青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~   作:カボチャ自動販売機

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明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!

今話長めです。


第22話 兄妹との同棲生活

女性下士官は、ぼくらを部屋に残して刑務所へ戻っていく。どうやら本当に部屋はこの一部屋しかないらしい。一部屋、といってもここはマンションの一室のようなもので、スペース的には全く三人でも問題はないだろう。が、それはあくまでスペース的には、の話であって精神的には違う。

 

 

「あの……」

 

 

閉ざされたドアを見詰めていたお嬢様が、ぎこちない仕種で振り向いた。視線の先は司波達也。

司波達也は相変わらずの無表情。お嬢様は声を掛けてはみたものの、それに続く言葉が出てこなくなってしまったのだろう。

 

「どうしましょうか?」

 

 

困惑を超えて混乱状態に陥っているお嬢様。すがるように司波達也を見ていることから、ぼくが彼にお嬢様がしたかったのであろう質問の答えを促した。

すると、言い淀んでいたお嬢様も続く。

 

「お兄様……」

 

「仕方が無い。俺はお前の側にいなければならない立場だ」

 

 

守護者は守護対象を、身体を張って守らなければならない。

それが彼の言う「立場」だ。

しかし、この状況がおかしいことも分かっているようで、乏しいながらも何処か諦めを滲ませる表情で答えを返す。

 

 

「お前は嫌かもしれないが、ベッドルームには立ち入らないようにするから少しの間、我慢してくれ」

 

「その……決して、嫌ではありません」

 

 

 

嫌ではなくても、恥じらいがあるのだろう。お嬢様は思春期真っ只中の中学生。たとえ生まれた時から一緒に暮らしている、仲の良い兄妹であっても、同じ部屋で寝起きするのは恥ずかしくなるものだ。

それもこの二人に限っては事情が異なる。兄妹という意識は生まれたときから共に過ごす内に刷り込まれていくもの。それが二人にはなく、お嬢様は八月から劇的に兄妹としての意識を持ち始めた。

異性としての認識の方がまだ強いのだろう。

 

 

「アンジーさん、どうやら部屋は一つで過ごすしかないようなのですが……」

 

お嬢様の初な反応に萌えていると、司波達也が申し訳なさそうに声をかけてきた。

成る程、確かに兄妹でもなんでもない妙齢の女性が異性と同じ部屋、というのはどう考えても忌避する事態だ。切り出しにくい話題だろう。

 

 

「ああ、大丈夫ですよ。私は元々軍人ですから、異性と同じテントで寝たこともありますしお気になさらず」

 

 

軍の訓練では夜営もある。

サバイバル訓練のようなものをさせられて、テントで寝るのだが、勿論男女で分けたりしないので、男と同じテントで寝た。当時のぼくはまだまだ幼い容姿であったために、ぼくに手を出そうなんて不届きものはいなかったが、一応寝ないで一夜を過ごした。徹夜明けの次の日の訓練が死ぬほどツラかったのを未だに覚えている。

 

死ぬほどツラかったと言えば思い出すのが、三日間の野外訓練だ。

この訓練でぼくは完全に亡命を決意したと言っても良い。

 

この訓練、なんとほぼ不眠不休で食事は一日一回。魔法師なら絶対必要ない、やたらと重い装備をつけさせられて、二日間かけて三十キロ森の中を歩かされ、そこから森の中で一日潜伏する、という鬼畜の所業。これを十二歳の少女にやらせる国なんて、絶対滅んだ方が良い。

 

 

 

「お気遣い感謝します。深雪にも言いましたがベッドルームには立ち入らないようにしますので」

 

 

ここで、ぼくは気付いた。

えっ、この感じだとぼくとお嬢様、一緒の部屋で寝ることに決まってね?と。

 

お嬢様を見る。

 

何も疑問に思っていなそうな綺麗な青いお目目だ。

そりゃ常識的に考えれば、女性同士ベッドルーム使ってください、ということなのだろうが、ぼくは普通の女性ではない。

 

元男の転生者だ。恋愛対象は女性だ。お嬢様は美少女だ。お嬢様は中学生だ。

 

事案である。

 

 

「あの、私がお嬢様と同じベッドルームを使わせていただく、というわけにはいきません。今回は指導役として同行させて頂いているとはいえ、守護者ですから。先程も言いましたが、訓練で慣れているので何なら床でも寝れますし、リビングとかで十分です」

