばれてリアスは車椅子を操作した。

 あの戦いで両足を失ったリアスはそのまま車椅子での生活を余儀なくされた。

 ヴァレリーが生きていれば、再生することも可能だったかもしれないが、彼女亡き今、それは不可能だった。

 そのうち義足を付けるつもりだが、今は町の安定に尽力する方が先決だった。

 

 一誠の母がリアスの車椅子を後ろから押していると、淋しそうに息を吐いた。

 

「この家も、随分と静かになってしまったわね。前はあんなに賑やかだったのに……」

 

「……申し訳ありません」

 

「リアスさんたちを責めているわけじゃないわ。ただ、まだこの静けさに慣れなくて。もしかしたら、明日になったら皆、帰って来るんじゃないかって……」

 

 車椅子を押している腕が震えているのが分かった。

 それに気づきながら、リアスは何も言うことが出来ずに顔を下に向けた。すると途中で一誠が現れた。

 

「リアス。母さん」

 

 軽く左手を上げようとするが、それが出来ず、取り繕うように慌てて右手を上げた。

 マヌエラとの戦闘で左腕を破壊された一誠。

 その後、合流したアーシアに治してもらったがどういう訳か左手が一切動かなくなった。

 今まで通り神器を纏うことは出来る。しかし、左腕は一切動かせないのだ。

 ドライグに問い質しても分からない一点張り。ただ、もしかしたら腕を破壊された時のマヌエラの力が今も左腕に残っており、動く、という機能だけを阻害しているのではないかという推測だけは口にしていた。

 こういうことはリアスたちよりむしろ仙術使いの方が専門であるため、彼女たちを失った今、原因の解明には時間がかかるかもしれない。

 

 険しい表情をするリアスに一誠は大丈夫だ、とでも言うように慌てて笑みを浮かべる。

 

「そのうち勝手に動くようになるって! ほら、今は猫の手も借りたい状況だし」

 

「そうね……」

 

 一誠には現在、この町で異変が起こっても対処できるように戻って来たヴァーリやデュリオ。生徒会の面々と駒王町のパトロールに出て貰っている。

 リアスはいつ、この町の管理者の立場を追われてもおかしくない状況だが、今回の事件で冥界、というより、三大勢力は各方面から盛大にバッシングを喰らっている。

 天界は滅却師たちの暴走を防げなかった件について。

 悪魔と堕天使はオーフィスを匿っていた件についてだ。

 オーフィスが匿っていた件に関して天界にクレームが少ないのは、オーフィスとの面談の時に当時の最高責任者だったミカエルに話が通っておらず、兵藤邸に隠して住まわせることになった後でアザゼルになし崩し的に協力させられた事実があるからだ。

 そんなわけで今の冥界は周りとの関係を取り持つのに精一杯で、リアスたちの処罰を決定している暇はない。

 そのお陰で、リアスたちは事後処理に専念できたのである。

 

(もっとも、それももうある程度落ち着いてきたでしょうけど)

 

 これから、正式な沙汰が決定され、下されるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を終えてリアスはレバーを操作して一誠の隣を移動していた。

 部屋の前に着くと、ここまで無言だった一誠が口を開く。

 

「アーシアが、さ……最近、オーフィスやリリスのことを避けてるみたいなんだ。忙しいからとかじゃなくて……いったい、どうしちまったんだろうな。前は、あんなに一緒にいたのに」

 

「……感受性の強いアーシアですもの。好意の感情を植え付けられていたとはいえ、少しの間、滅却師たちと過ごして、思うところが出来たのかもしれないわね」

 

「思うところって?」

 

「さぁ? それはアーシアじゃないと分からないわ。ただ、アーシアは滅却師に対して同情的なのは間違いないわね」

 

 リアスの言葉を理解はしながらも納得できないように眉間に皺を寄せる一誠。

 これでは恋人同士の会話というより、先生と教え子か、姉と弟の会話のようだと思った。

 

 ホゥ、と小さく息を吐いてから話題を少しずらした。

 

「ここのところ、考えるのよ。あのマヌエラという滅却師のことを……」

 

