セいしゅんらぶこメさあゔぁント   作:負け狐

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エンディング


その10

「おはよ」

「お、おう」

 

 翌朝。朝食へと向かう八幡に声が掛かる。振り向くと、そこにはいつものように優美子や姫菜と共に歩く結衣がいた。しゅた、と手を上げる姿を見て、彼も言葉を返す。

 

「……」

「……」

 

 が、そこで会話が止まった。他の生徒がゾロゾロと歩く中、二人はつい足を止めてお互いを見詰めてしまう。何を言えばいいのか、と思わずそんなことを考えた。何を言うも何も、普段通りにすればいいにも拘わらず、だ。

 

「と、とりあえず朝ごはん食べよっか」

「お、おう。そうだな」

 

 耐えられなくなったのか、結衣が逃げるようにそう述べ、八幡もそれに同意した。そしてそのまま、普段通りに肩を並べて歩き出す。そっと手が隣へと動かされ、しかしお互い弾かれたように元に戻され。そんなことを繰り返しながら、しかし距離は離れずに。

 

「……何だし今の」

「く、くふふふう。あ、やば、ノーマルに目覚めそう」

 

 ジト目で二人の背中を見る優美子と、一人悶える姫菜が残された。その横には同じように苦笑している隼人と翔がいる。付き合いたてってあんなもんだったっけ、という翔の言葉に、隼人は目を閉じるとゆっくりと述べた。

 

「知ってるか戸部。俺はな、陽乃さんにフラれたこともあって、ちゃんとした付き合いをしたことがないんだ」

「……な、なんかすいません」

 

 幸いにして隼人の黒歴史はそこにいた三人にしか聞こえていなかったようで、ギリギリ爽やかイケメンの矜持は保たれている。

 

「まあでも、それはそれとして初々しいって感じはするな」

「だしょだしょ? てか付き合う前の方がイチャイチャしてたじゃんって言いたくならね?」

「ああいうのは意識するかしないかってのが大事だし」

 

 翔の言葉に優美子が割り込む。そんなもんか、という彼の返事に、そうそうと彼女は告げた。

 まあそれはそれとして、と姫菜が手を叩く。何固まってんだと合流した沙希と彩加も交え、とりあえず先程の二人をネタにしつつ一行は朝食の場所へと歩いていくのだった。

 

「んで、あいつらと合流するん?」

 

 優美子がそう零す。バイキング形式になっているそこで、視線を彷徨わせながら他の面々の意見を募った。本人的にはどっちでもいいというニュアンスである。

 

「あたしはパス」

 

 事の顛末を聞き、そして昨日の結衣の話を聞いていた沙希は迷うことなくそう述べた。朝から精神削られたくない、とは彼女の弁だ。彩加も同じように遠慮しておくと頬を掻いた。こちらは単純にそっとしておこうという腹積もりらしい。

 その二人の意見を聞いた残り三人はほんの少しだけ考える。あれを見るか見ないか。先程の光景を思い出し、そして普段の二人を思い浮かべ。

 

「よし、別の場所に行こう」

「だべ」

「さんせー」

 

 反対意見は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 修学旅行最終日。最終日とは名ばかりの、俗に言う家に帰るまでが云々という程度の一日。新幹線に乗って帰るだけのその日、京都駅の屋上に上がった八幡は街並みを見下ろしながら小さく息を吐いた。その手にはほんの僅かなお土産を入れた袋が下げられており、残る時間を有効活用したことを示している。

 そしてその隣では、同じように土産物屋の袋を少しだけ持った結衣が彼と同じように景色を眺めていた。

 

「もういいのか?」

「ん? 昨日までにもお土産結構買ったし。ていうかヒッキーこそいいの?」

 

 八幡の問い掛けに結衣はそう問い返す。彼は彼で、元々渡すような相手がいないと口角を上げた。今持っているものも、出来るだけ賞味期限を伸ばさんとした生八ツ橋とあぶら取り紙、そして。

 

「こんなの適当でいいだろ」

「そう言いつつ、結構悩んでたよね、それ」

 

 彼女が指差した先には小さな袋に入れられたストラップ。折本かおり、八幡曰くクソ野郎のために誂えた一品である。それを指摘された八幡は、別に悩んじゃいないと溜息を吐いた。

 

「というかだな、お前はいいのか?」

「何が?」

「ほれ、あれだ。その、彼氏が、他の女に土産買ってる、とか」

「……ヤキモチ焼いて欲しいの?」

 

 ド直球のその質問に、八幡は心底嫌そうな顔をして否定した。そんなわけあるか、勘違いするな。その他諸々のツンデレセリフを言いながらそっぽを向く。

 ちなみに素である。

 

「ぷ、はははは。ヒッキー可愛い」

「うるさい」

「うん、まあ、ふふふふ。そりゃ、はは、全然知らない女の子とかだったら、ふ、ふふ、ちょっとは思うけど」

「笑うか喋るかどっちかに、いや、違う。笑うな、黙れ」

「どっちも無しなの!?」

 

