青ざめた血の水平線に   作:[この名前は既に使用されています]

4 / 9
母港にて.02

「……ふぅ。こんなもんか」

 

 

この鎮守府支部にはいくつかの施設がある。海に面した出撃ドック。艦娘や提督の居住区。通信設備や執務室等の揃った本館。その中の医務室に面した入渠ドック。中央より派遣された明石の経営する小売店や、同じく間宮によって運営される甘味店。陸上演習場と海上演習場。

 

そして、艦娘の艤装の調整や開発等を行うための施設である、工廠。

 

重雷装巡洋艦、木曾は、その薄暗い工廠の片隅に座り込み、自身の得物である『仕掛け武器』の手入れに没頭していた。

 

パキンッ、と小さな音を立てて、木曾は手入れのため分離させていた長刀と短刀を組み合わせる。一体どのような金属を使っているのかは定かではないが、その刃には一片の曇りすら無い。

 

それは酷く丁寧に手入れを重ねる木曾の研鑽の賜物でもあり、この仕掛武器の品質の良さを示すものでもあった。

 

木曾は長刀を軽く掲げる。工廠の仄かな光に照らされた刃が鈍い光を見せる。刃毀れ一つ無い美しい刃。触れるだけで触れるものを一切の例外なく切り裂くその鋭利さ。

 

惚れ惚れする。

 

木曾はこの刀に魅せられている。

 

他の艦娘――それが例え、彼女と同じく『血に酔った』と称される異質の艦娘であろうと、木曾のその気持ちを理解出来るものは少ない。

 

木曾が、この刃を『落葉』と呼び、必要以上に愛するその理由を、正しく理解出来るものが一体どれだけ居るのか。

 

 

(……まあ、理解されようがされまいが、どうだっていいけれどな)

 

 

思考を打ち切り、改めて刀身へと目をやる。手入れに不具合はないか。軽く刃を振り、変形機構も試す。

 

 

「……まだやってたの? あんたもホント、変な奴ねー」

 

 

そのように、自身の得物の具合を確かめていた木曾へと、声を掛ける影があった。

 

航空母艦、瑞鶴だ。

 

 

「瑞鶴か。どうした? お前がここに来るなんて珍しいじゃないか」

 

 

言いながら、木曾は周囲を見渡す。

 

ここ、工廠には兵装を造り出すための機械や、それらをメンテナンスするための道具。そしてメンテナンスされる非艤装化状態の兵装である砲や、収容場所に困って放置されている魚雷などが所狭しと並んでいる。

 

工廠の東側へと視線をやると、そのコンクリートの壁一面に、奇怪な『仕掛け武器』がずらりとぶら下がっている。

 

一見杖にしか見えない物、柄と刃の狭間に仕掛けが施された巨大な大鎌、背の側にノコギリ刃のついた鉈、銀の剣とその横にぶら下げられた鞘状の刃、前述のものより些か短い銀の剣とその横にぶら下げられた巨大な石槌の頭、蛇腹のように刃の伸びた無骨な分厚い鉄の鉈、持ち手が湾曲した奇妙な曲刀、一対の奇妙な形の短刀、銀色に輝く杭、巨大な金槌のような鉄塊……

 

見るからに奇妙なものだらけだ。これらはどれも『工房製』の仕掛け武器である。

 

そんな奇怪な代物がある所為か、工廠の雰囲気は不気味と言っても差し支えない。故にだろうか、あまりこの工廠に長居しようと思うものはこの鎮守府においてもそう多くはない。

 

 

「さっきもちょこっと言ったけれど、偶には私も、武器の手入れでもしようかと思ってさ」

 

 

言いながら瑞鶴は、自身の得物である『仕掛け武器』を木曾へと見せる。

 

それの外見を一言で表すならば、『弓』と呼ぶ他にないだろう。現在存在が確認されている空母において、その艦載機の発艦方法には何種類かのパターンが見られる。

 

