バルチック艦隊召喚   作:伊168

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決戦、決着す

ワイバーン隊が一部、帰投した時。旅順艦隊と皇国艦隊との距離は4000mまで詰まっていた。そこでマカロフは、

 

「全戦艦は敵後方の飛竜母艦を砲撃せよ」

 

と命令した。これに驚いたのは部下たちである。参謀長エベルガルツ大佐は、

 

「敵竜母との距離は8000m(旅順艦隊を恐れた艦隊が接近しようとする余り竜母と離れていた)です。命中率は期待できません。遠距離砲撃での撃沈ではなく砲撃で威嚇しつつ衝角攻撃を狙う。これが得策かと思います」

 

先任参謀アザリエフ大尉もこれに賛同した。後任参謀スミノルフ少尉は異を唱えたが、

 

「接近し、副砲の水平射撃で潰すべきです。今潰す必要はありません」

 

というもので提督の意に沿うものではなかった。

 

「違う。今潰さねば再度整えて戻って来る可能性がある。パーパルディア皇国の戦史を鑑みるに竜母は10ノットをこえる。何もせずに接近しようとして、退避されたとすれば敵艦の妨害を受ける。相対速度も考えれば、敵竜母に追いつくまでに航空攻撃を受けるかもしれん。それで被害を負うのは避けたい。ここで一撃を与えて怯ませることが必要だ」

 

提督は決してこの距離での敵竜母の殲滅は愚か命中すら望んでいなかった。ただここで竜母に砲撃すれば怯むだろうし、命中すると(期待はしていないが)帰投寸前で撃沈されれば精神的効果も大きい。それで慌てた敵艦が一部引き返せば戦場を乱し、突破口を楽に開くことができる。

かくして戦艦5隻や航洋砲艦の26センチ砲、装甲巡洋艦の203ミリ砲が一斉に火を吹いた。多くは海面を叩きつけ、水の山を作るのみであったが、やはり精神的効果は大きい。竜騎士の中には着艦タイミングを見失うものもいるほどである。

 

他の戦闘艦も竜母が砲撃を受けていることに驚いていた。なんとかせねばとバルスは思ったが、

 

「竜母を港外に退避させよ」

 

としか命令できなかった。退避した竜母の中にはアムール級機雷敷設艦が海中に残したプレゼントに引っ掛かって次々と海上から消えていった。

それは「ワーグナー」も例外ではなかった。

だが、「ワーグナー」自体が触雷したのではない。艦首が機雷に引っかかり、大爆発と共に海水を巻き上げ浸水。一部で大火災を起こしていた竜母と接触し、大規模な延焼を起こしたのだ。

異常を感じたレクマイアら8騎(ロシア陸軍航空隊の追撃で被害を受けていた)は着艦不可能と悟り、遠くの海へ着水した。着艦寸前での判断であった。

「ワーグナー」では艦長や司令官バーンにより退艦が言い渡されていた。船内にいた乗組員全ての安否確認が終わり、次々と海中に身を投じたり、ボートに乗り込んでいた。

やがて最後の卒が出る。ここにいるのは艦長とバーンのみである。

 

「司令官殿、ご退艦下さい。もうこの艦はダメです」

 

大火傷をした艦長が同じく顔を真っ黒に染め、身体中痛々しいことになっているバーンに声を荒げて言う。だがバーンは、

 

「レクマイアら8人の確認が取れておらん。一部のものによると着艦したというではないか! 彼らの確認ができるまでこの船から一歩も退かんつもりだ」

 

と固辞。彼は、

 

「レクマイアは何処! レクマイアは居ずや!」

 

と叫びながら奥の方へと走っていく。艦長は後に、

 

「どんどん小さくなっていく司令官の声が怖くて仕方なかった」

 

と証言している。これほど船内の状況は酷かった。

結局、船内を三度探したが、レクマイアらは見つからなかった。既に限界寸前の船は近くに落ちる巨弾に揺さぶられ次第に波間に沈んでいく。今はと思ったバーンは、すまないと思いつつ艦長を伴ってボートへと乗り込んだ。

だが、少し近くに落ちた巨弾の衝撃に揺られた軽いボートは簡単に転覆し、バーンは海水の中を彷徨った。

 

その頃には混乱した戦列艦隊は一矢報いることなく全て突破され、旅順艦隊は竜母に急接近していた。無論、機雷原があるので全竜母への接近はできない。

「アドミラル・ジョーネス」は遥か前方、機雷原を抜けた竜母を狙い撃ち。旧式戦艦ならば簡単に当たらない距離であったが、大轟音とともにターゲットは消え去った。

 

「あっちは呪われた海だ! 引き返せ!」

 

アルモスは甲板上を這い蹲り、震えながら命令する。もはや彼に開戦前の元気はない。

突然、彼は、目の前で何かが光ったような気がした。本能的に彼は我先に海中へ逃げる。その数十秒後、彼の乗っていた竜母は影も形もなくなった。

 

