バルチック艦隊召喚   作:伊168

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リアルにしようと思うあまりなんちゃって戦術になっちゃう。


クワ・トイネ包囲戦3

同 昼

 

パンドール軍は最後の作戦会議を行うため、将軍の幕舎へ集まっていた。

参謀らが口を開く前に、パンドールが重々しい口調で、

 

「準備不足により、今回の総攻撃は中止とする。以上」

 

と言うや否やそのまま出て行ってしまう。残された将兵らは頻りに顔を見合わせて、そのままであった。

全軍に攻撃中止が知らされ、パンドール軍の兵士は慌ただしく元の持ち場へ戻っていった。このことは、ロシア陸軍の偵察隊によって、知らされることになる。

 

 

同 夕方

 

「閣下、敵将パンドールは我が軍への総攻撃を取りやめた模様!」

 

「そうか。ご苦労。では、そのことを機関銃部隊とミシチェンコの旅団以外に知らせてくれ」

 

「なぜでしょうか?」

 

よくわからない命令に思わず伝令が聞き返す。命令とは簡単明瞭であることが好ましいのだから、聞き返したのは当然のことだ。むしろ質のいい兵卒だといえよう。

グリッペンベルクは仄かに笑うと、

 

「敵がしたいのは、天を瞞いて海を過るということだ。つまり、攻めるフリというのを繰り返して、敵に自軍を侮らせる。こいつはどうせ何もしないだろう、とな。そして、敵の警戒心がいい具合に緩んだ時に一挙に攻める。という作戦だ。だから敢えて引っかかろうと思う」

 

「し、しかし……戦とは敵の作戦に乗せられるのではなく自分の作戦に乗せるものと聞きますが……」

 

「孫子の兵法にはそうあるが、それは飽くまで理論だ。かかってみた方がいい例もある。かかることで主導権をこちらが握るのだ」

 

「は、はあ……」

 

「早急に敵を倒すには向こうから大勢で来てもらうのが一番いい。我が方が質で圧倒している今ならな。こちらを舐めて攻めて来た敵歩兵を機関銃で粉砕する。だから機関銃隊には知らせないように言ったのだ。敵将は我々を騙したと思っておるだろうが、実際はこっちが騙されたフリ……即ち騙し返しているのだ」

 

「納得しました! では、早速……」

 

翌日、機関銃隊とその付近の工兵や歩兵は引き締まっていたが、他のものは皆だらけていた。これを見たパンドール軍の斥候は嬉々としてこれを本陣へ伝えた。

パンドールは雀躍し、翌日攻めると宣言した。それと同時に、ポカンとしていた幕僚達に敵を油断させるためであると伝えた。

これにより、パンドール軍内で弛んだり、反発するものが出ることはなくなったというのだから、彼らの部下を引き締める能力は高いと言えるだろう。だが、それは彼らを自軍の強さにばかり目を向かせることになってしまうとは皮肉なことではないだろうか。

 

翌日、結局パンドールは攻撃を行わなかった。それと同時に、グリッペンベルク軍は弛みに弛んだ。

後日、グリッペンベルクら敵軍の上層部が総出で酒盛りをしていたということを聞いたパンドールは小躍りして、

 

「敵も愚かな将軍を送ったものよ」

 

と嘲笑った。初日の大敗と、敵が計略にかかっている今との懸隔からパンドールらには多少なりとも驕りが出て来ていた。勿論部下が驕逸しないように注意はしていたが。

 

パンドールにとって一番気掛かりであったのはグリッペンベルク本隊ではなく後方に陣取る敵騎兵だった。

スマークの騎兵隊なら早々に討ち取っているだろうが、もういない。後方軍はロクに抵抗できていなかったのだ。だが、敵の兵勢は盛んであり、これに真っ向から立ち向かうというのは上策ではない。

厄介な場所に陣取っているし、大きすぎる癌であった。

 

8月25日

 

「パンドール将軍!敵軍は完全に緩み、将兵から馬までも寝そべり、卒から将に至るまで酒盛りをしております」

 

時は来た--パンドールが目を見開く。

 

「全軍、敵陣へ向かえ!」

 

総勢30万のうち5万を残して、パンドール軍25万は10隊に分かれて猛進した。彼らが通った後には、馬蹄と足の跡のみが残るというほどの大軍勢である。勝負は1日でつくだろう。敵は薄く広がっているという。一点を突破して、突撃路を確保して雪崩れ込めば--クワ・トイネももうすぐだ。

 

 

同 ロシア軍の陣

 

「敵軍が進軍し始めました!」

 

「そうか。ついに来たか。では、機関銃隊に準備するように命令を。それとミシチェンコにはまだ攻撃命令を下さなくてよい」

 

「ははっ!」

 

グリッペンベルクは前方を見つめる。どちらも平原に陣取っている。兵勢は全体で考えれば敵の方が優っている。敵は奇兵、対して我が軍は正兵。打ち破るのは容易い。敵はそう思っていることだろう。

 

 

「将軍! 先手の第一隊が敵第1防衛線950メートルまで接近しました!」

 

「そうか。まずは様子見だ」

 

パンドールは敵陣のある方向を見つめる。今頃敵は慌てふためき、すぐさま準備もままならず次々に討ち取られ、死屍累々、壊滅し、クワ・トイネまで算を乱して遁走することだろう。敵将を捉えてクワ・トイネが陥落することを見せてやる。そして、自分の無力さをあじあわせてやる。

パンドール軍の第1隊2万はグリッペンベルク軍の第一防衛線のほぼすべての機関銃部隊の有効射程内に入り、今まさに刃と銃火を交えんとしていた。

そして、ロシア軍の機関銃兵の一連射が両軍合計30万を超える一大決戦の火蓋を切った。

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