弓を使う者。式を使う者。そのハイブリット。連弩。絡繰り。灯籠。カタパルト。カード。銃。最初期こそその種類も少なかった艦娘たちだったが、今やその数も大いに増え、空母の発艦方式にも数が見られる。

 

『瑞鶴』の艦娘におけるスタンダードな発艦方式は、最もメジャーとされる『弓』による発艦である。故に彼女がその『弓』を持つことには何ら違和感はない。

 

――それが、普通の弓であるならば。

 

それは普通とは到底呼べない奇妙な代物だった。姫反から小反に当たる部分までが全て『刃』となっており、その繋ぎ目には複雑な構造の『仕掛け』が施されてる。

 

弦に当たる部分は一見して故の解らぬ金属で作られており、尋常の艦娘の力では引くことすらままならないだろう。リムに当たる部分が刃で構成されている関係上、高い技術を持つものでない限り自身を傷つける可能性さえもある。

 

確かに、これが何と問われれば、弓と答えるしかないだろう。

 

だが、これを一切の抵抗なく弓と呼べる人間はそう多くないかもしれない。

 

瑞鶴は手に持ったその『弓』を軽く振る。多くが金属で作られたその弓の重量は見た目よりも余程重いものであるが、彼女はそれを苦もなく片手で振り回す。

 

『弓』が振られた瞬間、ガシャンっ、と言う金属の擦れる音がして、その『弓』の形状が一瞬にして変化する。

 

気がつけば、彼女がその手に持っているのは『弓』などと呼べる代物ではなくなっていた。

 

それは『曲剣』だった。

 

酷く湾曲した刃。十字の柄を持つ曲剣。

 

一体、どんな特殊な機構を組み込めば、こんな代物が出来上がるのだろうか。一連の変形を見ていた木曾はもちろん、使い手である瑞鶴でさえ、その変形機構を完璧に理解することは出来ていない。

 

解っているのは、これが『弓』と『曲剣』の性質を併せ持つ『仕掛け武器』――『弓剣』であると言う事実のみであった。

 

かつて誰かは嘲ったかもしれない。

 

そんな得物を持ってどうするのか。空母であるにも関わらず、そんな近接戦闘用の得物を用いることにどれほどの意味があると言うのか。

 

剣で奴らに挑むなど、と。

 

 

「いつ見てもとんでもねぇな、そいつは。一体全体どんな仕組みだ?」

 

 

「さぁ、そんなのは明石さんにでも聞いてくれる?」

 

 

言いながら瑞鶴は、木曾の隣へと腰を下ろして、弓剣の手入れを始めた。見る限り、目立った刃毀れや傷はないが、汚れを落として、油を塗っていく。

 

時には変形させ、弓状態でのチェックも欠かさない。弦の状態や傷み具合を確認しながら、瑞鶴は手入れを進める。

 

 

「俺が思うに、その『弓剣』みてぇな武器こそ、小まめな手入れが必要だと感じるんだがな……その機構、複雑なだけにぶっ壊れ易いんじゃないのか?」

 

 

木曾の言葉に、瑞鶴は手入れをやめないまま答える。

 

 

「今まで一度も壊れたことはないし、大丈夫じゃない? 多分ね。何より、『艤装化』して運用しているし。よっぽどのことがなければ平気だと思うけれど」

 

 

『艤装化』とは、兵装を各艦娘の持つ『艤装』とリンクさせる行為である。

 

深海棲艦には、通常の兵器がまったく通用しない。そのため『艦娘』と言う存在がこの世界において重要であるわけなのだが、その『艦娘』が深海棲艦へダメージを通すために必要なのが、この『艤装化』だ。

 

例えば、駆逐艦の汎用主砲である12.7cm連装砲があったとする。

 

これは艦娘用に誂えられている在りし日の軍船の艤装をリサイズした代物であるが、しかし例えば人間がこれを使って深海棲艦へと攻撃を仕掛けても、ダメージは通らない。

 

