バルチック艦隊召喚   作:伊168

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栄光の1月20日

1月20日 デュロ沖

 

開戦初頭は騒がしかったデュロ沖も今では穏やかである。グラ・バルカス帝国の第3潜水戦隊は潜望鏡に神聖ミリシアル帝国の艦隊を認めた。これを見つけた乗組員は嬉しさのあまり涙で潜望鏡を曇らせたという。

これを聞いたオットー・クレッチ提督も手を叩いて喜んだ。

 

「レイフォリア沖での雪辱をこれで晴らすことができる!」

 

提督のこの一言に参謀が慌てて、

 

「なりません。ここで撃沈でもすれば戦争になるやも知れません。ここは堪えて時を待ちましょう」

 

と言ったが提督の耳には入らず、

 

「あいつらは魚雷を知らないから大丈夫だ。バレなきゃいい。全艦、前方2500mにある艦隊に魚雷……いや、酸素魚雷を発射!」

 

と命令してしまった。

各艦は嬉々として魚雷を装填、そして2本ずつ発射した。

18本の魚雷のうち8本は巡洋戦艦「トライデント」に命中。ほかに2本命中したのが小型艦「ソード」と「ランス」。3本命中したのは重装甲巡洋艦「アロンダイト」であった。

これらの乗員は自らの乗艦が魚雷を食らったことは愚か自分の置かれている状況すら理解できぬままに波間に呑まれていった。パテスも同じ運命を辿った。

潜水艦9隻は多数の爆音を聞くとまるで他人ごとかのようにそそくさと帰ってしまう。

対潜能力は愚かそんな概念すらない神聖ミリシアル帝国地方艦隊はこのことを海難事故として報告書を上げることとなる。

提督の決断により復讐は叶ったが一歩間違えれば泥沼の戦争に突入しかねない危険な行為であったことは否定できない。

 

後日、グラ・バルカス帝国本土ではパテスやその他乗員に対して弔辞を読み上げ、これらを讃える軍歌まで公募したが、内心ザマアミロと思っているものも多くいたそうである。

 

 

同 第三文明圏中央海域(アルタラスとパーパルディア本土の中間あたり)

 

「アルトマイアー提督! 前方に敵艦隊発見。敵は我が艦隊と同じ針路を取っております。距離は2.3キロです!」

 

アルトマイアーはそれを聞いて、

 

「敵の指揮官は血迷ったか。距離で勝る我々に遠距離戦とは正気じゃない」

 

と大声で嘲った。もはや皇国は列強ではない。これで皇国海軍は完全に終わる。アルトマイアーはアガルタ艦隊のパクタール提督に何も言わずに砲撃を命令しようとした。

その時、アルトマイアーの乗艦「レーテ」の後方を走っていた機帆戦列艦「グナイゼナウ」の周囲に舷側砲のそれとは違った大きな水柱がいくつも立ち昇った。

アルトマイアーは常識はずれの攻撃に言葉を失い、立ち尽くすのみである。

 

「機帆戦列艦『グナイゼナウ』被弾!」

 

この報告がアルトマイアーを我に返させた。

 

「全艦砲撃開始!」

 

の一声とともに大急ぎで砲撃の用意が始まる。だが、マギカライヒ艦隊が砲撃をするよりも早くパーパルディア艦隊は砲撃を行う。

12センチ単装砲が蒸気フリゲート「スカリッツ」に命中した。「スカリッツ」はあっという間に沈んでいく。

アガルタ艦隊の面々は皇国軍が予想以上に強いことに唖然としていたが、針路を変え、皇国艦隊に接近を試みている。

やっと、マギカライヒ艦隊の各艦が砲弾を打ち出し始めた。多くは外れるが、一部は距離もあってかしっかりと命中する。前方の一際大きな--ムーの戦艦のような艦艇に多くが命中した。波飛沫や煙などで視界が遮られる。

流石に沈没したか。アルトマイアーは胸を摩った。

 

「敵艦に損害見られず!」

 

波や煙が晴れた頃、部下が何度も目をこすりながら報告する。アルトマイアーは、バカなことを言うなと一瞬思ったがその様子を見るに本当であると痛感した。

あれだけの砲弾が命中して健在である艦艇など滅多にいない。その滅多にいない存在が目の前にいるのか。

突如、前方が光ったように見えた。そしてすぐに幾らかの艦艇が悲鳴をあげる。

「シャルンホルスト」はマストを一本へし折られ、「シュタインメッツ」はもうあるべきところにはいない。

海戦初頭の胸の高鳴りや敵への侮蔑はどこへ行ったか。アルトマイアーは表情を死人の如き蒼白にしており、どこからも生気を感じられない。

この頃になってやっとアガルタ艦隊が砲撃を始めた。数発が命中するも損害は認められない。これにパクタールは唖然とした。

皇国は落ちぶれており、もはや敵ではない。というように盗賊退治程度の気分でいたが、全くの間違いであった。

皇国が弱いのではない。ロシア=インドシナ帝国軍が強いのだ。

気づくのが遅すぎたか。いや、違う。まだ手があるではないか。

パクタールが魔力を貯め始めた時、パーパルディア皇国の戦列艦の砲弾が飛んできた。砲弾が炸裂し、後方にいたパクタールも思わず仰け反る。だが、そんなことで臆すパクタールではない。徐々に魔力が溜まっていく。脅威度の高い大口径砲はマギカライヒ艦隊に向いているため、妨害されることがほぼないからであろう。