 一時的とはいえ、神滅具使い4人を相手に圧倒して見せた女性。

 狂気を宿したあの瞳は今もリアスの中でトラウマであり、怒りを掻き立てる存在だった。

 

「私自身、今も彼女を許すつもりは毛頭ないわ。それでも時々思うの。すごいなって……」

 

「すごい?」

 

 それは紛れもない尊敬であり、また、憐憫の気持ちだった。

 死んだ仲間を想像だけで創り上げ、維持する。

 そういう能力があった、云々ではなく、それを実行した彼女の想いは、いったいどれだけ深いモノだったのか。そして一度それを失った時の絶望はどれほどのモノだったのか。

 情愛深い、と言われるグレモリーのリアスだからこそ、時折、そういうことを考えてしまう。

 

「一歩間違っていたら、私も彼女のようになっていたのかもしれない、と思うようになったわ」

 

 例えば、三大勢力の会談の時から始まった旧魔王派。そして禍の団との戦い。

 もしもどこかで仲間を多く失うことになっていたら。

 自分は、彼らを殲滅するまで止まらない悪鬼に堕ちていたのではないか、とそう思う。

 降伏する相手すら蹂躙するような、敵を全て滅ぼすまで止まらない、そんな存在に成っていたのではないか、と。

 今回のリアスが冷静さを保てているのはそんなマヌエラを見たことが大きかった。

 そう話すと、一誠はそれを否定した。

 

「確かにさ……俺らを失ったらリアスも復讐に走るかも知れないけど、それでもリアスはあの女とは違うよ」

 

「……」

 

「たとえ仇を討つ為に行動しても、リアスなら無関係な人たちを巻き込むような真似は絶対にしないだろ。だってリアスはいつも堂々と真っ直ぐ道を突き進むから。無関係な人や無抵抗な奴を傷付けるなんて絶対にしない!」

 

「そうかしら?」

 

「あぁ、絶対だ」

 

 断言する一誠。しかし、リアスはそんな一誠にただ、曖昧な笑みだけを返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、真っ暗な場所に居た。

 オーフィスはキョロキョロと辺りを見渡すが、周りに見知った顔をいない。

 

「……」

 

 誰か近くに居ないか足を動かすと、小さな足音が背後から聞こえた。

 振り返るとそこには知っている顔があった。

 

『酷いわね。そんなところを歩くなんて』

 

「?」

 

 そこに居たのはリリスが殺したはずのマヌエラだった。

 彼女はリリスに頭部を破壊される直前の姿であの時と同じ、憎悪に染まった瞳だが、可笑しそうに口元を吊り上げていた。

 

「なにが、おかしい?」

 

『可笑しいわ。自分が何を踏んでいたのか、本当に気付かなかったの?』

 

 マヌエラの言葉にオーフィスが視線を下へと向ける。すると、そこには綺麗な銀の髪────ロスヴァイセの亡骸だった。

 

「っ!?」

 

 驚き、その場から跳んで離れると、今度はギャスパーの亡骸へと着地した。

 それから一気に視界が開け、見てみると、自分の足場には小猫や黒歌など、今回の戦いで亡くなった者たちで溢れていた。

 

『仲間の死体の上しか歩けないのね。可哀そうに……なら、もっと増やしてあげる』

 

 マヌエラが指をさすと、そこには一誠やリアスたちが横一列に並んでいた。

 どういう訳か彼らは動く様子がない。

 そんな一誠たちにマヌエラが自らの弓を構えた。

 オーフィスをそれを見て即座に動くが、どういう訳か距離がどちらにも縮まらない。

 

 射った矢はヴァーリにルフェイ。ソーナへと命中し、倒れる。

 するとその死体はオーフィスの足元へと現れた。

 

『ほら。早く止めないと、全員殺してしまうわ』

 

 一瞬で詰められる筈の距離で一誠たちを庇おうと動いているのに、まるで近づけない。

 ゼノヴィアとイリナ。リアスとアーシアなどが殺される。

 

 そして、最後に残った一誠へとマヌエラがゼーレ・シュナイダーを手に近づいて行った。

 

「ま、待って……」

 

 止めようと動いているのに一向に距離が縮まらない。

 

『疫病神。お前がいたから、こいつらがこうなったのよ』

 

