バルチック艦隊召喚   作:伊168

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王都攻防戦

捕虜20万の管理はリネウィッチ大将が請け負うこととなった。これは、クロパトキンの決めたことではなく、派遣軍が勝手に決めたことで、なぜリネウィッチになったかというと、第1軍は飢えのせいか、首都クワ・トイネの城内に入ると、強引に食料を補給させたばかりか、風紀も酷かったので、クワ・トイネの市民から嫌われ、食料の補給量を大きく減らされていた。そのため、行軍は難しいとされていた。だが、普通なら捕虜の管理の方が食料を食う気もするが、さすがのリネウィッチ。ここは一味違った。捕虜を全て駆り出して、エジェイ周辺の食料を探させたのだ。逃げ出そうとしたものは容赦なく射殺。リネウィッチらしいやり方により、かなり成果を挙げた。逃げ出すものを殺していった上に誤認という形で殺したりもしたので、食い扶持も20万増えるところがそれよりも減っていた。だが、ここで問題が生じた。捕虜たちが、死ぬほどの労役を課すくせに食料は全くくれないリネウィッチを恨むようになったのだ。そして、反乱が計画されるに至った。

だが、あっさり露見し、これを知ったリネウィッチは即座に、

 

「殺せ! 皆殺しにしろ!」

 

と、既に十分に食料も集まり、そろそろ持て余してきた奴らを処分するいい機会だと内心ほくそ笑みながら意気高らかに命令した。

夜に、第1軍は捕虜収容所にワッと襲いかかり、反乱を企てたものもそうでないものも、次々に殺されていった。今や収容所は愚か、草木、軍馬、兵士まで血でグッショリと濡れ、凄惨としか言えない状況である。

だが、ここで異変を聞いて駆けつけたカウリバルスの第三軍によって止められ、なんとか皆殺しだけは避けることができた。だが、この時には捕虜20万のうち12、3万が殺されており、これはさすがに問題であると思ったカウリバルスは慌ててクロパトキンに報告した。

結果的にリネウィッチは参謀長スホリモフと共に帰国ということとなり、第1軍は至急第二軍から呼び寄せたムイロフ中将が臨時で指揮を執ることとなった。

一旦捕虜虐殺は止んだが、政府にとってはここからが大変である。まだ、国際法は草案が出来上がっただけであるのでいいとして、世界各国からの批判は免れないだろう。それをどうやって躱すかが問題である。

予想通り、パーパルディア皇国は、

 

「これほどの捕虜を虐待、虐殺するということは非常に稀だ。ロシア帝国は史上類を見ないほど残虐な国家である」

 

と発表した。同盟国のムーやグラ・バルカス帝国などは、

 

「捕虜の方も反乱を企てていた。これは双方に問題があった。むしろ現場の暴走を止めた政府の行動は賞賛に値する」

 

と発表した。結局、後にミリシアル帝国にある国際司法裁判所までもつれ込むこととなる大事件となった。一応、無罪にはなったが。

第2軍はリネウィッチの起こした虐待事件に関して多く関わることはせず、ただ第3軍を待った。これはジン・ハークにどれほど勢力がいるかわからなかったから、念のために行ったことである。実際は5万程度しかいないので、第2軍だけで十分なのだが。

余談だが、このとき第1軍はマドリドフ支隊を残して戦線に参加させてもらうように申し出たのだが、あっさり拒否されたそうである。捕虜の数は多いので、マドリドフ大佐だけでは扱いきれないというのだ。確かに、支隊の人数は1500人程度であるので、尤もであろう。

 

第2軍は第3軍と合流すると、ジン・ハークへと攻撃を開始した。なぜ、ここまで気付かれなかったかというと、ロウリア王国の宰相とも言えたヤミレイが追放され、ヤミレイ派の多くが左遷されたので、権力に空白が生じており、他の有力な魔導師たちは権力を食むことにしか興味がなく、たとえロシア軍を発見しても報告をしなかったのである。さらに、この魔導師たちは王国の崩壊を望んでいた。

実は、クロパトキンが魔信を打たせた相手は彼らであり、彼らにロシア軍とロウリア軍の圧倒的な差を教え、王国を滅したら金塊と大臣クラスの爵位を与えるということを伝えたのである。

