CV田村ゆかりが好きだったから篠ノ之束に近づいたら、彼女の事をガチで好きになってしまい一緒に世界征服をしたバカな俺のお話です   作:なろうネーム_バノウォッチ

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CV田村ゆかりが好きだったから篠ノ之束に近づいたら、彼女の事をガチで好きになってしまい一緒に世界征服をしたバカな俺のお話です

「生まれる前から好きです! 付き合ってください!」

 

 俺の恥ずかしい話ならしてあげよう。

 見るなら好きにしな。

 だけど笑うなよ。

 

 ―――――

 

 幼稚園

 

 この幼稚園には変な女の子がいる。

 そいつは普段から誰とも話さず、関わらない。

 ずっと空ばっかり見ているような不思議ちゃんだ。

 誰とも深く関わろうとしないのをカッコいいとは思うが、人としてはダメだろう。

 

 俺は自分が転生者で、精神年齢が彼女よりも上だから面倒を見ようと声をかけた。

 

「なぁ、一緒に遊ばないか?」

 

 出来る限り優しい声をかけた。

 出来る限り元気な声をかけた。

 出来る限り丁寧な声をかけた。

 

 しかしその声は、彼女の不機嫌な声に上書きされる。

 

「はぁ? 君みたいな能天気に有象無象(うぞうむぞう)と遊んで満足していられるような凡人1号が、この未来の大天才である篠ノ之束に声をかけないでくれる? 少しは常識を知ってから人類の言葉を使ってよ」

 

 俺は固まってしまう。

 だってお前、目の前の子を見ろよ。

 顔は整っており、将来は美女間違いなしの女の子。

 

 きっと笑えば誰よりも笑顔が似合うような美幼女から……。

 

 まさか人類の言葉について教えられるとは思わなかった。

 しかしそれ以上に……。

 声が……。

 

「なに突っ立てるの。あぁ、もう少し君に分かる言葉でいえばいいのかな? 邪魔、ウザい、他人に良い格好をしようとしたナルシスト。私に関わらないでくれる? 今の君、最低にカッコ悪いよ」

「CVゆかりん……だと」

「はぁ? なに言ってるの? もしかして本当に人間じゃないの? 宇宙人? それとも……あぁ! もしかして私の凄さに言語能力がオカシクなってしま――」

「まさか死後にゆかりんボイスを聴けるとは最高じゃねぇーカッ!」

 

 ふぁ!?

 ファ―――!?

 やばい! いまの俺ならサンマ以上に、ファー! が言える気がする!

 

 ちょ、待てよ!

 なんだこれ!

 なんぞよ!?

 

 転生したからもう聞くことが出来ないと、人生の楽しみの半分を諦めたエンジェルボイスに出会えるとは!

 そうか、これが俺の転生特典だな! 神さまからチートとかもらっていないが、きっとそうだ!

 彼女との出会いが、俺にとって人生の転換点!

 ターニングポイントゥゥッ――!

 シャッオッラァァァッッ――!

 イヤッフゥ――!!

 

 くっ! なんたることだ!

 ゆかりん王国民として、なんて俺は無様な言葉を使ってしまった。

 ここからどうやって挽回(ばんかい)すればいいのだ! 頼む誰か教えてくれ! いや、違う!

 ここから自分で彼女の機嫌を取ることこそ、真のゆかりん王国民のするべき行動のはず!

 

 いざ! ゆかん! ハイヨー!!

 

「なっ……なんだよ。死後? ゆかりんボイス? 君、というかお前。本当にオカシイよ」

「えぇ、はい。実はわたくし、前世で30歳の時、仕事帰りの運転中に死んでしまいまして。どのような経緯かは不明ですが、いまこの世界に転生しておりますです。はい」

「……お前、本当に大丈夫?」

 

 そういって彼女は俺のほほに手を当てた。

 

 おぅふ。まさか目の前の美幼女から、しかもゆかりんボイスで心配されるとは。

 ありがたや! ありがたや! これで2度目の人生に悔いはない。

 ははっ! ラオウよ、今ならお前の最後の言葉。

 俺にも言えそうだ。

 

 ガシッ! と彼女の手をつかみ。

 目と目を合わせ、俺の感謝を伝えるべく。

 心の中から、この場に相応しい言葉を紡ぎだす!

 

「生まれる前から好きです! 付き合ってください!」

「……は?」

 

 ……あれ?

 あれれ? おっかしいな~。

 あのラオウ様はそんな軽快(けいかい)な。

 ウイットに(はず)んだセリフは言わないぜ。

 

 ふぅ、落ち着こう。

 ……やべぇ、マジで俺なにいってんだこいつ状態だろ。

 真面目に状況を考えろ。精神年齢35歳が、5歳の美幼女に告白してる。

 

 やっば、どう考えてもピーポーピーポーってサイレンが鳴る!

 というか黄色の救急車に運ばれてしまう!

 くっ・・しかしこれが俺の心。

 

 ならばもう若いパトスに全てをゆだねるしかない!

 

「篠ノ之束さん! いえ、篠ノ之さん! おそらくここもなにかのライトノベルか、漫画か、それともアニメオリジナルの世界だと思いますが! それでもあなたの魅力は俺を魅了して止まないので――」

 

 ゴスッ! と俺の腹から変な音がした。

 絶対に日常生活では聞かない音だ。

 俺は気づいたら倒れている。

 

「まずは頭を冷やせ」

 

 うん、そんなサディストな顔もお綺麗ですね。

 けどなによりその声を聴けるのがうれしい。

 ドMじゃないんだけどなぁ……。

 これじゃあ否定できないぜ。

 

「ごほっ……ごほっ。というわけで友達から始めませんか?」

「頭おかしいんじゃ無いの? なるほど、お前の頭のおかしさは一度死んだから、精神のタガが外れたんだね? そう考えると、確かに納得できてくるよ。

 でもそう考えると、お前って相当なロリコンだね。だって私まだ5歳だよ? 5歳に35歳? のおっさんが恋愛感情? を持っているなんて。

 よくいま息をしていられるね? 生きていて恥ずかしいと思わないの? というか思った方がいいよ。本当に。人類のためにさ」

 

 ひゅ~、彼女の言葉が響くぜ。

 しかし俺には最高の言葉がある。

 そう、あの人間関係を気にする高校生の名セリフ。

 

「え? なんだって?」

 

 言葉を出した瞬間、ゴスッ! ドゴッ! と俺は空を飛んだ。

 

 意識が消えていく中。

 冷静になった俺は、先ほどの俺を見返してみる。

 どう考えても精神異常者だ。しかし何故自分はあんな行動をとった?

 

 たしかに俺はゆかりん王国民だ。

 しかしアイドルだから、と神聖視はしない。

 アイドルだってトイレに行く。男を作る。愚痴を言う。

 

 だから俺は純粋に声が好きなライトオタクとして、オタク業界? に住んでいた。

 オープンオタクとして生きてきたし、ゆかりんと水樹さんのどっちが歌が上手いかと悩むときもある。

 ゆかりん王国民としては恥ずべきことだと分かっているが、これほどゆかりんボイスに執着はなかったはずだ。

 

 なぜ俺は彼女の声にここまで……。

 

 あっ、そうか。

 

 もう篠ノ之束の声でしか、前世を思い出すような出来事がないからだ。

 俺氏、ロリコンであり、35歳でホームシック?

 ワールドホームシック? を発病するのまき。

 

 ははっ、くっそ恥ずかしいな! オイ!

 

 この日、俺は天才にして天災たる篠ノ之束に、ロリコン転生者として覚えられた。

 だが彼女が本当の意味で興味を持った他人という事を考えると。

 俺はこの日の行動に、ラオウと同じく。

 

 我が生涯に一片の悔い無し! 

 

 

 ―――――

 

 

 小学校

 

「生まれる前から好きです! 付き合ってください!」

「生まれる世界を間違えたねっ♪ 生まれ直して来たら? というかもう1回転生してきてよ。そうしたら考えてあげてもいいよ。あっ♪ 考えるだけだよ? へ ん た い♪ だぁからシネ♪」

 

 俺は自分でも驚くほどに篠ノ之束へ関わる。

 これが一種の自己防衛本能だと分かっていたから。

 この世界がなにかしらのサブカルチャーの世界だと思い。

 色々な人の声を聴いた。だが俺が知っている声は篠ノ之束だけだった。

 

「いや~、今日も朝の挨拶が言えてよかった。あとは篠ノ之さんの美声も聞けて超満足」

「本当に気持ち悪いね。告白を朝の挨拶にされる身にもなりなよ。まったく、解析したくないけどバラしたいよ。その脳みそ」

 

 たしかに近年の声優は詳しくない。

 ゆかりんや、水樹さんや、静御前や、カイバ社長など。

 自分と同年齢か、少し上の、いわゆる大御所が出るアニメしか年をとるごとに見なくなったからだ。

 

「はははっ! 篠ノ之さんの手で死ねるなら、それもいいかと思う自分がいます。いや~、もうあなたの声は素晴らしい」

「声、こえ、こえばっかりだね。なら私の声で話す人工知能のペンダントを作るから、一生罵倒(ばとう)されてたら?」

「いいんですか! ぜひください!」

「うわぁ……キモイ。直ぐに作るから、もう近寄るな」

「無理です!」

 

 恐らくゆかりんが出るのだから、このクラスのメンバーがメイン声優。

 ……のはずだが、全然分からない。オカシイ、ゆかりんだぞ?

 ゆかりんが出るのだから、絶対に何かが起こるはずだ。

 

 くっ! 一体なにが起こるんだ?

 まさか中学生とか、高校生で異世界転移か?

 まさか急に宇宙人が現れて、魔法少女張りに空中戦を繰り広げるのか?

 

 ……あ、ありえる。

 CVゆかりんを使うのならば。

 そんな超展開でも、ありえる!

 

「まぁいいや。丁度作りたいパワースーツ用に、高度なAIを育てる所だったからお前を使ってやる。感謝しなよ」

「はは~、ありがたき幸せ」

 

 くそぉ……平和な人生を送るために、彼女、篠ノ之束から離れるべきだと分かっている。

 分かっているが、離れることができない。それほどの魔性の声。

 そして……望郷の想い

 

「……お前、そんなにCVゆかりんが好きなの? だから私にかまってくるの?」

「ッ!? それは……」

 

 完全に言葉が詰まった。自分の顔が固まる。

 困ったな、この質問にはYESだけど。

 YESじゃないんだよな。

 なんて答えるか。

 

「篠ノ之さんは、もし宇宙人しかいない世界。価値観を1人として共有できない地獄に行ったらどうする?」

 

 気づいたら俺は真面目な顔をして、彼女に問いかけてしまった。

 

「価値観を1人として共有できない地獄……」

 

 なぜか彼女は罵倒(ばとう)も、反論もしなかった。

 ただ俺の言葉を反芻(はんすう)して、珍しいことに考え込んでいる。

 しかし俺は彼女のそんな姿を見ず、自分の心に問いかけるように言葉を出す。

 

「うん、そうだね。口に出してみて、自分で納得した。そうだ、俺は転生して地獄を見ている」

 

 記憶を持って転生することは夢がある出来事か?

