バルチック艦隊召喚   作:伊168

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クワ・トイネ包囲戦4

「Ураааааааа!」

 

の鬨の声が戦場に響き渡れば、幾十人ものロウリア兵が斃れ伏す。陣に全く取り付けない。近づけばすぐに敵の魔法により粉砕される。

 

「何をしている! 我らが優勢ぞ!」

 

第一隊の司令官は突撃せよと命令を下すが、一向に突破できない。これほどの突撃が全く通用しない。そう思うと、こちらの吶喊も敵に比べて弱々しく感じる。

 

 

「パンドール将軍!第一隊、苦戦! 増援を要請しております!」

 

「仕方あるまい。全部隊集まって敵を一挙に襲う!」

 

パンドールは九の隊を集めて、進軍を開始した。速度は落ちたが地の見えないほどの軍勢、さぞ壮観であったろう。

だが、速度の低下は第一隊にとっては害でしかない。救援が遅ければ遅いほど被害は増えるのだから。

だが、第一隊を切り捨てることで残りの隊が兵力の逐次投入になることがなくなり、助かったのだと考えれば強ち悪い戦術でもない。ただ、第一隊の2万人には不幸であると言うだけだ。兵士の命とは消耗品なのだ。

 

パンドールら23万が到着した時、第一隊二万は一人残らず息絶えていた。

 

「第一隊の仇を取れ! 突撃!」

 

パンドールの怒声とともに幾万の兵たちが野に火を放ったかのように陣地へ駆け出す。足音が雷鳴の如く響き、鬨の声が耳を貫く。最前線の兵は一瞬怯む。たかだか中世の兵でもこれほどに勢いがあれば虎にも狼にも見える。敵兵も我々が圧倒していると思っていることだろう。

だが、機関銃の一連射がそれを打ち砕く。

だが、騎虎の勢である敵兵は一向に怯まない。この勢いを例えるだけのロシア語も日本語も存在しない。驍勇堅忍たる敵軍は味方の屍を乗り越えて陣に取り付こうとする。鎧も、皮の鎧を当てているだけ、武器も剣や短い槍しか持たない軽装歩兵の突撃は、白襷隊と重なる。あれほど強くなくともキリがなく、どうしようもない。

 

これには、参謀たちも困った。グリッペンベルクの命令で前線と司令部が近かったので、彼らはもし敵がこの後の防衛線も貫けば--と恐れていたのである。

そのため、取り敢えず斥候に無勢だと伝えさせた。

 

「グリッペンベルク将軍……敵の勢いはかなりのものです……」

 

「そうかそうか。では、ミシチェンコに攻撃命令を出せ!熱すぎる釜からは薪を抜いてやらねばならん」

 

「ははっ!」

 

 

だが、パンドールの方も余裕ではなかった。彼としては攻略の遅さに危機感を抱いていたのである。

だが、彼の部隊はやれることはやっていたため、彼は地団駄を踏むしかなかった。

 

 

第一防衛線の攻防は凄惨を極めていた。ロウリア側の兵士の多くが倒れ、地は人形のように動かなくなった兵士や、芋虫のように必死に地を這う兵士で埋め尽くされ、後から来る者に踏まれ、不気味な叫び声を上げている。既に死体が積み重なり、塹壕のようになっているところもある。地はどこまでもが真っ赤に染まっているだろう。だが、この死体の中である。血など見えない。

 

「うう……うう……」

 

という呻き声が機関銃手の罪悪感を煽る。目の前の惨状に流石の機関銃手達も疲れ果て、無表情になっている者、ずっと笑っている者、目を閉じて震えながら撃っている者。見ているだけで胸が締め付けられるほどである。敵味方共、死を肌身で感じる大決戦である。

これだけの兵に一歩も引かずに戦えるロシア側の精神力、防衛力共に素晴らしいが、これだけ殺されても逃げる者のいないロウリア軍も素晴らしい。パンドールの作戦は不備があっても、兵士一人一人への統率は良く出来ていたと言えるだろう。

 

死屍の山を乗り越えて、十字の砲火を避けた猛者が数名塹壕内に突入した。その場の歩兵にすぐに斬り伏せられたが、ロシア兵らを恐慌、狼狽させた。ロウリア兵は飛沫の如く打ち寄せる。ロシア側では弾薬の補給が慌ただしく行われる。一兵一兵は両軍最善を尽くしていた。後は、率いる将軍次第である。

 

 

その頃、ミシチェンコの一万もの大部隊は後方陣地へ一挙に攻撃をかけた。後方軍ら5万は蜘蛛の子を散らして四分五裂し、各個撃破されていく。

敵が怯み、完全に主導権を失った所で騎兵隊は一挙に食料やその他物資を焼き払って行った。だが、後方軍は追い回されるばかりで何もできない。瞬く間に食料庫は焼け落ち、パンドールら25万を支えるものはなくなった。

このことは、運良く捕まらなかった後方軍の兵士によってパンドール本隊へと伝えられた。

 

「そんな……後方軍は何をしていた!」

 

と怒鳴り散らしたくもあったが、そんなことをすれば、我が軍の敗勢が全体に知れてしまう。そうすれば、首の皮一枚繋がっている状態の我が軍の士気も秩序も一瞬で崩壊するだろう。

だが、補給がなくては戦えない。敵の食料を使おうにも、クワ・トイネまで数日はかかる。その間にこちらの勢いは尽きるだろう。騎虎の勢も永続ではない。

降伏か退却か。

パンドールは決断を迫られた。

降伏すれば我が軍は助かっても王国は崩壊する。撤退なら十中八九我が軍は崩壊するかもしれないが、十中の一、二は自分で作る自信はある。それに再戦の機会が与えられる。

 

「……退却しよう。そうすれば、また来ることも出来よう」

 

「か、畏まりました……」

 

「ただし、第二、三隊は鬨の声を上げつつゆっくり後退。他の隊は先に撤退。軍楽隊は第二、三隊と共に太鼓を打ちならせ! 」

 

金蝉、殻からを脱すを忠実に行ったこの退却は、それなりに効果的であった。全体の壊滅は避けることができたし、必死に鬨の声をあげ、太鼓を打ち鳴らすというものは、一定の心理的効果を与えたのだ。

地を埋め尽くす敵兵はゆっくり引いていった。だが、前線のものはまだ戦闘を行なっていると思っているほどの勇戦であった。

ミシチェンコ隊は、グリッペンベルクからの命令により、敵を挟撃したりせず、待ち構えたり、深追いすることもせず、軍を引いた。数の差からも妥当な命令であろう。

 

夜になると、既に動く者はなかった。

 

「敵の撤退も見事なものよ……」

 

グリッペンベルクは遠くにある敵将、パンドールの健闘を讃えた。

 

第二次クワ・トイネの戦いは、ロウリア側死傷者7万4千人、捕虜2万人、ワイバーン35騎喪失。ロシア側死傷者60名(死者1)、戦病者1400人(うち精神病者1200名)。ロウリア軍の撤退により幕を閉じた。

 

 

 

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