12月12日
この日、皇国海軍司令部から独立した存在であった独立特殊艦団が司令部直属の第1装甲フリゲイト隊として編入された。これは全12隻の装甲フリゲートで構成されており、そのうち6隻は36の砲を持ち対魔弾鉄鋼式装甲を60ミリほど備えた艦である。ただし、水線下は木造であり衝角攻撃に弱い。門数が少ないので接近して来る敵艦を撃破することは難しいなど多少なりとも問題を抱えていた。それを克服するために後の6隻はフリゲートとしては最大の50門もの大砲を持っているが結局衝角攻撃を試みる敵艦を撃沈するには不安があった。。だが、決定的に違う点が一つある。それは、魔導機関を採用したことである。マギカライヒの機帆戦列艦に使われているものよりは質が悪いが高い推進力のお陰でのらりくらりと躱すことができる(少なくとも速力は15ノットを超える)。
これに味をしめた皇国軍はついに戦列艦にこれを使用することを決めた。マギカライヒの機帆船列艦は74門程度のものであるのでこれを撃破することが目標である。だがこれだけでは足りない。レイフォルの装甲戦列艦を撃破する必要があるのだ。そのためマギカライヒ共同体から盗んだ設計図諸々からより良い魔導機関を作成するのだがこれに時間がかかった。だが無事開発は成功し、100門級装甲戦列艦が4隻就役した。またレイフォルにも勝てるように威力不足が指摘されていた舷側砲だけでなく甲板上に神聖ミリシアル帝国からこっそり盗んだ75ミリ単装砲(初期の装甲艦時代の性能のもの)を備え付けておりレイフォルの艦艇を造作無く粉砕できる。
これで勢い付いた兵研は120門級の装甲戦列艦を起工し、見事竣工させた。
装甲厚は100門級の鋼鉄とチークの複合装甲119ミリから硬化鋼と鋼鉄の複合装甲160ミリまで向上。水線下には衝角に備えて50ミリの硬化鋼を使った複合装甲があり、衝角も強化されている。実質装甲厚は100門級装甲戦列艦の倍に近い。艦載砲も120ミリ(ただし前装で砲も短く命中率は1%を余裕で切っている。その上故障しやすい)を4門、しかも神聖ミリシアル帝国から盗んだ対空魔光砲を8基備え付けており、これほどの武装を積むために竜母「ヴェロニア」と同じぐらいの全長で、一部からは「海上要塞」と呼ばれている。ただし重武装のせいで速力は最大で8ノットである。実戦になれば6を切るとすら言われている。また値が張るので一隻しかない。ただし強いため司令部直轄第1戦列艦隊の旗艦である。前の4隻もここに配属されている。
つまり第1戦列艦隊は100門以上の戦列艦32隻により構成されているがそのうち5隻がチート艦なのである。
(ロシアにはかわいそうだが……)
バルスは南の海を見つめながらふと思う。これは慈悲とかなんとかいっているがその実、この装甲機帆戦列艦の実力テストでしかない。第1、慈悲ならばシウス艦隊のみで十分だ。
「目標の旅順までは800キロはある……間にあってくれるか?」
バルスは自らの乗艦、120門級装甲機帆戦列艦「グローリア・ヴィクトーリア」に語りかける。彼女のせいで艦隊は4ノットで航行せねばならない。石炭を使えば7ノットは出るだろうが、それすると長旅であるので、途中で尽きたら大変である。よって帆走のみになっている。だから遅いのだ。
バルスはしゃがんで後部甲板の一箇所を優しく撫でると一旦船内へ入った。12月の寒さは尋常ではないからである。
1906年12月18日
12日からこの日までの6日間で派遣した潜水艦隊は皇国の商船の後にふっと現れてふっと消えるということをしていた。そのため皇国の人間は、
「幽霊船がいる! 呪われた海域だ!」
と言ってその場所を避けていく。すると海上輸送が一時的に小さな打撃を受けるのだ。これには皇国政府も困った。幽霊に戦争を仕掛けることは不可能だからである。
またこの日、第二太平洋艦隊と第三太平洋艦隊が出港した。第二太平洋艦隊のボロジノ級戦艦はボイラーの性能をより良くした(というよりもグ帝から買っただけ)蒸気タービンにより速力は25ノット。主砲は連装34センチ砲である。
余談だがグ帝から購入したボイラーはグ帝では旧式品である。