 これは人によっては最高だと答えると思うよ。

 しかし俺にとっては最高でも最低でもない。

 ただの悪夢だ。ただの地獄だ。

 これこそが生き地獄だ。

 

「ここは俺が生きてきた日本に似ている。文化の発展も、名前は違うけど似たような会社の盛衰(せいすい)も。これこそパラレルワールドだ! という感じに魅せ付けられる」

 

 似てるように見えるのに、けど違う。

 だから俺は世界で1人だと実感する。

 

 似てないのに、似てるように見える。

 だから俺は世界で1人だと実感する。

 

 これがパラレルワールド、前世の事を捨てることが出来れば最高に楽しめる場所。

 しかし前世のことを忘れられない。前世を前世だと区切れない俺にとって。

 世界はずっと俺1人だけが異物であることを見せつけてくる。

 あぁ……転生に夢はないな……。

 

 望まぬ転生者に夢は語れない

 

「ならお前にとってこの地獄は生きやすい世界じゃないか」

 

 ……ははっ、笑うな。

 そうだよ。普通に考えればそうなるよな。

 人生イージーモードだ。今だってそうじゃないか。

 

 俺は大人としての精神がある。

 だから普通の子どもと違って、勉強の大切さを知っている。

 勉強のやり方を知っている。会話をする際の要点を知っている。

 

 だから友達も多いし、人望もある

 

 そう、俺は目の前の天才である。

 篠ノ之束より劣っているとはいえ。

 彼女の次席に座れる程度には頭脳と肉体を鍛えていた。

 

 だから彼女がまるで凡人のようなセリフ(・・・・・・・・・)を言った瞬間。

 

「考えが浅いね……。まさか、ありえないよ。だって、ここは、ここには……」

 

 自分でも驚くほどの低音が出た。

 まだ声変わりしていない、ソプラノ寄りの声なのに。

 まるで死ぬ前の老人のように、俺の(のど)から出る音は(ゆが)んでいた。

 

「ここには俺の同類は一匹(・・)として存在しないんだ」

 

 俺の、理解者を求めないただ自分の心をむき出した言葉に、篠ノ之さんはただ『そう』と答えた。

 それがなによりも、逆にうれしかった。何故ならこの返答こそが彼女の天才性を表している。

 篠ノ之束は俺に同情していない。(あわ)れんでいない。ただ現実を受け入れている。

 勝手に他人の気持ちをトレースして理解したつもりになっていない。

 

 理解できないなら、出来ない。

 プライドゆえにそれを認めなくても。

 彼女の一挙手一投足の全てが、そう語っている。

 

「お前の精神は異常だよ。お前にとってこの世界に生きる人間は、人間に見えていないのだろうね

「はははっ、沙耶(さや)(うた)ですね、分かります」

「さやのうた?」

「うーん、前世に、いまの俺と似たような状況のゲームがあるんだよ」

「うぇ、きもっ」

 

 そのあまりにもな対応に、俺は肩をすくめるしかなかった。

 

「まぁけど、喜べばいいよ。ロリコン転生者」

「ん? まぁどうすることも出来ない現実だから、諦めて受け入れるけど――」

「お前が精神の異常者だとしたら……」

 

 彼女は、篠ノ之束は驚くほどの(はかな)げな表情を浮かべた。

 もし俺が彼女と1秒前に会話をしていなければ、そこに人がいると気づかない程。

 篠ノ之束の微笑(ほほえ)みは薄く。諦めており、嘆いており、現実を受け入れている輝きを放っていた。

 

「私は才能の異常者だ」

 

 俺はこの日、篠ノ之束と初めて会話をした気がする。

 しょせん凡人でしかない俺には彼女のことは分からない。

 彼女ほどの天才の思考をトレースして分かった気になりたくもない。

 

 出来ることなら、本当の意味で彼女と価値観を共有したいと考えるけど。

 俺も、そして彼女も。この世界では残念なことに純粋なイレギュラー、異常者だ。

 俺たちは小学生の肉体を持っていながら、まるで死に場所を求める様に空をあおぐ。

 

 

 ―――――

 

 

 中学校

 

「生まれる前から好きです! 付き合ってください!」

「はいはい、テンプレ乙」

「反応が寂しい」

「あのね、もう何年も毎日言われるこっちの身にもなってよ」

「なら何年も言うこっちの身を考えてよ」

 

 彼女は順調? に美少女になった。

 

「いーやっ♪」

「そっすか……。あと、いまの可愛いです」

 

 俺は学校で唯一、篠ノ之束と話せる勇者と呼ばれ。陰では付き合っていると噂されているが、残念ながらそんなことはない。

 

「将来の夢、か……」

 

 学校からの宿題。あまりにも平凡な用紙1枚に、俺たちは夢を書くことを指示されている。

 

「お前みたいな凡人。適当にサラリーマンとでも書くのがお似合いだよ」

 

 彼女はまるでいたぶるように俺の将来を語る。

 そう、俺がどんな前世を過ごしていたかは、もう話しているのだ。

 だから特に理由がなければ、俺が進む道はもう決まっていると言っても過言ではない。

 

「だねぇ。ただ言われるがままに働いて、働いて、アニメ見て。気づいたら年をとるのが似合ってるな。俺には」

 

 そしてその未来を俺は受け入れる覚悟をもう持っている。

 

「つまんないの」

 

 しかし彼女はそんな俺の、夢の無い将来予想図を呆れる様に一言で斬り捨てる。

 

「なら篠ノ之さんの将来の夢は?」

「ないよ」

 

 だから俺は彼女に聞いたが、予想していない回答が返ってきた。

 

「……え? まじで? ほら、ケーキ屋からリリカルな魔法少女とか。ひぐらしのなく世界で神社に住みたいとか。変体刀を集める旅に出るとか。ほらっ、色々とない?」

「それってお前の世界でいう。CVゆかりんが声を当てた作品なんだろうけど、現実を見てみなよ。どこにそんなトンデモ状況になる問題の種があるの?」

 

 おいおい、なにを言っているのやら。君の声の元が誰だか、まだ分かっていないのか?

 

「おまっ、バカにするなよ! CVゆかりんならあり得るんだよ! いまから次元断層に穴が開いて異世界人が攻めてきてもおかしくないぞ!

 CVキタエリのキャラが主人公に恋愛アプローチをしたら、どうせ恋愛負けヒロインになるぐらい! CVゆかりんだったらなんでもありえるんだよ! ジンクスだよ!」

 

 そう、CVゆかりんを使うならメイン。しかも超重要人物しかありえない。

 CV石田彰が出たら視聴者は全員警戒する。主人公の活躍よりも。

 CV石田彰のキャラがいつ裏切るのかと、逆に期待する。

 

 そういうジンクスだから!

 

「バカに馬鹿だといわれるのが、すごくムカつくけど。なるほど、私の声の元はそんな不条理な神のごとき存在なんだね」

「ああっ! そうだ! ゆかりん王国民にとってはただ1人の姫さまであり、神であるのだ!」

 

 世界一かわいいよ――!

 

「ふふんっ♪ 流石、元は私だ。やはりこの天才である束さんは神なのだよ!」

「よっ! 女神さま! ああっ女神さまっ! の三女神よりも素晴らしい!」

 

 言った瞬間。ドゴッ! と何故か、あごを勢いよく蹴り抜かれる。

 首がやばい勢いと音を立て、空をあおぐが問題ない。

 この程度のコミュニケーションはいつものこと。

 

「なんかバカにされた気がした」

「はっはっは、まさかしていませんよ。まったくもって」

「……このロリコン転生者、どんどん耐久力が上がっている」

 

 そうだろうか?

 そうなのかもしれない。

 近くに篠ノ之さんがいるから分かりづらいけど。

 俺も中々のスペックを持っている。しかし彼女よりは劣っている。

 

 ……それに前世の経験があって、強くてニューゲームだから自分が凄いってわかりづらいんだよな。

 

『マスター、この塵芥(ちりあくた)にはなにを言っても無駄です』

「やっぱりそう思う? 白騎士」

『はい、この塵芥(ちりあくた)をもって、私は人類の最底辺を知りました。ですので、もう消してしまいましょう』

「そうだね、うん。そうしよう♪」

「まって、ねぇ待ってくんねぇかな! いや、まぁ殺されるのはいいけど、こんな軽い流れで殺されたくないって言うか。

 殺されてもいいけど、もう少し雰囲気を大事にしたいといいますか? ね? 分かってくれない?」

 

 俺は小学校からの付き合いである高度なAIの白騎士と、篠ノ之さんに助命(じょめい)嘆願(たんがん)するも……。

 

『「理解できない」』

 

 おぅふ。一刀両断、快刀乱麻の勢いで断られた。

 

『それよりマスター。この塵芥(ちりあくた)は無視して。その紙屑に将来の夢を書かなくてはいけないのでは?』

「そういえばそうだね。う~ん、白騎士はなんて書けばいいと思う? 私は特になにもないから困っているのだけど」

『では凡人たちが好きそうな、社会貢献をする仕事、という大きな枠組みで適当な文章を書けばいいかと』

「うわ~、やだな~。この天才たる束さんが、誰でも書けそうなことを書かないといけないのか。憂鬱(ゆううつ)だ」

『仕方ありませんマスター。マスターの力を認識できない現社会構造が問題であって、マスターに問題があるわけではありません』

 

 なっ!? ば、ばかな……。彼女の将来なんて決まっているだろうに、一体なにを悩むというのだ。

 

「ふっふっふ、待ってくれよ篠ノ之さん。君の夢は決まっているだろう」

 

 俺はここぞとばかりにドヤ顔をして、篠ノ之さんへもっとも相応しい将来を教える。

 

『「はぁ……なんだよ? 塵芥(ちりあくた)」』

 

 少し苛立った様なダブルCVゆかりんの声に、何故か死を連想して背中がゾクゾクする。

 

 おかしいな。

 2人とも凄いシンクロしてるよね。

 白騎士の声は束の声であるからCVゆかりんである。

 

 しかし白騎士の思考プログラムは束とは関係ない。

 だから2人は他人のはずだが……完全にシンクロしている。

 もしかして2人とも俺の影響で似たような性格になった……とか?