 ぶうぶう、と文句を言う結衣の頭にチョップを叩き込み、八幡はふんと鼻を鳴らす。痛い、と頭をさすりながら、しかし彼女は彼を見て小さく微笑んだ。

 

「大丈夫。ていうか、あたしはヒッキーのこと信じてるし」

「……買いかぶりだ」

「そうかな? これでもずっとヒッキー見てたし、結構自信あるよ」

「だからお前はまた……」

 

 えへへ、と笑う結衣を見て、八幡は顔を手で覆うと視線を逸らした。そういうことを言うと誤解するんだからやめろ。そんなことを呟きながら近くにあるベンチに荷物を下ろす。

 同じようにベンチに荷物を置くと、結衣は笑みを消さずに彼へと問い掛けた。一体何が誤解するのか、と。

 

「いや、だからだな」

「だってあたしはヒッキーの彼女だよ? 別に誤解でも何でも無いじゃん」

「……あー、そう、だな」

 

 手を後ろで組み、少し前かがみで八幡を覗き込むようにそう述べた結衣の顔を八幡は直視出来なかった。顔を見られないように必死で動かし、京都駅屋上の庭園をぐるりと眺める。

 街並みを一望できるこの場所は、カップルが訪れる場所としても人気だ。彼の視界にもちらほらと男女の姿が見える。そして、自分達もそのうちの一組なのだということを自覚し、彼の溜息が更に深いものになった。

 

「……ね、ヒッキー」

「ん?」

「あたしじゃやっぱ駄目だった?」

「はぁ?」

 

 ぐるんと首を結衣に戻す。先程までの笑みを潜め、どこか沈んだ表情で彼を真っ直ぐに見詰めていた。それが演技ではないことは八幡にも分かる。ただ、表情ほど沈んでいるわけでもないことも同時に感付いた。

 

「なんか、ヒッキー迷惑そうだったから」

「別に。そういうんじゃない。ただ、あれだ」

 

 ガリガリと頭を掻く。深刻に考えているわけでもないが、答え次第ではどん底にもなるだろう。それが分かっているから。そうだとしても。彼としては取り繕うような言葉は言いたくない。表面上の、薄っぺらい答えなど望んでいないし、望みたくない。

 

「周りがカップルばっかりで居心地悪い」

「いやあたし達もカップルだからね!?」

 

 だから素直に、それがどんなに馬鹿らしいことでも。分かるように、分かり合うように。

 言って分かる、などという傲慢を。言わなくても分かる、などという幻想を。

 それを、押し付け合うのだ。

 

「ヒッキーはあたしとカップル嫌なんだ」

「そんなことは一言も言っていないだろうが。もう少し国語の成績を上げろ」

「今のセリフそれ以外で使う場所なくない!?」

「これだからガハマは……」

「何であたしが悪いみたいな空気出してんの!? どう考えてもヒッキーだから」

 

 ゼーハーとツッコミ疲れで息を吐きながら、結衣は八幡を睨み付ける。はいはい、とそれを流した彼は、仕方ないなと言わんばかりに肩を竦めた。勿論誤魔化しであり、取り繕いである。先程の考え全否定であった。

 とはいえ、それは相手にバレていれば問題ないともいえるわけで。同じようにやれやれと溜息を吐いた結衣は、それでどうなのと話を戻した。

 

「……周りカップルだらけだろ」

「そだね」

「俺達も、その、そういうやつだろ?」

「カップルだね」

「……こっ恥ずかしい」

 

 吹き出した。おいこっちは真剣に悩んでんだぞと八幡は彼女を睨むが、しかし結衣はそのまま暫し笑い続ける。笑い過ぎて若干涙目になったのを指で拭いつつ、彼女はえへへとはにかみ一歩近付いた。

 

「これから、ずっとそういうのだよ?」

「……保証は出来んぞ」

「ここでそういうこと言っちゃうのがヒッキーらしい」

 

 ほっとけ、と八幡はそっぽを向いた。永遠の愛を誓えるほど彼は子供ではないし、かといってそれを否定出来るほど現実的でもない。少なくとも、今この瞬間は、そうだったらいいと思っているのは確かなのだ。

 

「まあ、でも、そだね。あたしはこれっぽっちも別れる気ないけど」

「ほんとかよ」

「あたしの彼氏はヒッキーしかいないよ」

「だからそういうことさらっと言うんじゃねぇよ……」

 

 まだ今日が始まってそこまで経っていない。八幡と結衣が恋人になって、二十四時間過ぎていない。だというのにこれでは、もたない。八幡は早くもそんなことを思い始めてきた。

 少し離れるか。そんなことが一瞬頭を過ぎり、ちらりと横を見る。ん? と首を傾げている結衣の顔が見えて、八幡は再度溜息を吐いた。

 

「どったの?」

「横を見るといつもガハマの顔があるな、と」

「……だって、いつも一緒だったし」

 

