セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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ゲーム部分を詳しくやる気はなかったのでものっそいざっくり


その2

「ユーギ部、って……これ何?」

 

 倒れて動かない義輝を見ながら部室へと入った二人であったが、そこに積まれている多数の箱を見て結衣が目をパチクリとさせていた。事情を聞いていた際のイメージとしてゲームのある部活というものを想像していたのだろう。

 

「いや、これもゲームだぞ」

「ゲームってテレビに繋いだり携帯ゲームだったりスマホゲームだったりとかじゃないの?」

「こいつらはアナログゲームってやつだ。ボードゲームとかカードゲームとかその辺」

 

 そう言いながら八幡は手近にあった箱を手に取る。薔薇と髑髏の意匠のあるその箱を見て、これ見たことあるなと呟いた。ちなみに箱に書かれているのは日本語ではない。

 

「え? ヒッキー詳しいの?」

「いや。暇潰しに見てた動画でアナログゲーム実況してたんだよ」

「ユーチューバーみたいなの?」

「まあ、そんな感じか」

 

 そんな会話をした辺りで、こちらを伺っていた二人組が何の用ですかと声を掛けてきた。突如現れ人間魚雷をかました連中である、警戒して当然だ。そりゃそうだろうと納得した八幡は、しかしここで何を言うべきか少し迷った。

 

「まあ待て、俺達は争いに来た」

「いやそうなんだけどそれ言っちゃダメなやつ!?」

 

 ざわ、と二人組に緊張が走る。この状況で争いに来たと言われればどう考えてもその方向が思い浮かぶ。思わず身構え、視線で何か武器になるようなものを探していた。

 それを見て八幡は口角を上げる。先制攻撃は成功している。そう判断し、彼はもう一度まあ待てと二人に述べた。争いに来たとはいっても、武力行使に来たわけではないと言葉を紡いだ。

 

「どういう、意味ですか?」

 

 視線を彷徨わせていた際に八幡達が上級生だということを知ったのだろう、二人組の眼鏡の方がそんなことを問い掛ける。ちなみに両方眼鏡である。丸い眼鏡と四角い眼鏡の違いはある。

 

「それに答える前にだ。そこに倒れてる奴と勝負するって話らしいんだが、本当か?」

「へ? ……あ、剣豪将軍」

 

 視線を床に落とした四角眼鏡が倒れている義輝を見てそんなことを呟いた。剣豪将軍で通ってるのかよ、と思わず眉を顰めた八幡であったが、その反応を見る限り真実ではあるらしいと息を吐いた。

 それで、と四角眼鏡を見る。大体察したのか、お疲れ様ですと彼は八幡に頭を下げた。

 

「んで、勝負するのはどっちなんだ?」

「あ、俺です。一年の秦野です。こっちは相模」

「ども」

 

 ぺこり、と頭を下げられたので、八幡も結衣も流れで自己紹介をしてしまう。比企谷八幡だ、と彼は述べ、由比ヶ浜結衣ですと彼女は述べた。

 そうすると、相模がなんとも妙な反応を示した。え、由比ヶ浜? と結衣を見て顔を顰める。

 

「え? あたし何かやった?」

「あ、いや、そうじゃなくて……。その、姉がいつも迷惑かけててすいません」

「姉? ……あ! ひょっとしてさがみんの弟くん!?」

「さがみん?」

 

 なんのこっちゃと首を傾げていた八幡であったが、彼の顔と相模という名前で何となく察した。そういえばクラスに同じ名前の女子がいた気がする、と。優美子がパワータイプ過ぎて霞んでいるが、彼女もそこそこ所謂パリピ系統であった。

 

「姉とタイプ違い過ぎないか?」

「身内の恥です」

「言い切りやがったよこいつ……」

「いや、さがみんもいいとこあるよ! こう、色々前に出てくるとか」

「あれはでしゃばりたいだけです。で、途中で逃げる」

「……」

「おいガハマ反論してやれ」

「……まあ、優美子がね、あんまり好きくないみたいだから、うん」

「お、おう」

 