 そう嘲笑って、マヌエラの光の刃が一誠の首を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッと目を覚ますとそこは、兵藤家の自室だった。

 

「ゆめ……」

 

 自答し、目を閉じて息を吐く。

 すると、自分を掴んでいる小さな手に気が付いた。

 そこには子供の姿をした自分自身、リリスの手だった。

 彼女は小さな寝息を立ててオーフィスに抱きついている。

 

「……」

 

 リリスの頭を撫でようとすると、頭に残ったあの時の言葉が甦る。

 

 ────リリス、もう1人のリリス、守った。

 

 無表情ながら誇らしげに自分に擦り寄ってきた自分以上に透明な存在。

 オーフィスはリリスの手を払うように外し、ベッドから降りて行った。

 

「隣、よろしいてすか?」

 

「アーシア……」

 

 夜遅くに自身の社で1人考えごとをしていたオーフィスの前に現れたのはアーシアだった。

 コクンと首を縦に動かしたオーフィスに、アーシアはありがとうございます、と礼を言ってオーフィスの隣に座る。

 

「ごめんなさい、ここ最近、避けるような形になってしまって……私自身、色々と整理出来てないことが多くて」

 

「ん……」

 

 アーシアの謝罪にオーフィスは気にしていないと言うようにまた小さく首を動かした。

 それから、少し言い辛そうにアーシアから話を切り出した。

 

「オーフィスさんは、その……滅却師……あの人たちをどう思いましたか?」

 

 躊躇いがちにしたその質問にオーフィスは視線を下げて、小さく答えた。

 

「怖、かった……」

 

 自身の身体を抱きしめ、あの最後にマヌエラと対峙した時のことを思い出していた。

 敵う筈のない自分にひたすら憎悪をぶつけてきた女性のことを。

 互いに失ったモノがあり、想いは共有出来ると思っていた。

 しかし、結果として拒絶され、明確な殺意を露にした。

 どうしてマヌエラと最後まで手を取り合うことが出来なかったのか。

 どうして、あそこまでの憎しみを抱き続けたのか。

 オーフィスにはその答えを未だに見出だすことが出来ないでいた。

 

「あの滅却師のように我を嫌う者、他にもたくさん居ると思うと、ココ、すごく苦しくなる」

 

 大人の姿になり、豊満になった胸に手を当てながら瞑目する。

 自分が禍の団に協力し、軽はずみな行動をしたせいで憎しみに囚われた者たちがまだいるのかを想像すると身震いする。

 

「謝りたい、思った。でも……同じくらい、怖い」

 

 拒絶され、またあの眼で見られるのかと思うと、足が竦んでしまう。

 肉体は大人へと変化している筈なのに、体を縮こませて震えているオーフィスを、アーシアは子供の姿だった以前よりも小さな存在に見えた。

 

「オーフィスさん。私、向こうに居た時に、カミラちゃんから滅却師さんたちのことを聞いたんです」

 

 それから、アーシアはカミラに聞いた滅却師たちの軌跡を話し始める。

 小さな村で過ごしていた彼らは、旧魔王派に襲われ、蛇の強化により滅んでしまったこと。

 それから禍の団打倒のために訓練し、動いたが、少しずつ仲間を失っていったこと。

 仲間を失った原因のほとんどはオーフィスの蛇やリリスの存在が絡んでおり、その所為でマヌエラが壊れたことなどを話した。

 

 聞き終えたオーフィスは黙って下を向いていた。

 

「今回、私はカミラちゃんに好意を植えつけられて、あちらに協力しました。その間に、小猫ちゃんや他の方々も殺されて。それを、許すことは出来そうにありません」

 

 険しい表情のアーシアをオーフィスは横目で見た。

 

「ここに来る前の十数年の時間より、この町にやって来て、一誠さんたちに出会って過ごした1年の方がとても大事な時間なんです。その大切な思い出を一緒に作ってきた皆さんを傷付けて殺したあの人たちを私は、許せそうにありません」

 

 ここまできっぱりと相手を許さないと言うアーシアも珍しい。

 しかし、そこででも、と続けた。

 

「同時に思ってしまうんです。独りぼっちになってしまったあの子は、これからどうなるんだろうって……」

 

