バルチック艦隊召喚   作:伊168

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ムー国の悩み

1905年10月1日 ハノイ

 

この日、ロシア=インドシナ帝国の首都ハノイでは、帝国より遥か西方のグラ・バルカス帝国という国家が五大列強の一つ、帝政レイフォルを滅ぼしたと言うのだ。

ムーからの情報によると、どうやら戦艦一隻で滅ぼしたという。写真を見たが、なるほどかなりの巨大艦だ。我が国の旧式戦艦では太刀打ちできないだろう。だが、パッと見では我が国の建造中の新鋭戦艦と設計思想は似ていそうだ。だが、そんなことはどうでもいい。こんな遠方の国家が態々侵略してくるとは思えないからである。そんなことよりも重要なのは、そのグラ・バルカス帝国の戦艦がもくもくと黒煙を発したということ。つまり、石炭を使っているか質の悪い重油を使っているということではないか。

石炭石油を使うということは、我が国が間接的搾取をしているクイラ王国で取れる上質な石炭や石油をちらつかせれば気前よく金を払ってくれるだろう。ムー以上の商売相手になるかも知れない。

 

「彼の国とは一刻も早く通商をせねばならない」

 

儲け話に目がないポール・ボーは雀躍してグラ・バルカス帝国と条約を結び通商をすることを今後の方針とした。

ムー国にはこのポール・ボーの示した方針がこっそり潜入させていた諜報員から知らされており、もしグラ・バルカス帝国と険悪な仲になればロシアから石炭を得ることが困難になるのではないかという意見が蔓延し、結局グラ・バルカス帝国とは友好関係を結ぶべきだということになった。

また同時に、軍備の増強も計画された。ただ、急拵えであるので、まだ詳しいことは決まっていない。一応ラ・カサミ型2隻という所だけ確定している。なぜ、このようなことをするのかと言うと、ロシア帝国に使節を送った折に戦闘機や爆撃機の設計図などを渡したことが中立義務違反であると、然るべき措置を取る可能性があると、神聖ミリシアル帝国、パーパルディア皇国、エモール王国の三列強など18カ国から非難されていたのである。この程度のことで、これだけ手厳しく批判を受けるのも、機械文明への差別意識の所為だろう。機械文明であるがゆえにここまで発展したが、その機械文明が足枷となってしまったのだ。

ムー国にとって魔法文明の代表たる神聖ミリシアル帝国とは水面下で対立してはいたが、こうも表立って対立することになるとは思いもしないことである。ここまで一挙に態度が硬化すれば、何れ戦争になってもおかしくはない。正直言って、ムー国では勝ち目がない。空軍は風竜にも天の浮舟にも勝てない。海軍はミリシアル帝国に対しては質でも量でも対抗できていない。陸軍は魔獣を使役できていない分かなり遅れている。武装中立を貫ける戦力がないのだ。これに打ち勝つには軍拡しかないが、もっと短期的に力を付けたい。ならば、他国から力を借りれば良いではないか!

そういうことで、ムー国は武装中立を止めることを検討することとなった。

 

10月4日にパーパルディア皇国において、機械文明の研究者400人が異端として逮捕され、三族諸共皆殺しになったという事件が発生した。以前からパーパルディア皇国では魔女狩りならぬ科学者狩りが行われていたが、この事件が他と違うところは、ムー国へと情報が流れたことであった。しかも、これまでに捕らえられた科学者はグラメウス大陸の収容所へ送られるか他所で処刑されているということもわかった。その人数は、わかっただけで、処刑された者5000人、収容所送りは1万8000人に及ぶという。

これにより機械文明と魔法文明の対立が深まることとなった。ムー国の機関紙「ラ・ポリシー」は、

 

『機械文明を採用したことにより我が国は発展した。魔法文明を盲信する現地民族らは劣っている。という論調が広まりつつある」

と報じた。パーパルディア皇国の機関紙「ポリーティカ」は、

 

『異端たる機械文明を崇め、他国を見下すムー国のような遅れた国家は列強から除名するべきである』

と報じ、流石にミリシアル帝国は英国紳士的対応をしたのか、新聞で口汚く煽る事はしなかったが、ムーへの制裁については検討をしていると報じており、エモール王国などのプライドの高い竜人国家は、ムー国からの入国を制限することを決めた。

ここまでムー国を追い詰めようとするのには差別意識以外にも理由がある。それは、ムー国の発展である。ムー国の発展は他のどの国よりも早く、パーパルディア皇国などは航空戦力除いて抜かされてしまっている。ミリシアル帝国を抜くのももうすぐだと言われるほどである。列強最上位のミリシアル帝国にとっては、ムー国に抜かされると面目丸潰れであるし、パーパルディア皇国としてはここで徹底的に叩いて再び上位列強に返り咲きたいし、ミリシアルとムーが戦争になってくれれば、両国は疲弊する。パーパルディアは鉱石の輸出でさらに儲かるだろうし、漁夫の利を得ることもできるだろう。

エモール王国にとっても、混血種のムー人が偉そうにしていることは不愉快で、風竜を追い越さんと航空技術に力を入れているムー国は目障りな存在である。

他の国家 は、列強三国が批判しているのだから、ここで批判しなければ心証が悪くなってしまうからという消極的なものであったが、一国が批判するとまた一国と、批判する国家は次々に増えていった。

 

だが、グラ・バルカス帝国とロシア帝国は違った。

ロシア帝国にとって、ムー国は最大の貿易相手であるし、グラ・バルカス帝国は、折角友好的に接してくれているムーを敵対視するのは紳士協定に反するから批判する気はなかった。紳士さという物の重要性を両国とも分かっているからであろう。

そして、10月18日、ムー、ロシア=インドシナ、グラ・バルカスの三国はレイフォリアにおいて三国通商協定を結び、経済的な面で友好的に交わる事を決め、さらにグラ・バルカス帝国とロシア=インドシナ帝国が主に作成した戦時国際法にムー国の首都オタハイトにおいてこの三国とマギカライヒ共同体、クワ・トイネ公国、クイラ王国が加盟し、オタハイト陸戦条約が結ばれた。

この二つの出来事により三国は機械文明を盲信する愚か者、条約に加盟した三国は機械文明に魂を売った国という風潮が魔法文明諸国家の中で広がった。

 

「機械文明の方が優秀だ!」

 

とグラ・バルカス帝国の知識層は声高々に言うが、先輩であるムーやマギカライヒは戦々恐々としていた。




勝手に対立させてすみません。でもこういったことって長続きしないんですよねえ。国境の近い国同士が仲良くなることなんて滅多にないですし。

余談ですが書籍版を買えたので地図作っていきます。iPadでは上手く作れなさそうですので、大変申し訳ないのですが、もしかしたら手書きになるかも知れません。
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