バルチック艦隊召喚   作:伊168

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佞臣の甘言

1905年10月3日 エジェイ

 

「将軍!将軍!」

 

敵が目の前に布陣しているとは言え、アルデバランによる対地攻撃が敵を怯ませたのか、平穏な日々が続いていた城内に突如として響く部下の叫声はパンドールら首脳部を驚かせるに十分であった。

 

「何があったのだ!?」

 

パンドールが問う。

 

「敵軍凡そ一万が“西方”に布陣しております。そして……」

 

「そして?」

 

「国王陛下は降伏したと叫んでおります……」

 

その兵士が俯いてか細い声で言うと、

 

「まだ前線のものが戦っているというのに敵の小勢を前に恐れ、降伏するなぞ……なんたる腰抜け!」

 

連日空襲に赴いているアルデバランが石造りの壁に思い切り剣を叩きつける。連日の出撃で気が立っているだけではなく、自分はこれだけ祖国のために戦っているのにそれを踏みにじったという怒りから周囲の目も憚らず暴れている。だが止める兵はいない。むしろ同じように暴れ出すばかりだ。

 

「静まれ!」

 

パンドールの一喝で静まり返る。パンドールが兵を善く統率できているかはわからないが、彼の命令には彼らは忠実に従っている。

 

「その情報が正しいかはわからない。欺瞞情報だったらどうするのだ? ここで我らが諦めては本当に滅んでしまう……アルデバラン!」

 

「ははっ!」

 

「お前の部隊には確かムーラとかいう騎士がいたな?」

 

「はい」

 

「では、そのムーラに誰か、飛行に慣れていないジャクを一人、付けてくれ。その二人を王都へ向かわせ、真偽の程を確かめさせてくれ」

 

「御意!」

 

ムーラの付き添い(ただしムーラの方が技量は圧倒的に上である)にはターナケインが抽選で選ばれ、すぐさま二騎はさっと西の空へと飛んで行った。西の方の敵兵は延々と口汚く煽ってくるが、そこはパンドールが、

 

「奴らと兵刃を交えたいならば、陛下より全権を任されているこの私を斬ってから行け!」

 

と一喝したことによりなんとか釣られることなく済んだ。だが、いつまでも持つとは限らない。目を盗む物がいつ出てもおかしくはない。敵はただ熱を吹いているだけなのだが、だからこそカッと来るのだろう。

 

1905年10月4日 ジン・ハーク

 

「卿等、世に何用か?」

 

「はい。小臣、侵攻軍司令官パンドールより書状を預かっております」

 

「見せよ」

 

書状を見たロウリアは失笑すると、

 

「蛮夷め、詰まらぬ嘘をつきおって。その蛮夷どもは、先日我らが討伐したものの生き残りだ。心配するな。だが、パンドールには頑張って貰わねばならん。よってついでにミミネルに一万をつけて向かわせよう」

 

「御意!」

 

逃げるように玉座から離れた二人は、さっさと東の空へ飛び立ってしまった。これを聞いたパンドールは嗤い、

 

「悪い蛮夷共だ。城門前にいる蛮夷たちにはスコーピオンとバリスタで御礼をしてやれ」

 

城からスコールのように降り注ぐ弓矢に、ミシチェンコらは堪らず撤退した。幸い死者は出なかったが40名あまりが負傷することとなった。ロウリア軍はロシア陸軍に二連勝したのである。

 

 

1905年10月5日

 

「クロパトキン将軍、こちらミシチェンコです。どうぞ。……結局パンドールは降りませんでした」

 

「そうか。ならプランCだ。ちゃんと中身はあるから安心し給え。君の部隊に紙はあるか?」

 

「はい、沢山」

 

「ならばそこにあることを書いて欲しいのだ。信憑性を持たせるために8枚に分けてもらう。半分はキリル文字、半分は現地文字だ。そして、その書状を持って、敵に攻撃し、ワザと負けてくれ。その書状をおいて撤退するんだ。では、今から書くことを言う。一回しか言わんからな……」

 

数日かけて書いた文章を読み上げたクロパトキンは、金庫を開けて、中にある貿易で得た金塊を見て笑うと、

 

「これに食いついてくれるかどうかだな」

 

と言って、客として招いていたクワ・トイネの人間を連れて来ると、何故か魔法通信をさせた。

 

