バルチック艦隊召喚   作:伊168

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次でロシア帝国が活躍します!


神聖ミリシアル帝国の進撃

北部レイフォル海(ムー大陸北側の海域)にはそれまで地方艦隊のみが展開していた。この地方艦隊の総旗艦兼第1隊旗艦はアルジェント級戦艦(劣化版ニューメキシコ級)の「アルマス」で、第2隊の旗艦は小型空母の「フェイルノート」がつとめる。

戦艦がいるとは言え、これだけでは不十分と考えたのか、ミリシアル軍部は兼ねてより第一艦隊の派遣を計画していた。

しかし開戦予定日直前で第零魔道艦隊も派遣することが発表された。

これには実験的な側面があった。国防長官アグラはこの第零魔道艦隊が訓練を終えた際に、

 

「ついに我が国は世界最強から史上最強へと進化したのだ!」

 

と胸を張ってコメントしていたが、この艦隊、実戦経験は皆無であった。だからこそ実戦投入によって性能を測りたかったし、経験も付けてやりたかった。

しかし、第零魔道艦隊の追加によって作戦自体が変わることはなかった。無論、戦略も変わっていない。

作戦というのは、まず地方艦隊がグラ・バルカス帝国の警備艦艇を一掃し、北部レイフォル海を制圧する。その後第0艦隊、第1艦隊と共に反攻してくるであろうグラ・バルカス艦隊を撃滅する。そして、イルネティアやバガンダを解放して西部レイフォル海を制し、グラバルカス帝国領レイフォルとムーなどを分断、さらにグラ・バルカス帝国とロシア帝国との通商路も防ぐことになる。あとはグラ・バルカスの繰り出す艦隊をその都度撃滅しつつ物資が尽きるのを待つだけ、というものである。

グラ・バルカス帝国の艦艇の能力は詳しく分かっていないが、何とかなるであろう。そう言った驕慢があったからか、この戦略に異を唱えるものはいなかった。むしろ、

 

「剛毅果断の大戦略」

 

と褒めちぎった。

そして地方艦隊は予定通りに宣戦布告を受けたと同時に姿を現し、砲撃を開始した。

旧式駆逐艦として海上護衛総体に所属しているオーロラ級駆逐艦は39ノットの高速を生かして徹底抗戦を行なったが、不用意に接近してきたミリシアル帝国小型艦「アックスIII」を4番艦「シュペーラー」が撃沈しただけで、「シュペーラー」除いて全てが撃沈されてしまった。

哨戒艇や海防艦などは魔砲艦にすら回され、何もできなかった。生き残った水上艦は落ち武者のように逃げて行くほどの惨状である。

しかし、全ての軍艦が消え去った訳ではない。まだ潜水艦の「E25」が残っていた。

この艦は他とは違って旧式でも弱小でもない。万が一のために配備されていたのだ。あえて潜水艦にしたのは、大型の水上艦艇だと発見され、他国から非難される可能性があるので、それを避けるためである。

しかし、こうなった以上他国の目は気にしていられない。「E25」は潜望鏡に捉えた敵空母に接近していった。付近には小型艦が2隻、巡洋艦が1隻随伴しているが、この世界には厳つい古参下士官でも泣き叫ぶ爆雷が、潜水艦が存在しないため、存在しているはずがないので悠々と近づくことができる。

ある程度接近したところで、

 

「ヨシ、特製の酸素魚雷で仇を討つぞ!」

 

艦長の一声に従って水雷士達が慌ただしく動く。できるだけ速くしようという気持ちが表れているのだろう。

素早い作業のお陰で魚雷が発射されるまで大した時間はかからなかった。それは、目の前の小型空母の乗員らの寿命が縮まったとも言える。

雷跡が見えなければ水雷など一切知らないミリシアル艦隊は回避することなどできない。一撃必殺の酸素魚雷を前にして回避行動をする素振りすら見えなかった。

それどころか、乗組員たちはタバコを吸ったり紅茶を啜ったりしている。休憩時間のようだ。戦闘中、それも今、攻撃を受けようとしているのに休憩とは、お気楽なことである。彼らはこのまま何もわからずに死んでいくにだろう。それを考えるならば通常の魚雷を使わなくて良かったと思えてくる。

心の中でそっと手を合わせているうちに小型空母は数本の水柱に包まれ、消えて無くなった。さらに、目標を外れた魚雷がついでに後方の巡洋艦を撃破してくれた。

 

