バルチック艦隊召喚   作:伊168

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開戦

1906年12月21日 デュロ

 

「閣下、ミリシアル艦隊より魔信です『ロシア帝国ノ空母機動部隊ガ発艦準備中。注意サレタシ』」

 

「何? なんだと!」

 

神聖ミリシアル帝国からの通信文を聞いて基地司令官のストリームは瞼を押し上げて驚く。今の今までロシア艦隊が向かっていることなど全く知らなかったためである。

何という僥倖かとストリームは天を仰ぐ。もし、ミリシアルの艦隊が少しでも遅れていたり早かったりしたら士官兵から軍属に至るまで命を落としていただろう。たとえ蛮族であっても予期せぬ攻撃は恐ろしい。

 

「丁度いいではないか……」

 

ストリームは微かに笑った。実は、昨日の夜から海上での夜戦訓練を行っており、艦隊の出航準備はまだ整っているのである。今、乾坤一擲の猛襲撃をかければ敵は慌て、背嚢を見せて壊走するしかないだろう。これも正に僥倖と言えないだろうか。艦隊の移動はお天道様のご機嫌にもよるところが多いのだから。

 

「全戦列艦、フリゲート、スループ、飛竜母艦を出港させよ! 指揮は私がとる。だが、その前に夜間警備中のワイバーンロード6騎を第一波として敵にぶつけよ。蛮族に目にもの見せてやるのだ」

 

「かしこまりました」

 

かくして戦列艦22隻、フリゲート16隻、スループ10隻、竜母4隻の留守部隊がデュロを出港、同時にワイバーンロード6騎が西回りをしてロシア艦隊に向かっていった。

 

 

同 第1外務局

 

「朝っぱらから皇族たる私を呼びつけるとは……蛮族は教養もなければ配慮もできんのか。まあいい。お前たちが切迫詰まっていることは承知しておる」

 

いつも通りの声でいつも通りの文句をレミールが言ってくる。人を殺した罪悪感からげっそりとしている中尉ら3人は政府からの指令により宣戦布告をするように言われていた。

そんなもの自分たちにさせるなと言いたいのだが、自分たちはどこまで因業なのか、本国とパーパルディアでは繋がらないらしい。ついこの前、最後通牒として、漁民の拉致及び監禁、殺害に関与したものの引き渡し、賠償金、アルタラス王国以南はロシア帝国の漁業権を認めることなどを突きつけたが拒絶された。ならば外交団引き上げをするべきであろうに。

だが、こうなったものは仕方ない。

 

「はい。国家の存亡がかかっていること故……申し訳ありません」

 

レミールの表情が和らぐ。中尉の文句からロシア帝国は服従するものと確信したのだ。既に彼女の目は中尉らを見ていない。聞こうともしていない。降伏と分かりきっているからそんなものはどうでもいいのだ。

 

「……貴国の残虐行為は国際法に著しく違反しており、我が国は貴国の残虐行為を見逃すことはできません。よって宣戦を布告します」

 

「そうかそうか。では、一か月以内に忠誠心を示すために貢物を持って来ること」

 

やっぱり降伏した……レミールはすぐに彼らに対して興味も怒りも失ってさっさと立ち去ろうとした。

 

「朝貢など致しませんよ。我が国は貴国に宣戦布告をしたのですから」

 

戦線布告という一語に驚いたレミールはドアに頭をぶつけて、

 

「なんだと! 貴様らは正真正銘の馬鹿か!?」

 

「その言葉、貴方々にお似合いですよ。では、これで」

 

中尉らはそう言って大人に八つ当たりする子どものように怒れるレミールに宣戦布告文を手渡して退出した。中尉のみはカイオス邸に迂回しながらも向かっている。

 

 

同 デュロ沖

 

「閣下!閣下!大変です!」

 

「どうしたどうした」

 

慌てて駆け込んで来る部下にロジェントヴェンスキーはやや迷惑そうに反応する。今、第一次攻撃隊の多くが発艦しているところであり、いいところであったからである。

 

「一大事です! 前方の駆逐艦「ブイヌイ」がこちらへ向かって来る敵ワイバーンを発見したのです!」

 

「なんだと!?」

 

長官は声を荒げ衝動的に持っていた双眼鏡を放り投げる。ポチャンと音を立てて双眼鏡は海中に沈んだ。すぐさまコロング大佐が足元の袋から代わりの双眼鏡を手渡すが、それも投げ捨てた。それほど、長官の怒りは止まらなかったのである。

 

「パテスめ……」

 

彼は、ロシア人などの地球人類が魔力を持っていないことをロデニウスに行った軍人から聞いていたので、艦隊が捕捉されないことはわかっており、また偵察のワイバーンも見ていないことからパテスが約束を破ったと考えたのである。

だが、それだけではパテスが教えたとは断定できないし、そもそも約束は口約束であったから、そんなもの知らないと言われればそれまでである。

長官はただ双眼鏡を握りしめるしかなかった。

 

「果たして間に合ってくれるだろうか……ああ、こうしては居れん、全艦艇は対空戦闘の用意を始めよ!」

 

各艦は発光信号により対空戦闘の準備を伝え合い、ワイバーン部隊に備えた。

準備を終えて間もなく、ワイバーンが襲いかかって来る。探照灯を上に向け、グラ・バルカスのそれに比べては拙い対空設備で必死に迎撃する。数少ない敵機も厚い弾幕に次々と脱落していき、空母に到達する前に全滅した。

 

「なんとかなったか……」

 

ロジェントヴェンスキー司令長官とコロング参謀長、ウィーレン司令官は肩の力を緩めて北の空を睨みつけた。

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