バルチック艦隊召喚   作:伊168

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再包囲

1905年9月7日 クワ・トイネ

 

この日、陸軍大臣クロパトキンは弾薬類の欠乏及び精神病患者への対処を理由に、陸軍のクワ・トイネ全土からの一時撤退を決定した。弾薬だけ輸送船で送ればいい、又精神病になるような軟弱者はもっと前線で扱くべきだとリネウィッチ将軍などは主張したが、受け入れられなかった。

20日もあれば戻るとグリッペンベルクは約束して、何もないようにと祈りを捧げてから国へ帰った。

また各新聞社は人道的観点から一部部隊のみ残せと紙面を通して一般に伝えようとしたが、報道法に引っかかり、実現しなかった。

政府にとっても報道法の弊害がここで出るとは思いもしないことであったため、特別に対策を取れない。だが、ロシア内で流れていた情報から考えると、クロパトキンの選択が間違いとは言えない。ロウリア陸軍は暫く再起不能とされており、再起不能なのだから今補給や対策をとっても問題なかろう。

クロパトキンの完璧主義とこの新興国の新興国かつ世界を知らなさすぎたが故の情報力の欠如がこの失策を産んだのである。

 

1905年9月16日 朝 エジェイ

 

「パンドール将軍! 全ての防衛線を敷き終えました!」

 

「ご苦労だった」

 

ロシア陸軍に完膚なきまで叩きのめされたパンドールは一旦エジェイまで後退して、そこに大規模な防衛戦を築いて、敵を迎撃し、壊滅し、敵が回復するよりも早く進軍し首都を包囲。クワ・トイネを降伏させるというものだった。また、もし敵を壊滅できなければ、塹壕を掘って前進し首都に迫るというプランBも存在している。

軽装歩兵での軽騎兵でも突破できないならばこのようにするのが一番だと判断したのである。

だが、状況は変わった。ロシア陸軍が撤退したのだ。ならばさっさと包囲して仕舞えばいい。

よって一応、欺瞞情報であった場合に備えて、防衛線を築いてから進軍することにした。

 

 

1905年9月16日 昼 エジェイ

 

「皆! よく聞け。憎っくきロシア陸軍は撤退した! この大陸からだ。つまり、今我が軍に敵するものは、クワ・トイネとクイラの二大弱小のみだ! よって我が軍はこれよりクワ・トイネへと向かう。クワ・トイネ公ら貴族の首、ノウら将軍の首を持ってきた者には特別に恩賞を遣わす。一挙に勝負を決めるのだ!」

 

「王国万歳!」

 

パンドールが激励するや否や折から万歳の声が起こる。彼らはその日のうちに大急ぎでクワ・トイネへと向かった。

 

 

 

1905年9月20日 クワ・トイネ

 

パンドール軍はクワ・トイネ軍の予想よりずっと早く首都へ到着。迎撃に出た者を叩き伏せると、即座に包囲を開始した。

 

「海岸方面はフォーク将軍、トラキア将軍、サイファ将軍に。正面は私が。北門はテムゲ将軍、ファルシ将軍に。南門はクチュルク将軍、ベネト将軍に任せる。兵糧監督はバリエル伯爵に任せる。では、各自持ち場につけ!」

 

全軍は散開し、一挙にクワ・トイネを囲んだ。バッタの遺骸に群がる黒蟻の如きパンドール軍はクワ・トイネ軍を大いに恐慌させた。彼らにできることは最早、一刻も早くロシア軍の到着を祈ることだけである。

50万もの大軍にできることがあるだろうか。城外の民間人は全て捕らえられ、殺されてはいないが、精神的効果は大きい。夜通し罵る声が聞こえる。これも城内の士気を下げる原因の一つだ。

兵士が嫌がることを率先してやって来る。パンドールはアデム以上の悪魔だ。クワ・トイネの軍人たちはそう思い、

 

「ロウリア軍対策特別課」

 

というものを作ってそこで、パンドールのいる方向へ魔術師を動員して呪いの呪文を夜通しかけまくっていた。そんな馬鹿げたことを大真面目にしてしまうほどこの国は追い詰められているのである。

