2月20日
この日、ロシア陸軍は新たに第4軍と第5軍を創設した。これは転移後の徴兵、アルタラスなどの志願兵を掻き集めた軍である。ただし、現地語を習得しているものが多いので、ほかの軍と比べてインテリな集団になってしまった。
一応、個々の兵士は創設前にも訓練を受けてはいるが、軍としての行動はまだであるので戦闘能力は未熟である。(しかしロシア人率の高い第5軍には新兵器が配備されているので訓練すれば強い)だからこのパーパルディア戦役で実戦訓練をしようということで、フェン王国の解放および大陸西部への攻撃を任された。
2月25日 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリスのアルビオン城では政府関係者たちが冷や汗をかきながら討論していた。
普段なら暖房機の隣で煙草を吸いながら寛いでいるのだが、今回ばかりはそうはいかないのだ。
海賊討伐という名目でレイフォリア沖に多数の艦艇を派遣していたのだが、それに対してグラ・バルカス帝国が、
「レイフォリア沖における各国の権益を守るために我が国も討伐に協力する」
と言ってきたので、このまま受けて仕舞えば嘘がバレてしまう。特に、海賊船と間違えて撃沈したということが嘘であると判明してしまえば神聖ミリシアル帝国の権威は地に堕ちてしまう。
そうなると、機械文明側が優位になりかねない。これを防ぐため夜通しで討議が行われている。
グラ・バルカス帝国の通知で特に困ったのが、敵意はないということだ。敵意を剥き出しにして来ていた場合は、そこを批判すれば良いのだが、敵意はないので一切批判ができないのだ。
各大臣が頭を抱える中、退出していた国防省長官のアグラが戻ってきた。足取りは軽やかで、手に資料らしい物を持っている。
「長官、遅いですぞ」
他の大臣から野次が飛ぶ中、アグラは資料をテーブルに置いて勝手に説明をはじめた。
「これは先程陛下から勅許を賜った戦略です。まず、ムー国に宣戦布告します。周辺国への侵略行為を口実としましょう。第二文明圏諸国はムーに対して怨嗟の声を上げているので賞賛されることでしょう。そして、ムーとグラ・バルカスは三国同盟において共同参戦を約束しているので、グラ・バルカスが仕掛けてくるはずです。ムー国は大事な盾ですからすぐに参戦するでしょう。そうしたら、レイフォリア沖の艦隊を動かしてレイフォリア沖の制海権を取ればいいのです。グラ・バルカスの主力艦が来る頃には我が国の主力艦隊が展開しているでしょう。陸戦も航空戦も我が方の圧勝でしょう。ムーはイルネティアにいた謎の竜に手こずり、兵力の多くを西方に割いていますから、東部方面の占領など荒野を駆けるようなものです。また、機械文明に魂を売った某国や東洋で生意気にも帝国を名乗っている某国なども参戦するでしょうが、前者はムーのついでに陸軍が蹴散らすでしょう。後者は一個艦隊でも派遣しておいたらいいでしょう。後者はパーパルディアを本気で怒らせてしまったせいで大損害を受けているようですし」
アグラはさらにエモール王国を必ず味方につけること、海賊討伐の件については極力バレないようにすることなども説明した。
前者については列強国又は列強に相当する国の比率が2:3ならば安心だからである。後者については、ミリシアルの歴史に泥を塗ることになり、信用を失うからである。勝つためにはミリシアルは絶対的な正義でないといけないのだ。
3月4日
ロシア帝国陸軍によるフェン王国解放作戦、剣作戦は一時延期となった。付近に竜母機動部隊の存在が認められたからである。ロシア帝国にとって近世に毛が生えた程度の陸軍より春になれば活発さを取り戻すワイバーンの方が怖かったのだ。そのため竜母を他に誘導したりはせず、先ずは竜母部隊を攻撃することとなった。無論、竜母部隊が消滅すれば劔作戦を決行する。
兎に角、これを撃滅するため、バルチック艦隊(第2、第3太平洋艦隊)が出撃した。
これで本土を守る主力艦隊は旅順艦隊、ウラジオストク艦隊、フランス東洋艦隊のみとなった。無論、これらの艦隊の空母は全て0隻である。
