全軍集結す
捕虜虐殺事件を受け、参謀長スホリモフは無罪となったが、政府はリネウィッチの更迭を決定した。ここで問題になったのは、第1軍司令官を誰にするかであった。クロパトキンとしては信頼のおけるムイロフ中将に任せたかったのだが、階級が足らず、かといって昇進させるほどの功績も立てていない上に、身内人事だと批判される可能性があった。今内輪もめをしていたら、即刻北にいるハイエナに襲われることは目に見えている。では、誰が適任か。という振り出しに戻った訳だが、ここでひとつ意見が出た。
「今、第1軍隷下で階級が大将であり、かつ評判が悪くない者を第1軍司令官にしたらいいでしょう」
というものである。結局、誰も反論せず、第1軍団司令官メイエンドルフ騎兵大将とリネウィッチを交代させることにした。
また、ロウリア帝国に総督を置くことにした。だが、これも、
「で、誰にするの?」
ということになってしまう。いい加減学習しろと言われそうだが、この世界には存在しない皇帝に統治できるわけがない。故にこれ自体はおかしくない。ただ、人がいないことが不幸なのだ。
結局、適任者がいないということで、一時的にだが、捕虜になっていたパンドール将軍に統治を任せることにした。ただ、彼は捕虜虐殺の件で、ミミネル、アルデバラン、パンドールの三人はクロパトキンの命令によるものではあるが、厚遇されており生きながらえていたので、ロウリアの人間から恨まれていた。だからこそ臨時である。
また、妙なことをしないように、適当な艦艇を置いておこうということになったが、これもなかなか適当な艦が見つからない。
11月の頭、皆が頭を抱える中、海軍航空隊で教官をしているアルデバラン(ワイバーンと飛行機はものが違うが、試しに試作偵察機に乗せてみたところすぐに上手く乗れるようになったため、任命された)が突然現れ、
「小職は訓練で、遠洋まで出たことがあるのですが、満洲の東部海岸から150キロの地点に陸地を発見しました。島ぐらいのようですが、念のために魔撮しておきました。それがこちらです」
それは今関係ないだろう。空気を読め! と言った空気が立ち込める中、
「遼東……」
とクロパトキン(極東総督として出席している)が呟いた。ロジェントヴェンスキーなどは、
「この部分は旅順か!?」
とすら言っている。同時に、先ほどまでの空気が換気された。
「ですから、そこに確か……えっーと……」
この短期間では召喚時のロシア軍の様子など覚えきれていないだろう。と察したロジェントヴェンスキーが、
「確か、黄海海戦で敗れたステパン・オーシポヴィチ・マカロフ提督の第1太平洋艦隊の残存艦艇が残っているはずです。ですが、残存艦艇はあまり多くなく、回すことは厳しいでしょう」
「ステッセリもいるのか……」
クロパトキンが顔を顰める。関わらない方がいいと思った他の出席者は、
「遼東があるなら、ウラジオストクや樺太もあるかもしれない。だからアルデバラン大佐(ロシア=インドシナ側では団長は大佐扱い)には遼東付近及び満洲、インドシナ周辺を偵察していただきたい」
と言って、その日の会議は終了した。
余談だが、この時冗談かはわからないがパンドールも呼び出して色々意見を言わせろと言った者もいた。勿論、馬鹿らしいので却下されたが、同地の専門家と言えるであろうパンドールは呼び寄せても良かったのではないか、と考える者もいる。
翌日、アルデバランら10人(アルデバラン以外はロシア人)は設立されたばかりのFrançais-Russie Aviation(FRA)社最新鋭偵察機FRA-B型に乗り込んだ。この偵察機は敵機に攻撃ができるものを作れという海軍からの要求に応じたものだが、機銃を付けることが上手くいかず、残念ながら機銃はどこにも付いていない。では、武装とは何かというと、操縦席の横にある拳銃2丁のことである。因みに最大速度は時速180km/hだ。
割としっかりした飛行場からさっと5機が飛び立った。
「お? あれじゃないか?」
アルデバランは地図と眼前に広がる光景を交互に見て、そう言うと、もう一人の搭乗員がすかさず撮影した。
他にそれらしい土地はなかったので、このまま全機帰投した。
「これは……まさしく沿海地方だ! ウラジオストックもあるはずだ! 樺太まで近くについて来ているじゃないか! 」
と、その翌日、会議に参加した者たちは喜び勇んで言った。そして、遼東及び沿海地方と樺太とコンタクトを取ることが決定された。
遼東のアナトーリイ・ミハーイロヴィチ・ステッセリ中将やマカロフ中将は天を仰いでこの出会いを喜び、沿海地方のカールル・ペトローヴィチ・イェッセン少将や樺太のミハイル・リャプノフ中将などはロシア=インドシナ帝国を快く受け入れ、とりあえず上手くいった。
とりあえず艦艇が増えたので、ロウリアの沿岸部の防備は「201号」水雷艇に、通報艦には補助巡洋艦「レーナ」に任せることにした。
また、マカロフは海軍参謀総長に、イェッセンはそのまま留め置かれた。旅順要塞は一応ステッセリのままにしておいていいという意見もあったが、クロパトキンは、
「既にコンスタンティン・スミルノフ中将に司令官を交代するように言ってあるのだからそれはおかしい」
と言って、ステッセリを更迭し、軍事(陸軍)大臣に任命。自身は軍事大臣から退き、陸軍参謀総長に就任した。
急速に増強されて行くロシア軍に勝手にロシアを仮想敵国としているパーパルディア皇国は多少なりとも危機感を覚えつつ、アルタラス王国への侵攻計画を練っていた。
タイトルを変えようかと思っています。でも、あくまで私の頭に中でいい案が出てからです。
又、ロシア軍の歴史にミスがあったので、変更します。