『艤装化』されていないためだ。

 

艦娘界隈において、艤装とは正確には艦娘の持つ兵装のコアとなる部分を指す。主砲や副砲、魚雷や艦載機は艤装ではなく、『艤装化』された兵装に当たる。もっとも、現在においては『艤装化』された兵装を含めて、『艤装』と呼ばれることも多い。

 

勿論、この『艤装化』はどんな兵装、武器でも行えるわけではない。艦娘用にリサイズされたかつての兵装であっても、例えば駆逐艦の艦娘には、41cm連装砲を『艤装化』することは出来ない。

 

同じ艦種――例えば軽巡洋艦であっても、水上爆撃機を『艤装化』出来る艦娘も居れば、出来ない艦娘もいる。

 

艦娘との相性と言うものがあるのだ。

 

そして特筆すべき特性として、『艤装化』された兵装は耐久度の減少が著しく低くなる。おおよそ艦娘を守る『障壁』と似たようなものが艤装へのダメージを防いでいるのではないかと言われているが、詳細は不明だ。

 

 

「はっ、まあそうだろうがな」

 

 

言いながら木曾は、自身の得物である『落葉』をケースへとしまう。赤色の柔らかな布で包み、クッション性の高い敷物で埋められた木製の、長方形の箱へとしまい込む。

 

工廠のそこらに放置されている魚雷や、壁に無造作に引っ掛けられている他の『仕掛け武器』とは全く違う扱いである。

 

 

「あんたはむしろ、神経質になりすぎじゃない?」

 

 

その様子を眺めていた瑞鶴は、木曾へとそう声をかけた。木曾はそんな瑞鶴の言葉を「ふっ」と笑い飛ばす。

 

 

「こいつは特別だからな。万が一にでも折れて貰っちゃ困るのさ」

 

 

「特別?」

 

 

木曾の意味深な含みのある言葉に、瑞鶴は思わず聞き返した。木曾は「ああ」とそれに答える。

 

 

「こいつは、明石たち、『工房』の代物じゃない。故さえ解らない、特殊な『仕掛け武器』だ。だから代わりがない」

 

 

「……ふうん?」

 

 

『工房製』ではない仕掛け武器。その意味を正しく理解して、瑞鶴は少し驚く。

 

 

(こんなもの造る輩が、他にもいるなんてね)

 

 

「確か、綾波の遣っている得物も、そうだったはずだぜ。あれも工房じゃない何処かの代物だ」

 

 

「あー、あれね。確かに言われてみれば、綾波のあれは独特だわ。深海棲艦との戦いに、あまつさえ『銃』を使おうなんて、考えもしなかったし」

 

 

「リサイズされた艦娘の『砲』だって銃みたいなもんじゃねぇか。戦艦とかの代物はまた別だが」

 

 

「それはそうかもしれないけれど、それにしたってあんな旧式の銃使うような理由はないでしょ?」

 

 

「ま、そりゃそうか」

 

 

木曾は綾波の扱う『銃』を思い出してそう言った。あれは戦闘用であるとは思えないほどに凝った装飾の成された美麗な銃であるが、酷く古い型であることに間違いはない。

 

一見して単発式の、些か銃身の長い短銃であるかのように思われるが、どういう理屈なのか、綾波はそれを右手に持つ『刺剣』に誂えられた『仕掛け銃』と共に連射する。

 

そしてその一撃は駆逐艦や軽巡程度の装甲ならば、狙い所によっては貫通する程の効力を持っている。純粋な火薬による威力だけでないことは明らかだが、その威力の源が何であるのかは定かではない。

 

最初、綾波のその戦い振りを見た際は、如何に『血に酔った』と称された木曾であろうと驚いたものだ。

 

 

なにせ、綾波は戦場において、一切艦娘としての兵装を装備していないのだから。

 

 