 

「ロシアも所詮は他人。今回ばかりはもう来ないだろう」

 

と言った悲観的な意見も蔓延し始めた。

 

 

1905年9月21日 ハノイ

 

この日、クロパトキンからロデニウスへの再上陸が命令された。

フランス東洋艦隊司令長官のド・ジョンギエール少将は、

 

「護衛は信頼と安心の我が東洋艦隊に!」

 

と言って、150ページに渡る長文をロジェントヴェンスキーらに送りつけた。結局、熱意が認められて彼の艦隊が船団護衛に任命され、そればかりか海岸への艦砲射撃まで命じられた。少将の喜びようは、言うまでもないだろう。

 

 

1905年9月28日 クワ・トイネ

 

「将軍! 昨日、クワ・トイネより二人の将軍と2000の兵士が投降してきたようです」

 

「敵は限界と見える。このまま包囲を続けよう。明日ごろに降伏勧告をする」

 

「ははっ!」

 

パンドールは敵城を見つめる。初めから寂れてはいたが今や生気すら感じぬほどに寂れている。刺さっているクワ・トイネの国旗がロウリアの国旗に見えて仕方がない。変えるのは自分自身であろう。彼らを滅し、クイラを呑んだら次はロシアに再度の決戦を挑むことになるだろう。

先の屈辱をお返ししてやらねばならない。ならばここで負けてはいけない。ここで勝てば大敗の罪も帳消しだろう。ロシアとの決戦と聞くと、血が踊り今すぐにでも攻め込みたくなる。だが、そのために焦ってつまらぬ失敗をし、万が一更迭されたり敗北したら元も子もない。復讐のためには緻密な計画が必須だ。ならば、今ここで焦ってはならない。自ら跪くほどに追い詰めてやるまでじわじわと追い詰めてやる。このまま包囲していれば勝てるのだ。

だが、

 

「包囲さえしていれば勝てる」

 

そんな彼の大言も今日までであった。

 

 

1905年9月29日

 

「フォーク将軍! 前方に艦影多数!」

 

「何だと!」

 

フォークは焦った。ロシア海軍ならば、勝ち目はない。ロシア陸軍ならば、撤退しかあり得ない。

わかりやすく勝手に落ち込むフォークをある言葉が助ける。

 

「敵が掲げている旗はロシアのものではありません!」

 

フォークは胸をなでおろした。ロシア以外にこの辺りに来そうな国家で強力な国家はないからだ。ロシアの軍旗でないならクイラかシオス辺りだろうか。どちらにしろ敵ではない。やはり勝利の女神から抱擁を受けるのは我が軍だということは揺るがない。フォークは顔を綻ばせて、椅子に深く腰掛けた。

 

一見誤りでないようだが、彼の考えは誤りであった。だが、報告自体は合っている。輸送船自体が掲げている国旗はロシアのものではない。フランスだ。護衛のフランス東洋艦隊に合わせてそうしているだけだが、このよくわからない選択が海岸の敵軍の警戒心を一気に弱めることとなったのだ。

 

「まず、艦砲射撃で沿岸部は完全に終わらせる!」

 

ジョンギエールの命令とともに三隻の戦闘艦は前に躍り出た。そして、しきりに下品な挑発を行っている陣地の一箇所に砲撃を集中させるように命令した。

 

「奴は何をしている?」

 

80斤もの大槍を振るう猛将トラキアは別れて接近して来る国籍不明船3隻をまじまじと見つめていた。

次の瞬間、彼の視界は真っ赤に輝き、瞬きする暇もなく夜の川のように暗転した。

その後も執拗に飛び来る弾丸に動くものは虫一匹たりとも残らなかった。

 

「第3陣壊滅!」

 

フォークの元に早速報告が入る。だが、彼はその情報にかなり懐疑的だ。自分が無害と判断した奴が攻撃してくるとは思えない。自分の考えが誤りなどあり得ないのだから。

 




実は一部だけ史実のある戦いを参考にしてるんですよね
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