 

 いやいや、ありえないだろう。

 まぁいいか、考えても分からない。

 それよりも今は篠ノ之さんの将来の話だ。

 

「君の将来は声優しか――」

 

 ドゴッ! バスッ! ゴキッ!

 右手のアッパーでカチ上げ。

 直ぐさま左ストレート。

 

 最後に、かかと落としで関節が外された。

 

「すいません、冗談じゃないけど、冗談にします。ですので関節を戻してください」

 

 まさか俺がいくら攻撃されても倒れないからといって、関節を外してくるとは……やるな!

 

塵芥(ちりあくた)。お前のせいでマスターは声優が嫌いです。このような会話は2度としないように』

「イエスマム」

『よろしい』

「ありがとうございます」

「はぁ……この異常者に白騎士を渡したのは失敗だったかな」

 

 おかしい。

 おかしくね?

 この白騎士は俺が育てたんだよ?

 

 なのに完全に立ち位置がおかしいよね?

 やっぱりあれかな。出来る限り全ての時間で話しかけ。

 白騎士に常識がないことを良いことに、ゆかりんキャラの名セリフをしゃべらせたことをまだ怒っているのかな?

 

 抑揚(よくよう)のない白騎士の声で『少し……頭冷やそうか』を聞いたその日は、前世を思い出して眠れなかったぜ。

 

「もう親離れか、悲しいな。俺は白騎士が罵倒(ばとう)のボキャブラリーをネットで増やすたびに、毎日誉めまくったのに」

『こんな男を喜ばせていたと思うと、今からでも自身の稼働データを消したくなりますね。消しませんが』

「お? ツンデレですか? いやー、お父さんうれしい。前世含めて童貞から童帝になりそうなレベルだけど、娘の成長を――」

塵芥(ちりあくた)塵芥(ちりあくた)であるからこそ、貴重な対話データです。塵芥(ちりあくた)にそれ以上の価値はありません。

 聞いているこちらが(あわ)れみを覚えるような勘違いは、いますぐにやめておいた方がいいですよ。塵芥(ちりあくた)の人生に汚点がまた増えます。

 こんな世界に一匹(・・)しかいない塵芥(ちりあくた)でも、私の(かて)になれたことを喜びなさい』

「はっはっは! 可愛いな~こいつぅ~」

 

 と口では白騎士であるブローチを誉めながら、俺は思いっきり垂直にぶん投げる!

 

『っ!? この塵芥(ちりあくた)が――』

「はっはっは! え? なんだって? ごっめーん、聞こえないな――!!」

塵芥(ちりあくた)――!』

 

 そうやって白騎士であるブローチを何度も投げて、ようやく黙ったの確認してから投げるのをやめる。

 きっといまこいつが体をもっていたら、さぞかしカワイイ顔で『ぐぬぬ』をやってくれただろう。

 いや~、残念だ。お父さん、娘の新しい一面が見れなくて残念だなー。

 

 そういえば、いつもだったらすぐに俺を止める篠ノ之さんがなにも言わないけど、どうしたのやら。

 

「ねぇ、君はさ……」

「篠ノ之さん?」

『マスター?』

 

 声は小さかった。

 しかし真剣な顔をしていた。

 それを見て、俺も意識を変える。

 恐らく篠ノ之さんにとって大事な話だ。

 

「この星に同類が一匹(・・)として存在しない、としたらどんな気分?」

 

 ……?

 ごめん、なにを言っているのだ?

 それは俺のことじゃないか。というか俺だろ。

 彼女は俺以上にハイスペックな人間だ。だから小学生の時の会話を覚えているはずだ。

 

 なら、知っているはずだ。

 どんな気分も何も。

 地獄でしかない。

 

 これこそが生き地獄だ。

 

「この星に同類が一匹(・・)として存在しない、としたらやっぱり別の星に可能性を夢見るべきかな?」

 

 どんな意味だろうか?

 同類がいない? まさかありえない。

 彼女はこの世界の、この時代の人間だ。

 

 多少、価値観のズレがあっても。

 俺のように、完全に仲間がいないわけじゃない。

 ならば彼女はいったい何を悩んでいるのだ? まるで子供のような……。

 

 あぁ、そうだ。なんで忘れていたのだろう。

 目の前の存在はたしかに才能の異常者だ。

 しかしそれ以上に、中学生じゃないか。

 経験しなければ失敗できない

 そういうことか……。

 

「篠ノ之さん、君が深刻そうに聞くから俺も真面目に答える」

 

 彼女の精神はまだ未熟なんだ。

 

「君のその悩みは思春期特有のものだ」

 

 服の胸倉をつかまれた。

 驚くことに、彼女は俺を持ち上げる。

 どうにかつま先だけは地面に立てられるので、息はできる。

 

 だから呼吸がきつくても、声は出せた。

 

「甘えるな、俺とは違う。君には同じ価値観を持てる同類がいる。この世界、この時代。君と一緒になれなくても、君と同じように物を見れる存在がいる」

 

 そうだ、甘えるな。(こく)なことを言っているのは分かっている。

 君が天才を捨てて、凡人に戻るのならばそれもいい。

 けど、俺は君に期待する君だけに期待する

 だから甘えるな、天才。

 現実を受け入れろ。

 

「君は……俺と違う。例え異常者であっても、けど君は一人じゃない。いいじゃないか、それで」

 

 瞬間、思いっきり投げられた。

 俺はこれでも彼女に自分からちょっかいを掛けてきたため。

 意外と身のこなしは熟練している。だからコンクリートに投げられても受け身を取れた。

 

 そして何事もないように立ち上がり、彼女の主張を待つ。

 

「自分よりも劣った人間どもと、一緒にいろというの?」

 

 彼女は認めがたい現実を受け入れようとしている。

 これほどの才能を持っていながら、立ち止まらない。

 本当にすごい女の子だ。その精神性には尊敬しか湧かない。

 

「そうだね。そしてその劣った人間こそ、実は君が望んでいる人材だ」

 

 滑稽(こっけい)な話だ。

 人は一人では生きられない。

 これは生活能力のことじゃない。

 精神構造的に、孤独に人は弱いのだ。

 

「さっきも言っただろ? それは思春期特有の自意識の増大みたいなものだ。年をとった後に『あの時は若かった』と言うようになるよ。いわゆる中二病ってやつかな」

 

 さて俺は相当なゴミ野郎だな。

 塵芥(ちりあくた)と呼ばれても文句は言えない。

 しかし、さぁ、天才。君はどうする? どうしたい?

 

 凡人はいいぞー。楽だ。イレギュラーに、異常者にならないのならそれが一番だ。

 君はまだ戻れるぞ。才能が突出しているだけだ。スポーツ選手みたいなものだ。

 まだ君は凡人に、普通に、一般に馴染(なじ)める場所にいる。

 俺とは違う。戻る手立てがなにもない。

 そんな終わってる俺とは違う

 

『マスター……』

 

 いまならこの白騎士も付いている。

 この子はお前の成長を俺と一緒に見てきた。

 だからある意味、この白騎士は篠ノ之さんの一番の理解者だ。

 

「分かっていたけど、篠ノ之さんは頭が良すぎるね。だから考え過ぎなんだよ。もっと簡単に考えたら?」

 

 ……似合わないな、俺。恥ずかしい。

 子ども相手におっさんが偉そうに気持ち悪い。

 まったく、こんな話をしたいわけじゃないのにね。

 

 さって、気分を変えますか。

 これでも人生経験はあるんだ。

 こういう辛気臭い時の変え方も知ってる。

 

「まっ、そんなことはどうでもいい(・・・・・・)や」

 

 いぶかしげにこちらを見る彼女に、俺は先ほどまでの真面目な顔を崩し。

 

「いいか、若いの。この精神年齢40のおっさんが1つ、人生で重要なことを教えてやろう」

 

 思いっきり笑いかける。

 

「人生楽しんだもん勝ちよ!」

 

 自分が出せる最高の笑顔と、右手を突き出し親指を上げる事を忘れない。

 

塵芥(ちりあくた)! 貴様は言葉を――』

「……ぷ、ははっ、あははっ♪」

 

 瞬間、篠ノ之さんが出会って初めて心から笑った。

 

『マスター?』

「あ~、やられた。バカに馬鹿なことを教えられた」

 

 ぽこっ、ぽこっ、っと俺は彼女に足を蹴られる。

 しかしその威力は蹴りというよりも、撫でられるような強さであった。

 俺は篠ノ之さんの新しい一面を見て、彼女を1人の人間だと今更ながらに理解した

 

「ねぇ、君はさ。人生って単純だと思う?」

「思うね。かれこれ40歳を超えて、文字通りおっさんの精神年齢になるから言える。人生なんて楽しまなきゃ損だ」

「ふぅ~ん。なるほど、ね」

 

 今度はぐにっ、ぐにっ、とほほを優しく引っ張られる。

 彼女が一体なにを今考えているのかは分からない。

 しかし、徐々に表情が落ち着いてきた。

 だが急に顔を赤くする。

 

「ねぇ……」

 

 恥ずかし気にする彼女に俺は驚いた。

 

「私の名前」

 

 俺は彼女の言いたいことが分からずに首を傾げてしまう。

 

「その……」

 

 俺は次の彼女の表情を生涯。そして記憶をなくして転生しても忘れない。

 

(たばね)、ってこれから呼んでいいよ」

 

 子どもが助けを求めるような悲しい顔だった。

 子どもがほめることを望むような顔だった。

 子どもが隠し事をするような顔だった。

 それら全てを含めた。

 

 綺麗な泣き笑顔だった。

 

「た、ばね……?」

 

 俺は童貞だが、好きになった女ぐらいいる。

 しかしいまこの身を焦がす想いはなんだ?