第2隊旗艦沈没の報告を受けた地方艦隊司令長官ケール中将は余りの不注意に怒ると共に、潜伏しているであろう敵水上艦艇を撃沈するため、追撃中にも関わらず僅かな小艦艇を残して反転、捜索にかかった。

巡洋艦が大破に追い込まれたため、重巡洋艦又は戦艦クラスが潜伏していると踏んだのである。

しかし、元から重巡洋艦など潜伏していないのだから海域を偵察機で埋め尽くしても見つかるはずがない。忽ちに地方艦隊は迷走してしまった。

さらに恥ずかしいことがあった。この迷走している地方艦隊の様子を、密かに「E25」から発艦していた小型水偵のカメラにバッチリ収められてしまったのである。

結局、地方艦隊は日が暮れかけるまで「E25」を発見することはできなかった。「E25」の船員は地方艦隊を迷子艦隊と嘲笑いながら戦果をこれから救援に来る第2艦隊に伝えた。

 

同 イルネティア島沖

 

イルネティア島を攻略中であった第1機動艦隊は東海岸艦隊をあっさり屠ったミリシアル帝国の艦隊が接近していることをグラ・バルカス帝国より知らされた。

艦隊司令長官のレイダーは安全の確保を最優先として、上陸部隊を収容した後に一時退避することを命じた。共同で防衛した方がいいのではないかという意見もあったが、自国の艦隊の保全を最優先にすべきという意見が強かったので、安全策に出たのである。

 

同 北部レイフォル海 西側

 

「遅かったか……」

 

第2艦隊司令長官カオニアは腕を組みながら呟いた。彼は表情一つ変えず、仁王立ちになっている。端然たるその姿からは並々ならぬ闘志を感じる。

第2艦隊は旧式戦艦揃いであるが、練度は高い。更にカオニア提督による月月火水木金金の猛訓練によって第1艦隊にひけを取らないほど強力になっている。

戦艦はヘルクレス型戦艦「ラス・アルゲティ」「スメルトリオス」、ケンタウルス型戦艦(扶桑型もどき)3隻、サザンクロス型戦艦(日向型もどき)3隻で構成されている。

神聖ミリシアル帝国軍の編成によっては勝利は難しくなるかもしれないが、軍令部はここまでしか許してくれなかった。この第2艦隊だって部隊の一部は残してきてある。しかも、全力出撃が禁止されただけでなく連合艦隊司令長官の口から伝えてもらっていた空母の随伴についても許可されなかった。

軍令部の無能ぶりを参謀達が心の中で非難しているうちにすっかり見窄らしくなった警備艦らを発見した。彼女らを一目見たカオニア中将は、

 

「海上護衛総隊に申し訳ない」

 

と頭を下げて言った。しかし、勇猛果敢な彼がいつまでもシンミリとしているわけがない。すぐに姿勢を整えて暗然とした海面を見渡す。目視よりレーダーの方が先に発見するに決まっているのだが外が見えるというのは安心感がある。

 

この海上護衛総隊の艦艇を屠り去った敵艦隊を見つけるまで大した時間は要さない。敵艦隊にいち早く接近するため各艦は速力をあげる。鈍足とされるケンタウルス級やサザンクロス級は改装によって速力が上がっているので、艦隊の速度は24kntもあった。おそらく、これが最高だろう。

 

「敵艦隊の速力、17knt。進路は2-7-0のようです。編成は戦艦1、重巡洋艦2、軽巡洋艦4、駆逐艦7、砲艦4。また、相対速度両艦隊の距離は一時間あたり80km以上は狭まることになります。砲撃はもうすぐでしょう」

 

参謀達が敵艦隊の分析を始める。17kntということは敵の艦艇に酷く鈍足なものがいるのだろう。きっと、それは旧式のはずだ。今回の敵艦隊は大したことないのかもしれない。

第2艦隊の進出が素早かったことと敵艦隊がたまたま北部レイフォル海西方を迷走していたため、両艦隊はすぐに会敵することとなった。

 

当初は敵艦隊の針路からすぐに離れることになるだろうと思われていたが、何を血迷ったか劣勢な筈の敵艦隊が大きく変針し、接近してきたのである。

 

「敵艦隊変針しました。同航戦に移ります」

 

報告を聞いたカオニア長官は不思議に思って、顎に手を当てた。戦艦だけでも8対1。勝ち目など無いのに同航戦に移るなど自殺行為ではないか。

 

「各員、猛訓練の成果を見せよ!」

 

