大敗を喫したパンドール軍は、マイハーク攻撃を中止。後詰めも呼び寄せ、本国へ兵士の臨時徴兵と増援を頼んだ。その結果、20万まで数を減らしていた軍勢は50万まで大幅に増える事となった。
また、この時パンドールの大敗北がパタジン将軍の元まで伝えられた。
だが、彼はその報告を上に上げることをせず、自分の所に留めておいたのだ。それは、決して彼が売国の臣だというわけではない。玉座を盾に権力を欲しいがままにする欲に溺れた豚共にこの情報が回ると、彼ら佞臣が国王に対して讒言を行い、それによってパンドールは左遷されるだろう。
国王は聡明であるが、絶対君主制であるためか、与えられた情報から物事を判断するしかない。佞臣によって都合よく曲げられた情報の虚実を見抜くのは至難の技である。
パンドールを良く知る将軍らは、左遷すべきでないと諌めるだろうが、彼らは所詮は武人であって、文官どもと舌戦して勝てるとは思わない。上手く言いくるめられるだけであろう。
全ては、敵軍を被害少なく撃滅するには、パンドールが最適である。という彼の考えに基づくものである。
『ル・タン』など各紙の一面はグリッペンベルク将軍の大勝利が飾った。民衆はこれを大いに讃えたが、政府にとってこれはどうでもいいわけではないが、優先度の低い情報であった。
彼らにとって最も重要である情報とは、勿論新聞社よりずっと早く知っていることではあるが、列強を自称する謎の国『ムー』の使節団が来るということだった。
通信技術があるとはいえ精度の低い我が国のためにわざわざここまで情報を伝えに来てくれたことは本当にご苦労なことだ。伝えて来た内容は、使節団が来るということと、飛行場を作れということだけ。
急ピッチで作業が進められ、飛行場--というより、木を抜いて整頓しただけの滑走路が一本だけというお粗末さだが、ライトフライヤー号擬きしか作れない我が国にとっては上出来だ。同様の飛行場をクワ・トイネにも作っている。
また、彼らはある危機感を抱いていた。それは情報漏洩である。ムーが我が国の存在に気付いたのは、我が国の新聞が流れてきたからというではないか。そこの写真を見て、興味を持ったらしい。
友好的そうな国に渡ってくれたから良かったが、これが目茶苦茶な覇権主義国家に渡ったら--と、彼らは管理の甘さを悔い、対策を練った。
報道法の改正を行なったのだ。改正は二ヶ所で、
⚪︎出来るだけ報道は思想を含ませないこと
⚪︎軍隊に(戦果除く)関すること、軍隊の写真を載せる場合は、軍の検閲を受けること
また、出版に関する法律も改正した。
⚪︎暴力的及び扇動的な出版物は政府による検閲を受けるものとする
というものである。これらは、単純に情報漏洩を防ぐ意図もあったが、同時に共産主義系の勢力を牽制する意図もあった。本という手段を奪うだけで、影響力は大分と弱くなるものだ。
別に直接ダメと言っている訳でもないので国際的にもセーフだろう。
1905年8月31日 ムー国
「マイラス君、これを見たまえ」
上官から何やらよくわからない文字で書かれた紙を見せられる。だが、ご丁寧なことに真下に共通語訳が書いてあったので、何のことかはよくわかる。
「ああ、そこじゃないよ」
上官の指を追いかけると、そこには魔写された戦艦が印刷されていた。これはまさしく旧式戦艦「インペラートル・ニコライ1世」だが、彼はそんなこと知る由も無い。
「我が国の旧式戦艦ソックリですね。あっ! みてくださいこの記事!」
マイラスの興味は別のものに移る。そこには、ライトフライヤー号擬きの写真と、「以前より航続距離と高度や操縦性が改善された」との一文が載せられていた。
改善と言っても蝸牛と蛞蝓の速さを比べるも同然の違いではあるが、我が国の黎明期の航空機そっくりの進歩や外観にとても親近感と親心に近いものを持った。この国を応援してやりたい、と。
「そこで、君にはこの国に行って欲しい。ちゃんと用意はしてくれてるみたいだから、安心してくれ。新たな機械文明国が南西で産声を上げたんだ。優しく育んでやってくれ」
「はい!」
マイラスの心は躍る。グラ・バルガスのような恐ろしい国に派遣されなくて良かったという安堵と、近い発展レベルの国家との接触という進化を目で見る貴重な体験ができるという喜びによるものだ。
翌日、ムー国から最新の旅客機ラ・カオスが飛び立った。
ロシア帝国でも、ムー国に--つまり列強国に舐められまいと張り切って準備が行われていた。国際社会から、舐められない。少しでも認められる。ということは非常に大切なことである。
この機会を逃すわけにはいかない。普段から過労死寸前の彼らは、死や疲れを超越するところまで齷齪働いた。
軍事的な面なら建造中の最新鋭戦艦、塹壕戦術、機関銃、航空機……。文化的には電話や新聞など、誇るべき文明という文明は全て用意が完了している。
アッと驚かせてやる。ポール・ボーら政府、軍部の要人たちはムーの使節団が来る時を、今か今かと首を長くして待ち構えていた。
セリフが少ない ですよね……
パンドールとの最終決戦の前にムーとの接触です。