ワイバーン隊の全滅はデュロ留守艦隊に即座に伝えられた。
「司令官殿、先に送ったワイバーンロード6騎が全滅した模様です!」
その報告が耳に入った途端、ストリームの全身が巌のように固まる。栄えある皇国のワイバーンロードが文明圏外国に撃墜されることすらほぼ無いにも関わらず、6騎も撃墜されたからである。しかも直掩機を出していないであろう艦隊にである。
ストリームは考えた。ロシア帝国の同盟国ムーはロシア帝国に多くの軍事技術を与えている。つまり、ムーで開発が終わったという対空砲が実装されているのではないか。ストリームは詳しく知りたいと思い、生存率を高めるためにワイバーンの集中運用を考え、
「『ヴェロニア』除く三隻の竜母に全騎発艦を命じよ。陸軍にも支援を要請しろ」
陸軍に援軍を請うという屈辱的かつありえない命令に参謀長が、
「陸軍ごときに請うぐらいなら『ヴェロニア』から最新鋭騎を出した方がよろしいのでは?」
「アレは皇国の『グローリア・ヴィクトーリア』に劣らん最新鋭艦だ。それを出せば皇国の戦力が下賤な自称転移人どもに露見してしまうだろう。絶対ダメだ。あくまで兵卒に安心感を与えるために出した迄だ。もし日中の戦闘ならば出しておらん」
たしかに彼の言わんとすることは分からなくもない。仕方あるまいと思った各員は命令に忠実に従う。優に30騎を超えるワイバーンロードが西廻りに飛び立った。
同 デュロ上空
「全機ついて来てるか……戦闘機隊は苦労しているだろうな……」
ロウリア帝国軍中佐のアルデバランは軽空母「ガングート」の総隊長兼爆撃隊隊長を務めている。「ガングート」より発艦した戦闘機の最高時速は時速300キロを超えている(ただしムーの戦闘機には遠く及ばない)が、爆撃機はギリギリ時速200キロ台であるので、速度を合わせるのがやや難しい。
ミハイル・アサンバロフ大尉率いる戦闘機隊が敵迎撃騎を歯牙にも掛けず粉砕する。同時にアルデバラン率いる爆撃隊はワイバーン小屋に突撃し、30キロ爆弾を次々に落としていく。小屋はワイバーン達の悲鳴が聞こえそうな程に燃え盛っている。雨あられのように砕けた木材やワイバーンが地上に降り注ぐ。
戦闘機隊も次々に爆弾を投下したり機銃掃射を敢行し、地上を動くものを見境なく粉砕していく。
全機が爆弾を投下し終えたところでついに帰投した。
尚、この時パーパルディアの対空魔光砲に戦闘機が一機被弾し中破、爆撃機が一機撃墜されている。
同 デュロ沖
デュロ沖の機動艦隊では、第2波を出すかで議論が白熱していた。賛成派は作戦の完遂のために必要だと主張しているが、反対派はもし準備中にワイバーンに来られたら空母が大損害を負う可能性があると主張しており、後者の主張が可能性論に基づくものであるためか、ワイバーンが来るという証拠を出せと賛成派が言った時だった。
「『スヴェトラーナ』より入電! 『敵ワイバーン発見』」
と言って士官兵が飛び混んで来たのだ。賛成派は顔を蒼白にして互いに見合わせあった。もし、発艦準備をしていればどれかに被害が出たかも知れないからだ。
だが、議論に勝ったはずの反対派も喜んでいられない。状況的には負けた方が嬉しかったからである。
パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊は基地ワイバーン部隊の壊滅など露知らず、背後など一切気にせずに先頭の防護巡洋艦「スヴェトラーナ」に6騎が突撃した。15もの副砲による弾幕も諸共せず、一挙に六発の火炎弾を放った。だが韋駄天に生まれ変わった「スヴェトラーナ」の回避のせいで命中弾は得ることが出来なかった。
「敵ワイバーン10騎我が艦に向かってきます!」
旗艦「クニャージ・スヴォーロフ」の艦上が騒がしくなる。多数の機銃や副砲で撃墜を試みるもロード種速く3騎撃墜したところで火炎弾を放たれた。
巨体を廻して必死に避けようとするも二発が命中した。木造部分を極力減らしたためにロデニウス沖のようにはならなかったが火災はやはり恐ろしい。
「空母は助かってくれるか……」
ロジェントヴェンスキーとコロングは南に向かうワイバーンを見て唇を震わせて言う。ここまで侵入されては今や祈るしかないのだ。ワイバーンが急降下するのがくっきりと見える。
嗚呼お仕舞いかと思った矢先、俄かに前方に航空機が見えた。航空機が見えたのだ。それはまさに帰投中の航空機である。彼らは300キロもの俊足でワイバーンに追いつかんとしている。
「対空砲火を止めよ! 味方を殺すな!」
各艦の艦長はそのように命令し、航空機たちに望みを託した。戦闘機隊などはあっという間にワイバーンロードに食らいついていく。本来ならできない筈であるが、敵軍はいきなり夜間に呼び出され準備もできていないため乗る方も乗られる方も士気も練度も体調も最低レベルである。これでは意気高く天を衝かんとしている第二太平洋艦隊航空隊の者たちから逃れられる筈がない。
遂に敵軍は空母に縋り付く前に一騎残らず鮫の餌に変えられた。
「第2波全滅!」
の報せを聞いたストリームは慌てて艦隊を軍港まで撤退させたが、電光石火の如き駆逐艦らに次々と撃沈されたばかりかロシア海軍航空隊の第2波攻撃を受けて「ヴェロニア」とスループ2隻除いて全ての艦艇が暗闇へと飲み込まれていた。ストリームはなんとか救助されたが、留守艦隊は壊滅し地上部隊合わせて5000を超える死者を出したのである。ロシア海軍の大勝利であった。
この後第三太平洋艦隊からも奇襲成功の電報が飛んだ。エストシラントは警備が薄くワイバーンを間諜による報告より、なぜか100騎以上多く地上で葬り停泊していた第2艦隊も壊滅に追い込んだ。こちらも大勝利である。居るとされていた第三艦隊機動部隊は発見されなかったが。
だが両艦隊が奇襲するより前に皇国軍が旅順にワイバーンを放っていることを両提督はまだ知らない。
爆撃機は九四式艦上爆撃機みたいなもの
戦闘機はI-15の劣化版みたいな感じです。I-15は艦上戦闘機じゃないんですけどね。ですから武装はともかく速度は30くらい落ちてる設定です。