3月11日
ついに神聖ミリシアル帝国はムーへ宣戦布告した。同時にエモール王国や第二文明圏諸国も宣戦布告した。
ミリシアルは上陸に際して第2艦隊、第3艦隊、地方隊2隊、上陸用舟艇150隻を用意した。第二文明圏諸国は各地で攻撃を開始し、エモール王国も艦隊防衛のために風竜を派遣するに至った。
これに対してムー国は東海岸艦隊(通称ブレンダス艦隊)16隻が出動した。可能な限り基地航空隊も支援する(ただし基地航空隊は多くが引き抜かれており、数は少ない)。
予想に反してそこそこの兵力はあったが、質・量ともに劣るムー国艦隊の運命は誰の目にも明らかであった。
先ず、 ムー国艦隊は敵艦隊を発見するとすぐに航空機を一気投入した。昼過ぎのことである。先制攻撃をするためだ。また、この時には航続距離の問題から風竜は撤退しており、ミリシアルだけなら何とかなるのではないかと思ったからでもある。
タイミングとしてはベストだったのだ。
凡そ50機を挙るムー国の攻撃隊はミリシアル艦隊目掛けて驀地に向かって行った。
対してミリシアル艦隊は中型空母を2隻、小型空母を2隻配備していたので、数十機の直掩機を展開していた。
自軍の方が圧倒的に多いため各搭乗員は笑みを浮かべながら敵艦に突撃したり、直掩機に向かって行ったりした。
だが、直掩機に向かった戦闘機は瞬く間に撃墜され、艦隊に向かった機もあっという間に直掩機に刈り取られていった。
しかも、熟練搭乗員の多くが引き抜かれていたため、爆弾を投下できても命中しなかった。
数少ない熟練搭乗員の落とした250キロ爆弾がスチール級中型空母「アラドヴァル」のエレベーターに吸い込まれるように命中し、戦闘不能に追い込んだり、アルジェント級小型空母「ルーン」を小破させたりしたぐらいであった。
充分な戦果にように思えるが、帰還できたのは10機にも満たない有様で、これ以上の航空戦ができなくなってしまった。
ミリシアル帝国の艦隊を指揮する西部艦隊司令長官クリングは不機嫌そうに、
「航空戦でここまでやられるとは……まあいい、奴らの航空機は排除した。ここはひとつ、奴らの誇る機械式戦艦とやらを砲撃戦で撃沈してやろう」
と言った。作戦参謀は、
「いいえ、それだと小型艦が被害を受ける可能性があります。万が一に備えて、ここは安全に航空機で潰す方がよろしいかと」
と具申したが相手にすらされなかった。空母を撃破されて面目を潰されたクリングはどうしてもムー国の精神を挫きたかったのだ。
かくしてミリシアルの砲撃部隊はムー国艦隊を目指して最大船速で波を押し分けて行った。
ブレンダスは無防備なミリシアル帝国砲撃部隊を航空隊で回してやろうかと思ったが、既に護衛の戦闘機と僅かな爆撃機しか残っていない惨状を見て、がっくりと肩を落とした。
砲撃戦で勝てる自信はあまりなかったのだ。
そんな中、ある基地の航空隊が60キロ爆弾を抱いて体当たりすると言い出した。
ブレンダスは非常に申し訳ないとは思ったが、時間稼ぎのために出撃を許可した。12機の戦闘機は瞬く間に東の空に消えて行った。その姿は勇ましくもあったが、どこが寂しげでもあった。
飛び去った戦闘機は戦艦や空母に突入した。まさか攻勢をかけてくるとは思ってもいなかったミリシアル艦隊は無防備で、全ての機体が体当たりに成功した。
小型空母「ルーン」は航行不能、ウーツ級魔道戦艦(ゴールド級よりかなり前の旧式戦艦、14インチ砲を搭載。劣化版ペンシルべニア級のようなもの)「オルナ」が機関を損傷するなど思わぬ損害を受けた。
しかし、思ったほど時間は稼げず、やはり東海岸艦隊が粘るしかなかった。
鼻から勝ちなんて望んでいない。なに、グラ・バルカスが参戦するまで上陸させなければいい話だ。あと、数時間で済むではないか。
ブレンダスは必死に冷静さを保とうとした。司令長官が弱気では部下は満足に働けない。イケイケどんどん過ぎるのも良くないが、こうやって開き直った方がいい時もある。
各乗組員が汗にまみれて砲撃戦を待つ中、ついに、
