バルチック艦隊召喚   作:伊168

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奇襲旅順口

1640年 12月21日

 

司令長官バルスは後部甲板で、目を瞑ったまま腕を組んでいる。決して眠たい訳ではない。目を開けることが苦痛なのだ。なぜなら、先鋒のシウス艦隊の数が明らかに減っているからである。

それは3日前のことであった。装甲戦列艦「インペラトル・ルディアス・アウグストゥス」の乗組員が、

 

「幽霊船を見た!」

 

と言ったのである。勿論、司令長官バルスは愚か司令官にも艦長にも相手にされなかった。

その後、なんでもないと言わんばかりに今までの船速で進んでいたのだが、20日の昼のことである。突然縦陣の戦闘を行っていた100門級戦列艦「インペラトル・トラヤヌス・アウグストゥス」が謎の爆沈を起こしたのだ。それからというもの次々と軍艦が爆沈しそこを過ぎた時には50隻以上が沈没していたのである。

自分たちは呪われているのかという不安が乗組員を襲った。それは艦長や司令官、そして司令長官も例外ではない。

だが、もう賽は投げられたのだからここで恐れて引くわけにはいかない。

 

「皇国が諸君らに期待するのはただ勝利か完勝のみである」

 

バルスの訓示は信号旗により伝えられた。沈んでいた士気は多少上がり、バルスは再び勝利を確信したのであった。

 

「ワイバーンを発艦させよ」

 

飛竜母艦隊司令官のバーンはいち早く命令する。彼は第三艦隊の飛竜母艦隊司令官であったが、バルスからの要請により侵攻艦隊に混じっていたのだ。

彼には気に食わないことが一つある。隣の飛竜母艦隊司令官のアルモスが全く発艦を行わないのだ。

聞くところによると、お気に入りの竜騎士にやれ「皇軍は強い」だの、やれ「『ミール』は美しい」だの、やれ「バーン君には竜母戦の何たるかをしっかりレクチャーしてやらねばならん」だの無駄話をしているらしい。全く怪しからんことである。

 

「おい、新たに信号旗を掲げよ。『アルモス! さっさとしろ!』だ!」

 

アルモスの愚行に耐えきれなくなったバーンはついに信号旗で叱ることを決めた。

部下はアルモスが怒ることを恐れて、もっとオブラートに包むべきではと具申したが、

 

「あのバカにはキツく言っておかねば意味がない。それに、奴が怒ったところでどうだっていい。今は発艦させることだけを考えよ」

 

と拒否し続けたため、そのまま掲げられることとなった。これを見たアルモスは、

 

「この私に偉そうな口を……」

 

と延々と怒鳴り散らしたもののなんとか発艦は行われた。優に400を超えるワイバーンが旅順へと向かったのだ。

これでロシア軍は慌てふためいてそのまま焼き尽くされるか港外に出て皇軍の戦列艦に頭を抑えられ一方的に撃沈されるだろう。パーパルディア海軍の指揮官達はそう思い込んでいた。

だが蓋を開けてみれば、ワイバーンが到着する頃には高射砲などの用意も完了。其ればかりか多数の航空機が発進していた。彼らの予想が的中したのはただロシア海軍の艦隊が出港していることだけであった。

これには理由がある。皇軍の乗組員が発見した幽霊船とはマカロフの命令で沿海地方西海岸の警備をしていた潜水艦「カサトカ」であった。

「カサトカ」はすぐに無電でこれを旅順艦隊に伝えたのだ。

これを受けたロシア海軍は機雷敷設艦「アムール」を派遣。沿海地方西海岸と旅順口の中間部(旅順口からおよそ80キロ)に機雷を敷設した。謎の爆沈とはこの機雷に引っかかったことである。

竜母の存在は知っていたので、高射砲や航空機の準備もできている。特にロマン・コンドラチェンコ少将が、

 

「ぜひ、陸軍機を使ってくれ」

 

と懇願したので数少ないFRAアリオールの陸上機版。国内に20機しかないFRAクレムリを出している。これは最高時速350キロを誇り、ムーのマリンとも大勢で掛かればやりあえると言われる国内最強の戦闘機である。

艦隊が港外へと向かったのは、

 

「日本軍の時のように反転して誘き寄せても竜母まではついてこないだろう」

 