 

「そうすると、俺と同じ部屋で寝ることになってしまいますが」

 

「問題ありません」

 

「問題しかありませんよ!?」

 

 

ぼくの発言をお嬢様が食い気味にかき消した。

自分が大声を出してしまったことに気がついたのか、はっとしたように顔を赤くするお嬢様。

 

 

「私は構いませんから、アンジーさんもベッドルームを使ってください」

 

「俺もその方が良いと思います」

 

 

こうまで言われてしまうと、拒否するのは難しい。このまま頑なにリビングで寝ると言い張れば、ただ男と寝たいだけの痴女になってしまう。

 

それに、お嬢様はぼくがお兄様と同じ部屋で寝ることをどうあっても許さないだろう。

まだ原作1巻時程ブラコンではないが、むしろ兄妹としての意識よりも異性としての意識の方が強い分、司波達也に対する感情は曖昧で固まっていない、デリケートなものだ。あまり逆撫でするようなことはするべきではない。

 

 

「ではそうさせていただきます。お嬢様、申し訳ございませんがよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。アンジーさんとはあまりお話する機会がなかったので楽しみです」

 

にこっとお嬢様が笑う。可愛い。幼さの残る美貌は反則級に可愛かった。

守りたいこの笑顔。

 

 

「すみません、私のせいで予定より遅くなってしまいましたね」

 

「いえ、元々訓練開始は午後からの予定ですから。まずは昼食にしましょう」

 

 

一通り、荷物を片付け、整理が終わったところで手持ちぶさたになったぼくは、タイミングを逃していた謝罪をした。

ぼくはこの島のことを聞いたばかりで内部のことは殆ど知らないため、何度か訓練で訪れている達也くん(現状、司波兄妹はぼくが年上だと思っているため、そう呼ぶことになった)が、現状のスケジュールの管理を任されている。船酔いなんて下らない理由で、最初から予定を狂わせたことを心苦しく思っていた。

 

 

「もしよろしければ、お詫びに今日の昼食は私が振る舞いたいと思うのですが……折角こんなに良いキッチンもありますし」

 

 

冷蔵庫の中には一般的な食材がある程度入っており、大体のものは作れそうだった。

今のところ、ぼくは情けないところしか見せられてないし、ここで出来るやつなんだというところを見せておきたい。ぼくの女子力で唯一誇れる料理で、ね!

 

 

料理に関しては少しばかり自信がある。

前世でも多少はやっていたが、リーナとなってからその腕は格段に上がった。

それには悲しくも切ない理由がある。

 

スターライト時代。

訓練施設には娯楽なんてトランプなどのカードゲームや、ビリヤード・ダーツなんかしかなかった。そういうのも楽しいのだけど、施設では賭けが横行しており、ぼくみたいな子供がノコノコと参加できるものではない。

 

つまり、ぼくには娯楽がなかった。

ゲームも、漫画も、アニメも、インターネットすら使えず、同年代の子供もいなければ、まともに外に出られない。

あるのはバイオレンスとセクハラとギャンブルだけ。

 

 

――食べること。

 

 

それだけが、スターライト時代唯一の楽しみだった。とはいえ、食堂のメニューは簡素なもので大して美味しくはないし、男所帯なものだから甘いものなんて出ない。

 

甘いものが食べたい。

 

一度意識してしまうと、もう止まらなかった。最初はそんな動機だったと思う。

 

ぼくは食堂の職員に頼み込み、調理場を使わせてもらえるようにした。そうして、職員の人に仕入れてもらった材料で料理を作っては食べる、というのがぼくの唯一の娯楽となったのである。

初めて作ったホットケーキの味は忘れることはないだろう。ハチミツたっぷりのホットケーキは荒んだぼくの心を癒してくれた。

 

 

「パンケーキにしようと思うのですが、大丈夫ですか?」

 

 

達也くんとお嬢様に了承してもらったため、本日の昼食担当はぼくになった。

過去を思い出していたことによって無性にホットケーキが食べたくなったが、おやつではなく昼食ということで、パンケーキを提案する。

特に反対意見も無く、許可が出たため、パンケーキミックスを混ぜ始まる。

 

楽しい。この、作ってるときのわくわく感がこの上なく楽しい。

料理は好きだし、何ならここにいる間、三食作っても良いくらいだ。

 

 

「何か手伝えることはありませんか?」

 

ぼくがニマニマと崩れそうになる表情をどうにか堪えていると、お嬢様がエプロンをつけながら訊ねてくる。

 

ぼくは、思った。

兵器級に可愛いなこの女の子、と。

 

だって、エプロンお嬢様、髪を後ろでポニーテールにしてるんだぜ?反則だろ?