『発戦艦『ラ・リーフ』宛旗艦『ラ・カサミ』敵艦隊発見。位置ハ当艦ヨリ30200m。戦艦4、巡洋艦8、砲艦16、小型艦10』
と報告が来た。各乗組員は一層汗を流して準備にかかる。ミリシアルの戦艦の射程は30キロを超えるという。倍以上だ。ミリシアルのことだから誇張しているだろうが、それでも差は歴然であろう。
速度でも劣ると言うから、一方的に撃たれるだけだろう。
どこからか放たれた砲弾が「ラ・カサミ」の右舷から遠くに落ちた。こんな遠距離から仕掛けてきたのだ。本当にアウトレンジで終わらせるつもりだろう。
「全艦、最大戦速で敵艦隊の接近する。針路0-0-0!」
その程度の命令しかできないことにブレンダスは遣る瀬無さを感じる。
数キロもいかないうちから敵弾が「ラ・リーフ」に夾叉した。精度が圧倒的に違う。
ミリシアルは前方への攻撃力を高めているからこのまま距離を詰められ、圧倒的砲撃によって撃沈されるかもしれない。
多数の砲弾が「ラ・リーフ」に向かう。斉射に切り替えたか。
3度目の斉射で、ついに砲弾が命中した。艦橋は消え去り、煙突は折れているものもあった。副砲などもバラバラに破壊された。主砲もその有様を見るに旋回も発射もできなくなっているだろう。
もはや浮かぶ鉄屑である。
「戦艦の主砲だけじゃないな。あの被害や水柱の高さだと巡洋艦の主砲もあるだろう。巡洋艦ですら我が艦より届くか……」
ブレンダスは驚きのあまり、ミリシアルの見事な艦艇に感心していた。
次の砲撃で装甲巡洋艦「ラ・ビハク」が至近弾を喰らった。
もう2隻目か。東海岸艦隊の幹部たちは口をあんぐりとさせている。圧倒的すぎる差である。正直言って、グラ・バルカスよりも強く感じる。
「頑張れ、とにかく粘るんだ!」
届くはずもない声援をブレンダスは送る。
敵艦隊は近づきすぎないように速度を落としつつ砲撃を続けた。
日が傾いて月が冷たい顔を覗かせようとしている。もうすぐ夜だ。夜戦になればこちらの砲撃も命中する。
しかし、夜まで持つだろうか。すでに3隻が沈没している。
「夜になりました。敵艦隊は速度を上げて接近してきています。夜戦です!我々も一気に近づくべきです。逃げても無駄ですから」
参謀長の声が弾む。
日が落ちて約20分、両艦隊の距離は10kmまで狭まった。今がチャンスだ。
「全艦、ウーツ級魔道戦艦に砲撃を集中せよ」
とブレンダスは興奮気味に命じた。あまりの絶望からか感覚がおかしくなっているのだ。
ミリシアル帝国は、夜戦でも敵弾はあたりっこないと思っているだろうが、グラ・バルカス帝国から訓練を受け、練度が跳ね上がっているムー国海軍にとって夜戦はお手の物である。
あっという間に至近弾や夾叉弾を与える。
遅れて放った「ラ・カサミ」の主砲弾が「オルナ」の艦載機カタパルトを破壊した。初弾から命中である。士気はかなり上がった。
しかし、個艦性能の差はどうしようもない。装甲部分には全くと言ってダメージを与えることができなかった。
数少ない被帽付き徹甲弾を使用しても、貫通など全くしない。これなら強烈な火薬を使った榴弾を撃ち込んだ方が良かったのではないか。
速力の落ちた「オルナ」に水柱が途切れないのではないかというほどの砲弾を浴びせていたが、それを見かねたゴールド級戦艦「ハルペー」が駆けつけてきた。お返しと言わんばかりに砲弾を放つ。いきなり斉射をしている。勝利は決まっているだろうに、あせっている。
結果、「ハルペー」の砲撃は2発で「ラ・カサミ」を大破させた。艦橋こそ無事であったが航行、戦闘共に封じられ、泣く泣く総員退艦を命じることとなった。
頼みにしていた戦艦が2隻ともなす術なく撃破されたことにより残存艦艇は、怖気付き、次々に潰走して行った。
残念ながら時間稼ぎは出来ず、ミリシアル艦隊は沿岸の防衛部隊を艦砲射撃で滅すると、揚陸準備を始めていった。
グラ・バルカス帝国が参戦を表明したのは夜が明けてからのことであった。
ちょっと小説の修行をしていました(上達したとは言っていない)
あと軍事の勉強も(上達ry)
ちょっと思い切って見ました。