 最後の同胞を失って独り消えたカミラ。

 彼女のことを思うと胸が痛むのも事実だった。

 ましてや今回の事件でカミラはお尋ね者だ。いつ殺されてもおかしくない。

 

「独りは、さびしい」

 

「はい……」

 

 顔を隠すように体を小さくするオーフィス。

 その姿は、龍神として、最強の一角として数えられていた存在感はみじんもなかった。

 そんな1匹のドラゴンを、アーシアはずっと頭に手を置いて撫で続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくださいました。バラキエルさま。ガブリエルさま。そして、グレイフィアお姉さま」

 

 粗方、今回の沙汰が決定したことを受けて、それを報せるために3人は兵藤家に訪れた。

 グレイフィアは今回、メイド服ではなく私服で訪れているということは、使用人としてではなくリアスの義姉としてここに居るということだろう。

 奥へ通すと、朱乃の姿を確認したバラキエルが小さく安堵の息を吐いた。それに気付いて朱乃も小さく会釈する。

 

 その場には、元々兵藤家で暮らしていた者たちや、ヴァーリやデュリオもこの場に居る。

 先ず口を開いたのはグレイフィアだった。

 

「リアス。連絡が遅れてごめんなさい。今回の件は、色々と辛かったでしょう?」

 

「いえ、全ては私の力不足が招いた結果です。それに、冥界が大変なこの今、へこたれてはいられませんから」

 

 気丈に返すリアスに曖昧な笑みを浮かべるグレイフィア。

 ガブリエルが続いてオーフィスを視界に入れて口を開いた。

 

「今回、オーフィスがここに居ることが露見しました。その情報自体、各勢力に滅却師たちが流していたようです。それによって、緊急で同盟に参加していた勢力と話し合いの場が設けられました。まぁ、色々と言われましたが」

 

 何故、禍の団の首領の存在を黙っていたのか、から始まり。今回の滅却師たちの暴走に関する非難から今回の件とは関係のないことまで。

 まるで相手の悪口を言うのは楽しいと言わんばかりのバッシングの嵐だった。

 自業自得と言われればそれまでだが。

 

「それに伴い、リアス。覚悟していたでしょうけど、貴女とソーナさまも今回の失態を受けて駒王町の管理者地位を降ろされることになったわ」

 

 グレイフィアの言葉に一誠が反論しようとしたが、リアスが手で制した。

 

「後任は誰が?」

 

「今のところは決まっていないわ。というより、誰もやりたがらないのよ」

 

 町の管理者になるのはそれなりの能力と爵位が要求される。

 この1年で極大級のトラブルの連続だった駒王町にわざわざ就任したい暇な悪魔はいない。

 それは、今の冥界が色々と大変ということなのだが。

 

「今回の件の中心だった君たちには別の任務が割り振られている。これは、三大勢力だけではなく、各勢力と協議した上での正式な任務だと思ってもらいたい」

 

「任務、ですか……」

 

「そうだ。君たちにはこれから、世界各地を周り、禍の団に所属していた。もしくは援助や関わりがあったと思われる者たちや第二の禍の団になり得る可能性のある集団を調査してもらいたい。その際に、相手への捕縛、もしくは殺害も視野に入れてだ」

 

 何やら物騒な単語が幾つか出てきたが、グレイフィアが補足した。

 

「今、冥界ではかつて禍の団に与していた家が次々とお取り潰しになっているの。その中には七二柱も含まれているわ」

 

 例えばアジュカの実家であるアスタロト家などだ。アジュカ自身は実家とは縁を切ることで難を逃れている。

 今彼が魔王の地位を降ろされれば本当に悪魔側が暴走しかねないため、という理由もある。

 

「それで……禍の団と関りがあった者に対処と言うのは?」

 

「禍の団は別段、旧魔王派やクリフォトだけで構成されていた訳ではありません。教会や神の子を見張るものはもちろんのこと各勢力から自陣営に不満を持つ者たちが身を寄せていました。今まで大きく活動していたのがその2つの勢力か、英雄派たちだっただけです。他の勢力は規模が小さかったり、期を窺っていて、禍の団自体が活動不可に追い込まれてしまいましたが」

 

