バルチック艦隊召喚   作:伊168

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四カ国軍集結

12月25日

 

この日、パーパルディア皇国政府は異例の命令を下した。それは、デュロ及びエストシラント港近海での航行禁止、港付近での登山禁止などであった。昔から、歴史的大勝の時以外は民間向けに軍隊を直接見せることはしていなかったとはいえ、ここまで徹底したことはなかった。

一応、初代皇帝(ただし建国前)や欠地帝とあだ名された三代目皇帝の時に大敗を隠すがために港付近での航行を禁止した例はあった。だが、山にも登るなと命令したことは一度もない。

そのため一部の知識人は、

 

「実際は大敗したのではないか」

 

と思うようになった。少し戦史に通じている程度のものですらそう思うものが出てきた。勿論彼らは一両日中に逮捕されている。ただし、いつも皇国が邪魔者を消すために好き勝手に使っている皇国一便利な国家反逆罪で逮捕したのではない。それぞれに適当な罪を強制的に認めさせ、処刑したり収容所送りにしたのである。

 

12月27日

 

ついに皇国軍の侵攻艦隊が帰還した。帰還するや否やすべての将兵を健康調査という名目で呼び出した。

もちろんこれは大嘘である。ただし、調査という点は同じだ。忠誠心をはかることに近い調査である。

それは、この大敗を口外するか否かを問うだけである。口止め料を払ったりもした。最期まで拒否したものは即刻処刑。処刑されたものについては家族に戦死や病死と通行し、死体も処理して隠蔽した。

これに命の危険を感じたバルスは妻子と共に官職を捨てて逃亡した。

戦果報告の際バルスを、

 

「初代皇帝アウグストゥスにも引けを取らん見事な采配」

 

と評していた皇帝は、

 

「不義不忠の売国奴だ! 即刻捕縛し、三族皆殺しとせよ!」

 

と剣の柄を握りしめて命令した。

この時、空席となった海軍総司令長官には勇猛果敢な采配を評価されたシウスが抜擢された。この時、シウスは皇帝から宝剣とアウグストゥス一等勲章及び敵艦の破片(皇国内では最大の勲章)を賜与されている。同時に、海軍大将へ昇格となった。

他にも戦闘の際部下を、船が沈没するまで探し続けたバーンは中将に昇格。現在は揚陸艦と予備艦から編入された老朽艦のみで構成されているシウス艦隊を引き継いだ。

レクマイアは黄金で作られたダイアモンド付き大鷲勲章(国内二番目の勲章)を賜与され、海軍少佐に昇格となった。

彼らは英雄として大いに讃えられた。それは初代皇帝や14代目皇帝の功績以上かのように思えるようであったという。

これは、皇国政府が、なるべく国民が皇国政府の不自然な対応に視線を向けないように、国民の関心を逸らす。と画策した故の事柄である。

そして、これは大成功した。プライドの高い国民はこの異常な宣伝を全く疑らずに受け入れた。ある意味素直である。知識層には意を唱えるへそ曲がりな人間もいたが政府が対応する前に国民によって吊るし上げられた。

 

12月28日 エストシラント

 

この日、海軍総司令部では損傷を受けた艦艇の修理期間についての報告が行われた。

それは、損害の少なかった蒸気装甲戦列艦「ヴィヴァ・パーパルディア」については、年明けから数日で完全に修理できる。

だが、その他の4隻については来月中旬以降になる。というものである。

司令部の人間は肩を落とすとともに頭を抱えた。なぜならこの後の作戦が実行できなくなる可能性があるからである。

司令部の戦略は、一月の頭には5隻を全て完全修理する。その後、向かってくるであろうアガルタ、マギカライヒ艦隊を殲滅し、両国の投入兵力を0にする。そしてロシア帝国を叩くというものであった。

グラ・バルカス帝国に関しては遠すぎるので艦隊を送ることはないし、送っているという情報は欺瞞であるので対策は立てていない。

というように非常にお粗末な戦略である。戦略というだけで戦略家に対する侮辱になるレベルの酷さだ。

所詮は前線で蛮勇を振るうことしかできないシウスらに高等な戦略は立てられるはずがなかった。原始人に銃器を扱わせるようなものである。全くの門外漢なのである。

修理の時点で破綻しているばかりかグラ・バルカス帝国が艦隊を派遣していることを否定している時点で子供の妄想レベルに落ちている。

 