幼さの残る少女が背伸びしてる感じが最高にキュートで堪らない。

流石は世界のヒロイン、美少女力が止まることを知らない。

 

と、馬鹿なことを考えながらも、折角ここまでやる気を出しているお嬢様の言葉を無下にするわけにもいかない。パンケーキと一緒に食べるフルーツを切ってもらうことにした。

お嬢様が得意気にフルーツの皮を剥く姿は必見である。

 

 

「達也くん、お皿を並べてもらっても良いですか?そこに焼き上がったものから乗せていきますから」

 

 

女子二人の料理風景を眺めていた達也くんにはお皿を並べてもらうことで、きちんとチームの和に入ってもらった。

こういう時、手持ちぶさたなのが一番気まずいものだ。

 

達也くんに並べてもらったお皿の上に、焼き立てのパンケーキを乗せていく。甘く香ばしい匂いは、先程まで死ぬほど気持ち悪かったぼくにも食欲を沸き上がらせてくれる。

その、パンケーキに添えるのは、ふわふわのオムレツとカリカリに焼いたベーコン。

ブラックペッパーを振りかけたオムレツと塩気が強いベーコンは、シンプルな味付けなのだが、そのシンプルさ故に、ほんのり甘いパンケーキと合わさると凶悪なまでに調和された料理へと昇華する。

 

 

「お嬢様に切って頂いたフルーツは、二枚目に使うとして、まずは温かい内に一枚目をいただきましょう」

 

 

パンケーキは出来立てに限る。

早速、パンケーキを一口サイズに切り分けて、オムレツと共に口へ放り込む。

オムレツは自画自賛になってしまうが、絶妙なふわふわ加減で、ブラックペッバーが優しい甘味のアクセントとなって味を引き立てる。

 

次はベーコンだ。

やや厚切りにしたベーコンは滴る程の肉汁をカリカリに焼き上げ閉じ込めた。

噛むと、まずベーコンの塩っぱさを感じた後に、パンケーキの甘さがじんわり訪れる。甘さが一層際立って感じられ、塩味が甘さの引き立て役となっていた。

 

幸せだ。

 

 

「では、二枚目乗せていきますね」

 

 

二枚目はお嬢様に切っていただいたフルーツをふんだんに使ったデザートパンケーキ。

イチゴ、バナナ、オレンジ、ブルーベリー、キウイを盛り付けて、生クリームを添える。チョコレートソースをかけて完成だ。

 

一枚目を食べて、お腹いっぱい、といった表情だったお嬢様も、顔を綻ばせている。

 

 

「つい食べ過ぎてしまいました……」

 

 

空っぽになった皿を見て、少し罪悪感を感じているのか、お嬢様が言う。

パンケーキ二枚、というとペロリと食べられそうと思うかもしれないが、意外なほど重い。別腹という女子の切り札を使っても余裕ではなかっただろう。恐らく、こんなに食べることは普段ないから、罪悪感を感じるのだ。

 

 

「多少の食べ過ぎは訓練を頑張って解消しましょう。予定にはありませんでしたが、軽いエクササイズでもやりますか?」

 

「やります」

 

 

食い気味に返事が来た。どうやらぼくの思っていた以上に食べ過ぎたことを気にしていたようだ。

 

 

「アンジーさん、訓練についてなのですが……」

 

 

食後のコーヒーを飲んでいた達也くんが、声を発すると、お嬢様がはっとしたように顔を赤くした。思春期の女の子には今の会話は恥ずかしかったらしい。

 

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「実は叔母上から頼まれていることがありまして」

 

 

悪い予感がした。

 

達也くんの言う叔母上とはつまり、四葉家の当主、四葉真夜のことで。

ぼくはまだ一度も会ったことがないが、ぼくの主人である司波深夜の双子の妹で。

それは容姿もさることながら、性格も少なからず似ているということで。

 

 

 

「俺と模擬戦をお願いしたいんですが」

 

 

 

悲報。

リーナ氏、主人公に挑む。

 




達也氏、お得意の模擬戦を繰り出す。

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