兎に角、攻撃せねばいけない。カオニア長官は部下達を激励すると、敵戦艦に対して砲撃を命じた。

まだ距離があるので、光学測距は上手くいかない。レーダーのみの射撃になるが。これがなかなか難しい。夾叉弾まで少し待たねばならんだろうと猛訓練を命じたカオニア長官ですら思っていたが、何と欠陥戦艦とバカにされ続けて来た「ケンタウルス」が二発目で夾叉弾を与えたのだ。そういえば、この艦は訓練の時、どの戦艦より身が入っていて成績も最優秀であった。猛訓練の賜物だ。カオニア長官が部下に気狂いだの人殺しだの言われても遠慮なく猛訓練を行なったのは全てこのためであった。

 

「ケンタウルス」の交互射撃が次々と敵艦の間近に落ちる。この機を逃す手はない。12門もの砲から放たれる35.6サンチ砲の巻き上げる水柱が敵戦艦の姿を隠した。波が晴れると敵敵艦の一部が燃え上がっていた。命中弾を得たのである。単純に距離が近づいたことや、この火災が目印になったことで他の艦はより信頼性のある砲撃を行えるようになった。

忽ちに「ラス・アルゲティ」の砲撃が敵艦に命中した。40.6サンチ砲の威力は大きく、敵戦艦の砲撃が下火になる程であった。砲塔のどこかを使用不能にしたのだろう。敵戦艦は機関も損傷しているようで速力が黎明期の装甲艦かと勘違いするほどに遅くなっている。まるで亀である。

以後も多数の砲弾が敵戦艦を打ち付け、「アルゲバル」の砲撃が命中した時、敵戦艦は弾薬庫で大爆発を起こし、沈没した。

第一の目標が沈没したので、20隻の駆逐艦は敵重巡目掛けて魚雷を放った。水雷を知らないせいで、彼らは水中に対する守りがされていなかったのだろう。横っ腹を見せつけるようにしたまま味方重巡に並走していたので簡単に被雷し、沈没していった。重巡ですらこの体たらくであるから、軽巡や砲艦、駆逐艦はお話にならないレベルである。どうしようもなくなった敵軍は誇りも羞恥心も捨て、我先に遁走していった。

 

これは、グラ・バルカスの戦艦などムーにも劣る。というミリシアル帝国の認識不足による敗北であった。もし、グラ・バルカスの実力を知っていたなら一旦、主力艦隊と合流しただろう。

しかし、この認識不足は仕方ない部分もある。レイフォルで活躍したとされる戦艦「グレードアトラスター」についての情報をミリシアルは集めていた。結果、グラ・バルカスの宣伝部から面白いほど情報が発掘できてしまった。だが、この情報が問題であった。そこに書いてあった戦艦の内容はムーやムーより一段上の国家でも建造不可能なレベル(特に艦載砲や重量)だったのである。だからミルシアル帝国は、技術力が低いからこのようなバレバレの嘘をつくのだと予想し、結果としてムー未満であると認識したのである。また、ムー国戦艦の砲撃は東海岸海戦で既に効かないことが証明されているので一隻で挑んだのだ。

 

 

地方艦隊との連絡が取れなくなったと報告を受けた第1艦隊司令長官レッタル・カウランは思った以上にグラ・バルカス帝国の戦艦が強力であったことに驚いた。旧式とは言え35.6サンチ砲を搭載した戦艦で、ムー国ですら手も足も出ないだろうと言われていた。それが撃沈されたのだから敵艦隊は少なくとも35.6か34.3サンチ砲戦艦なのだろう。だとしたら第1艦隊だけでは不安である。レッタル・カウラン中将は第零魔道艦隊旗艦との連絡用に使う電話の受話器を取った。

 

「バッティスタ提督、貴艦隊には我が艦隊と合流し、敵艦隊に当たって欲しい」

 

彼は虎の子の第零魔導艦隊を指揮するバッティスタ中将に援助を乞うたのだ。プライドからか、多少不利でも抗戦すべきだと主張する参謀もあったが、カウラン中将はプライドよりも勝つことを優先していたので、平然と協力を要請したのである。

さて、この要請を受話器の向こう側の相手は快諾した。これには理由があった。

バッティスタ提督は何としてでも第零魔道艦隊に戦果を挙げて欲しかったのである。指揮官になった誰もが思うことであろうが、彼はその想いが頭一つ抜けていた。これは、彼の高い攻撃精神だけではない。第零魔道艦隊の評判からも来ていた。