1905年10月6日

 

ミシチェンコ旅団は、予定通り王都に攻撃、一度、王宮首席魔導師のヤミレイを呼び出して雑談だけをし、送り返した後に、敵の総攻撃をワザと受け、撤退した。後には財宝や食料など大量の物資が打ち捨てられているのみだった。

2度も敵を撃ち破った王は、大いに喜んだが、一方でヤミレイと敵将の謎の雑談が気になって仕方がなかった。

 

 

1905年10月7日 王の間

 

「陛下、少し宜しいでしょうか」

 

王宮魔導師の一人が恭しく礼をする。彼は有力な魔導師の一人である。そして、彼の懐には数枚の書状が隠されていた。

 

「良いぞ」

 

「ははっ、実はこの王宮内に内通者が居ます」

 

「なんだと!」

 

王の眉がつり上がる。その巨躯をグイッと前に動かすのと同時に。相当興味があるようである。

 

「それは、ヤミレイとパンドールです。パンドールは幾十万もの大軍を連れているにも関わらず、数分の一でしかない蛮夷の軍に連戦連敗しております。勿論、勝敗は兵家の常とは言いますが、それにしては敵の損害が少いのです。今でも、20万という大軍を抱えていながら動こうとしません。ヤミレイはこの前、謎の雑談など怪しい行動が目立ちます」

 

というと王は露骨に不愉快そうな顔をして、

 

「待て待て、それは卿の私情が入っている。余にそのような讒言は通用せんぞ。今回は無かったことにしてやる。下がれ!」

 

「なんでこの大事に私情を挟みましょうや! 全くの事実です! ここに証拠があります!」

 

そう言って哀号するように叫んだ魔導師は懐から8枚の書状を出した。王はそれを引ったくり、じっくりと見た。そして、憤慨した。

 

「彼奴らめ!」

 

「そうです。奴ら口では忠義だの何だの宜っておりますが、所詮は蛮夷に媚び、国を売る下衆。陛下、このような奸臣に振り回されてはなりません! 」

 

「そうだ! すぐにヤミレイを出頭させよ。パンドールめも呼び出せ!」

 

 

昼のうちにヤミレイは玉座の前に連行された。その顔は困惑に満ちている。

 

「陛下、一体どういうことですか!」

 

「黙れ! この奸臣め! 余の目を誤魔化せると思うたか!」

 

そういうと王は書状を見せつけて、

 

「貴様がパンドールと結託してこの玉座を狙っていることくらい余は知っておる。どうだ!?申し開きすることがあるか!」

 

「私は、そんなこと、考えたこともありません! 陛下!そこにいる君側の奸どもに誑かされてはなりません! 其奴らを斬り、再び正しい道を歩んでください!」

 

だが王は嘲笑し、

 

「ここに動かぬ証拠がある。見えんか?」

 

と言うとヤミレイは悟ったようにフッと笑うと、

 

「陛下、その書状をもとに論じるは針の穴から天を覗くようなもの。そして陛下のしようとしていることは、針を以て地を刺すようなもの。そしてそのような愚物が権力を食んでいるような国は偏に滅ぶしかありません」

 

と嘲笑うように言った。王は顔を蝋燭の火のように真っ赤にして、

 

「黙れ! 余をよくもそこまで罵れたな! 貴様は大罪人ゆえ、本来なら死刑だが、今までの功績に免じて、百叩きと奴隷階級への追放のみに留めてやる。おい! はやくその下賎な男を野良犬のようにどこかへ捨ててしまえ!」

 

ヤミレイは幾度も失神するほど殴られ、家族と強制的に縁を切らされ、官職を解かれ、服も引き裂かれた状態で遠い農村部の外れに打ち捨てられた。

このことを聞いたクロパトキンは20万が手に入ると言って、拍手をし、パンドールは、退いても進んでも死だと悟り、

 

「私は祖国を信じ続けた。だが、祖国に裏切られてはどうしようもない。皆、すまない」

 

と言って、王都から送られてきた使者を切り捨てると、ロシア軍に降伏した。エジェイの防衛線は一切働くことはなかったのである。ここにパンドール軍によって強化されたエジェイはロシア軍の手に落ち、グリッペンベルクの第二軍が王都へと進軍した。

 

 

 

 

 




クロパトキンは有能なんです!
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