対水雷艇用の副砲には12センチ単走砲を6門、対航空機用の副砲は10センチ連装高角砲を2基、7.62ミリ機銃を10基、3.7ミリ単装機砲を20基搭載している。中間砲や陸上砲は取り外された。
オスリャービナは艦砲に関しては初速と俯角を高めた連装30.6センチ砲を4基、副砲は単装75ミリを20基、47ミリと37ミリを20基と8基、7.62ミリ機銃を10基搭載し、陸上砲と中間砲は当然のごとく取り外された。蒸気タービンはボロジノより性能のいいものを大金を叩いて購入しギリギリ26ノットを超えている高速戦艦である。装甲はオマケ程度に強化された。
ナヴァリンとシソイ・ヴェーキリーは前者は機関を向上しても20ノット程度であったため、後者は海防戦艦であるため、強化はされているが軍港に置き去りである。
巡洋艦も強化され、アドミラル・ナヒーモフ、ドミトリー・ドンスコイ、ウラジミール・モノマフは機関と主砲を俯角と初速を高めたものに変え、速力は30ノット近く、対空兵装も付けられている。
その他は主砲を購入した両用砲に変更し、防空巡洋艦とした。駆逐艦は75ミリ(一基しかない)のみそのままにして他は全て対空用に改良した。機関も向上し全てが30ノットを超えている。
足の遅い病院船や工作船「カムチャッカ」は港に停泊したままである。仮装巡洋艦の類も随伴はしていない。
これらの艦船は見事な輪形陣を組んでデュロ向かっている。
第三太平洋艦隊は海防戦艦が無く、修理がてら機関のみ強化された「インペラートル・ニコライ一世」と旗艦の新造された巡洋艦、駆逐艦、航洋砲艦と改造空母「オルガ」「ヤロスラフ・ウラジミーノヴィチ」(共に速力31ノット、装甲は70ミリほど、艦載機は27機、武装は連装10センチ砲4基、7.62ミリ機銃20基)の19隻でエストシラントへ向かっている。
1906年12月21日
21日の夜明けだ。この日をどれほど待ちわびたか。既に搭乗員らは腕まくりをするふりをして張り切っている。既に第1次攻撃隊は発艦準備を終えようとしている。薄明が堂々たる複葉機を優しく包んでいる。複葉機という複葉機がスポットライトを浴びているかのようだ。
航空母艦隊司令官はバヤーン艦長だったロベルト・ウィーレン少将である。彼は腕を組んで鼻を鳴らしている。搭乗員たちは武者震いをしている。
「さぁてそろそろかな」
ウィーレンが言った時、部下の一人が駆け込んできた。この冬にこれほどの汗を掻いているということは重大なことであろう。ウィーレンは唾を飲んで堂々と構えた。
「提督!ロジェントヴェンスキー提督より命令です。『未ダ発艦スル可ズ』」
「何故だ!? これまでの拙速を捨てるおつもりか!?」
「それが、神聖ミリシアル帝国の艦隊と遭遇し、現在話し合い中のようです。ですから刺激しないようにと……」
「ならば仕方あるまい……」
ウィーレンはそう言いつつも恨めしそうに夜の海の彼方を見た。闇に溶け混んでいるのか、よく見えないミリシアルの船を目で罵ったのだ。
その頃、ロジェントヴェンスキー提督と南方地方艦隊司令長官(もともと隊であったが増強の折に艦隊とされた)のパテスは、
⚪︎互いの作戦を妨害しないこと
⚪︎互いの作戦について一切他言しないこと
という条件のもと、互いにやり過ごすことを決めた。二人は手をがっしりと握って、部下になんともないようにアピールをし、さっさと別れた。ロジェントヴェンスキーは、
「しばらくは警戒しておくこと、ただし発艦は開始せよ」
と命令。多少疑っているとはいえ、しっかりと約束を遵守している。だが、パテスは、
「おい、デュロに魔信を繋げ」
「しかし、約束が……」
律儀な部下が進言する。もし、バレたら一大事である。彼の心配は正しい。
「猿に魔信を傍受できるものか。大体あんな口約束どうだっていい。デュロ防衛司令部に打電、『ロシア帝国ノ空母機動部隊ガ発艦準備中。注意サレタシ』」
「……かしこまりました。『ロシア帝国ノ空母機動部隊ガ発汗準備中。注意サレタシ』」
その部下は(どうなっても知らねえぞ)と思いながら通信をした。まだロシア軍は近くにいる。こっちも攻撃対象になったら勝てるだろうが相応の被害を負うはずである。
バヤン艦長は変更しておきます。