「今回の件を受けて、禍の団の残り香を一掃してしまおうという訳ですか」

 

「そうだ。その中にはクロウ・クルワッハなども含まれている」

 

 バラキエルの言葉に驚いているとここまで口を閉ざしていたヴァーリが発言し始めた。

 

「奴は、最終的にクリフォトを抜け、邪龍戦役でも手を貸していた筈だが……」

 

「だからこそ、ということだ。気分で陣営をコロコロ変える者など、ましてやそれを気にせぬほどの実力を持った相手だ。それこそ、また誰かと手を組んで各勢力に被害を出されては敵わんということだ」

 

「耳が痛いな」

 

 ヴァーリは自嘲気味に頭を押さえた。そして自分の処遇についても粗方予想を付ける。

 

「そして、ヴァーリ。お前のことだが……」

 

「幽閉か、それとも処刑か、と言ったところか。俺も、今は冥界の最上級悪魔に迎え入れられているとはいえ、俺もそちらを裏切った前科は言い訳のしようがないからな」

 

 なにせ、他の勢力と戦うために育ての親であるアザゼルを裏切っているのだ。今のヴァーリの心境がどうであれ、知らない者たちからすれば信用など爪の先ほどもないんだろう。

 

「お前は、今回幽閉という形で刑に服してもらう。正確な年数はまだ決めていないが、数百年は牢に繋がれることになるだろう。これは、D×Dとして活動した分の恩赦を含めての決定だと思ってくれ」

 

 ヴァーリは仕方ないとばかりに目を瞑った。

 ここで話には出ていないが、元英雄派であるゲオルグとレオナルドにもそれぞれ違った形での実刑が決まっている。この先、彼らにはその寿命を終えるまで一切の自由はないだろう。

 

「いいのかよ、それで……」

 

「良くはない。が、身から出た錆だ。なに、数百年だ。確かに短い時間じゃないが、悪魔の血の濃い俺なら寿命で死ぬこともない。気長に刑期が終わるのを待つさ」

 

 ヴァーリ自身、今回の件を終えればただでは済まないのは自覚していたし、もし逃げれば最悪、彼の守りたい者たちにも危害が及ぶだろう。

 それらを無視することはもうできない。

 

(できれば、遠くから、あの人たちを見守っていたかったが、それも叶わないか。今まで好き勝手していたツケとはいえ、それこそが最大の罰だな)

 

 ヴァーリの母と父親違いの弟と妹。

 あの人たちの生涯が終えるまで見守り、その子孫たちも陰ながら守ってやりたいと誓った。

 しかしその誓いをこんなにも早く折ることになるとは思わなかった。

 

 そこでさっきから気になっていたのかゼノヴィアが小さく手を上げる。

 

「その、世界中を回る、と言っていましたが、私たちもつい最近学園が再開したばかりです。流石に今すぐ世界中飛び回る余裕は……」

 

 ゼノヴィアの言葉にガブリエルが申し訳なさそうに眉を寄せた。

 

「……私たちは各勢力からの信頼が地に墜ちている状態です。今は少しでも多くの信を取り戻す必要があります。本当に申し訳ないのですが」

 

「つまり、もう暢気に学生をさせている余裕はないということですわね」

 

「すまない」

 

 朱乃の呟きにバラキエルは短く謝罪する。

 そして最後に、と前置きを入れてグレイフィアはオーフィスとその膝に座るリリスを見た。

 

「彼女たちの処遇についても、決定が下されたわ。落ち着いて聞いて」

 

 そこからバラキエルがグレイフィアの言葉を継いだ。

 

「オーフィスはシヴァ殿の監視の下、インドの山頂にある結界の中に入り、そこで封印措置を受けてもらう。もう1人のオーフィスは冥界の奥地で眠りに就かせることとなった。これに関してはほぼ、永遠に解けることはないと思ってもらう」

 

「な、なんですかそれっ!?」

 

 バラキエルが告げた裁決に一誠が声を荒らげた。

 

「どの勢力も、これ以上、無限に振り回されるのはゴメンだということよ。コレが受け入れられない場合、すぐに各勢力から駒王町を目指して討伐隊を編成することになるわ。そして、今度は確実にこの町────いえ、この国が壊滅する被害になるでしょう」