実はこの艦隊、他の艦隊の者たちから「マグドラホテル街」と渾名されていたのだ。ほかの艦隊と違って、遠方に行ったことは無く、海賊討伐の経験もない。マグドラ群島に篭りっきりで特別扱いされていたこの艦隊をホテル街呼ばわりするのは仕方がない。しかし、バッティスタにとって主力艦隊のみならず非力な地方艦隊にまで軽んじられることは堪忍できぬことであった。それは、彼にとってこの艦隊と乗組員達は家族同然であるからだ。

こうして、両艦隊は第1艦隊が第零艦隊を守るような体系を組んだ。また、両提督が砲撃戦で決戦を行う(夜間であったため)事を決めたので、空母は最小限の護衛艦艇を加えて待機させることにした。

 

接近してくる神聖ミリシアル帝国の艦隊を第2艦隊はあっさり捕捉した。数の上では自軍を10隻ほど上回り、脅威ではあるが、戦艦の比率は5対8と第2艦隊が優位に立っているほか、カオニア提督の吶喊精神、ここで引いてしまっては後方のムー国艦隊やバガンダ島などの守備隊が危機に晒される危険があることなどから真っ向から受けて立つことにした。

神聖ミリシアル帝国がグラ・バルカス帝国の戦力を全く理解していないようにグラ・バルカス帝国も神聖ミリシアル帝国の実力を理解していない。先ほどの戦闘からミリシアル帝国の戦艦はケンタウルス型にも劣るものだと勝手に断定しているところがあった。

 

ミリシアル帝国とグラ・バルカス帝国の艦隊は距離30000mで砲撃を開始した。両艦隊の戦艦は全てレーダー射撃ができるが、大して当たるものではない。

バッティスタ提督は光学測距を可能にするために麾下の艦隊に左側に大きく変針することを命じた。しかし、この命令はバッティスタ提督の思いつきでしかなかったため、カウラン提督が予想しているはずがない。第一艦隊は付いていけず、両艦隊の体形は大きく乱れてしまった。

 

敵艦隊の乱れに気付いた第2艦隊では、

「目標敵一番艦」

という命令が下された。同時に、敵艦隊から少し離れるように少し左側に針路を取った。これは、出来るだけ相対速度を減らして命中率を挙げるための行動である。

しかし、駆逐艦だけは敵艦隊に接近する動きを見せていた。理由は簡単、雷撃だ。もっとも、まだ敵の小艦艇が多く、目標もはっきり見えていないので命中は困難である。今はその準備をしているところだ。

重巡部隊は敵重巡にある程度接近しつつ砲撃を続けているが、これといって戦果はない。 

第2艦隊司令長官カオニアはただ海を貫くだけの敵砲弾を眺めながら、  

 

「勝負は2万キロをきってからだろう」

 

と微笑みながら言った。

 

「敵艦隊に一泡ふかせてやりましょう」

 

歴戦の参謀バーツも目を大きく見開いて景気のいい言葉を投げ掛ける。

敵艦隊の一部はこちらに猛進してきている。命中弾が出るのもそう先の話ではないだろう。どちらが先に一撃を与えるかに勝負はかかっている。そのせいか、各員はより一層まじめな顔になる。

誰も彼もベテラン兵士のように見える。彼らならきっとやってくれるはずだとカオニアは頼もしげな兵士たちを見ながら、心の中で彼らを激励した。

 

両艦隊が無駄に砲弾を海に捨てる中、ついに「ケンタウルス」が敵に命中弾を与えた。貫通はしないだろうが、先に一撃を与えたことから士気は自ずと上がる。

「ケンタウルス」の交互射撃は正確で、さらに2発の命中を得た。しかし、敵の砲声は止むどころか激しさを増している。天に向かって唾を吐くかのように手応えがない。

 

「この艦では勝てない……」

 

「ケンタウルス」の艦長は部下に気付かれないよう呟いた。

だが、まだ負けたわけではない。「ラス・アルゲティ」の一撃が敵艦をとらえれば貫通は用意であろう。諦めてはいけないのだ。

 

 

「バカどもが! 全く効いておらんぞ!」

 

第零魔導艦隊旗艦「コールブラント」の艦橋でバッティスタは腕組みをしながら叫ぶ。彼の罵声につられて他の船員たちも狂ったように罵った。

 