そして、ついに魔力が溜まった。

 

「……国民の夢、国民の希望……全ての国民の想いを込めて……! 今こそ放て! 必殺! !艦隊級極大閃光魔法ォォォ!!!」

 

戦列艦スチャンドラ後方から放たれたレーザーは一瞬にして皇国海軍130門級戦列艦「エストシランティノポリス」に到達し、焼き尽くした。

 

「敵艦、撃沈確実!」

 

疲れ果て汗だくで甲板上に大の字になっているパクタールの顔が崩れる。やがて、声を上げて笑い出した。

だが、それも立ち上がるまでであった。マギカライヒ艦隊はすでに壊滅していたのである。

 

「……アルトマイヤー提督!この戦い、我らが敗勢です。ここは撤退して戦力を整えてからもう一度挑みましょう!」

 

パクタールは声を絞り出して魔信で進言する。だが、

 

「なんだと? 鬼畜どもに怯えて逃げ出すというのか。パクタールとあろうものが臆したか。余は逃げん。万丈の山より高く、千仞の谷より深い恩のある盟邦が直接危機に晒されるのだぞ! いくらロシア帝国でもこれは耐えられん。余は犬と言われても構わんが不義者と言われるのは耐えられん。ここの乗員もそのはずだ。余は死ぬ。だが卿は千里でも万里でも逃げるが良い」

 

と返される。

 

「死んでしまっては意味がないではないか! ここは恥を受けてでも、不義者と謗られても生きて、あとで報讐雪恨を果たせば良いでしょう!」

 

パクタールはどうにか彼とその麾下の艦艇には生き残って欲しいと思うあまり、声が擦れ、死にかけるほどに叫んだ。まるで親しい人間が死んだ時の悲叫のようである。だが、

 

「余と卿では考えが違う。それほどいうならば余が死ねば、余の乗艦、この『レーテ』が死ねば後は卿の好きなようにさせてやる。こちらの副司令長官は死んでしまったからな」

 

パクタールはコクリと頷くいて、壁に掴まりながら後部甲板に出た。

瞬時に、マギカライヒ艦隊が次々と撃沈されていく光景が目に焼き付けられた。やはり、ここは死んででも止めるべきであったか。パクタールは深く後悔した。だが、もうどうにもならない。今からどうするべきかを考えねばならない。

すると、マギカライヒ艦隊の機帆戦列艦「シャルンホルスト」の放った砲弾がパーパルディア皇国艦隊の機帆戦列艦「インペリアル・プラエフェクトゥス」のマストを叩きおった。即座に「インペリアル・プラエフェクトゥス」は戦列から離れた。歓声が上がるが、パクタールにとっては苦痛だった。この小さな戦果をちょくちょくと重ねていくからいつまでたっても、「まだやれる」と言ってダラダラと被害を増やすことになってしまうのだ。

すると、戦列から離れた「インペリアル・プラエフェクトゥス」が戦列に戻った。非常に遅いが、なぜか自在に動いている。皇国の技術力はここまで発展していたのか。

パクタールは思わず震える手で目を覆った。目の前が見えなくなる。そのせいか、音がより良く聞こえるような気がする--突如として大きな爆音を聞いた。

 

「どうした!」

 

パクタールは喉が壊れるほどに声を振り絞って言った。

 

「アルトマイアー提督乗艦の『レーテ』が沈没しました!」

 

どうやら脆い砲列甲板を貫かれたようである。パクタールはついに死んでしまったかと残念に思いつつもホッとした。これで、残りを生かすことができる。

パクタールに引き連れられた艦艇は被害を出しつつもなんとか帰還に成功した。

アガルタ艦隊は第2団がフリゲート「マヒンダ」除いて沈没。第1団は「キールティ」「チャクリン」の2隻が沈没した。

マギカライヒ艦隊は、蒸気フリゲート「スカリッツ」と「ケーニヒグレーツ」。戦列艦は「シュタインメッツ」、「ブリュッヘル」「ブランデンブルク」、「ブロカーデ」、「ラッヘ」、「べラーゲルング」、「レーテ」、「ウムシュラーゲン」、「ドゥルヒブルフ」、「シュトゥルムアングリフ」、「モルトケ」が沈没した。

対してパーパルディア皇国は戦列艦が一隻沈没したのみ。列強と文明国の圧倒的国力差が世界に再び示されることとなった。

この戦勝は、パーパルディア皇国海軍の中で栄光の1月20日と言われるようになった。

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