叢雲や木曾、夕立であれば、自身の得物である仕掛け武器の他に連装砲や魚雷と言った艦娘としての兵装を装備している。近接戦闘に重きを置く故、それらの兵装が使われる事自体は滅多に無いが、それでも有事の際の控えとして持っているには持っている。

 

瑞鶴とて、遣っている得物こそ異様な代物であるが、艦載機の発艦から航空戦まで、艦娘としての領分に当たる部分を保持している。それが他の艦娘と比べて酷く狭いものであるとしても。

 

山城もその戦艦としての火力を十二分に発揮できる長射程、高威力の試製41cm三連装砲を持ち、場合によっては水上爆撃機を利用して、瑞鶴と共に空の戦いへ向くこともある。

 

だが、綾波にはそれらが一切存在していないのだ。

 

代わりと言わんばかりに、彼女は『異質の兵装』を三つ抱え、戦場へ向かう。その姿はこの鎮守府支部の中においても極めて異端だ。

 

 

「銃に刺剣、それに刀……ええと、なんて名前だっけ。忘れちゃったけれど……あれ全部が工房製じゃないの?」

 

 

「確かそうだったはずだが」

 

 

「ふうん……」

 

 

だとしたら、この世には随分と変わり者が多いのかもしれない。こんな奇妙な代物を作り出す輩なんて、それこそ『工房』だけでも十分のように思えるけれど。

 

瑞鶴は手入れの済んだ自身の『仕掛け武器』へと視線を落とす。

 

考えてみれば、『工房』もそうだけれど、一体何を考えてこんなものを造っていたのだろう。常識的な思考回路の持ち主であれば、こんなものを深海棲艦への対抗力になどしないはずだ。

 

それは多彩な発想力――『智慧』と呼ぶべきものなのかもしれないが、素直にそうと受け取ってしまっても良いのだろうか。

 

むしろ、ある種、それは狂気に近い。

 

この鎮守府においては、比較的常識的な感性を有する瑞鶴だからこそ、そう考えることが出来た。他の面々では、まずそれを疑問に思うことすらしないだろう。彼女らは彼女らで、狂気に溢れている。もしも少しでも何か切っ掛けがあれば、その頭蓋の内に収められている幾重にも巡らされた、場合によってはそれこそ智慧とさえ呼べるかもしれない何かが、きっと溢れ出してくる。故に彼女らは血に酔っていると呼ばれるのだ。

 

 

(……ま、それは私も同じだけれど)

 

 

程度が軽いと言うだけで。

 

そんなことを思いながら、瑞鶴は弓剣を鉄製の箱へと仕舞い込んだ。木曾と比べると些か雑な扱い方だったが、本来このくらいの扱いが普通だとも言える。

 

 

「さて、お手入れ終わり。木曾はこの後どうするの?」

 

 

「俺か? 特に考えちゃいねぇが……」

 

 

雑談を交わしながら、二人は工廠を出ていく。時刻はまだ昼前後で、空には雲がかった太陽が顔を覗かせている。薄暗い工廠から出てくるとその光が僅かに網膜を焼く。

 

瑞鶴は眩しげに手を翳しながら、工廠から続く道を歩んでいる。木曾はその隣に居るものの、さして眩しそうにする気配は無かった。

 

 

「……ん? ありゃ山城か?」

 

 

「え?」

 

 

だからだろうか、先にそれを見つけたのは木曾の方だった。彼女たちの歩む道の先。ちょうど陸上演習場の近くに当たる道に、一人の女性が頼りなく歩いている。

 

いや、別段足元がふらついているだとか、弱々しい足取りであるとか、そう言った様子は一切ないのだが、太陽の元だと言うのに、どことなく薄暗い雰囲気。うっすら曲がった猫背。縮こまったように寄せた腕などがそんな雰囲気を醸し出している。

 

この鎮守府に居る艦娘で、そんな雰囲気を宿す者は一人しか居なかった。十中八九、山城である。

 