 話を聞く限り、基本脳筋で真っ直ぐな優美子とは相性が悪いのだろう。そうなるとその親友の結衣と特別仲が良くなる理由が見当たらない。じゃあ何故彼が結衣の名前を知っていたのかといえば。迷惑かけてすいませんという言葉がきっと全てを物語っているのだろう。

 クラスの友人関係をこれ以上深く追求しても仕方ないと思考を切り上げた八幡は、話を戻していいだろうかと皆に述べた。相模もこの話題を続ける気はないようで、はいと頷き視線を秦野に向ける。

 

「それはいいですけど。剣豪さん生きてます?」

「そういえばさっきから動いてないな。死んだか?」

 

 もしそうならば負けることもないから一応願いは叶えたことになるな。そう結論付け八幡は邪魔したなと帰ろうとした。勿論結衣に止められた。置いて帰るのは駄目だから、と割と真面目な顔で言われ、はいすいませんと頭を下げた。

 

「じゃあ材木座の死体を処理して」

「いや我生きてるから。この生命、この肉体、斯様なことで滅びるほど脆弱ではない!」

「だったらさっさと起きろよ」

「……何か、起き上がれないタイミングだったんで」

 

 どこかバツの悪そうに頬を掻きながら義輝が起き上がる。パンパンと服についた埃を払うと、高笑いを上げながら秦野をビシリと指差した。一年坊に先輩としてお灸をすえてやると意気込んだ。

 

「分かりました。じゃあ早速やりましょうか」

「え? 今ここで?」

「この部屋基本アナログゲーばっかですけど、ちゃんとそれ用のも置いてありますから」

 

 ほれ、と指差した先にはモニターとゲーム機、アーケードスティックが設置してある。それを見た義輝は二・三度目を瞬かせ、そして縋るように八幡を見た。部屋の状況を見て、こうなる可能性を排除していたらしい。

 対する八幡、諦めろと言わんばかりに鼻で笑った。完全なる自業自得なので、もうこれ以上助ける理由がないと判断したのだ。後は義輝がボコボコにされるのをつまみにMAXコーヒーでも飲もうかなどと考えている。

 

「ヒッキー。どうするの?」

「材木座がボコされるのを見て笑う」

「八幡!?」

「いやもうこれどうしようもないだろ。さらば材木座」

 

 しゅた、と軽く右手を上げる。溺れる際に伸ばした手を叩かれた義輝は、どこか絶望した表情で八幡を眺め、そして秦野を見た。これはもう勝負するまでもないであろう、そんなことを彼に思わせるほどの表情であった。

 流石にかわいそうかもしれない。その光景を見た結衣はそんなことを考えてしまった。くい、と八幡の服を引っ張ると、何だと視線を向けた彼に向かいどうにか出来ないかなと問い掛ける。

 

「つってもなぁ。徹頭徹尾あいつの自業自得だしな」

「うん、まあ、そうだね……」

 

 そこはどう頑張っても反論出来ない。そして、八幡も別に義輝が嫌いだからとかそういう感情でその結論を出しているわけでもない。むしろ気安い関係だからこその答えとも言えるそれを感じ取った結衣は、じゃあしょうがないかと頬を掻いた。

 ドナドナされていく義輝を見送りながら、二人は遊戯部に積まれているボードゲームを適当に眺める。壊さないでくださいね、という相模の言葉に、分かってるよと八幡は返した。

 

「待って! 見捨てないで! せめて起死回生の逆転の発想を!」

「諦めろ材木座。そもそも土台無理な話だった」

「相模くん、これってどんなゲーム?」

「ああ、それはですね」

「くっ……我は完全なる孤高の存在に成り果てたか……」

「もう始めていいっすか剣豪さん」

 

 ゲームを始める前からゲームオーバーという中々奇異な状況に陥った義輝は、しかし何とかして事態を好転させようと辺りを見渡した。彼の視界に映るのは積んであるアナログゲーム、まだ起動していないテレビゲーム、それらを見ながら和気藹々としている八幡と結衣。

 そして、開いた扉の外からこちらを眺めている雪ノ下雪乃。

 

