1905年6月10日深夜 エジェイ
戦闘の度に地面を掘り返していたこともあって、作業はある程度楽かと思われたが、連隊のみではとても間に合いそうになかった。両将軍は焦ることなく他の工兵も動員し、一挙に掘らせた。そうすると、分担が上手くいったこともあり、先ほどまでより圧倒的に早く道ができていく。
「閣下!第1、第2の道はなんとか完成しそうです」
この寒い中、軍服をぐっしょり濡らした下士官が報告して来る。
「報告ありがとう。では、第1、第2決死隊に突撃命令を出せ」
パンドールは自信を持って言う。だが、
「いいえ、その2路からではそれほど多くの兵力を一気に入れることはできません!もう少し待ちましょう!」
とスマークが反駁する。
「スマーク将軍、私は彼らに幾度も幾度も戦略的、戦術的勝利を味あわせて来た。そして戦略的、戦術的敗北も体験させた。奴らは列強の正規兵に劣らぬ程、機を見る力を付けている。私の思った通りにやってくれるはずだ」
パンドールがニヤリと笑う。スマークは内心、それは希望的観測とあまり変わらなく、失敗すればどうするのだと思ったが、これ以上反論すれば、士気に関わると思い、グッと堪えた。
「異論はないな……第1、第2決死隊進め!」
突如暗闇から百を超える白い線が見え始めた。彼らは、区別のために白いハチマキを巻いていた。声を上げず、息を吸う音すら聞こえぬほど粛々とした行軍。列強の歩兵隊にも勝る見事な統率である。
城内に入った決死隊は、城内の至る所に火をつけ、大声で、
「裏切りだ!」
と叫んだ。一部のものは居眠りしていた門番を殺し、門を開けた。すると、待ち構えていたスマークの騎兵隊がドっと城内に高山の雪崩のように躍り入った。彼らは駆けつけた歩兵らを瞬時に蹴散らし、圧倒的な強さを見せる。城外のパンドールらも、城内に突入した。
だが、彼らはそれ以上積極的に攻撃しなかった。パンドールが狂ったのではない。裏切りと聞かされ、さらに燃え盛る城を見たクワ・トイネ兵らの判断力は赤子の如くとなり、同士討ちを繰り返し、その同士討ちにより更に裏切りが信憑性を帯び、同士討ちが激しくなるという悪循環に陥っている。
そこに態々突撃する必要があるだろうか? その必要はないだろう。勝手に壊滅してくれるのだから。
だが、決死隊にはまだ仕事があった。ワイバーンの無力化である。そのため、彼らはワイバーンの飼育小屋に取り付き、釘で入れないようにすると周囲にも火をかけた。
火は追風を受けて、市街地まで燃え広がる。堅固を誇るエジェイも今や悽愴。言葉も出ないほどに何もかもが灰塵に帰した。
エジェイの司令官は焼死し、竜騎士団団長イーネなどの竜騎士団も悉く捕縛され、エジェイの戦力は完全に失われた。焦土作戦や夜襲による焼き討ちなど善戦していたエジェイ軍もここに壊滅した。焦土作戦のお陰で撤退したパンドール隊を追撃した時、夜襲による焼き討ちにより撤退したパンドール隊を追撃した時に追撃隊司令官が全て討ち取られていたのもあって、四方に散ったエジェイ軍を纏める人間はいない。そのため、生き残った者は悉く降伏する。全くの大勝利である。
この戦いでロウリア軍は通常部隊400人が死傷、死傷決死隊は3000人のうち、1200人が死傷した。だが、エジェイ軍は司令官が戦死、ワイバーンは全て焼死、戦死者22000人、捕虜7000人以上もの有史以来の大損害を出すこととなった。本国に帰ったものは50人足らず。クワ・トイネの民を恐怖の坩堝に投じるには大きすぎる出来事である。
上がる勝鬨を聞いたパンドールにはそれが、クワ・トイネ崩壊の鐘の音に聞こえた。
短くてすみません。
もうすぐロシアが参戦するのでご安心を!