バルチック艦隊召喚   作:伊168

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皇国の戦略

「つまり……君は私に祖国を裏切れというのか!?」

 

バルスが怒って水浸しの地面を強く踏み、カイオスに寄る。水飛沫が立ち、カイオスの足元が黒く濡れる。

 

「そうだ。第1、貴方はもう祖国から見捨てられている。裏切り者と見なされているのですよ。貴方には将器がある。そんな人物を放っておくとお思いですか? 最早貴方が家族含め平穏を取り戻すには反乱しかないのです。すでに陛下は帝王道から外れました。無論、陛下は我々に無量の恩を齎して下さいました。ですから陛下の命を取ることは致しません。あくまで帝王の本道に還っていただくだけです。そしてロシアら4カ国と講和するのです。最早我が国にはそれしかありません。ですから貴方の力が必要なのです」

 

バルスの勢いに怯んだせいか、何度も舌を噛みそうになる程上手く話せない。失敗かもしれない。もし失敗したならば自分は殺され、皇国は本当の意味で死んでしまうだろう。

 

「そういうことならば、手を貸そう」

 

バルスの眉間から皺が引いていく。手まで差し出してきた。どうやら説得に成功したようだ。

 

「有り難い」

 

両者はがっしりと手を握って、スラム街の奥へと消えていった。

 

 

1月25日 エストシラント沖

 

 

水上攻撃機「カペラ」による爆撃--嵐作戦を成功させた第3潜水戦隊は、ここエストシラント沖で艦船の行き来が盛んになったことから、一旦沖から離れ、中央大東洋で通商破壊を行うことにした。

既に浮上砲撃で5、6隻は撃沈しているが、存在が知られると、その情報がミリシアル帝国に行ってしまう。そうなって仕舞えば現在の潜水艦や魚雷における絶対的優位性が損なわれる。それは避けたかった。

こんな片田舎の海のゴタゴタで本国の戦友に迷惑をかけたくないからである。

これら9隻で中央大東洋に潜めばきっと恐ろしいほどの戦果を挙げるだろう。

オットー・クレッチ少将はE400潜の中で一人不気味な笑みを浮かべていた。

 

そもそも、これほどの軍船がなぜかというと、皇国が戦力--それも即戦力を望んでいるからである。そのためチンタラ建造するのではなく、ニグラート連合などの友好国から竜母や戦列艦を購入しているのだ。乗員は、3海戦で乗艦を失った人間を当てている。馬鹿みたいに船が沈んだので実は乗員が余っているのだ。

これほど軍艦を集めるのには理由がある。それは、皇帝らが瓦礫と化した宮殿の外れで路上生活をしている時まで遡る(現在はアルー二侯の宮殿を借りている)。

海軍総司令長官のシウスが、

 

「ロシア軍を出し抜く策があります」

 

と言ったことに始まる。

その作戦というのは、大量の竜母を基幹とした機動艦隊でロシア軍主力艦隊を釣り上げる。その後、スッカラカンになった樺太など(あくまで最終目標はアルタラス再奪還であるので足掛かりに過ぎないが)に大量の揚陸艦と司令部直轄艦隊を突撃させる。そしてアルタラスまで一挙に占領する。というものである。

アルデも、

 

「これなら賞賛があります」

 

と太鼓判を押したので、許可されたのだ。

エルトなどはムー国が背後にいることを根拠に講和すべきと主張したが、

 

「海軍はムー国式軍艦を多数撃沈破している。お前は個艦性能を思い込みだけで決めている」

 

と皇帝に反論され、反対派は誰一人反論できなかった。

この壮大な計画を実行するために海軍は大慌てで軍艦を集めているのだ。

 

1月26日 レイフォリア沖

 

「糞野郎共! さっさとどっかいけ!」

 

グラ・バルカス帝国所属・哨戒艇1号の艇長、シュミット大尉は目と鼻の先にある神聖ミリシアル帝国の軽巡洋艦クラスの軍艦を睨みつけながら愚痴をこぼす。

ここ数週間、ミリシアル帝国の軍艦が領海寸前まで迫ってくるのだ。そのせいで輸送船はビクビクしながらここを通ることになる。護衛空母があったら万が一戦闘を挑んできても一蹴できそうだが、駆潜艇や海防艦や駆逐艦では勝てない。軽巡洋艦だけならまだチャンスはあるが、たまに重巡洋艦クラスが来ることもある。

万が一に備えて哨戒艇が配備されているのだが、ミリシアルが牙を剥いた瞬間、沈没がほぼ確定するような所に配置されているのだからストレスが溜まりに溜まる。

たまに航空機が来るときなんか震えが止まらない。

政府はさっさと対応しろと言いたいのだが、ミリシアル側が、

 

「ここらでは海賊が急増しているから仕方がない」

 

ともっともらしい言い訳をし続けるので、制裁はおろか抗議もロクにできないそうである。だが、海賊と誤認されて砲撃を受けた艦艇もあると言うのだから政府の対応にはやはりイライラする。

ムー国のように侵略をしまくればいいのにとすら思ってしまう。

 

「そういえばムーはイルネティアという国に、生物兵器の保有を理由に宣戦布告したそうだがどうなるのかな」

 

大尉はふとそんなことを考える。実は、ムー国との交流によりこの世界の神話の調査をしているのだが、イルネティアにはレーザーを吐くとんでもない竜がいるということが判明した。

ムー国程度が倒せるとは思えない。本国では対策が半分ぐらい立てられたらしいが、ムー国では特に対策は立てられていないらしい。そこも考えると、竜の頭数によっては機械文明国の一角が大きく疲弊し、陣営が不利になる可能性すらある。

そうなれば目の前の不良達が牙を剥いてくることは必定である。ムー国の行動一つ一つがこのか弱い哨戒艇の乗組員たちの命に関わっているのだ。考えずにはいられない。

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