「誰っ!?」

『え?』

 

 義輝の叫びに思わず全員が彼の視線の先を見る。一斉に顔を向けられたことで一瞬だけビクリとした雪乃は、しかしすぐさま体勢を立て直すとその美しい黒髪をばさりとなびかせた。

 

「話は聞かせてもらったわ」

「いや絶対聞いてないだろ」

「大丈夫、奉仕部は哀れな子羊に救いの手を差し伸べるのだから」

 

 八幡のツッコミを無視しながら、ゆっくりと雪乃が遊戯部の部室へと歩いてくる。絶望の中で女神を見付けたような顔をした義輝は、そんな彼女が近付いてくるのを見て思わず拝んだ。

 が、八幡は知っている。これは絶対に話がこじれるパターンだと。その善意で舗装された道の行き先は、彼の望んでいるグッドエンドではないことを。

 

「ガハマ」

「ん?」

「逃げる準備は出来てるか?」

「いや、もう遅いんじゃないかな……」

 

 

 

 

 

 

 義輝だけが大変な目に遭う、という状況が一変した。そういう意味では雪乃は彼にとって救世主であっただろう。

 問題は、八幡も一緒に大変な目に遭うという状況に変わっただけだということだ。

 

「おい雪ノ下」

「あら、どうしたの比企谷くん」

「何でこんなことになってんだ」

「材木座くんに勝ち目が欲しい、というのが今回の依頼よね?」

「『絶対勝てない』から『勝てるかもしれない』に舞台を変えたんで後は頑張れってか」

「ええ。あくまで道を示すのが奉仕部だもの」

 

 くすりと微笑んだ雪乃は、そういうわけだから後は頑張りなさいと言い放った。テーブルに広げられているそれらを眺め、満足そうに頷いた。

 八幡はちらりとそれを見る。開かれていないカードゲームの袋が数個、彼の目の前に置いてあった。横にはご丁寧に開封用のハサミも用意されている。

 

「えっと、ゆきのん。これ、どういう状況?」

「テレビゲームでは材木座くんは勝てないのでしょう? ならば違うゲームにすればいい」

「それは何となく分かるんだけど」

 

 何をしようとしているのかは分からない。そう言って首を傾げた結衣を見て、確かにそうねと雪乃は頷いた。とりあえずは簡単に説明しようかしらと言葉を続け、机の上のカードゲームの袋を指差す。

 

「あれはトレーディングカードゲームというものよ」

「あ、何だっけ。俺のターン! とかいうやつ?」

「ええ、まあそんな認識で構わないわ。今から彼らがやるのは、それの少し変則的なルールのものよ」

 

 完全に観客と化している二人を尻目に、八幡はその腐った目で並んでいるパックを吟味していた。開けなければ中身は分からない、しかし開けるわけにはいかない。長考の結果真ん中のパックを選んだ八幡は、ほれと残りを義輝に渡した。

 

「では我はこれだ。征くぞ八幡、我が相棒よ!」

「帰りてぇ……」

 

 何かすいません、と謝る相模にお前も被害者だから気にするなと返した八幡は、同じくパックを選んだ秦野を見やる。四人の目の前には自身が選んだ未開封のカードゲームのパックが一つずつ。

 

「じゃあ始めましょうか」

 

 秦野がパックを開封する。宣伝用のカードを抜き取ると、予め用意してあった数枚のカードと混ぜ中身を見ずにそれらをシャッフルし始めた。相模もそれに続き、八幡や義輝も同様に開封する。そうしてそのカードが何なのか分からないままカードゲームのデッキらしきものが出来上がる。

 

「なあ材木座」

「何だ相棒」

「これ、勝ち目あんのか?」

「愚問だな、八幡。パックウォーズに必要なのは運。後はオマケだ」

「大前提としてゲームのルールぐらいは知ってないと駄目だろ……」

 

 八幡は対戦相手もいないのに買い続けているので大丈夫だが、義輝はどうなのだろうか。そんなことを思いながらの一言であったのだが、彼は意外にも任せておけと言わんばかりに口角を上げた。こう見えてやりこんでいるぞ。そう述べ、真っ直ぐに相手を見た。