私欲に溺れる彼らにとって王国の存亡なぞはどうでもいいことであった。

だが、全く報告を怠っていたばかりか私欲に溺れる彼らにロウリアは怒り、自ら鞭をうった後に、追放とした。

だが、余りにも遅すぎた。その頃には、すでにロシア軍が準備を終えていたのだから。

 

交戦すれば城内にも被害が及ぶ、だが市民に罪はない。そう思った王は民を戦火から守るため、疎開させた。

 

1905年10月20日までの間に、第2軍、第3軍はジンハーク城へ激しい砲火を浴びせた。城門付近の防衛隊は壊滅し、王宮も危険にさらされ、多くの部下がロウリアに逃亡し、そこで再起するように進言したが王は、

 

「余も卿らと同じく武人である。武人であるからには逃げるなどあり得ない。余はここで武人らしく散る。卿らにそれを求めるわけではない。余と死を共にして良いというものだけついて来るが良い」

 

聞いた将兵らは号泣し、全員が王とともに進軍した。まず、パタジンの軍勢が城門を越えて城外に出た。

一挙に突喊したが、それも全く意味がなく、機関銃や地雷に引っかかって先鋒は完膚無きまで叩きのめされ、ロシア側に余裕ができると、榴散弾による砲撃も行われ、この攻撃でパタジンは断末魔をあげる暇もなく戦死し、3万の軍が四散した。残るは近衛団のみである。だが王は、

 

「怯むな!」

 

と号令し、先頭に立って、指揮を執った。次々に部下が脱落し、敵陣がはっきり見えるころにはその数を400騎まで減らしていた。

だが、ここまで接近しても機関銃は火を噴かない。実は、レンネンカンプ中将の西方支隊が、ぜひ剣撃でと願い出たため、同士討ちを避けるために機関銃を撃たなかったのだ。

レンネンカンプが向かわせた騎兵は500程度。まず一度止まってからの一斉射撃で側面の近衛団を攻撃し、気勢を削いだ。

近衛団が一挙に乱れたのを見た騎兵隊はサーベルを抜いて吶喊しつつ突撃した。

近衛団の精鋭たちが一人二人と血を吹いて倒れ臥す。あっさり、流れ作業のように首が刈り取られていく。

だが、近衛団一の猛将ランドがウォーと声を張り上げて突撃すると、そこにポッカリと穴が空き、近寄ったコサック兵は次々と鮮血に染まった。

 

「俺がやる!」

 

アレキサンドル・エゴーロフ大尉の制止も聞かずに、軍曹の一人が突入する。だが、目蓋を閉じる一瞬の間に、軍曹の首は切り離されることとなった。次々と挑戦するものは出るが、誰も敵わない。

 

「仕方あるまい。俺が行く! お前たちは付いてこい!」

 

エゴーロフ大尉にぞろぞろと部下たちが付き従う。エゴーロフはランドの剣を払うと、飛び掛かり、馬から共に落ちると、馬乗りになって、兜を投げ捨て、喚き散らしながらランドの顔面を殴打し続けた。

ランドは大尉の部下によって捕らえ、猛将が捕まり、勢いの落ちた近衛団はついに完全に崩壊した。

 

「皆、余に続くのだ!」

 

王は暴れる馬を抑えつつ、剣を目一杯に振って声を張り上げるが、どうにもならない。ならばと突撃をしようとした時に、突然馬の額から血が吹き飛び、王の足からも血が噴き出た。蹄が水に鉄球を沈めたかのように土へ沈み込んで行く。ガクッと馬の体が折れ、王は吹き飛ばされた。立ち上がろうとするがどうにもならない。歯を食いしばって、やっと立ち上がったところでコサック兵に取り囲まれ、捕縛された。

ここにロウリア王国の全ての拠点は陥落。王も降伏を受け入れざる負えなくなった。

 

ロシア=インドシナ帝国はロウリアをニコライ二世を皇帝とした帝国とし、ロウリア王家はあくまで諸侯として存続することとなった。だが、ロシア帝国の植民地的扱いである。ただし、国際的批判を避けるために統治はかなり緩くしてある。また諸侯の反乱を防ぐ意味もあり、ロウリアの領土の多くは租借という形になっている。

形はどうであれ、やっとロデニウス大陸に平穏が訪れた。

 

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