 

 グレイフィアの言葉に一誠たちは唖然とした表情になる。

 それにグレイフィアはフォローを入れた。

 

「言っておくけど、彼女たちがここに居ることは滅却師たちがこの町で事を起こす前にばら撒かれていたわ。だから、今回の戦いがどういう結果になろうと、この結果は変わらなかった筈よ。落ち度があったとすれば、無限の情報を隠し通せなかった私たちのミスだわ」

 

 だから、貴方たちのせいじゃない、とグレイフィアが慰めるが、それにいったいどれ程の意味があるだろう。

 今回の決定に帝釈天が────。

 

『オーフィスの奴は、真の静寂ってやつが欲しいんだろ? だったら永遠に独りで閉じ込めておきゃあいい。誰にとっても損はねぇだろ?』

 

 などとニヤニヤと笑いながら言っていた。

 他の勢力も、意見としては似たような物だ。

 リリスに関しては、その幼過ぎる精神から、眠りの術などにはかかりやすいと思われる。

 そこでリリスは冥界の奥地で二度と目覚めない眠りを監視され続けることになる。

 

「ざっけんなぁ!!」

 

 テーブルをひっくり返さんばかりに一誠が立ち上がった。

 

「アンタら、ホントにそんな案を納得して頷いたのかよっ!!」

 

「これでも、今回はかなり甘い判決となったのだ。トライヘキサとの戦いで多くの主神たちが隔離領域に移動し、体制が整っていない状態だからこそな。これを跳ね除ければ、最悪、人間界も巻き込んだ戦争に発展しかねん。それに無限が禍の団に居た所為で多くの犠牲が出たのも事実だ。その所為で、壊滅状態になった陣営や種もある」

 

 ただ淡々と告げるバラキエルに一誠は噛みつかんばかりに反論した。

 

「もうオーフィスたちはそんなことはしない!!」

 

 納得できない一誠は右手を大きく振るって睨みつけた。

 彼にはその判決を受け入れることはどうしてもできなかった。

 オーフィスはただ、ずっと独りぼっちで禍の団に利用されていただけ。

 リリスもオーフィスの力を奪われて創られ、リゼヴィムに従っていただけなのだ。

 本心から話せば、本当に良い子たちだって。もうそんなことはしない子たちだって理解出来る筈なのに。

 それなのに、2人のことを一方的に悪者扱いする各勢力に一誠は怒りを覚えた。

 今回だって、滅却師の奴らが因縁を付けてきてオーフィスを殺そうとした。

 

 ────なんでだ? 

 

 ────なんでだよ!? 

 

「なんで、寄ってたかって、皆してオーフィスたちをイジメようとするんだよ……っ!!」

 

 我慢できずに腹の底から絞り出すような声を出す。

 そんな中でオーフィスが口を開いた。

 

「わかった……我、そっちに従う」

 

「オーフィス!?」

 

 膝の上のリリスを退かし、立ち上がった。

 一誠がその肩を掴む。

 

「そんなのダメだ! オーフィスがそんな罰を受けることはねぇよ! 一度、皆と話し合ってさ! それでグダグダいうような奴がいたら、俺がブッ飛ばして────」

 

 説得しようとする一誠にオーフィスは首をフルフルと左右往復させる。

 

「我のせいで、皆がまた傷つく、イヤ。だからきっと、我は、ここに居ないほうが良い」

 

 それだけを言うとバラキエルたちの前に立った。

 

「1つ、お願いがある。最後に皆のお墓に、お花、あげたい」

 

「……わかった。どの道まだ数日の時間がある。それまでに済ませておいてくれ」

 

「感謝……」

 

 オーフィスがそう言うと、リリスが寄ってきた。

 この話をなにも理解していないだろう少女の頭を、オーフィスは僅かに不憫そうに目を細めて頭を撫でた。

 

「なんでだよ。やっと独りじゃなくなったんだぞ。俺、友達だって言ったのに……こんな時に何にも……!」

 

 項垂れるように顔を隠す一誠。

 確かに彼らはこの1年で信じられない程に強くなった。

 多くの強敵と戦い、死線を潜り、理不尽な暴力に抗う力を得た。

 しかし、正当な権力に覆す権力は、彼らにはなかった。

 