 いや、分かっているし、知っている。

 けどここまで強いのは初めてだ。

 

 この気持ちは……。

 

「だからこれからは名前で呼びなさいって言ったの! 分かった!」

 

 そう言って彼女はそっぽを向く。

 それは初めて見る彼女の幼い一面だ。

 俺は束の声を聴きたいだけじゃなく。

 そんな彼女にずっと見惚れてしまった。

 

 

 ―――――

 

 

 高校

 

 いつもと変わらない日常。

 

「生まれる前から好きです! 付き合ってください!」

「はいはい、テンプレ乙」

 

 しかし俺は、そして俺たちは運命の出会いを果たした。

 

「お前たち、もう少し静かに出来ないのか? これから教室に行くのだぞ」

「ん? 君は?」

 

 スラッとした美人だ。こういう人がカジュアルな服を着たら、絶対に似合うような美人が現れた。

 

「私の名前は織斑千冬だ。一応だがクラスのリーダーをしている」

「ふ~ん、あっそ。けど文句なら私よりもこっちの――」

「CVめぐみんキタ――!! ふぁ!? いやそういえば詳しくは知らないが『このすば』という作品で『めぐみん』というキャラが出てから。

 豊口めぐみさんのことを、めぐみんと呼ぶ事はなくなったんだ。というかまさか高校に来て、メグーの声がくる……だと?

 つまりここから物語は始まるのか!? そうか、そういう展開か! つまりこの学校にはきっと超能力者たちが――」

 

 ゴスッ、と昔とは違って優しい一撃が繰り出された。

 恐らく普通基準で言えば、ヤバイ一撃であることは分かっている。

 しかしこの束の本性を知っている人間だったら、いまのやり取りのヤバさが分かるだろう。

 

「少し黙って」

「束の愛が重い」

「状況が落ち着かないから本当に黙れ」

 

 そのまま俺が遊びで教えた七花八裂を自身で喰らい空を飛び、頭からコンクリートの地面に落ちる。

 

「お、おい! あいつ大丈夫か? どう考えても首や体から変な音を立てていたぞ」

「あぁ……そういえば普通に考えれば致命傷か、即死だったね。けど大丈夫、大丈夫。あれで死ぬぐらいなら、私も苦労していないから」

「いや、だがな。流石にクラスメイトが殺人を――」

「ハッ!? ということはこの学校には恐らく、俺も知っているであろう大御所声優さんが! というかここが物語のスタート地点だとしたら動き出さなければ!」

 

 俺はようやくこの状況のヤバさに気づいた。

 そうだ、束と遊んでいる場合じゃない。

 すぐに動かないと!

 世界の危機だ!

 

「……本当に生きているな。あれは人間か?」

「うーん、私には劣るけど一般人からしたら超人の部類に入る……異常者?」

「あまり人の交友関係に口は出したくないが、友人は選んだ方が良いぞ」

「あっ、と、え、選んだ結果なんだ」

「そ、そうか……」

 

 なんか束がモジモジとしてカワイイ……じゃねぇよ! それも大事だけど今はそれ以上に――!!

 

「お前ら俺の話を聞け――! 束と織斑? は恐らくここから世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれるんだぞ!」

 

 2人して揃ったように首を傾げる。

 そんなレアな姿にいつもなら感動するところだが、今は余裕がない。

 そう、もしかしたら今すぐにでも、世界規模の大問題が発生するかもしれないのだ!

 

「バッカやろぉぉおお――! CVゆかりんをなめるな! 高校生、しかもクラスのリーダーはCVメグーだぞ! ここから宇宙人、未来人、異世界人、超能力者、ハルヒさまが現れても不思議じゃないんだ! お前ら少しは警戒しろよ!」

 

 俺は2人にも分かるように説明した……。

 つもりなのだが、どうやら分かってもらえなかった。

 な、なぜだ。CVゆかりんとCVメグーだぞ。常識的に考えろ!

 この2人が登場する作品で、普通の学園ものがあると思っているのか!?

 

 くそっ! これだから世界が違うとお互いの認識がずれる!

 

「たしか篠ノ之束だったな。あの男の相手、お前は随分と苦労しているだろう」

「分かってくれる? 助かるよ」

 

 ……あのぉ、無視ですか?

 

「ふむ、ならば私があいつを黙らせよう」

「えっ? それは無理だよ。彼、あんな馬鹿な事をやってるけど耐久力って意味では相当なんだ」

「なるほど、ならば試してみるか」

 

 そういうって織斑は何故か木刀を取りだした。……ん? あれ? なんで木刀? と疑問に思った瞬間。

 

「ぎぐっ――!?」

 

 俺は空を飛ぶ。

 そして校舎の壁に叩きつけられる。

 しかし気絶はしない。実はこれ以上のことを束にされたこともあるからだ。

 

「わっ♪ 凄いね、君。えっと、織斑千冬、だね。単純な肉体スペックで私に近い人間なんて、あのバカ以来だ」

 

 さ、流石CVメグー。

 普通の人だったら、急に木刀で殴らない。

 しかし彼女は殴った。しかもこの威力、普通じゃない。

 

 やっぱりCVメグーが選ばれるだけの理由があるのだ。

 

「ねぇ、君のこと気に入ったよ。ちーちゃん、って呼んでいい?」

「かまわん。私の呼び名で、侮辱(ぶじょく)するつもりがなければ好きに呼べ」

「わ~い、ありがとう。あっ、それでさ。ちょっと聞きたいことが――」

 

 そういって2人はさっさと学校の中に入る。

 俺はなんだか自分だけが、大きく空回りしていることが残念でしかたがない。

 どうして分かってくれないのか。束には色々と話していたはずなのに、まだ理解されていなのだろうか?

 

塵芥(ちりあくた)。いい加減、動きなさい。チャイムが鳴ります。始業時間に間に合いません。

 あなたがこの世界でどのような評価を受けようとも、私にとってはどうでもいいことです。しかしあなたはマスターの近くにいる人間。

 そんな人間がつまらない理由で遅刻をされては、一緒にいるマスターの評価が落ちてしまいます。ですから即時移動を開始しなさい。聞いていますか? 塵芥(ちりあくた)

 

 この世界のことを詳しく知らないし分からない。

 しかしCVゆかりんが出る作品だぞ。

 なにが起こってもおかしくない。

 

『答えなさい、塵芥(ちりあくた)。チャイムが鳴ります。足を動かすのです。ほら、右足を上げる。子どもでも出来ることが出来ないのですか?

 いい加減にしてください。失望しますよ。ですから早く動きなさい。何度も言いますが、あなたの学校での評価がどうなってもいいのです。

 しかしマスターの評価が下がる可能性があります。ですから動きなさい。聞こえていますか? 塵芥(ちりあくた)。いい加減、動きなさい』

 

 それに追加するように高校でCVメグーのキャラだ。

 どう考えても、これから大事件が起きますよ。

 と、視聴者に教えているようなものだ。

 どうして分かってくれない……。

 

『分かりました。最大限に譲歩(じょうほ)します。あなたが遅刻をしなければ1日だけ、あなたが望むキャラになりきって上げます。ですのでまずは動きなさい。

 ここまで私に言わせて、遅刻することは許しませんよ。ほらっ、右足が駄目なら、まずは左足です。まさか2足歩行のやり方を忘れましたか?

 流石塵芥(ちりあくた)。私の予想の上を行きますね。ならば4足歩行でもいいです。手で()ってでもクラスにいきなさい。

 そうすれば1日だけ。1日だけですが、あなたの望むキャラが待っています。ほらっ、まずは動く。分かりますね?』

 

 はぁ……異世界交流? コミュニケーション? は難易度が高いな……。

 

『いい加減にしなさい、塵芥(ちりあくた)――!!』

「おおぉっ――!? ちょ白騎士、学校でそんな大声出すなよ。誰かに聞かれたら――」

 

 瞬間、チャイムの音が鳴る。

 俺はブローチと学校を何度も見直し。

『はぁ……』と白騎士にため息を吐かれるのであった。

 

 

 ―――――

 

 

 高校時代の放課後。

 

 これは高校時代のとある日のこと。

 人生にもしも、はありえない。

 しかしそれでも考える。

 

 もし、この出来事がなければ、俺は篠ノ之束にガチで告白できなかっただろう。

 

「あっ、いたいた。おーい、あのさ。中学の時から聞きたいことがあるんだけど」

 

 俺に声をかけてきたのは野球部の同級生だ。

 こいつとは小学校からの付き合いであり、気さくで話しやすい良い奴だ。

 野球クラブや部活に入ることはなかったが、俺はたまに臨時のお助けマンとして野球には参加する。

 あまり自慢にならないが、束がいなければ俺はまるでスーパーマンのような、ハイスペックマンなのだよ。

 

 あれ? いま思うと俺のこの肉体ってチートじゃね?

 

「なんだよ。なら中学時代に聞けよ」

「いや、ちょっと聞きずらいことだし」

「おいおい、じゃあなんで高校の今更?」

「えっとだな、先輩に聞けって言われたんだが、その……な」

「あぁ……あるある。先輩のいじめってわけじゃないけど、ちょっと変なことを聞いて来いよ、みたいなやつね。大変だな。で、なんだよ? 誰かの電話番号とかか? 流石に女子の番号を勝手に教えるのは――」

 

 もしここでセーブ&ロードが出来たとしても、俺はずっと同じ選択肢を選び続けるだろう。

 

「篠ノ之さんって、強気で押せば抱けるかな?」

「は”ぁ”ん” ?」

 

 ガシャン! と大きな音を立てて、目の前の目障(めざわ)りな男はガラスに体を突っ込む。

 いや、それは少し違う。気づいたら俺は小学校からの友人を蹴り飛ばしていた。

 篠ノ之束と織斑千冬でも気絶させられない。俺の身体能力で蹴飛ばしたのだ。

 

 当たり前のことだが男は気絶し、ガラスで額でも切ったのか血を流す。

 俺は驚くぐらいにその映像を見てもなにも感じない。

 なるほど、俺は精神の異常者だな。

 

塵芥(ちりあくた)、自分がなにをしているのか分かっているのですか?』

「黙ってろ、機械に理解してもらうつもりはない」

 

 時間は放課後であり、人の姿はなかった。

 そして友人、いやゴミ。は野球部のユニフォームを着ている事から。

 きっと、部活終わりの罰ゲームてきなことで、こんなことを聞いてきたのだろう。

 

 しかしどうでもいい(・・・・・・)

 

「おい、ゴミ。起きろ」

 

 蹴飛ばしたおかげ? なのかガラスからケツを突き出すようにしているゴミは、そこまで重症ではない。

 だから額の切り傷よりも、俺が蹴った影響で腰などの骨や、体に異常がないかを一瞬だけ心配し。

 一瞬後にはどうでもよくなった。だってこいつも俺からしたら価値観の違う宇宙人(いせかいじん)だからだ

 