 

「意外とゲーセン仲間ってこういうのやったりするんですよ」

「然り。まあそんなわけでこれならば奴と互角、のような気がするのだ」

「成程な。……マジかよ、俺より恵まれてんじゃねぇか」

「あ、ヒッキー。じゃあ、もし良かったらあたしに今度教えてくれないかなーって」

「んあ? あ、ああ。いいけど」

「やた。じゃあ今度の土曜に――」

「なあ相模。俺は何を見せられてんだこれ……クソが」

「由比ヶ浜先輩、男の趣味悪いなぁ」

 

 ぱたぱたと八幡のもとへ来てそんな会話を繰り広げる結衣を見て、秦野がやさぐれたような言葉を呟く。それを見て相模は苦笑しながら肩を竦めた。義輝はスルーを決め込んだ。

 さて、お喋りはその辺にしましょうか。パンパンと手を叩き意識を再度カードゲームの方に向けさせた雪乃の一言により、四人は表情を引き締めた。何だかんだで久々のカードゲームということもあり、八幡もノリノリらしい。

 

「ふ、では我から行かせてもらおう! まずは――」

 

 デッキからカードを引く。その瞬間ピシリと表情が固まった義輝は、机と自身の手札を眺め、そしてデッキを見てもう一度手札を見た。

 ターンエンド。静かに、そして棒読みでそう宣言した彼を見て、八幡はああこれはもう駄目かもしれないと一人溜息を吐いた。

 

「じゃあ俺のターンで。――マジかよ」

 

 同じように最初の手札を引いた秦野の顔が引き攣る。じっくりと手札を眺めていた彼は、結局義輝と同じようにターンエンドとだけ呟いた。

 

「ゆきのん、あれってああいうゲームなの?」

「いいえ。恐らくあの二人は絶望的に引きが悪かったのね。今回のルールは正直運の要素が多分に絡んでくるもの」

「そうなの?」

「ええ。でもそうなると、比企谷くんも危ないかしら」

 

 好き勝手述べる雪乃をジロリと睨んだ八幡は、勝手に言ってろとデッキから最初の手札を引く。成程、こんなカードが入ってるのか。そんなことを考えつつとりあえず一枚のカードを机に置いた。

 

「あ、何か出た。結構キレイな絵だね」

「そうね。あれは島カード、青のマナを出すわ」

「まな?」

「説明してもいいけれど、今度彼に教えてもらった方がいいんじゃないかしら」

「ちょっとだけお願い。何やってるか全然分からないってのも面白くないし」

「確かにそうね。じゃあ――」

 

 相模も同じようにカードを出す。そんなやり取りを見つつ、雪乃は結衣に簡単なルール説明を行っていた。へー、とよく分かっていないような返事をしたものの、そのまま進んでいく場を見て彼女はふむふむと頷いている。

 

「あ、じゃあこれヒッキー結構勝ってない?」

「というよりも、向こうの二人が壊滅的と言った方が正しいわね」

 

 秦野と義輝がドロー、ランドセット、エンドを繰り返すのを見ながら、雪乃はそんなことを呟いた。そこは触れてやるな、と八幡はほんの少しだけ同情しつつ、展開したカードで秦野をペチペチと追い詰めていく。相模もそれなりに動いていたが、劣勢を覆すには至っていない。

 

「ふ、はははは。流石は我が相棒! これぞ友情の力だ!」

「ノーガードドローゴーしてる剣豪さんが威張っても虚しいだけっすよ」

「そういう貴様もノーガードドローゴーではないか秦野!」

「何か引けば一瞬で勝負着きます。――エンド」

「ふん、口では何とでも言えるな。見ろ、我のこのシャイニングゴッドドロー! ……エンド」

「……なあ、相模」

「なんですか比企谷先輩」

「もう、止めねぇ?」

「ですね」

 

 後はお前らだけでやってろよ。そう結論付けた二人は無言でカードを片付け始めた。その横では義輝と秦野がカードを引いては無言になる謎のやり取りを続けていた。

 

 


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