その時、彼らの眼前で大きな爆発が起こった。「ケンタウルス」の砲弾が命中したのだ。何やら慌てた兵士が艦橋に走り込み、艦長に被害を伝える。

派手な爆発であったので流石のバッティスタも顔を少し青くして、

 

「艦長、現在の被害状況は?」

 

「機銃数挺、航空機カタパルト一基の破壊。及び第2主砲塔が旋回不能です」

 

「そうか……」

 

主砲が三基のみのミスリル級にとって主砲一基の旋回不能はかなりの損害である。敵艦の練度はかなり高いようだ。

バッティスタは喉の奥で軽く唸った。こうでなくては面白くないではないか。彼は強力な敵との遭遇に興奮した。ついにマグドラ群島という檻から解き放たれた魔獣のごとくである第零魔導艦隊の本領を発揮することができるのだから。

バッティスタは手を握りしめた。絶対に勝ってやる--。彼の闘志に船員たちが勇気付けられた時、突如、彼方が微かに光った。敵艦に砲弾が命中したのである。これを見たバッティスタは拳を振り上げて、

 

「よし! このまま漁礁に変えてやれ!」

 

と唾を吐きながら言った。ちょうどその時、次の斉射が行われた。そして、海面に光が灯るまでそれほど時間を要さなかった。

 

 

「戦艦『スメルトリオス』被弾二! 第三砲塔付近で火災発生! 被害によっては 弾薬庫誘爆の可能性もあり!」

 

カオニア長官のもとに乗員の悲痛な報告が入る。「スメルトリオス」は40センチ砲戦艦であるので、滅多なことでは沈まないだろうが、火災発生ということは敵艦の多くが狙うはずだ。36センチや38センチの砲弾でも、連べ打ちにされれば耐え得るかわからない。このまま第三砲塔に命中すれば爆沈の可能性もある。ここで脱落すれば大きな損失になるだろう。

誰もが「スメルトリオス」に注目を集める中、ふと長官の顔が微かに照らされた。数分と経たない内に再び長官の顔が照らされる。

 

「長官、敵弾が近づいてきています。危険です」

 

部下の一人が長官を覗き窓から離れるように進言したが、

 

「いや、なるべく間近で見たいんだ。このままでいい」

 

とかぶりを振った。その勇気に押されたのか、先任参謀が長官の元へ寄って行った。その時、「ラス・アルゲティ」の船体が大きく揺れた。敵砲弾がついに命中したのだ。カオニア長官は元々踏ん張っていたのか微動だにしなかったが、先任参謀は倒れ、

 

「ウギャッ」

 

と言うと伸びてしまった。強く頭をうったらしい。

さらに悪いことが起こる。「サザンクロス」の後部に敵砲弾が立て続けに命中したのだ。そのせいで、同艦の後部砲塔は全て使いものにならなくなってしまった。

さらに、運命の糸に導かれるようにサザンクロス型二番艦の「アクルックス」も後部甲板に重大な損傷を起こした。ものの十数分のうちに三隻ものの戦艦が戦闘能力を大きく低下させたのだ。不運としか言いようがない。にも関わらず長官は暗い顔一つしない。むしろ、その逆だ。

 

「長官、敵は38センチ砲戦艦かと思われます。現状では不利です」

 

参謀長バーツが一時撤退を進言しようとした時である。

 

「灯台下暗しだよ」

 

長官は微かに笑うと、ボソリと言った。参謀長らは長官が何を言いたいのかよくわからなかった。あまりの惨状に狂ったのではないかと思うものもあった。だが、彼らはすぐにその意味を知ることになる。

第2艦隊麾下の駆逐隊はすでに敵艦隊に接近していたのだ。

 

「痛いのをぶっ食らわせてやれ!」

 

駆逐隊の司令が叫ぶ。同時に酸素魚雷が放たれた。魚雷は前方の敵戦艦2隻に数本が命中し、小型艦も幾らかが真っ二つに割れていた。やっと存在に気づいたらしい敵艦隊が砲撃を浴びせてくるが、もう彼らに用はないのだ。駆逐隊は全速力で離れていく。無論、撃沈された艦がないわけではないが、戦果に比べて被害は小さかった。

 

さらに、前方の敵艦隊のどの艦艇にも命中しなかった魚雷の幾らかは、第零艦隊から突き放され、遥か後方にいた第一艦隊の各艦艇に命中。ゴールド級戦艦「ティソン」に2本、重巡洋艦1隻に1本、小型艦「イー」に4本命中し、それぞれ撃沈破又は中破した。