「なっ……え? あれ? なんだこれ? おい、なぁなんで、こんな、ことに――」

どうでもいい(・・・・・・)どうでもいい(・・・・・・)んだよ。俺の質問に答えろ。いまのクソのような質問は誰がしたんだ?」

 

 目の前の男は恐怖に震えている。

 しかしそんなことはどうでもいい(・・・・・・)

 このバカげた出来事を誰が最初に始めたのか。

 

 それ以外の情報はいらない。

 

「あの、その、エースの、4番、の、先輩、が。篠ノ之のケツが、デカくてエロ、イとか。胸を揉みしだきたい、とか。ああいう女は、調教すれば最高のペット、になる。って、その……な? 分かる、だろう?」

「ふぅ~ん、すごいな。今時そんな典型的なヤリチン野郎がいるのか。これは逆に凄い」

 

 俺は目の前のゴミの言葉を聞きながらも、実は聞いていなかった。

 こいつの声を聞けば聞くほど、頭が空っぽになる。

 喉がカラカラと冷え切っていく。

 

 しかしこのゴミの言葉だけは、まるで鐘の音のように頭の中で反響しやがる。

 

「感謝するよ。元、友人。お前のおかげで、束に虫がつく前に気づけた。それだけは、本当に感謝するよ」

 

 容赦なく肺を殴る。

 それでゴミは呼吸ができず気絶。

 俺は気にすることなく野球部に向かう。

 

 そして野球部に向かう間。

 俺は自分の事を冷静に判断する。

 自身の幼稚っぷりに、自身の異常性に、笑いが出た。

 

 精神年齢で言えば40歳後半。

 四捨五入すれば50歳のじじい。

 それが高校生という性欲の若造の言葉で理性を失っている。

 

 この出来事は地方のニュースに()るだろう。

 もしくはこれから野球部に殴り込みをかけた場合。

 絶対に全国区のテレビに放映されてしまう。つまり、これはバカな行動なのだ。

 

塵芥(ちりあくた)、私にはあなたの行動原理が理解できません。なぜ怒っているのか、なぜもっと利己的な行動が――』

どうでもいい(・・・・・・)。お前に理解は求めていない。束にも理解は求めていない。これは誰かのためじゃない。

 俺が俺の為に動いているんだ。ここで動けないなら、俺は俺でいられない(・・・・・・・・・)から、俺はやる(・・・・)んだよ」

『理解できません』

「なら覚えとけ、機械。これがバカだ」

 

 野球部の先輩。

 4番のエース先輩。

 彼とは話したことがある。

 彼が野球を頑張っていること。

 しかしそれは女にモテたいからなこと。

 

 しかしモテるために頑張っている事を、俺はほほえましく思っていたこと。

 

 そう、彼の事は嫌いじゃないのだ。

 

『目標である野球部の部室までもう少しですが、目的である人物をどうやって呼び出すのですか?』

「何度も言わせるな。どうでもいい(・・・・・・)

 

 俺は自身でも扱いきれいない、余りある肉体の力を使ってドアを蹴飛ばす。

 野球部のドアは古臭く、重たく、さびた鉄製のドアだったため。

 異常な音を立てて扉はそのまま真正面の壁に突き刺さる。

 

『ここからは貴方の脳に直接語り掛けます。ちなみに今の蹴飛ばした扉は、人に当たれば死者が出る質量弾でした。幸いにも誰にも当たっていませんが――』 

「こんにちは、エース先輩。ちょっと良いですか?」

 

 ここが作り話の世界ならば、相手の言葉を聞いてヘイトを稼ぐという場面なのだろう。

 

「……え? あ? 俺? ああ、なんかすっげぇなおい。今のなんだよ。ハリウッド映画とかで見るような、なんていうのかな、アクションか? ってか扉が――」

 

 俺は右手を一気に上げた。

 殴り方としてはただのテレフォンパンチ。

 つまりはただ勢いに任せたケンカパンチだ。

 

「げひっ!? あ、げぇ――」

 

 それで全てが終わった。

 相手の言い分は聞かない。

 ただ俺が殴りたかっただけだ。

 

「エース先輩。良くも悪くも勉強になりましたね。男女間の冗談は飲み会でしか言っちゃダメだってこと。こんなに早く理解できてよかったじゃないですか。

 社会に出たらもっと大変ですよ。ま、もう会う事はないでしょう。さようなら」

 

 あの質問は先輩のただの冗談だったのかもしれない。

 実は俺の恋を助けるキューピット役をしてくれたのかもしれない。

 しかしどれだけ、もしも、を考えても時間は戻らないし、戻させない。

 俺はきっと、元友人があのバカげた質問をした瞬間から、こうなることが決まっていた。

 

塵芥(ちりあくた)。今後、私は貴方の事をセカンドマスターと呼びます』

「どんな意味があるんだ?」

『特に意味はありません』

「なんだそりゃ、まぁ呼び名なんて好きにしろ。どうでもいい(・・・・・・)

『なるほど、ようやくあなたという人間の深淵(しんえん)が見えました』

「あっそ」

『はい、そうです』

 

 俺は自分が犯罪行為一歩手前の事をしでかしたことを分かっていたが、それでも何食わぬ顔で家に帰っていく。

 

 

 ―――――

 

 

 その日、とある場所にて。

 

『マスター。塵芥(ちりあくた)が起こした出来事に関しての報告です。学校側などを含め情報の隠蔽(いんぺい)、記憶のねつ造を終えました』

「うん」

『まさか私の初めての出動が学校の修復と、人間の治療だとは思いませんでしたね。ですが今回の結果、現在の足りていなかった人間に関するデータも増えたので、塵芥(ちりあくた)には感謝をしましょう』

「うん」

『それにしてもあの塵芥(ちりあくた)、本当に精神が歪んでいました。あの程度の言葉であそこまでの事をするとは、流石塵芥(ちりあくた)ですね』

「ねぇ白騎士。私の前でも、セカンドマスターって彼のこと呼んでもいいよ」

『それはマスターが塵芥(ちりあくた)のことを……いえ、セカンドマスターのことを認めるということで、よろしいでしょうか?』

 

 篠ノ之束の顔は赤くなる。

 

「う、うー、うー、うーん。ま、まぁ、ね。その、なんだい? あれだよ。あそこまでバカなことをするなら、その、認めてあげるのも、やぶさかではない。てきなてきな」

 

 篠ノ之束にとって、彼はロリコン転生者である。自分の声を目当てにすり寄ってきた変態なのだ。

 野球部のエースが彼女の体に興味を持っているのならば。

 彼は彼女の声に興味を持つ存在だと認識している。

 

 彼女の肉体という外的要因に()かれたウジムシ。

 彼女という精神の内的要因を見ないゴミ共。

 そういう認識が彼女にはあった。

 

 そのため今回の一件において、彼女は同じ穴の(むじな)がくだらないことをしている。と見ていた。

 しかしここで彼女にとっての誤算が1つだけあった。

 白騎士である。

 

 彼女は彼という精神の異常者を白騎士の対話相手にして、白騎士の思考プログラムを柔軟(じゅうなん)にしようと当初は考えていた。

 だが彼は予想よりも、そして篠ノ之束が関わらない限りはどこにでもいる一般人だった。

 身体能力、頭脳を含めて、およそ一般人だとは言えない彼だったが、精神は普通だ。

 

 そのため、彼女は興味本位で白騎士に彼の精神世界を記録、観測させた。

 そこで精神の異常者であり、世界にとってのイレギュラーである。

 彼がこの地獄(せかい)でたった1人だけ人間だと認識する人物を知る。

 

 彼は篠ノ之のことを……。

 

『マスター、1つだけ推奨したい計画があります』

 

 

 ―――――

 

 

 俺は自宅の固定電話の前で待っていた。

 どうせ直ぐに学校から電話が来て、俺を出せというのだ。

 いいだろう、俺はもう開き直っている。俺は恥じることはないのだと、言い切るために電話を待っていた。

 

 しかし学校から電話が掛かってこない。何故だ? 

 父親から『噂の篠ノ之ちゃんから電話待ちか? 携帯番号を教えとけよ』

 母親から『今どき家の固定電話で女の子と電話なんて、あんた常識がないわね』

 

 となぜか注意を受ける。解せぬ。

 くそ、学校からの電話が来てから2人に話すつもりなのに、タイミングがつかめない。

 あれか? もしかして学校側は今回の暴力事件? を隠蔽するつもりなのか? 個人的にはありがたいが、それでいいのか学校よ。

 

 とかれこれ数時間、電話の前で待っていると急に白騎士が声をかけてきた。

 

『マスターからの伝言です。心して聞くようにセカンドマスター』

「え? お、おう。急にびっくりしたな、おい」

 

 俺は直ぐ様、両親の方を向く。しかし2人ともテレビを見ているので、白騎士の声には気づきもしない。

 

『今から直ぐに、OO公園に来て欲しい。でないと絶交する。以上です』

 

 家の固定電話、両親、白騎士、と3つの存在に意識を()いていた俺は、白騎士の言葉を一瞬聞き逃し、すぐにブローチを凝視(ぎょうし)する。

 

「は? まじ? というかなんでそんな状況に?」

 

 もしかして今日学校でやってしまったことを怒っているのだろか?

 あれかな? 学校側はまず事情聴取(じじょうちょうしゅ)をやるつもりか?

 だから束にも迷惑が掛かったのかもしれない。

 くっ、なんてこった。これは予想外だ。

 

『分かりません。しかしセカンドマスターの呼び名が、塵芥(ちりあくた)設定になっていないため。恐らく挽回(ばんかい)の余地はあるかと』

挽回(ばんかい)って、俺そんなに変なことしたかな?」

『分かりません。私は高度なAIではありますが、完全な感情の取得には至っていないため、マスターの考えをトレースすることはできておりません』

 

 いやいやいや、それはオカシイ。だって君、俺を罵倒(ばとう)するときはなんか感情らしきものがあるよね?