1月1日

 

遂にロシア=インドシナ帝国が皇国の領土へ侵攻した。それはアルタラス島への侵攻であった。

位置的に帝国の領土に囲まれており完全に浮いている。だが、放っておくわけにもいかない。ここの存在のために全ての領土に一定の守備兵を置かねばならない。ならば皇国が大規模な軍事行動を取れないうちに潰した方がいいだろうということでの侵攻である。

ただし、兵力は大したことがないのでムイロフ中将の第8軍団に任せた。これで、ムイロフが勝てば昇進してやれる。クロパトキンは興奮が止まらなかっただろう。

輸送船の護衛には何かと使い勝手がいいフランス東洋艦隊に任せた。

皇国軍は砲兵2個旅団による苛烈な砲撃とその後の銃剣突撃でほぼ壊滅し、指揮官などは揚陸艇に我先に乗り込んで本国へ逃げ帰った。

陥落までに一日しかかからなかったのである。

この戦いでの双方被害は、パーパルディア皇国軍アルタラス守備隊5万のうち4万が死傷、5000が捕虜(のちに逃亡を企てたとして全員銃殺)。第8軍団は80名が死傷した。

この功績によりムイロフ中将は大将へ昇格した。

皇国政府はこのアルタラス会戦を、

 

「アルタラス島において我が守備隊は奮戦するも衆寡敵せず壊滅せり。我が方被害は3万死傷。敵軍へ与えた損害は、6万死傷、輸送船4隻沈没、大型艦1隻撃破」

 

と発表した。これについて皇国臣民は、

 

「敵の数が多かった(発表では守備隊5万、敵軍30万とされていた)から仕方がない。頑張った方だと思う」

 

と言うのみで、誰も戦力の違いに気がつかなかった。

 

1月16日

 

この日、ウラジオストクにマギカライヒ共同体の第3艦隊、アガルタ法国の第2艦隊、そしてグラ・バルカス帝国の第3潜水戦隊が到着した。

マギカライヒとアガルタの艦隊は20日にパーパルディア艦隊に攻撃する(パーパルディア艦隊が20日に航海を行うとの情報が皇国政府高官のK氏から伝えられていた)ということで補給。

グラ・バルカス帝国の方は通商破壊を行うと言って同じく補給を要求した。これに本国に帰国していたヴィトゲフトは、

 

「航続距離の短い潜水艦でそれほど大規模な通商破壊ができるのでしょうか?」

 

と首を大きく傾けて質問した。するとクレッチ提督は、

 

「うちの潜水艦は20万キロ以上航行できますよ」

 

と答えたのでヴィトゲフトら潜水艦の指揮官たちは言葉が出なくなったらしい。このエピソードはロシア=インドシナ帝国を元気づけることとなった。

 

1月19日 レイフォリア近海

 

ここではロシア帝国からの石油を輸送するタンカーが多数航行している。まるでアリの行進である。

極めて穏やかな海に突如として大きな波飛沫が起こった。

神聖ミリシアル帝国の爆撃隊が爆弾を投下したのである。数発がタンカーに命中し、複数のタンカーが沈没した。

この大事件によりグラ・バルカス帝国はそこそこの打撃を受けた。だが、宣戦布告や抗議を行う前にミリシアル側が、

 

「今回の事件は我が帝国航空隊が海賊討伐の際に誤って投下したものであった故意ではない」

 

という発表と共に謝罪を行い、賠償金まで払うと言った。そして、要求通りに(ただし衝突を避けるため余り多くは要求していない)支払ったのだ。

そのため、グラ・バルカス側は石油とタンカー3隻と引き換えに端金を掴まされただけに終わった。

国民の怒りは大きく、その日のうちに外務大臣が辞職したのは言うまでもない。

 

 

 

1月20日

この日、アガルタ、マギカライヒ連合艦隊とパーパルディア司令部直轄艦隊が対峙した。

同時にグラ・バルカス帝国潜水戦隊はデュロ付近に到着した。

また、神聖ミリシアル帝国の地方艦隊(以前に魔王討伐に出向いていた)もデュロ付近へ到着した。

両陣営の盟主(魔法文明からは機械文明の盟主はムーとされているが)の軍隊が初めて対峙したのだ。

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