バルチック艦隊召喚   作:伊168

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満洲沖砲撃戦

「ここは一体……」

 

黒溝台での戦果を評価され、満州軍第二軍司令官グリッペンベルクは眼前に広がる大海原を見て、呆然としていた。

 

「なぜ君がいるのだね? フエルト少将」

 

グリッペンベルクがおかしな口調で隣の男に問う。隣の男は

 

「奉天が! 奉天が!奉天が!ヤポンチクが居ないんです! でも、でも、遼東が遼東が消え去りました!」

 

「満洲……ここは満洲なのか!?」

 

困り果てたグリッペンベルクにガンシン・フエルト少将が、

 

「遼東除いて満洲に海なんかないでしょう!」

 

とややヒステリックになって言う。

だが、少将の反応も納得できる。目の前に海があるのだから満洲ではない。当然である。旅順ならば要塞があるはずであるし、ここが満洲でないということは正しい。だが、ここはどう考えても満洲の地である。寒さ以外は。

 

「クロパトキン閣下はなんてご命令されたのだ?」

 

フエルト少将に怒鳴られて、我に帰ったグリッペンベルクは満洲軍総司令官クロパトキンが何を命令したのか聞いた。クロパトキンに満洲軍全員の命がかかっているのだから、気にするのは当然である。

 

「とりあえず現地の調査と警戒をせよとのことです」

 

「やはりか」

 

クロパトキンらしいなとグリッペンベルクは思った。この慎重さがクロパトキンの最大の長所で最大の短所である。と、彼は着任後ずっとそう思っているからこそ、予想が簡単にできる。当たりすぎて心配になる程である。

 

目の前から日本軍が消えたことによりもっと活発に動いてくれるのではという期待も無いことは無かったが、やはりそんなことはなかった。クロパトキンは石橋どころか家の前の道ですら叩いて渡るタイプだなと彼は独り言のように呟いた。

 

「グリッペンベルク将軍!沿岸警備隊より報告!『沖合に戦列艦13隻見ゆ』」

 

グリッペンベルクの人物評はこの報告によって中断された。本来だと鴨緑江があるあたりが沖合になっているらしくて、奉天や遼陽なんかも日本兵抜きで返って来たとフエルトが言っていたのを思い出す。

戦列艦、消えた日本兵、消えた遼東半島、おかしな地理……グリッペンベルグの脳内にファンタジー溢れるトンデモ世界が形成されかけた……が、彼は司令官。下らない妄想などしていられない。

 

「ゲオルギー・スタケリベルク中将のシベリア第1軍団、そして我が第2軍は海岸を防御、また戦列艦に対し回頭を要請せよ」

 

あえてクロパトキンを通さずに彼はテキパキ命令を下していった。

 

1905年6月17日 満洲沖東部

 

 

皇国監査軍西洋艦隊司令長官メインベルトは突如として現れたこの新大陸を侮蔑するような目で見ていた。

 

「汚らわしい蛮地、目が腐るわ!」

 

と顔に書いているようであった。彼は、この大陸に人類がいることを認めると、

 

「フハハハハ……空砲を撃て。蛮族どもを驚かしてやれ!」

 

と命令した。水兵たちは大陸共通語で、

 

「死ね蛮族!」

 

「ミンチにしてやれ!」

 

と口々に罵り始めた。メインベルトは足を組んで、

 

「も少し辛抱しろ」

 

と言って制止した。勿論このまま抑え続けるつもりはないが。

 

空砲を撃たれたロシア陸軍は蜂の巣を突いたかのように大騒ぎになった。中でも日本語が分かる者が、沖の戦列艦からの怒声に怒って、

 

「うるせえ未開人どもが!」

 

と天にも届くほどの大声で言ったので、プライドの高い西洋艦隊司令長官メインベルトは青筋を立てて、

 

「実弾だ! 実弾で砲撃開始!」

 

と荒々しい声で命令した。水兵たちは大喜びで、準備から発射まで罵りながら行った。罵りの声に後押しされた砲弾は多くが外れたが、幾らかは陣地に到達し、沿岸の砲やロシア兵を打ち砕き、粉砕してしまった。

ロシア兵は大いに怒り、勝手に砲撃を開始した。日本軍との熾烈を極めた戦闘で慣らしたロシア砲兵にとって油断しているのか、至近距離で止まっている戦列艦ごときなど敵ではない。いくつもの砲弾が前方の戦列艦を貫いた。

 

「戦列艦『クーゲル』『キール』『ホーン』被弾、沈没!」

 

「そんな!」

 

メインベルトが見た先には苦悶に表情を歪め、海に吸い込まれて行く戦列艦3隻の姿があった。

蛮族に撃沈される。これだけでメインベルトの精神力は打ち砕かれた。

 

「うっ……うっ……ううぅ……蛮族……蛮族……わあああああああ!」

 

メインベルトはいきなり大声をあげて叫び、唇を震わせ手足を痙攣させる。もはや怒鳴り声は何を言ってるかすらわからないものになっていった。今度はなぜか泣いているではないか。そしてついに、

 

「我が艦と中破し、落伍した2隻除き全て沈没しました!」

 

という報告が彼を崩壊へとエスコートした。メインベルトの精神は完全に逝かれてしまったのである。

 

それとは正反対に、見事勝利したロシア陸軍は、大いに喜ぶとともに死んだ部下の埋葬を始めた。

 

「敵艦隊は撤退しました!」

 

「そうか、ご苦労」

 

グリッペンベルクも戦闘には参加できなかったが、戦死者の埋葬や負傷者の救助のために、一部のものを連れて海岸へ向かった。

 

 




フエルト少将は奉天にいたままという設定。フエルトの名は読み方がよくわからなかったのでミスがあるかも知れません。
メインベルトはオリキャラになります。小説で西洋艦隊司令長官の名前が出ていましたら、教えていただけませんでしょうか。
日本軍は朝鮮に送還(物理)されています。
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