 

「そっすか、りょ~うかい。じゃあOO公園に行くか」

『セカンドマスター、私はこれ以降、出てきません』

「はい? どゆこと? それはお前が入ってる。このペンダントを持って行っても、会話に参加しないって意味か――」

『違います。私から言えることは、私にあなたを殺させないでください。以上です』

「は? え? なにそれ? っておーい、あれ? 壊れた?」

 

 その言葉と共に、ずっと光っていた白騎士のペンダントから色が消える。俺はそれを疑問に思いながらも、ブローチをポケットに入れて束が待っている公園に走った。

 

 走って、走って、俺は女神に出会う。

 

「きれいだ……」

 

 その言葉しか出なかった。

 

 束は空に浮いていた。

 白い騎士のようなフルアーマー装備。

 天使の翼のような青と白の美しいコントラストの羽が周囲に浮いており。

 彼女自身をまるでヴァルキリーのように魅せる。いや、これでも足りない。

 

 まるで美神フレイヤよりも上位の美神のように俺には感じられた。

 たとえ彼女よりも顔が整っていようとも。

 たとえ彼女よりも肉体美があろうとも。

 

 俺は、彼女よりも美神に相応しい存在を今後、認められないだろう。

 

 そんな女神さまが俺に剣を向けて問う。

 

「ねぇ、私の事、好きなの?」

 

 それは無垢(むく)な質問だった。

 この状況であっても、まるで学校帰りの軽い質問のような軽さだ。

 そう、それこそ、俺の返答次第では俺の命が軽く消されるような、重さも含めた。

 

 軽い質問だった。

 

 (のど)がひりつく。

 なぜだか、これは嘘をついてはいけないと分かった。

 心にないことを言えば、直ぐに首が飛ぶとなぜだかわかったのだ。

 

 だから……。

 

「最初は、束の……いや、篠ノ之さんの声が好きだった」

 

 そうだ。俺はゆかりん王国民。彼女の声が好きだ。

 

「俺にとってこの世界は地獄だ。俺が死ぬ前の日本には、よく異世界転生とか、異世界転移とか。ゲームの世界に転移だとか、転生だとか。

 そういうサブカルチャーが流行っていた。俺だってつらい現実から(のが)れる様に、そういう作品を読んで(えつ)にひたることもある。

 けど、実際に転生してみて分かった。これは地獄だ。神の仕業(しわざ)なら死ね! 悪魔の仕業(しわざ)ならふざけるなよ死にやがれ!」

 

 まて、落ち着け。いまは篠ノ之さんへの想いの話だ。自分のいら立ちを、世界への憎悪を語るときじゃない。……落ち着け、落ち着くんだ、俺。

 

「自分と同じ価値観、思想、想い、それを共有できない。それがどこまでもつらい。どこまでも怖い。どこまでも恐ろしい」

 

 そうだ。俺の考えは誰にも分かってもらえない。

 子どもが意地を張って言うようなレベルじゃない。

 本当の意味で、この世界では誰にも俺の価値観は理解されないのだ。

 

 だからつらい、怖い、恐ろしい。

 

 だから君が……。

 

「だから、だから……」

 

 殺されるかもしれない、しかし手を伸ばす。

 

君に恋をした

 

 伸ばした手は首に向けられている剣に乗った。

 これは映像ではない。この剣は実在しているのだ。

 つまり、これほどの物を作らなければならない状況。

 

 もしくは誰かから貰った状況なんだ。

 俺は世界の物語が動いたことを理解する。

 彼女は今、なにかしらの瀬戸際(せとぎわ)にいるのだ。

 

 助けたい……。

 

「この世界がどういう作品なのか分からない。篠ノ之さんがまるでSFのような鎧を着ている事から。もしかしたら GANTZ みたいな宇宙人と人間の戦いなのかもしれない。

 しかしいま、そんなことはどうでもいい(・・・・・・)。俺が君に惹かれた理由。惹かれてしまった理由。最初の始まり……」

 

 死ぬ覚悟を決めろ。最初の理由、それはもちろん。

 

「それはどこまでも単純に、君の声だった」

 

 あなたの声です。

 

「じゃあ私以外。それこそ、ちーちゃんとかでも同じように好きに――」

「違う!」

 

 違う。

 

「俺だって最初はそう思っていた! だから君には本当の意味で深くかかわらなかった! 上辺だけの関係で! 自分の決して癒えない傷を少し治す程度に考えていた!」

 

 ごめんなさい。俺は最初、あなたを通して前世を思い出していた。そうやって、自分の精神を保っていたんだ。

 

「しかしそうじゃなかった! 織斑と出会って確信した!」

 

 だけどそれ以上のものを見つけた。前世以上に大切なものを見つけた。

 

「なにを?」

「俺が君に恋をしていることだ!」

 

 君に恋をした。

 言葉にすると短い。

 しかしこれ以上の言葉は不要!

 

「たしかに俺は君の声が好きだ! 大好きだ! この世界でたった1つ。過去のことを。前世とのつながりを感じられる君の声が好きだ!」

 

 始まりはそうだ。

 始まりはそうさ。

 けど今は違うな。

 

「でもちーちゃんの声でも――」

「黙って聞け! 俺はお前に恋してんだよ!」

 

 ああっ! 恥ずかしい! 恥ずかしい! 50近くにもなって青春漫画みたいなことをするなんて、クッソ恥ずかしい!

 

「いいか、くっそ恥ずかしいし! 生涯で絶対に2度は言わないから耳の中をかっぽじってよく聞けよ天才!

 俺はお前が好きだ!

 お前の天才っぷりが好きだ!

 お前のたまに抜けているところが好きだ!

 お前の暴力的な所が好きだ!

 お前の優しいところが好きだ!

 お前の子どもっぽいところが好きだ!

 お前の大人っぽいところが好きだ!

 自分が美人であることを分かっていて、そのうえで自信に溢れる所が好きだ!

 自分が美人であることが分かっているのに、実はちょっと不安な所が可愛くて好きだ!

 毎日ちょっとずつ髪形を変えている瞬間に気づいたときなんて、叫び声を上げそうだった! つまり好きだ!

 実は自分に近づいて来る人間全員に、小動物のように心の中では警戒しながらも最近は仲良くなろうとしているところなんて守りたい! つまり好きだ!

 とにかく! なにが言いたいかというと! お前の事が好きなんだよ!

 てめぇに恋してんだよ! 分かれよ!」

 

 ダァーー!? クッセェ!

 なんだよこの長セリフ!

 勢いで言いすぎだろ、俺。

 いや、嘘はない。本心のみだ。

 

 だからこのまま行こう!

 

「そ、それ! それだって、ちーちゃんにも同じようになるかもしれないし……」

「ありえない! 最初は確かにお前の声が好きだった! けど俺が恋をしたのは篠ノ之束! お前だけだ!」

 

 俺はたしかに前世でも恋をしたことがある。しかしお前ほどに、お前以上に想って、恋をしたやつはいない。

 

「俺がお前に恋をしたのは中学の時だ! お前は確かに天才だ! 運悪く転生した俺なんかとは比べるまでもない世界の重要人物だ

 それでも中学のお前は、どこにでもいる中学生で! ここにしかいない女の子だった! そんなお前を守りたいと!

 そんなお前と一緒にいたいと俺は思ったんだ!」

 

 この世界でただ1人。

 彼女だけが特別だと思えた。

 だから君と一緒にいたいんだ。

 

「し、信じられない! 信じられるわけがない! 君の言う事はオカシイもん! じゃあ私が君を振ったらどうするの? どうせちーちゃんにアタックするんでしょ!」

「するわけねぇだろうが! ボケがっ! てめぇはネットなどに存在する下半身でしか考えられないド低能な男しか知らねぇのか! 目ぇかっぽじってよく見ろ!

 てめぇに告白してんのは目の前にいるこの俺だ!!」

 

 ふざけるな、なめるな。

 俺は前世も今世(こんせ)もまだ童貞だ。

 しかし簡単に童貞をバカにするなよ。

 童貞には童貞のプライドが、意地があんだよ。

 お前の体も魅力的だが、それはお前という精神がいてこそ魅力的なんだ。

 

「いいか、俺はお前と結ばれなくても、お前に恋をする!

 お前が他の男と結ばれても、純粋に心からお前のことを祝福してやる!

 お前が泣くことがあれば誰よりも早く涙をぬぐいに行ってやる!」

 

 これは負け犬の遠吠えなのか? いや知らん! 本気で恋をした奴なら、いまの俺の気持ちが分かるはずだ!

 

「世の中には男と女の友情はありえないと言うそうだがな!

 いいぜ、ならまずはそのクソッたれな考えを壊してやるよ!」

 

 俺は彼女とどうなりたい?

 出来ることなら夫婦になりたい。

 しかし彼女の笑顔が見えない夫婦生活はいやだ。

 

「篠ノ之束! よく聞け! お前と俺は永遠の友達だ!

 お前がうざがっても、嫌がっても、お前がピンチの時は助けてやる!

 お前が幸せなら誰にも知られずに影へ消えよう!

 俺が男と女の友情を世界に魅せ付けてやる!」

 

 俺はお前が、君が好きだ。だから男と女の友情すら作ってみせる! 不可能すら可能にしよう!

 

「君は、やっぱり異常者だ。その考えはオカシイ……理解できない」

 

 彼女は剣を下ろし。

 俺を悩む様に見下ろす。

 女の熱を帯びたうれいた目線だ。

 束がなにを考えているのか分からない。

 しかし今しか、彼女に想いを伝えることは出来ないと思った。

 

「始まりは確かにお前の声だった! ……それは否定しない。何故ならそれを否定しては俺とお前の全てを否定するからだ。

 だけどもう始まりは終わった。次の話に行くべき時なんだ。俺はお前の声が好きだが、それ以上にお前に恋をした」

 

 届け、この想い。

 

「お前自身。篠ノ之束という女に恋をした」

 

 分かってくれ、この想いを。

 

「さて、じゃあ答えを出す」

 

 君だけしか、俺は満足できないんだ

 

「最初の質問、篠ノ之束が好きなのかどうか、だが」

 

 息を吸う。

 肺がつぶれてもいい。

 明日から声が出なくてもいい。

 けど、いまこの瞬間だけは、人生で一番声を出さなくてはならない。

 

「生まれる前から好きです! 付き合ってください!」

 

 俺は前世を含めて、ここまで無様で駄目な告白をしたのは初めてだった。

 

「うー、うー、うーん、うーむ」

 

 気づくと彼女の周囲に浮かんでいた羽は消えて、束は地面に降りていた。

 

「もう少し友達期間の延長をお願いします」

 

 彼女の右手の装甲が光ったと思ったら、素手が出ていた。

 そしてその素手の右手で、俺へ握手をするように差し出す。

 しかし彼女の表情は小動物のように、俺の方をチラチラとみている。

 

 守りたい、と思った。

 

「……ああ! 了解だ!」

 

 ここまでやって友達かよ……と実は心の中で思ったが、それでも彼女に一歩だけ近づけたことがうれしい。

 

「私は、これから大きなことをするよ」

 

 だが俺が自身の小さな一歩を噛みしめているとき、束は急にそんなことを言う。

 しかし俺はずっとこうなることを分かっていた。

 だから返事はなによりも早い。

 

「ハッ! 当たり前だろ。お前はCVゆかりん……いや、俺の恋する大天才、篠ノ之束なんだ。普通じゃないのは分かっている」

 

 束は『あっ!』と目を大きく広げて。

 顔を背ける。そして髪で表情を隠す。

 

「ねぇ……」

「なんだよ」

 

 これほどの魅力的な女性、他にいるのだろうか?

