1905年6月20日 北ロデニウス海
「提督!マイハーク沖の防衛艦隊はクワ・トイネ軍60隻、ロシア軍7隻の模様」
ロウリア海軍海将シャークンは優に4000隻を超える艦艇を眺めながら敵情の報告を聞いていた。
「今日の夕刻にはマイハークに到着する予定です」
「そうかそうか。蛮夷、ロシアに西ロデニウス海での雪辱を晴らす日がついに来たか」
殺されるところだったのだ。ロシア人には死よりも苦しい罰を与えてやる。そう、シャークンは天に誓った。
一刻ほど航行したとき、列強国パーパルディア皇国から賜与された戦列艦20隻のうち最も多い64門級戦列艦「ハーク・ロウリア34世」艦上で水夫が一人素っ頓狂な声を上げた。
「前方に敵艦!」
同 マイハーク沖
「仮装巡洋艦〈ペテルブルク〉より報告。『我が艦より10キロ、第三太平洋艦隊直轄艦隊より前方20キロに敵艦隊あり』とのことです」
「ついにやって来たか……」
司令長官ネボガトフは敵艦隊見ユとの報告を聞いて、グッと椅子に腰掛ける。
「観戦武官のブルーアイ氏には心配はいらない、今日中に壊滅させる。と伝えてくれ」
いくら我が軍の戦艦を見たとは言え、知識がなさすぎるため、本来の戦力が推測できず、かなり不安に思っているだろう。今後、長い付き合いになるのだろうからこれぐらいの声かけは必要だと彼は思っていた。
はっきり言って、7隻だけで戦わねばならないという時点で随分気後れしていたブルーアイにこの程度の声かけで効果があるかと言えばそれは違う。
ネボガトフはふと、前に我が艦隊だけで壊滅できると第二艦隊司令長官パンカーレに自信満々に言ったが、その時の提督の顔が引きつっていたことを思い出した。
ないとは思うが、やはりこの戦いは負けられない。万が一があれば心証が著しく低下するだろう。
我が艦隊だけで戦うというのは、無駄死にさせないための一種の気遣い、善意であったのだが、その善意は一方的な者で、主観でしかない。それがパンカーレに正しく解釈してもらえる保証などない。
部下思いの提督のことだ。部下が殺されたと解釈して、激しく非難することは目に見えていた。
--やはり負けられない。
ネボガトフは艦上で緩んでいた気を再び引き締めた。
同 午後1時 マイハーク沖
仮装巡洋艦「ペテルブルク」は逸早く敵艦隊に接触し、回頭を要求していた。
だが、それへの回答は言葉によって返されることはなかった。
「蛮夷が偉そうに! 第2隊は敵艦と併走し次第攻撃開始!」
との命令と共に打ち出された大量の火矢によって拒絶という回答が為されたのだ。
「『敵艦の攻撃による被害はなし』とのことです」
部下の報告を聞いてネボガトフはどこか哀れむような表情で目線を下に落とすと、
「致し方あるまい。敵艦との距離2000メートルの地点で砲撃を開始する」
ネボガトフ少将としては、このロウリア王国にこちらの艦の能力を知られることを避けたかった。又日本軍が万が一ここに来ていた場合、こちらの艦艇の能力や乗組の練度などを知られる危険性があったため、戦列艦の射程距離での砲撃を命じたのである。
4隻の戦艦は次々に発砲の準備を始めていた。すぐに用意したのは、一応反航戦の形であるので、両艦隊は20ノット近くで接近しており、すぐに有効射程に入ったからである。
戦艦インペラートル・ニコライ1世の主砲が咆哮する。水柱が立ち上ると、目標になった船は面影もなく、一瞬にして消え去る。密集した敵艦隊は命中率を高くしてくれていたのである。撃てば当たる。この状況に将兵らは大興奮した。
「何が起こっているのだ!」
怒声を飛ばすシャークンに一つの朗報が届いた。
「長官殿! 50門級戦列艦『アドミラル・ウィット』、30門級フリゲイト『ハーク』『ロデニウス』が敵艦1隻に急接近。砲撃準備中とのこと!」
「やった! フフフ……蛮夷め。地獄を見せてやる!」
シャークンの眼に火がともり、艦隊の士気は回復しつつあった。
前方では先程の砲艦3隻が、ロシア海軍の海防戦艦「アドミラル・ウシャーコフ」に一斉砲火を喰らわせていた。
そして、煙が晴れた先には、目立った傷の付いていない戦艦。その主砲や副砲が憎き砲艦三隻をジッと見つめていた。
原作では出番がなかったフリゲート君。
戦列艦「ハーク・ロウリア34世」は64門か74門どちらにするかでで迷いました。