「皆と居るの、楽しかった。ずっと一緒にいたかった。でも、どこで間違った……?」

 

 自問するオーフィスにガブリエルがその答えを告げた。

 

「貴女は、自分以外のモノに興味を持つのが、遅すぎたのです」

 

 純粋無垢、というのが愛らしく映るのは、周りに危害が及ばない弱い立場であるからこそだ。

 誰にも駆逐できない存在が考え無しに世界を引っ掻き回すのなら、それは周りに恐怖しか与えない。何が理由で攻撃されるのか分からないからだ。

 もしも、オーフィスが自分を利用するだけの者に不快感を持つだけの感受性が有ったのなら。

 自分の力が世界に与える影響を考えられるだけの知性を有していたのなら。

 もっと多くのモノを理解しようとするだけの学習能力が有ったのなら。

 もしかしたら、今回とは違う結果になったかもしれない。

 だが、全てはもう遅すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し合いを終えた後に、ガブリエルはデュリオに話しかけた。

 

「デュリオ。貴方に、1つ頼みたいことがあります」

 

 頼みごとを聞き、デュリオはありがとうございます! と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あー。これヤバ……)

 

 地面に押さえつけられ、カミラは他人事のように自分の現状を見ていた。

 カミラが独りになって5年。各地を逃げ回りながら各勢力。特に三大勢力から逃げ回っていた。

 肩のところまで伸びていた髪はお尻の辺りまで伸ばされ、背丈も伸び、顔立ちや身体も少女のそれから女性らしいモノに変わっていた。

 偶々立ち寄ったのが悪魔が管理する町で、速攻で正体がバレて5年前の事件の影響か、増援も呼ばれてしまい、カミラ個人で対処できる容量を超えてしまった。

 

 元々隠れて能力で魅了するのが彼女のやり方であり、数の暴力や、サポートしてくれる者もいない状況ではいずれこうなるのは当然だった。

 

(5年かぁ。わたし独りにしては良く持った方かな……)

 

 元々戦闘は苦手だし、頼ってきた家族たちはもういないのだ。

 それよりも今はとにかく喉が渇いていた。

 

「穢れた滅却師風情がっ!! 散々手こずらせおってからに……!」

 

 おそらくこの町の管理者だろう端正な顔立ちの優男が、忌々しそうにカミラの頭を踏む。

 もはや、静血装も使えない程に消耗しており、痛覚も大分鈍くなっていた。

 

「貴様のようないつ反旗を翻すかもしれん駒などいらん! この場で叩き切ってくれるっ!」

 

(あー。それは助かるなぁ)

 

 死にたくも当然ないが、悪魔になるなど御免被る。

 なら、この場で自分の結末は決まってしまった。

 

(ぶっちゃけこの5年間、襲われまくって疲れちゃったしね……)

 

 だからもう、頑張らなくて良いような気がした。

 瞼が、段々と重くなる。

 

「ちょっと待ったぁ!?」

 

 ガキンッと金属がぶつかる音がした。

 

「やっと見つけたよ……!」

 

 そんなどこかで聞いたような声が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったぁ……」

 

 目を覚ますとそこはどこかのホテルの一室と思しき部屋だった。

 全身に痛みが走ることからとりあえず生きてるんだろうな、と安堵する。

 

「目が覚めたね」

 

 声の方に視線を移すと。そこには顔だけ知っている者がベッド横の椅子に座っていた。

 

「デュリオ……ジェズアルド……?」

 

「そ! この5年間、ようやく君と接触することが出来たよ!」

 

 言いながらウサギ型に切られたリンゴを差し出された。

 怨恨か何かか、彼が自分を捜していることは知っていた。だから避けるように行動していたのだが、どうやらとうとう追い付かれたらしい。

 

「今更、わたしに何の用」

 

「ううん。それなんだけどね。俺、ガブリエルさまの命令で君を捜してこっちに引き込むように説得するように仰せつかってるんだ。5年もかかっちゃったけどね」

 

 陽気な声で話すデュリオに警戒心を抱いていると、苦笑して息を吐いた。

 