 

「私のために死ねる?」

「余裕」

 

 いやいない。俺が断言する。

 

「じゃあ私が生きてって言ったら?」

「どんな状況でも生き抜きますが何か?」

 

 前世とこの世界、2つの世界を知っている俺だから断言できる。

 

「じゃあ私を諦めてって――」

「寝言は寝ていえ、あほう」

 

 篠ノ之束は、世界でもっとも美しく、かわいい。

 ……あぁ、俺はゆかりん王国民を失格だな。

 しかし何故だろうか、逆に誇らしくある。

 

「白騎士、いいよ。解除して」

『かしこまりました。マスター』

 

 俺自身が、自身に対して誓いを新たにしているとき、白騎士の声がした。

 しかしオカシイ。白騎士は俺の持っているブローチにいるはずだ。

 だから束が装着している鎧から白騎士の声がするのは……。

 まさか……。

 

「白騎士、なのか? その鎧が?」

 

 瞬間、彼女の体を光が(おお)った後。

 地面におり立った。そして謎のブローチを俺に渡す。

 状況についていけない俺は、ブローチと束を見比べてしまう。

 

 すると、ブローチから声がした。

 

『セカンドマスター、覚悟はありますか?』

 

 白騎士の声だ。

 

「よくは分からんがある」

『そのような半端な覚悟ではこの先――』

「黙ってろ。詳しい説明を聞いても聞かなくても、答えは変わらん。なら、さっさとやれ」

 

 まったく状況にはついていけない。しかし丁度いま 覚悟完了! をし終わった俺に、退路はいらない。

 

『はぁ……今なら自我を取得できそうです。流石塵芥(ちりあくた)。普通なら出来ないことをしでかしますね』

「誉め言葉として受け取ろう」

 

 こうして白騎士と話しているうちに、俺も謎の白い膜? に(おお)われ。

 気づけば、先ほど束が使っていた装備を身にまとっていた。

 俺が自分の状態を興味深げに眺めていると。

 

「それはIS(インフィニットストラトス)。私が作ったマルチフォーム・スーツ。宇宙でも使えるし……戦争にも使える。文字通り、マルチフォーム・スーツ」

 

 ……作った? はい? なんですと?

 作ったと今、このいとしの天才さまは言いましたか?

 まさかこの世界って、巻き込まれ系のストーリーじゃなくて。

 束自身が、世界に問題を起こしちゃう系? のそんな世界だったの?

 

「私はこのIS(アイエス)にある条件を設定して、世の中に発表するつもり」

「設定? 白騎士の俺に対する呼び名みたいにか? ……あれ? そういえばさっき白騎士のやつ、俺のことを塵芥(ちりあくた)って呼んだけど。あれって自分で……」

 

 なんかもう情報過多だ。

 ぜんぜん頭が回らないし、理解できない。

 いや、束のいうことを無駄に優秀な俺の肉体は理解している。

 

 しかし俺の精神がまだ追いついていないのだ。

 

「誰にでもIS(アイエス)が使える様になれば、まず軍需が広がる。そして経済戦争、国家間の利権の取り合いが高確率で起こる」

「なんだそりゃ、アーマードコアかよ」

「なにかの作品? まぁ、それも後で教えてもらうとして。このIS(アイエス)が世の中に出れば、まず戦争が起こるのは仕方ない」

 

 当たり前の未来。しかしどこまでを計算している? 彼女の精神は、天才としての頭脳に追いついているのか?

 

「おいおい、仕方ないのかよ」

「ならこの世の凡人ども、有象無象(うぞうむぞう)が強大な力を完全に制御できると思うの?」

 

 考えるまでもない、無理だ。理想論を語るまでもない。

 

「ありえない。人は綺麗じゃない。汚い部分がどうしても表にある」

「流石精神年齢は50近くのおじさん。さて、だから私はIS(アイエス)を公表する際、リミットをかける」

 

 来た。

 

「あれか? 束に認められた一部の存在だけしか使えないとか? そういうガッチガチな感じの設定か?」

「それよりは(ゆる)い感じかな。女性しか使えないようにするの」

 

 これはまた、大きな事をするつもりだな。

 女性しか使えない、戦争も出来るマルチフォーム・スーツ。

 どう考えても核分裂爆弾なみの火種じゃねぇか、これ。収拾をどうやってつけるつもりだ?

 

「……それはまた、歴史が動くな」

「このIS(アイエス)を女性しか使えなくして、そのうえでこの世界の戦争をある程度コントロールする」

 

 戦争のコントロール。

 それは常人の考えじゃない。

 しかしいま問題なのは出来るかどうか。

 

「出来るのか? いや、聞くだけ野暮か」

 

 彼女の自信にあふれる顔を見て、言葉を撤回する。

 

「なぁ、束」

「ん? なぁに?」

 

 だから俺は気になった。あの中学の時のことだ。

 

「お前の将来の夢、それはなんだ?」

「中学の時のやつ? 適当に書いたよ」

「違う、いまのお前の夢。目標だ」

 

 俺は彼女の目をまっすぐに見る。

 ()らすことを許さない。

 これは試練だ。

 

「笑わない?」

「お前を笑うやつは俺が潰す」

 

 天才であるからこそ、力におぼれているのか?

 理想論に酔っていて行動しているのか?

 彼女の最終目標、それを聞こう。

 そのうえで、彼女を守ろう。

 

「世界平和」

 

 訂正。やっぱり篠ノ之束はすごい魅力的な女性だった。

 

「……わぁお」

「なにか反応してよ」

「驚いて何もできないんだよ」

 

 凄いな、予想も出来なかった。

 IS(アイエス)を作って世界を揺り動かして。

 そのうえで、将来の夢は世界平和と来たか。

 

 あぁ、やばい。惚れてよかった。

 顔がにやけてヤバイ。

 本当に、好きだ。

 

「で、これからまずはどこに行くんだよ」

 

 束を守ろう。彼女は世界に必要な人だ。

 

「束の事だ。俺に話した後はもう動くつもりだったんだろ」

「ふふっ♪ 流石、私を好きで好きでたまらないロリコン転生者♪」

「それはもう時効じゃないっすかね」

「え~♪ 最初の告白からまだ10年ちょっとだしな~♪ 時効は受け付けないな~♪」

 

 かわいいな。最初、幼稚園の時に笑顔が似合う女の子だと分かっていた。けど実際に見る笑顔は何億倍も可愛かった。

 

「はぁ……もういいや、それでさっきの話。これからどこに行くんだ?」

 

 もったいぶるように、彼女は楽し気に答えた。

 

亡国機業(ファントムタスク)ってところにIS(アイエス)を売りに行く。そして私は世界を征服するよ」

 

 亡国機業(ファントムタスク)、初めて聞く名だ。しかし名前からして、正義の組織ではないだろう。

 

「……わぁお」

「同じ反応、つまらない」

「転生しても凡人の俺にはスケールがデカすぎてヤバイんだよ」

「凡人、ねぇ。まぁ君が自分のことをそう言うならいいけど」

「なんか意味深なことを言うな」

「君はもう少し、自分への興味を持つべきだね」

 

 やれやれ。なんのことやら。そういえば、織斑だ。CVメグーだから、出来たら仲間にしたい。

 

「束、織斑には声をかけないのか? あいつの声で判断するのはオカシイかもしれないが、恐らくあいつはこの世界でも重要人物だ。もしかしたらお前の天敵になるかもしれない」

「でも、守ってくれるんでしょ?」

 

 ……あの、なんでむくれるんですかね?

 いや可愛いんですよ。束はむくれても可愛いけど、どうして織斑の話題で……おい、これって。

 もしかして嫉妬、というやつではないでござろうか? お? おお? もしかして、もしかしちゃう?

 

 んんっ! ごほんっ! 

 

「当たり前だ、守ってみせる。人を殺したことはないが、お前の代わりは存在しないだからお前を守るためなら、人すらも殺そう

 

 織斑は美人だし、話しやすいし、CVメグーだから出来たら敵対したくない。けど束と比べるなら、天秤に乗ることさえない。

 

「やっぱり君は精神異常者だ」

「かもな……否定はしない」

 

 一応、自覚はしているよ。

 

「ねぇ、君にとって……この世界は地獄だよね」

「お前がいれば天国さ」

「けどね、私といると、それ以上の地獄だよ」

 

 儚げな笑顔。

 俺は彼女の笑顔が好きだ。

 けどこんな直ぐに消えそうな笑顔はいらない。

 

「これだから女ってのは男を分かってねぇんだよ」

 

 嫌われるかもしれない、しかし抱きしめる。俺の胸元で、もごもごとウサギのように動くのが愛らしい。

 

「いいか、お前以上に価値のあるものはこの世にない」

 

 束はまだ俺の腕から逃げようとしているが、体の力は弱い。

 

「つまりお前さえいれば、天国も地獄もくだらねぇよ」

 

 彼女は逃げようとする動きを止めた。

 

「生まれる前から好きです、付き合ってください」

 

 さて、この告白は一体人生で何回目だろうか? 意外と束に聞いたら教えてくれるかもな。

 

「よし、いいよ」

「えっ!? まじで!?」

「あっ! 違う! ちーがーうーかーらー! そういう意味じゃない!」

 

 両手で強く顔を押される。しかし彼女が全力で抵抗したら、こんな威力じゃないからこれは甘噛みみたいなものだ。

 

「むっ、じゃあどういう意味だよ」

 

 俺はつい調子にのって彼女の顔に近づく。しかし次の言葉は俺の全てを止めた。

 

「今から私は30秒間目をつむります」

「あっ、はい。はい?」

「その間、好きな所にキスをしていいです」

 

 ふぁ!? す、好きな所……。

 

「ッ!? そ、それはまさか、唇もOKっすか!?」

「やりたければいいよ」

 

 目が垂れて、口もニヤニヤとしている。なにかを企んでいる顔だ。

 

「けどまだ私からOKを貰ってないのに、口と口でキスするの?」

「……あの、キスしていいんだよね?」

「好きな所をね♪」

 

 まじか……これは難問だろ。

 だってここで唇にキスをしたら、俺は世の中の男と変わらない。

 結局は相手の事を無視して、自分の欲望を満たそうとする男だと思われるかもしれない。

 

 けど、それならどこにキスをすればいいんだ!?

