だってそれ以外は召喚されてないなんて言ってないもんね()
1905年5月19日正午 ロウリア王国海岸
ワイバーンらしきものを撃退した後、数千ほどの兵士が海岸へと殺到した。彼らはすぐさま投石機だの火矢だので鋼鉄の軍艦へと無駄な反撃を行ったものの、船員達の殺気を増幅させる以外に何ら効果はない。
「正当防衛を行う。砲撃開始!」
敵軍が乗り込みを企て、接近したときである。その絶妙なタイミングを計算して、ロジェントヴェンスキー中将は砲撃命令を下した。
耳が壊れそうになるほどの砲声が止むと、目の前が真っ黒に染まる。邪魔くさい黒煙が晴れたその先には、無惨にも五体を引き裂かれた現地兵の亡骸が何もない海岸を真っ赤に染めていた。その流血の多さは、海岸前の浅瀬までも真っ赤に染まるほどであった。
「まるで虐殺……」
中将は惨たらしい海岸を見て、目を瞑りながら呟く。
この時、ロウリア王国の常設海岸守備隊が全滅近い被害を受け、実質的にその海域の制海権のみならず、海岸の支配力すらも彼らの手に落ちていたことなど知る由もない。
「あのー長官殿? 少し宜しいですか?」
主計参謀が駆け寄る。ただごとではないのだろうと感じ取った中将は、即座に耳を傾けた。
「どうやら、夜間の砲撃、先程の砲撃により、一部の艦について、弾薬不足が生じております。しかも夜の砲撃では同士討ちが発生し、戦艦『ボロジノ』などはかなりの損害を負っております。死者は居ませんでしたが、負傷者の数は『オリョール』、『コストローマ』が一杯に成る程です」
「長官殿、そんなこと気にする必要はありません。宗谷を通れば無傷でウラジオストクに向かえる筈です。実際、蔚山沖で発見され、壊滅したウラジオストクの巡洋艦三隻は、難なく宗谷を通っています。このまま向かいましょう」
参謀長のコロング大佐がそう主張する。だが、ロジェントヴェンスキー中将は、
「それは違う。あの時は、日本側の警戒も比較的薄く、濃霧であり、向かった艦隊もたったの三隻であった。だが、今は東京湾に我が帝国の艦隊が出現したことにより、警戒も強まっているだろう。仮装巡洋艦などなら通れないこともないが、戦艦や防護巡洋艦を含むばかりか38隻もの大艦隊だ。発見されない訳がないし、最悪機雷にひっかかるかもしれん。
また、これだけの数ならば補給も難しい。
それだけでなく、日本近海は天候が酷く、波も荒れることが多い。歴史に習っても、下手に近づけば壊滅は必至だ。手負いの艦隊なら尚更だろう。
よって、すぐにでもカムラン湾かバンフォン湾あたりに寄港すべきだろう」
と即座に否定した。コロング大佐はロジェントヴェンスキー中将は慎重すぎると心の奥で愚痴ったが、彼の主張は尤もであり、反論はできなかった。
「ただし、未だ見つからぬ駆逐艦『ブイヌイ』捜索に被害が少なく、弾薬も比較的残っている第三太平洋艦隊を残す。また、仮装巡洋艦『テレーク』『クバーニ』は宗谷海峡を通ってウラジオストクを目指すこと。残りの艦艇は全てインドシナのバンフォン湾に寄港する」
この中将の命令のもとに各艦は各々の取るべき行動を行った。第三太平洋艦隊----通称お荷物艦隊はこの謎の大陸を一周することにし、仮装巡洋艦二隻はなるべく日本の哨戒を抜けるようにして航海した。
1905年5月24日 バンフォン湾
何故か兎に角ウラジオストクを目指すのだと言っていた第二太平洋艦隊が寄港してきたのを見て、インドシナ総督府のものたちは日本軍に何か変化があったのだろうと思い、慌てふためいた。
だが、慌てるのもそう長くは続かなかった。彼らとしては中立国であるので余程でないと攻撃されないし、そんなことよりも今、このインドシナの地に起きている問題の方に関心を向けていた。
マレー半島が見当たらないだけでなく、支那方面も見当たらない。まるでインドシナ半島がインドシナ島になったかのような変化に彼らは混乱するばかりであり、時折来る訳のわからない生物にはもう折角のエスカルゴを吐き出してしまうぐらいに驚いた。そして今や、土民からの搾取……もとい軍政ではなくこのインドシナに何が起こったのかの議論に忙殺されることとなっていた。
その議論もいい加減で、「異世界に飛ばされた」だの「インドシナが物理的に独立した」だの「某変態紳士の国の変態的装置のせいで(何もかもが)狂っている」だの真面目な意見はひとつも出なかった。
結局、一番ありそうで無いからという理由で「異世界」説が採用された。
この翌日、本国フランスと通信ができなくなったと判明し、異世界派は自らの正しさを証明してくれたと言って小躍りした後に、
「あれ、それってもう帰れなくね?」
と気付き始めて大いに発狂している。なお、これは過去形ではない。
ロシアの物たちも何かよくわからなくなったので中将の注意も聞かず、取り敢えず略奪する始末だった。
1905年5月27日夜
宗谷海峡方面に囮として向かった仮装巡洋艦二隻はそろそろ第二艦隊が出港する頃だと確認すると、コンドハわざと見つかりやすいように航海を始めた。
その時、1400メートル先に22隻の戦列艦らしき艦影を発見した。明らかに日本の物ではないと確信した。
「待て、長官は日本軍以外には攻撃するなと仰られた。やり過ごそう」
と両艦の艦長は命令したが、気が立っている彼らはそんなことを無視して、軍旗を掲げて
「停船セヨ」
と戦列艦達に向けて打電した。これは一種のイタズラであった。今使っている電信なんぞは敵に電信にあれば傍受されて当然だが、無論、本来の戦列艦ならこんなものは無意味である。だからこそこんなイタズラを行ったのだ。
しかし、彼らはそれが地球のどの国の艦艇でもないことに気がついていなかった。
「ポクトアール長官!前方1300メートルの国籍不明艦より入電! 『停船セヨ』以上です」
「蛮族め、我が東洋艦隊の邪魔をするばかりか停船までも要求するとは……許せん! 躾てやれ!」
両艦隊の距離が1000メートルになった時、戦列艦22隻から砲弾が次々に発射された。幾ら現代艦であっても装甲のない仮装巡洋艦では戦列艦の砲弾でもダメージになる。
「打ち返すな! 引き返せ!」
艦長らの命令に水兵らも嫌々従ったが、タイミングが酷かった。回頭中に敵砲弾の幾らかが殺到したため、「テレーク」には四発、「クバーニ」には六発命中し、「クバーニ」は当たりどころの問題か、被害の割に、火災が起こった。
両艦が大急ぎで引き返したこともあり、これ以上被弾することはなかったが合計で14名が負傷することとなった。
「蛮族め、偉そうなことを言うからだ」
ポクトアールは満足げに算を乱して逃げる敵を嘲笑った。
さあ!攻撃してきたのはどこの国の艦艇でしょうかね(棒)