「ガブリエルさまはね。あの時、君たちを止められなかったことを後悔しててね。どうにか保護できないか、って思ってたみたい。もちろんそれだけじゃなくて、いつか、滅却師(キミたち)の力が必要になる事態が起きるかもしれないから、その血を絶やすのはダメだって。神器使いの俺たちと違って、その血が絶えたら終わりでしょ? あの事件で君のお姉さんが色々とやってたし、その技術に興味があるのもあるけど」

 

「あれらは、マヌエラ姉さまが作ったもので、わたしには作れないんだけど……」

 

「それならそれでいいよ。俺の目的は君を保護することだし。あぁ、このことは各勢力からきちんと許可は取ってるから。オーフィスちゃんの時のようにはならないよ。念のために姿は変えてもらうことになるけど」

 

 ニコニコと話すデュリオにカミラは警戒を解かない。

 

「三大勢力は滅却師に恨みがあるんじゃないの? あれ以来、かなり落ち目のようだし」

 

「んー。確かに色々と不利益は被ったけどね。でもそれは、ほとんど悪魔と堕天使陣営に集中してて教会自体はそれほどでもないんだよね」

 

 肩を竦めるデュリオ。

 それ自体、教会がなんやかんやで人間界の最大宗派ということもあって、他の二勢力に比べて叱責は少なかった。

 少し真面目な表情で話し始めた。

 

「正直言うとさ。俺が保護しても、これから先、君には自由は与えられないと思う。顔や声だって変えてもらわないといけないし、要は子供を産むための道具になれって言ってるようなものだし。その代り、安全は保障するけど」

 

 そしてカミラの手を握った。

 

「でも、君の孫か、その後の世代か。その頃には必ず、滅却師の因縁を取り払って自由に生きられるようにする。それまで、天使である俺が見守る。幸い、今の俺は長生きだからね! だから、君には新しい滅却師を始めて欲しいんだ。過去と未来を繋ぐ」

 

 柔らかな笑みで説得するデュリオにカミラは胡散臭そうに目を細めた。

 

「なんだか、ホストみたい」

 

「酷いな!?」

 

 それから黙ってしまったカミラに流石にすぐには決められないか、と懐からあるモノを取り出す。

 それは、かつてカミラがアーシアに渡していた充電式の滅却十字だった。

 

「アーシアちゃんから預かっててね。もし会える機会があったら返しといてくれって」

 

「お姉さんが……」

 

 受け取ったカミラがマジマジと十字を見た。

 それからデュリオがカミラの頭に手を置く。

 

「ま、ゆっくり考えなよ。時間はたっぷりあるからさ。それまで逃げないでくれると嬉しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久々に夢を見た。

 そこでは、自分は5年前の姿で、目の前には、マヌエラ姉さまがいた。

 姉さま、かつてのようにわたしの頭を撫で。

 

 ────ごめんなさい。そして、ありがとう。

 

 かつての優しい笑顔でわたしに別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えは出たかい?」

 

「えぇ。貴方に、ついて行くことにするわ。それ以外にもう選択肢はなさそうだしね」

 

 観念したように告げるカミラにデュリオは安心して大きく息を吐いた。

 

「良かった。断られたらどうしようかと思ったよ」

 

「どうせ、殺されそうだけどね」

 

「そんなことはしないよ。まぁ、納得してくれるまで一緒に行動して説得するつもりだったけど」

 

「うわ! ストーカー宣言とか気持ち悪い!!」

 

 などと言っていると、思い出したかのようにカミラが自分の両頬に触れる。

 

「あ、そうだ! どうせ整形するんだったらさ、絶世の美人にしてよ! 能力使わなくても誰もが惚れちゃうくらい!」

 

「目立たないようにしなきゃいけないんだから、目立つ顔にするわけないでしょ! 特徴のない顔になってもらうんだよ」

 

「えー。整形するのに顔面偏差値が下がるとかありえなーい!!」

 

 

 

 いつか、自分たちのやったことが薄れて行って、大手を振って子孫の滅却師が陽の下を歩ける日が来るのか。

 それは、カミラにはわからない。

 それでも、ゼロからはじめようと、カミラはデュリオの手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと終わった。
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