 

「ちなみに、鼻や、額とか、色々とキスをする部分によって意味があるから。そういう知識がない君が、どこにキスをするかで君の本気度がわかるんだ」

「なん……だと……」

 

 テンプレな驚き方をやってしまった。

 しかしそれほどに、俺は困ってしまい、悩んでしまう。

 だってキスの場所でこっちの心理状態? 本気? を測られるなんて。

 

 ど、どうすればいい? 唇はダメだ。

 それをしたら束がどう思っていようと、俺が彼女をないがしろにしているようで嫌だ。

 ならば鼻? ほほ? あとは額とか。でもなんか本気度が分かるとか言われると、どこにしていいか分かんねぇよ!

 

 ああもう! くそっ……なんか俺だけ焦ってるようでムカつくな。

 どうせなら普通はキスをしないような場所。

 キスをしても意味のなさそうな場所を。

 

 ……そうだな、耳にしよう。

 

「あっ♡ なるほど、そこか~♪ 君もスキモノだね」

 

 にんまりと、彼女は猫のように愛嬌のある笑顔になる。

 

「え? おい待てよ。耳にも意味があるのかよ!」

「ふふっ♪ あるよ。自分で調べたら?」

「絶対に調べない! 調べたら絶対に笑うだろ! くっそ、マジかよ。なんで耳にまで意味があるんだよ」

 

 これは悪となった天才と、その彼女のために最大悪となる俺の話。

 こうして天災と、人類種の天敵は優しい世界を作るべく。

 世界征服の第一歩を進めた。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

 世界征服後。

 

「それにしても予想外だった」

「ん~? なにが~」

 

 俺たちはいま、なにもない無人島を歩いている。ただ遊びに来たのだ。

 

「織斑が普通に社会人になっている事にだ。彼女はきっとIS(アイエス)に乗って、ガンダムのアムロ並みに無双をするんじゃないかと警戒していたのに……」

「え~、そんなに気にすることなの? 大御所声優さんでも、たまにはモブキャラをしたってことじゃないの?

 というかガンダムの例で出すなら私と君って、ある意味ギレンとシャアが手を結んだようなものだね」

 

 彼女とはあれからなんでも話した。俺は自分のことを理解してほしくて話すし、彼女は俺の前世のアイデアを楽しんで実用化していった。

 

「ギレンとシャアは言いすぎだろ。俺程度、ジョニーライデンだよ。それにしてもモブキャラかぁ……。そうなのかもな。

 調べた感じ、家族との仲は良く。休日は弟と一緒に料理をする近所で人気のお姉さんだし。えー、うそ、警戒していた俺、超恥ずかしい」

「まぁちーちゃんのことは置いておいて。君がジョニーライデンはおかしいよね。だって結果として裏世界の最終決戦。

 アメリカが量産した第4世代IS(アイエス)30体を、君1人で殲滅しちゃったじゃん。あれのせいで予定が完全に崩れて私大変だったんだから」

 

 あははっ、い、いや~、あの時は年甲斐もなく、頑張っちゃったな~、あははっ。

 

「それを言うなら、IS(アイエス)をバカみたいに作って国に送った束のせいだろ? 俺は悪くねぇぞ」

「あのね、IS(アイエス)を大量に渡して、その国の国防がIS(アイエス)に偏れば偏るほどに、私のコントロールは容易になるの。

 だから大量に量産したのに……はぁ、君がバカなことをしたばっかりに」

「なっ!? いや、だってな。あの時の大統領が支持率アップのためにお前のことを、テレビを使って大々的に指名手配犯に仕立て上げようとしていたからな?

 つい、その……なんだ? ……やっちゃったぜ☆彡」

 

 ぺしっ、と頭を軽くはたかれる。

 

「はぁ……愛されていると言うべきか。君はやっぱり精神異常者だというべきか。どっちだろうね」

 

 試すようにシャフ度でこちらを見てくる束。服越しであろうと、彼女の素晴らしい肉体美に俺は勢いよく返事をする。

 

「もちろん束を愛しておりますです、はい」

「真面目に」

「生まれる前から好きです、付き合ってください」

 

 答えはない。

 彼女は答えずに先を進む。

 俺はそんな束の後を歩き。

 ふと立ち止まった彼女を見る。

 

「いまこの星は、私の地獄だ。私が生活しやすくした地獄だ。私が、私の為に、私だけのために用意した地獄だ」

 

 当たり前だ。

 世界最高の頭脳である彼女が望み。

 世界最強の武力と、世界最悪の精神を持つ俺が望んだ世界だ。

 

「ねぇ、この地獄(せかい)で君は生きていける?」

 

 一瞬、俺は呆れてしまった。しかしこれは彼女のやさしさなのだと直ぐに気づき、俺は笑ってしまう。

 

「はははっ! 本当に男と女ってのは難しいな!」

「むっ、なにがさ」

 

 むくれる彼女がカワイイ。

 束のために命を賭けたことに後悔なぞ湧かない。

 だってこんなに魅力的で可愛い女の子が用意した世界(じたく)

 

 男として楽しまないでどうするよ?

 

「人には多くの欲がある。しかし大枠は5欲だ。食欲、財欲、色欲、名誉欲、睡眠欲。これらの中で人を大きく狂わせるのは、名誉欲だ。

 名誉欲、権利欲、支配欲。しょせん俺たち人間は知的生命体の皮をかぶっているが、結局は動物の頃の本能を捨てられない。

 だから人よりも上にたつことを楽しいと感じる心が、本能がどうしても存在する。

 それは否定しない。だけどな……」

 

 本能は本能、けど理性が本能を凌駕(りょうが)することもある。

 

「本気で惚れている女がいる(おとこ)にとって、それは全て(くつがえ)る」

 

 7つの大罪だろうと、基本欲の5欲であろうと、君以上の価値はない。

 

「いいか、よく聞け篠ノ之束。よく聞け天才」

 

 俺は後何回告白をするのだろう。

 最近は逆に毎日告白するのが楽しみでもある。

 彼女の心に届く告白は、いったいどれなのだろうか、考えるだけでも楽しいものだ。

 

 人生楽しんだもん勝ちよ。

 

「この世界の果てまで旅をしても、次元世界の果てまで旅をしても、例え神たちの住まう世界に旅をしても」

 

 2つの世界を知る俺だから何度も言おう。篠ノ之束、君は世界で一番美しい

 

「お前以上の宝を俺は見つけない。見つけられないだろう、じゃない。見つけない、だ」

 

 そんな君以外をいらないと、俺は本当に思っているんだ

 

「お前こそが俺の欲しい、永劫無二の秘宝である」

 

 だから、どこまでも恥ずかしく。君が欲しい

 

「そんなお前が笑ってすごせるこの地獄(せかい)は、俺にとっても大事な場所だ」

 

 だから、君が笑顔なのが、俺にとっては一番大事だ。

 

「実は君の前世ってファブニールだったりしない?」

「神話のお話を考えるなら、俺はニーズヘッグだな」

 

 自分でニーズヘッグって言ったけど、いやはや、俺じゃあきっと役不足だな。

 つい肩をすくめてしまう。しかしそんな俺の小さい変化に彼女は気づき。

 ほほをつねられた。これが彼女の最近のマイブームである。

 

「目を閉じて」

「え? 目を?」

「いいから!」

 

 その言葉に従う様に俺は目を閉じる。

 ふと、転生してからのことを思い出した。

 生まれた時、絶望した。似ているようで似ていない。

 ここは俺の知らない世界だと、パラレルワールドに恐怖し。

 時間と共に、どうにか社会人としての精神で耐えることが出来た。

 

 しかしそんなときに見つけられたのが、俺にとっての女神。

 この世界でいまは、神と同レベルの篠ノ之束だ。

 彼女は俺にとっては救いであった。

 

 そして告白の毎日。

 小学校のある日、気づいたら過去のことを語った。

 彼女はそれを笑いもせず、同情もしなかった。あの時から、すごい女の子だ。

 

 そして中学校。

 彼女は自身の天才性に悩んでいた。

 しかしそれは勘違い、発想がずれていることを気づかせた。

 

 俺はあの時、初めて彼女を人間だと認識したのかもしれない。

 

 そして高校。

 CVメグーである織斑との出会い。

 その後の野球部の出来事もそうだが、織斑との出会いが始まりだった。

 彼女のせいではないが、織斑との出会いが、この世界征服の始まりだと俺は思っている。

 

 そして公園での、俺史上、最大の黒歴史。

 ガチ告白のうえで友達宣言。

 死ねる、死ねるわぁ……。

 

 まぁ、けど、色々とあったけど楽しかった。束に出会えてよかった。

 たった数年。気づけば一瞬で時は過ぎてしまった。

 そういえばあの公園の時――。

 

「んっ――!?」

 

 気づくと、唇に熱があった

 

「ふふっ♪ ねぇ帰ったら調べものをしない?」

「……あ、ああ。え? うん、あれ? 口にいま――」

「耳と唇へのキスの意味。君に知っておいて欲しいんだ」

 

 顔が赤かった。耳まで赤かった。

 きっと俺も彼女と同じ。

 真っ赤なのだろう。

 

「ねぇ♪」

「なんだ?」

 

 彼女は砂浜で踊る。

 優雅に綺麗に1回転。

 これはフェアリー?

 まさか女神様か? いいや。

 

 彼女は……篠ノ之束だ。

 

愛してる♡

 

 驚いてしまった。しかし直ぐに言葉を返す。だって考える理由もなく。想いを止めることもなかったのだから……。

 

「俺もさ」

 

 ふぁさっ、と彼女が俺に抱き着く。

 初めてのことだ、束が俺に抱き着くなんて。

 だから俺は逃がさないように、強く抱きしめる。

 

「束」

「ん~♪ なぁに~♪」

 

 この匂いも、この(ぬく)もりも、この可愛さも手放したくない。

 

愛してる

 

 さて返答は?

 

「知ってる」

 

 こうして俺は、世界征服をしたついでに、いとしい女を手に入れましたさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CV田村ゆかりが好きだったから篠ノ之束に近づいたら、彼女の事をガチで好きになってしまい一緒に世界征服をしたバカな俺のお話です

 

 終幕

 

 

 

 

 






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