1905年6月11日 クワ・トイネ
エジェイの陥落の翌日、この朝、ロウリア軍の諸侯軍が首都に突如攻撃を仕掛けた。戦力の少ないクワ・トイネなど一飲みと思ったか、パンドールに戦果を総取りされることに焦ったか、単調な力攻めであった。
だが、クワ・トイネ軍の兵力は予想の倍以上もいたのだ。何故か? それは、エジェイでの火攻めによって民間人数万が巻き込まれており、ロウリア軍に慈悲はない、戦えば生、退けば死であると政府が発表したのである。その効果は抜群で畑から取れたかのように兵が集まった。
農民であるが、体力があり、数を活かして弓で弾幕を張れば戦力になるほどである。ロウリア軍は散々に敗れた。
司令官ジューンフィルアは、
「クワ・トイネでは畑から人が取れる」
と言い残して戦死した。
クワ・トイネ軍も一万近く死傷したがロウリア軍はその5倍近く被害を出した。開戦以来の大敗北である。
そのため、ロウリア軍の進軍は遅れることとなった。
この圧勝はロウリア軍の慢心と焦りだけでなく、エジェイの戦略的価値の低さ(閉じ込めておけばそれで良いなど)から首都の守りを固める方針を軍が取ったことも理由の一つである。
だが、エジェイに釘付けにしていたロウリア主力軍を相手にすることが出来るのかと問われれば半々というほかない。そのため、陸軍は来たる第二次首都防衛戦のための対策や図上演習に忙殺されることとなった。
1905年6月11日 マイハーク港
周囲の帆船よりも一際大きい黒い巨艦がマイハークの人々を釘付けにしていた。
その巨艦とは遭難している駆逐艦「ブイヌイ」である。
「ブイヌイ」の乗員は取り敢えず友好そうな現地人であることに安堵し、笑いながら手を振って現地人の歓声に応えた。
1905年6月12日
「『〈ペテルブルク〉ヨリ報告。ワレ停泊中の駆逐艦を発見セリ』」
「ついにやったか!」
ネボガトフ少将はガッツポーズをして歓喜した。乗組らももう少しで帰れると思い、騒ぎに騒いだ。
まだ、「ブイヌイ」とは言われていないが彼らの勘が「ブイヌイ」であると言っている。或いはそうでないとサボタージュが起きるので「ブイヌイ」であると願っているだけかも知れないが。
そんな心配も杞憂に終わり、間も無く、それが「ブイヌイ」であると報告が入った時には彼らは甲板に躍り出て転げ回るほどに喜んだ。
暫く行くと、確かに港と駆逐艦が見えた。どうやらここにも文明があるようだ。この間のバタン沖海戦で散々に倒した国の者でなければ良いが。とネボガドフなどは思った。
「ブイヌイ」艦上から乗員がこちらへ手を振っている。こちらは旗を振って上げる。こちらが味方だと確信した彼らは落とした財布が戻ってきた時のように大喜びしている。
ああ、すぐに石炭をあげるぞ--ネボガドフは心で言った。ネボガドフの心は今平安である。
「長官!分け与える石炭が足りません!」
平安が地獄に一瞬で塗り替えられる。クロッツ中佐に悪意はないだろうが、彼の言葉で一気に天国から地獄へ落とされたので今にも裸足でもいいから逃げ出したい気持ちになってしまう。
「なんとかならんか?」
「ダメです! ですから『ブイヌイ』は……」
中佐の苦悶に満ち満ちた表情を見て、彼の言いたいことを察したネボガドフはただ、
「ならん!」
と一喝。中佐は驚いてずいと下がると、
「対策を考えます」
と言って出て行った。その背中を見て少将は言い過ぎたと申し訳ない気持ちになる。だが、あれを自沈されるなどできない。燃料がないだけ何だから。これを認めるというのは、勿体なさすぎると思っていた。駆逐艦ならば現地調達でもなんとかなるはずだ。
ネボガトフはどこから調達しようか深く考え込んだ。顎髭に手を添え、ううんと唸る。何も知らない土地ではこういうことに関して、即決は難しい。もっと時間が欲しい……今なら取れるか--
「前方の上空に黒点120!」
希望は打ち破られた。この数への対応、すぐに終わるものか。そもそもこのタイミングでなぜ来たのだと少将はついつい苛立ってしまう。
だが、対応が先だ。
「対空戦闘用意!」
乗員が次々と甲板へ出て行く。彼らも疲れ果てている……ネボガトフの予想はいい方に裏切られた。
テキパキとした準備、この間より台が整っている。誰も不平不満を言わない。まるで中の人だけ変えられたような変わりようだ。何があったのだ--少将の問いへの答えはすぐに出た。
甲板上の彼らからは並々ならぬ殺意が垣間見えた。一匹も残さぬつもりなのだろう。
エジェイを落とした主力軍からワイバーンが追加され、120もの竜騎士を抱えるアデム隊は首都を攻撃すると見せかけてこのマイハークを攻撃しようとしていた。
そして、今日それが開始されたのだ。アルデバラン隊が都市部をを支援隊が港湾付近を焼き尽くすこれがワイバーン攻撃での計画であった。
アルデバランは即座に命令を下したため、80の騎兵は一糸乱れず都市部へ突撃した。だが、指示が遅れた支援部隊は各自が好き勝手に動き、目の前の目のつく巨大艦に急降下をした。支援隊長も皆がそこに突撃するので従うしかなかった。
対空兵器など無いも同然の「ブイヌイ」は一方的に火球を喰らい、木造部分や調度品が次々に発火していく。
離脱した数十騎は前方に新たな巨大艦を認めた。勇猛果敢な彼らはあれもやってやろうと後退など知らないかの如く突撃をする。だが、それが不幸であった。
雑な者であるが、対空兵器をつけていた第三太平洋艦隊と義勇艦隊の戦闘艦7隻は「ブイヌイ」の分のお返しだと言って罵りながら一斉に砲火を打ち上げた。急降下するワイバーンが面白いほどに落ちて行く。ロシア兵の異常な気迫に気後れしているのか、「ブイヌイ」の時に比べて随分と元気がない。だが、そんなこと御構い無しに乗組は激しくワイバーンを撃ちまくる。殺気立った彼らも今や劇薬を飲んだように快楽に満ちた表情になっていく。
だが、砲火は止むことなどない。ワイバーンの首を貫かれ、腹を破かれる騎士、47ミリを喰らい、木っ端微塵となって海中にパラパラと落ちて行く者、我が軍の砲撃は余りにも一方的すぎるではないか。
40騎の喪失を聞いたアルデバランは念のために攻撃を中断し、帰陣した。第三太平洋艦隊の鬼神にも勝る戦いは都市部まで救ったのだ。
だが、マイハークは手薄だと読んでいるアデムは陸上戦の準備を始めた。40の騎士は、攻撃に精一杯で纏まりのある報告など来なかった。そのため、アデムは退かずに攻撃をしようとしていたのだ。
次回、艦砲射撃!