と航空戦術について出来るだけ学習しているマカロフ提督が言ったので、

まず無力な戦列艦を掻い潜る。

そして、弱い装甲艦を掻い潜って竜母隊と艦隊を切り離すという作戦のもと出港した。ここまで竜母を狙うのは、陸海軍どちらも航空兵力による劣勢を覆すことが目標である。だからワイバーンの個体数を減らす目的で狙うのである。

それに今の風向きならば竜母の方に行けば、装甲フリゲートに対して風上に立てる面でも優勢。さらに全時代的な敵艦隊の多くは砲弾の装填、命中率、威力全てが低く突入してもほぼ問題ない。

だが後付け知識でしか知り得ないことであるとはいえこの作戦には欠陥があった。情報力の欠如などから75ミリ砲や120ミリ砲の存在が伝わっていなかったのである。

 

戦いの火蓋を切ったのはワイバーンロード隊による火炎弾攻撃であった。これは、回避されたものの戦闘行為と見なされ3機のFRAアリオールがワイバーンロードに機銃を浴びせた。

泡にように脆いワイバーンロードは雲散霧消する。冬でもあるので、鈍いワイバーン隊はあっさり機銃の餌食になっていった。

だが、ロシア海軍航空隊も無双できたわけではない。レクマイアなど鍛え上げられた騎士には撃ち落とされることがあった。

だがロシア航空隊の優勢は保たれた。なぜならアルモスのワイバーン部隊の到着が大幅に遅れたために兵力の逐次投入になってしまったからである。対してロシア軍は拙い情報力をフル稼働して兵力を集中した。こうなるのも当然である。

アルモスの飛竜母艦隊所属のワイバーンが到着する頃には、バーンの飛竜母艦隊所属のワイバーン部隊は満身創痍であった。

 

この時の両軍の戦力は、

⚪︎パーパルディア皇国軍

・戦列艦190隻(うち装甲戦列艦5隻)

・装甲フリゲイト12隻

・竜母24隻

・ワイバーンロード490騎

・揚陸艇101隻

・リントヴルム32頭

・牽引式魔道砲

 

⚪︎ロシア=インドシナ帝国陸海軍

・戦艦5隻

・巡洋艦5隻

・駆逐艦15隻

・航洋砲艦17隻

・潜水艦3隻

・機雷敷設艦2隻

・水雷艇18隻

・非戦闘艦2隻

・高射砲120門

・要塞守備隊1万

・戦闘機150機(海軍機130+陸軍機20)

 

「全艦針路0-0-0! 第二船速!」

 

空の優勢を見たマカロフは早々に敵艦隊への突撃を命じた。旧式戦艦のせいで足は遅いが時折放つ主砲は遠くの敵戦列艦を吹き飛ばしている。もはや勝勢と言っても過言ではない。

だが、驕りは大敗に繋がると思い、マカロフはただ淡々と命令を下していった。

 

航空戦は更に熾烈を極めていた。戦闘機の放つ7ミリ機銃がワイバーンの羽をボロ切れのように変る。すると、怒ったワイバーンが一挙に火炎弾を放ち、その戦闘機を火だるまに変える。

やられっぱなしでは好かんとレクマイア率いる16騎(すでに幾らか堕とされていた)がウラジオストク艦隊から派遣された水雷艇「204号」に襲い掛かった。対空兵装など37ミリ機関砲3門しかない水雷艇「204号」は瞬く間に接近され、火炎弾を一挙に放たれた。20ノットの船速を生かした回避行動も数にはかなわず、忽ちに火だるまになってしまう。

 

「装甲巡洋艦『グロムボイ』、水雷艇『203号』は『204号』の消化に向かえ!」

 

カールル・イェッセン提督(旅順艦隊にはウラジオストク艦隊も合流している。ウラジオストク艦隊の指揮権はイェッセン提督にある)の命令のもと2隻は「204号」へと向かった。対空砲火でワイバーンを威嚇。無事撤退させると必死に消化を開始した。

練度の高いレクマイア隊は眼下に敵艦を認めるも巉巌のごとき戦艦には簡単に近寄れずに撤退を余儀なくされる。

 

「クソッ! 一隻だけか……」

 

レクマイアは巨大艦を睨みつけて母艦「ワーグナー」(上層部の配慮により母艦を変更されていた)に向かった。

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