 何気ない一言であった。彼にとってはちょっとした皮肉のつもりであった。が、どうやら結衣にはいい感じにヒットしたらしい。赤くなった顔を隠すようにそっぽを向くと、そのままゲシゲシと彼の脇腹を突く。地味に痛いので無理矢理止めた。

 

「何をする」

「ヒッキーが変なこと言うのが悪いし」

「はぁ? お前がいつも横にいるのは本当だろうが」

「だから! ……ていうか、ヒッキーだってあたしの横に結構いたからね」

「……気のせいだろ」

「違うし!」

 

 自爆しながらのカウンター合戦である。八幡はどうやら結衣が照れた理由を察し、彼女の自傷ダメージによって同じようにそっぽを向く。傍から見ていると、やはりどこか初々しさを感じるらしく、同じようにやってきた人々は二人をどこか生暖かい目で眺めていた。

 

「何か不毛になってきたな……」

「そだね……」

 

 ジュース買ってくる、と八幡は結衣に希望を聞いて自販機に向かう。自分用の適当なカフェオレと結衣のジュースを買い、手に持ったそれをほれと投げ渡した。プルタブを開け、飲む。暫し無言でそれを飲んでいた二人は、改めてぼんやりと町並みを見た。

 

「ねえ、ヒッキー」

「ん?」

「ホントに、あたしでよかったの?」

 

 思わず何がだ、と尋ねかけ、カフェオレと一緒に飲み込む。そんなもの決まっているだろうに。そう自分に言い聞かせ、溜息を吐いた。

 そう、そんなものは決まっている。結衣でよかったのか、と本当にそれでよかったのか、と聞かれれば、勿論。

 

「お前がいいんだよ」

「…………ぁぅ」

「何だよ?」

「いや、うん。まさかそんなはっきり言われるとは思ってなかった」

 

 くしくしと髪をいじりながら、小さく呟くように結衣が述べる。明らかに照れ隠しで、しかも隠せていない。バレバレのそれを見て、八幡は苦笑した。しょうがないやつだな、と呟いた。

 

「じゃあ逆に聞くが。ガハマ、お前は俺で良かったのか?」

「ヒッキーがいい」

「即答かよ……」

 

 顔はこちらを向いていない。それでも、彼女は迷うことなくそう述べた。ふう、と小さく息を吐き、だったら何も問題ないなと彼女の頭をポンと叩いた。

 ちらりと時計を見る。ダラダラとしていたせいか、そろそろ戻ったほうが良さそうだ。そんなことを思い、八幡は隣の結衣にそう告げた。そうしながら、ほれ、と手を出した。

 

「ほぇ?」

「……恋人なんだから、手ぐらい繋いでも問題ないだろ」

「ヒッキーからやるの!?」

「よし分かった。二度とやらん」

 

 出した手を引っ込め、荷物を引っ掴んだ八幡はそのまま歩き出す。待ってよ、という結衣の言葉など聞こえていないかのように、スタスタと階段の方に足を進めていた。

 むう、と結衣は目を細める。確かに自分が今のは悪かった。八幡ならばそうするだろうし、それについては仕方ない。

 が、納得するかどうかは話が別だ。

 

「ヒッキー!」

「知らん知らん、ってうお!」

 

 同じように荷物を掴むと、彼女は全力で駆けた。そのまま彼の背中に体当りすると、衝撃でつんのめった八幡の正面に回る。

 その勢いのまま、彼女は彼に抱き着いた。

 

「が、ガハマ!?」

「恋人なんだから、これくらいやっても問題ないし……」

「いや往来でやることじゃないだろ」

「大丈夫だし!」

 

 周り見ろ、と彼女は言う。半信半疑で周囲を見渡した八幡は、カップルが抱き着いている姿を見付けることが出来ずに、やっぱり嘘じゃないかと彼女に向き直る。

 その隙を突いた。結衣は抱き着いていた体を更に密着させ、距離をゼロにしたのだ。お互いの顔が視界いっぱいに広がり、そして唇に柔らかい感触が伝わる。軽く触れ合うだけのそれを終えた彼女は、どこか満足そうに距離を戻した。

 

「え、へへ」

「お、ま……」

「大好きだよ、ヒッキー」

 

 目の前の結衣の顔は真っ赤だ。恐らく自分も真っ赤だろう。やけに熱い顔の火照りは冷えそうもなく、このまま戻ったら確実に何か言われること請け合いだ。

 はぁ、と八幡は溜息を吐いた。これは集合に遅刻するかな、そんなことを思いながら。

 

「へ? ヒッキ――」

 

 ぐい、と彼女を抱き寄せた。どうせ真っ赤になっているなら、もう一回やったところで熱が引くまでの時間は変わらないだろう。そう結論付け、八幡は結衣に口付けた。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

このまま続けると間違いなく終わりどころを見失ってエタるので本編はこれにて終了になります。
とはいえ、この先の後日談とか番外編なんかのネタもないことはないので、別枠でエピソードごと完結タイプをそのうちやろうかな、とも考えています。
もしそれらを投稿し始めたら、合わせて読んでいただけると幸いです。
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