 

「あ、ホントだ。おーい、山城さーん」

 

 

木曾の言葉を受けて山城の姿を確認した瑞鶴は、そんな風に、手を振りながら声を掛ける。山城は自身の後ろから発せられた声に反応し、立ち止まってくるりと振り向いた。

 

 

「あぁ……瑞鶴、それに木曾も……今日も元気そうね……何よりだわ……」

 

 

そういう山城さんは随分と元気がなさそうですね、とは二人とも言わなかった。いつものことだから、と言うのもあるが、そもそも山城に関しては一見して『元気がある』とか『元気がない』とかが今ひとつ判断し難い。

 

常時纏っている負のオーラの所為だろう。彼女が元気溌剌とした所を、瑞鶴は一度も見たことがない。木曾は一度だけ見たことがある。山城が『姉様』と呼び慕う、戦艦扶桑の艦娘と出会えた時のことだ。あの時は山城の中に眠る別の人格が現れたのかと思った。

 

残念なことに、この鎮守府支部に戦艦扶桑はおらず、なおかつこの鎮守府支部の特質上、他鎮守府支部との交流自体も酷く薄いため、その機会は滅多にない。

 

 

「あなた達は、今日はどうしたの……?」

 

 

駆け寄って来た瑞鶴と木曾を待ってから、山城はそう問う。それに返答したのは木曾だった。

 

 

「いつもどおり、武器の手入れさ。得物が鈍っちゃ奴らを狩れないからな」

 

 

「私もそんなところ。木曾にちょっと触発されてね」

 

 

「……得物の手入れ。そう……そうね、あなた達は今日出撃だったものね……」

 

 

『あ』、と瑞鶴と木曾が同時に表情を固まらせた。

 

何か、面倒な地雷を踏んだような気がした。

 

 

「そうよね……私みたいな不幸な船とは違ってあなた達は戦場に引っ張りだこだものね……ちゃんと兵装の手入れはしないといけないに違いないわ……」

 

 

山城の表情が暗く沈む。元から沈んでいたが更に深々と沈む。醸し出されるさながら曇天の只中のような暗黒色の負のオーラが濃霧の如く増していく。

 

 

「い、いやいやいや、山城さん!! 山城さんだって普通に出撃するじゃない? 別に私達だけ特別多いってわけじゃないし」

 

 

「いや、つーかこの鎮守府に籍おいている艦娘は六隻だけだろ? 当然俺たちと山城とで出撃数が大幅に変わるってこたぁねぇと思うが……」

 

 

「慰めてくれるのね……」

 

 

(いや、別に慰めようと思ったつもりもないんだけれど)

 

 

どうにも本日、一人だけ鎮守府において行かれたことについて随分と思うところがあるらしい。まあ実際、瑞鶴や木曾がその立場に置かれたら、多かれ少なかれ不満に思うことも出てくることだろう。

 

戦いたいのに戦えない。

 

それは何も『血に酔った』と称される彼女たちに限らないフラストレーションだ。そもそも艦娘と言う存在自体が、深海棲艦と戦うためにデザインされている。なのだから、その本分を全うできないと言うのはストレスになり得る。

 

一部の艦娘においては、そういった性質を持たない輩も少なからず居るわけだけれど、しかしながらこの鎮守府において言えば、例外なくそういった性質を有している。

 

山城も当然、そうである。

 

 

「ま、さっきあいつに出撃組んでもらうように取り付けていただろ? すぐにまた戦場に出られるさ」

 

 

「それなら、いいけれど……」

 

 

実際の所、先の救援要請に答えるような出撃でもない限り、出撃は六隻で組まれることが多い。明石や間宮と言った面々は、中央から派遣されて来ている扱いであるため、正式にこの鎮守府に籍をおいているわけではない。

 

故に、当然ながら出撃においては六隻全員で行くことが最も多い。だから心配する必要性はさして無いのだが、そこで懸念を抱くと言うのが、また山城らしさなのかもしれなかった。