「装甲フリゲート12隻は、敵の後方を取れ!」

 

バルスの怒号が飛ぶ。掲げられる信号旗からも伝わってくるようだ。

なぜ怒鳴るのかというと、この命令はずっと前からしていたのに未だに後方を取っていないからである。

バルスの乗艦「グローリア・ヴィクトーリア」や4隻の機帆装甲戦列艦はその巨砲を前方に放ち続けているが、全く効果がない。それも怒りの一つである。その時、

 

「敵艦に一発命中!」

 

艦内が沸く。バルスも手を握りしめて無言で喜んでいる。この一発は戦艦「ツェザレーヴィチ」の前部甲板に命中した。だが、120ミリ。しかも前装砲であるなど旧式であるこの砲が有効打を与えることはなく、未だに旅順艦隊はこちらの艦隊を切り裂き続けている。

 

「効かんぞ!」

 

戦艦「ツェザレーヴィチ」艦長のグリゴローウィッチ大佐はすぐ斜め右まで接近している旗艦を罵る。お返しと言わんばかりに放たれた152ミリ砲は、「グローリア・ヴィクトーリア」の僚艦、機帆装甲戦列艦「インペリアル・プラエフェクトゥス」に命中する。幸い、152ミリであったことと当たりどころが良かったことから沈没こそしなかったが、その巨躯を歪ませている。

 

「『インペリアル・プラエフェクトゥス』被弾!」

 

「生意気な……」

 

バルスの表情がまた険しくなる。だがいくら祈っても砲撃は命中しない。針の穴に糸を通す時のような気分になる。

「ツェザレーヴィチ」が真横に来た時、「グローリア・ヴィクトーリア」の放った120ミリ砲が敵艦に命中した。なんということはない。どうせ効きはしない。そう思ったものも多くいた。だが、戦いは理不尽なほど運が絡んでくる。この砲は「ツェザレーヴィチ」の司令塔の覗き窓に命中したのだ。破片が司令官ウフトムスキーらを襲う。幸い、ウフトムスキーやグリゴローウィッチ、ウフトムスキーの近くにいた参謀スタフラキー大尉らは重傷程度で死には至らなかったが、多くの司令塔要員が死に、操舵機を操っていたものは後方に倒れた。艦内は混乱に満ち、動きが止まる。

 

「今がチャンスだ。やれ!」

 

「グローリア・ヴィクトーリア」は風神の涙を一杯に使い、最大船速で衝角攻撃を試みる。「ツェザレーヴィチ」乗組のカミガン大尉は司令塔の人間が誰一人まともに動けないという、凄惨極まる様子を見て、

 

「取舵!」

 

と叫び、操舵機を回したが、遅かった。「グローリア・ヴィクトーリア」の衝角は突き刺さり、「ツェザレーヴィチ」は悲鳴を上げながら離れるも、浸水は止まらなかった。敵艦の方も衝角が欠落し、艦首も大きな被害を負っている。

マカロフ提督が素早く救援を差し向け、「ツェザレーヴィチ」の防水処置が行われた。だが、傷は浅くなく、同艦は座礁させることを選んだ。

しかし、これが旅順艦隊を怒らせた。怒り狂う砲弾によって、機帆装甲戦列艦「スキピオ」「インペラトル・ルディアス・アウグストゥス」「インペリアル・プラエフェクトゥス」の三隻は大破、「グローリア・ヴィクトーリア」も大破、装甲フリゲートは4隻が撃沈され、バルスは、

 

「駄目だ……撤退だ。撤退するぞ!」

 

シウス艦隊以外は全て反転し、撤退していった。だがシウスは、

 

「我、殿となりて武人の本懐を遂げん」

 

と言って、残存艦艇を率いて旅順艦隊に必死に縋り付いた。何もできずに多くの船が撃沈されるも、本隊を逃すことには成功している。彼らの犠牲は無駄ではなかったのだろう。だが側から見れば馬鹿げた行為だとも言われかねない。

 

特に酷かったのが竜母である。「ミール」除いて全てが撃沈されたのだ。そしてその「ミール」も帰投中、潜水艦「カサトカ」の外装魚雷を受けて沈没している。

シウス艦隊は、本隊を逃すとそれぞれ帰投したが、旗艦「パール」など生き残ったのは10隻程度でありシウス艦隊は壊滅した。揚陸艇も多くが水雷艇などに喰われ、リントヴルムは何もできずにサメの餌に変えられた。

 

その後の救助では旅順艦隊が今までの鬱憤を晴らすが如くゆっくりと味方の救助(し終えても救助しているふりをした)をしたので皇国側は全く救助が捗らなかった。真っ暗な海で、誰もこない絶望感と戦いつつも海中に沈んだものがどれほどいただろうか。

事前に根回しをしていたアルモスはあっさり救助され、バーンもなんとか助かったが海に落ちたものの8割は死んでしまったという。

両国にとっての決戦はまさに血戦であった。




なんかめちゃくちゃですがすみません。
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