バルチック艦隊召喚   作:伊168

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エジェイ近郊の攻防戦

1905年5月29日 フィルアデス大陸南部、宮殿

 

「ポクトアールよ、面をあげよ」

 

広い宮殿の一室--にしてはかなり広い、舞踏会でもできそうな部屋で、東洋艦隊司令長官ポクトアールはこの大陸の大半を占める国家の元首--皇帝に戦果報告を行うところであった。

 

「はっ、我が監査軍東洋艦隊は遠洋での演習において、国籍不明戦2隻により、訓練の妨害を受けたばかりか、停船勧告をされました。余りにも傲慢な行為、更に敵艦隊が衝角攻撃をする為か、そのまま10ノット前後で突進して来た為、砲撃を行いました。恐れ慄いた敵は反転、その隙を我が砲弾は付き、一隻を炎上、もう一隻を中破させました。反撃なく、敵は逃げるのみであったため両方とも戦闘力を喪失しているのでしょう」

 

皇帝は2隻撃破確定と聞いて満足げに、

 

「見事、皇国の威信をしめしたな。余も嬉しく思うぞ」

 

と褒め称えた。ポクトアールは一層頭を下げて、

 

「陛下にお誉めいただけるとは……有難き幸せ……そ、その……言い忘れておりましたが国籍不明船の掲げていた国旗らしき者も奪い取りましてございます」

 

と途切れ途切れ、心底歓喜した。

 

「ではその旗は第3外務局のカイオスの方に渡しておけ。また、今回の戦功に基づき、ポクトアールを海軍大将に昇格、主力艦隊所属第四艦隊司令長官に任ずる」

 

「ハハッー! 有難き幸せ……」

 

破格の昇進にポクトアールは今にでも小躍りしたいほどに狂喜し、額を床にゴリゴリ押し付けて皇帝に感謝した。

 

1905年5月 ロデニウス大陸北東部

 

「間諜によるとこの間のロデニウス沖事件(ロシア帝国? 側公称バタン沖海戦)によりロウリア陸軍の増援及び補給は中止となった模様。また、補給切れのためかエジェイ近郊に布陣していたロウリア陸軍のうち半分が撤退中の模様。よって公国陸軍はエジェイへ臨時兵力一万の派遣を決定しました」

 

ここはクワ・トイネ公国。バルチック艦隊と衝突したロウリア王国による侵攻を受けており、前線のギムは落とされ、騎士団長モイジ含め捕虜は皆殺し、虐殺や強姦、略奪が横行した。その後、城塞都市エジェイも攻撃を受けた。防衛兵力は3割近く減少していたが、何とか助かったようである。首都クワ・トイネにおいて首相以下の政治家、軍人共に胸を撫で下ろした。

 

 

1905年5月 エジェイ近郊

 

 

撤退中のロウリア陸軍3万は脇には森林が広がり、前には馬蹄に踏み荒らされた広い道が通った名もない地に差しかかろうとしていた。侵攻軍の司令官と副将との距離が異常に近い。本来なら万一に備えて副将と主将は離しておくことが多い。少なくとも隣り合わせにはしない。

この地の木々の一本一本が見えるようになったころ、主将のパンドールは副将のアデムと軽く走りながら何気ない会話をしていた。

 

「それにしても昨日の飯は不味かったな」

 

「私は美味しく頂けましたけどねえ」

 

「ハハ……すごいな。ところで君、私は戻ったら王都でゆっくり寝るつもりなのだが……きみは何をするのだね?」

 

「一旦都の東に赴いて、雑草を摘んできます。それから、首都に戻ります」

 

「そうか。ご苦労」

 

パンドールが大袈裟に瞬きをするとアデムは突然、脇の森林地帯に逸れた。後ろの者たちもそれに続き、およそ8000の兵士が集まるまでになった。

アデム隊は森林地帯で反転すると、そのままエジェイを目指した。上空のワイバーンもギリギリの高度まで飛んでから、60騎がターンし、これまたエジェイに向かった。

この(公国からしたら)ふざけているとしか思えない不可解な反転。これが後に「パンドールターン」と称されるようになるとは誰が予想しただろうか。

 

 

1905年5月28日 ダイタル平野

 

 

「アデム将軍!前方4キロの地点にクワ・トイネ歩兵7000、騎兵500を発見! 」

技術的に正確な情報は出せないため、派遣兵力よりも少なく報告されているが、正直言って、7000だろうが10000だろうが彼らにとってはどうでも良いのだ。ただでさえ貧弱なクワ・トイネ兵である。それだけでなく、聞くに今回の派遣兵士は臨時徴兵で、練度もクソもない烏合の衆だという。

はっきり言って負ける要素がないではないか。

 

「攻撃しましょう」

 

アデムはそう命令した。だが、本来この一万ごときの弱小兵、無視してもいい筈である。周囲の者たちは、迂回して無視しましょうと助言したが、

 

「私は、亜人が大嫌いなのです。あの中に亜人がいないと証明できるなら迂回しましょう」

 

と言い返されたので、誰にも反証の余地がない。結果的に攻撃することになった。

先ず、指示通りにワイバーン60騎が先制攻撃を加えに向かった。

 

「敵、ワイバーン二騎。第三中隊は攻撃に向かえ」

 

隊長のアルデバランからすぐ様命令が飛ぶ。敵を見て即座に如何程送れば良いか計算したのだろう。その速さは算盤の如きであった。

 

「了解」

 

中隊も素早く隊を整えて、一気に速度を上げ、接近した。不意を突かれたクワ・トイネ竜騎士は身構える暇もなく火だるまにされる。残りの隊は急降下し、歩兵や騎兵に一気に火炎を浴びせる。焼けた兵士らは、狂ったように踊りながら、命を落として行く。

「雨よ降れ」

と必死に雨乞いをするものも居るが、ロウリア竜騎兵隊は憫笑しつつ、火炎弾を浴びせて行った。

 

竜騎兵が去ると、次は騎馬隊が突撃して来た。指揮系統は崩壊し、生存本能に頼るしかなかった彼らに高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処することは不可能である。砂塵が失せると、何十もの死体が寂しく路傍の石のように転がっている。悪魔の囁きのような馬蹄の音が聞こえると蛇に睨まれた蛙のようにクワ・トイネ兵は硬直し、流れ作業のように殺されて行くのだ。

完全に四分五裂となった派遣部隊は一部を除いて続々と降伏した。

だが、降伏した者にこそ不幸が待っていた。彼らはアデムが指揮を執っていることを知らなかったのだ。

アデムはヒヒヒと笑うと、さも当然のように、

 

「地面の下で眠ってもらいましょうか……ヒヒヒ」

 

と、死刑を命じた。

 

ダイタル平野会戦はロウリア側戦死者30名足らず、クワ・トイネ側戦死者は3000人余り、降伏した6000人も皆生き埋めにされた。

このことは生存者により伝えられ、公国では、

 

「鬼畜パンドール、皆殺しのアデム。絶対に殺すべし!」

 

と喧伝されるに至った。

また同時にクワ・トイネ政府は首都決戦の可能性ありとして常備兵1万と臨時兵3万の計4万を首都防衛に用意した。

 




召喚されるのが遅すぎたんや……
この世界線でもアデムはアデムだった……。
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