 

 

「落ち込んでいるならさ、これから一緒に間宮でもいかない? 木曾もどう?」

 

 

瑞鶴の提案に、木曾は「あー」となんとも微妙な声を零す。

 

 

「俺はあんまり甘いものは好きじゃないからな……けれど、まあ、いいぜ。偶にはそういうのも悪くない」

 

 

「私なんかが一緒に行ってもいいのかしら……」

 

 

「誘っているのは私なんだし、良いに決まっているじゃない! さ、いきましょ」

 

 

そう言って、瑞鶴は二人を先導するが如く率先して歩き出す。行き先はもちろん間宮方面である。

 

と、瑞鶴が歩き出したその瞬間のことだった。

 

――空から飛来した『何か』が山城の頭に直撃した。

 

かーんっ、と、なんとも派手な音が鳴り響く。

 

 

「っったぁい……ッ!!」

 

 

「ちょ、山城さん!? 大丈夫!?」

 

 

「おいおい……なんだ、どうした?」

 

 

「う、うぅ……何よ……何なのよもう……不幸だわ……」

 

 

頭を抑えて蹲る山城へと駆け寄る瑞鶴と木曾。幸いにして飛来した『何か』は山城の着けている大きな髪飾りにぶつかったようで(だからこそあれほど大きな音が鳴ったのだろうが)頭自体に直撃はしていないようだった。

 

それにしたって衝撃は並ではない。痛いものは痛いだろう。戦闘中でもない不意討ちからなるその痛みは如何に艦娘であろうと、血に酔ったとさえ称される艦娘であろうと、涙目になるには十分な代物だった。心構えもなにもないのだから仕方がないと言える。むしろ常人であれば気絶していても、あるいは普通に死んでいてもおかしくはないかもしれないことを考えれば、さすがは戦艦の耐久力とでも言ったところか。

 

 

「……えっと、飛んできたのは、これ?」

 

 

山城に大事がないのを確認してから、瑞鶴は近くに落ちていた『何か』を拾い上げた。

 

それは黒い金属で出来た、輪状になった筒のようなものだった。それが、片方の側で切断されたように斜めになっている。一見すると切り落とされた鉄パイプか配管か、そのような物にも見えた。

 

 

「おいおい、そりゃ『12.7cm連装砲B型改二(夕立の主砲)』の先端じゃねぇか?」

 

 

「え?」

 

 

工廠に入り浸っている所為か、各種兵装に見識のある木曾の言葉に、瑞鶴と山城は改めてその金属片へと目をやる。

 

確かに言われてみればそんな風にも見えるが……何故、そんなものが空から飛んでくる?

 

そもそもなんで先端だけが?

 

 

「ちょっと見せてみろ……あー、こりゃ刃物で切断された跡だな」

 

 

瑞鶴から金属片を受け取った木曾は、その断面を観察してそう断定した。刃物。それも相当に鋭利なものによる切断面。いや、刃物の鋭利さだけではない。かなりの遣い手でなければ、金属を、それも艦娘の兵装を構成するような高等金属を切断するなどと言うことは不可能だろう。

 

 

「……ねぇ、夕立って確か、今頃、綾波と演習していたんじゃなかったっけ」

 

 

金属片を見ながら、瑞鶴はそういった。

 

 

「そう……ね。確か、そうだったはずだわ……」

 

 

頭を抑えながら、山城も同意する。夕立と演習している綾波。鋭利な刃物で切り落とされた夕立の主砲の先端。ここまで情報が揃えば、何故これが空から飛んできたのか。それを推理することは容易なことだった。

 

 

「……あいつら、また派手にやってんな……」

 

 

陸上演習場の方へと視線をやりながら、木曾は呟く。

 

瑞鶴と山城も同じように視線を向けながら、小さくため息をついた。

 

 




次回、(鬼神)vs(狂犬)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。