訳の分からない攻撃に周章狼狽したか、カウランは無駄に魔素強化を命じた。この偶然により第2艦隊の損害は減ったと言えるだろう。

 

しかし、第零魔導艦隊は勇猛果敢で、大きな損害を受けておきながら可能な限り砲撃を行い、「サザンクロス」「アクルックス」「ケンタウルス」が大破に追い込まれる程の損害を受けた。しかし、敵艦隊も第2艦隊の猛烈な砲撃を受け、損害を中破に留めていた「コールブラント」も大破し、重巡洋艦1隻が大破、魔砲艦1隻が沈没する大損害を負ったのである。

この吐血マラソンとも言える大激戦はカオニア艦隊の突然の撤退によって幕を閉じた。空母がいなかったため、敵空母からの爆撃を恐れて止む無く撤退したのだ。一応、逆てるてる坊主を長官自ら作成するなど最善を尽くしていたのだが、どうにもならなかったか。

かくして第2艦隊は敗残兵のようにアンタレス艦上戦闘機の航続距離まで撤退した。一応、基地の航空隊からはアンタレスによる直掩を許可されていたのだ。だが、ここで一つ問題が発生した。基地側の不具合により派遣が遅れたのだ。この間に敵航空機が来たら、ほぼ確実に戦艦のどれかが沈没する。中には基地司令官の名を言って、酷く罵るものもあった。だが、長官は依然として黙っている。

果たして、敵航空隊が来ることはなかったが、船員にとっては寿命が10年ほど縮む出来事であった。

敵が航空機を出してこなかったことには理由があった。

第零魔導艦隊司令長官のバッティスタはこのままでは割に合わぬと、

 

「敵を追撃すべきだ」

 

と主張したのだ。尖った口調で喉も枯れそうな勢いでカウラン中将にまくし立てた。だが中将は、

 

「いや、無事な艦だけで攻撃しても数が足りない。返り討ちに合うだけだ。辞めておこう。折角の海図を使えないのは残念だが、今夜は我々の夜ではなかったのだ」

 

これを聞いたバッティスタは激怒して、

 

「俺はそんなことを言っているんじゃない! 航空機だ。航空機を使うんだ。手負いの戦艦一隻ぐらいは屠れるだろう。そうすれば敵の被害の方が大きくなる。多少の損害は承知の上だ。発艦命令を出してくれ」

 

「だめだ。よく考えてくれ、なぜあのタイミングで奴らは撤退したのか。戦いは奴らが優位に立っていた。きっと何か準備をしているはずだ。それに、これ以上損害を出すわけにはいかん」

 

とカウラン中将は何を言われても冷たく突っぱねていった。結局、バッティスタ提督も根負けし、航空攻撃は起こらず、両艦隊は撤退することとなった。両提督は、それぞれの艦橋の壁にポツンと貼られた海図を眺めながら軽く俯いた。この海図は敵輸送船を海賊と誤認したと偽って撃沈した時--独自調査の際にこっそり盗んだもののコピーだ。グラ・バルカスの方はかなり詳しくできており、これがどう役立つかたのしみにしていたが、仕方あるまい。一応、レイフォル海の敵戦力は一掃したのだ。また、次があればその時こそは彼らを地獄に導いてくれるだろう。

 

 

 




原作ではカオニアさんは第1打撃軍艦隊司令官ですが、今作では第2艦隊司令長官としました。
web版と名称や名前が違うものは、書籍版の記述を反映したものです。

両艦隊まとめ(全ての艦艇が戦った訳ではない)

・神聖ミリシアル帝国主力艦隊(戦艦5、双胴空母2、重巡6、砲艦11、小型艦28)
・同 地方艦隊(旧式戦艦1、小型空母1、重巡2、軽巡5、砲艦7、小型艦10)

・被害
旧式戦艦1、小型空母1、重巡2沈没、軽巡4、砲艦8、小型艦14沈没。軽巡1自沈。戦艦3、重巡2大破。戦艦1、重巡1、砲艦1、小型艦2中破、小破多数。

・グラ・バルカス帝国第二艦隊(戦艦2、旧式戦艦6、重巡8、駆逐艦20)
・同、警備艦隊及び海上護衛総体(駆逐艦4、哨戒艇10、海防艦10、駆潜艇14、潜水艦1)

・被害
駆逐艦5、哨戒艇7、海防艦5、駆潜艇11沈没。旧式戦艦3、海防艦2大破。戦艦2、重巡1中破。小破多数。
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