青ざめた血の水平線に   作:[この名前は既に使用されています]

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鐘の音.01

 

月下の海に蠢く無数の影がある。

 

それは一体一体が赤黒く悍ましい雰囲気を放ち、淡い月光に照らされて、てらてらと光っている。まるで巨大な命の集合体のように、静かな海に犇めいている。

 

不気味な光景だった。気色の悪い光景でもあった。深海棲艦特有の、仄かに光る目が――瞳が暗い海の表面を覆っている。夥しい数の、瞳が……だが、それは同時に彼女たちにとっては垂涎の光景でもあった。これほどの敵が眼前にいることがこれまであっただろうか。そして、それを全て狩り尽くしてよいなどということが――

 

――いまや夜は汚物に満ち、塗れ、溢れかえっている。

 

 

「……素晴らしいじゃない。存分に狩り、殺しましょう?」

 

 

呟く叢雲。その眼前に虫のように止め処なく溢れる深海棲艦は、どれもこれもが僅かに赤いオーラのようなものを纏っている。それは、一見すると『Elite個体』と呼ばれる深海棲艦の特徴に類似している。実際、その群棲を見た叢雲は、最初にそう思った。大量のElite個体が溢れかえっているのだと。

 

だが、本当にそうだろうか。じっくりと眺めているうちに僅かな違和感が脳裏を掠める。これまで、Elite個体と会敵した回数は数知れない。この手で屠った数は、思い出すのも面倒になるほどだろう。

 

だからこそ、目の前の敵に違和感を覚えている。

 

 

(――Eliteの赤色って、こんな色だったかしら)

 

 

どこがどう違う、とは明確に言い難い。しかし、その赤色のオーラは普段見ているそれよりも、どこか不気味だった。悍ましい。気色が悪い。ふつふつと、腹の底から怒りにも似た、よく解らない感情が湧いてくる。

 

叢雲はそれを、闘争への渇望だと判断した。

 

 

「さぁ、始めましょう」

 

 

ノコギリ槍をがしゃりと変形する。その音に反応したのか、眼前の深海棲艦たちの意識が叢雲たち六隻へと集中する。叢雲の背後で、斧が、刺剣が、刀が、弓が、車輪が――各々、際立つ音を奏でる。

 

――からんっ、と、何処かで鐘の鳴るような音が響いた。そんな気がした。

 

狩りが始まる。

 

最初に飛び出したのは、夕立だった。それはいつものことだ。この六隻の中でも純粋な身体能力という点で、彼女は頭一つ抜けている。そして何より、その無軌道さも飛び抜けている。

 

踏み出す一歩目から爆発的な推進力で夕立は水面をかける。その目は深海棲艦にも劣らず赤く爛々と光っており、口元は弧を描くように歪んでいる。

 

もともと無いようなものだった隊列をこれ以上ないくらいに崩し、無防備に一人突進してきた夕立は、深海棲艦たちから見れば格好の獲物である――少なくとも、敵の側からはそう見えた。

 

見えただけだが。

 

夕立に飛び掛かった駆逐イ級を、黒鉄の斧が襲う。長柄に変形されたその大斧の一撃をまともに食らったイ級は、薄い装甲諸とも空中で砕け散った。血と肉片と骨片がぶち撒けられ、夕立に降り注ぐ。

 

血避けのように夕立は首のマフラーを口元まで引き上げる。同胞を殺された怒りからか、暗い海の下から三体のイ級後期型が同時に夕立に飛び掛かった。

 

視線をやることもなく、夕立は軽い動作で身を躱すと、同時に身体を深く沈めながら左脚を引っかけるようにして左のイ級を捉える。それと動作を並列して手元の長柄斧をコンパクトに畳み、それを正面のイ級に叩きつけながら、空中で捉えたイ級を踏み潰すように海面に叩きつける

 

水飛沫。。

 

右から飛び掛かったイ級は、身を屈めた夕立の上を飛び越え――瞬間、発砲音が虚空に響いた。

 

夜の空気を弾丸が切り裂く。煌めく水銀の弾は空中のイ級を貫き、衝撃でイ級が反対側へと弾き飛ぶ。血飛沫が夜空を装飾し、イ級の死体が着水すると同時に水面が赤く揺れた。

 

射線の先には、エヴェリンを構えた綾波の姿がある。その距離は少なくとも20mは離れているが、綾波にとっては目と鼻の先にある的を撃ち抜くのとさして変わりはない。

 

 

「むー、夕立の獲物っぽい!」

 

 

足元に死んだ魚のように腹を見せて浮かんでいる、踏みつけられたイ級へと、12.7cm連装砲B型を撃ち込みながら、夕立は綾波へと抗議する。

 

 

「いいじゃないですか、これだけ沢山いるんですから」

 

 

綾波は肩をすくめながら、周囲を見渡すようなジェスチャーをした。実際、その言葉通り、周囲には虫の大群のように深海棲艦が群がっている。夕立を、綾波を、食らおうと狙っている。

 

 

「……確かに」

 

 

夕立は呟く。

 

 

「どこもかしこも獲物ばかりっぽい……」

 

 

そしてゆらりと姿勢を起こすと、視線を前へと向ける。そこには、戦艦タ級の姿があった。

 

 

「――お前も、そうっぽい?」

 

 

 

×      ×

 

 

 

「邪魔よ!」

 

 

声と共に、ノコギリ刃が振るわれる。軽巡ホ級の胴体に食い込んだその刃は、力任せに食い込んでいき、引き千切るようにしてその身体を両断する。噎せ返るような血の匂いに混じって、かすかに油の匂いがする――深海棲艦の血の匂いだ。

 

切断された上半身が滑り落ちるその奥から、重巡リ級が主砲を構えているのが見える。砲弾が発射される寸前に、叢雲は左前へとステップし、直前で敵の狙いをずらす。同時に海面を駆け抜け、一瞬で距離を詰めると、槍状に変形させた自身の得物をその無防備な腹に突き立てた。

 

リ級の顔が歪む。

 

槍を引き抜くと同時に、ノコギリ刃が腹を裂く。深海棲艦の皮と肉を裂くのに特化したこの刃は、引くときでさえその身を削り、切断し得る。刃を並べ血を削るノコギリは、特に叢雲の狩りを象徴する武器である。

 

 

「派手にやってるわね」

 

 

その叢雲の横を、一陣の風が通り抜ける。それは背後から飛来した一本の矢が起こしたものだった

 

 

「……何、結局それ、弓としても使うのね」

 

 

背後で弓を放った姿勢のままでいる瑞鶴へと、叢雲は呟いた。

 

瑞鶴の放った矢は、重巡リ級の後ろから魚雷を放とうとしていた雷巡チ級の頭を貫く。装甲の薄い眼球から後頭部までを見事に貫通した矢は、仰向けに倒れ海の底へと沈んでいくチ級の死体と共に深海へ消えゆく。

 

 

「ま、そりゃね。この矢だって、艦載機に化けさせなきゃ普通の矢として使え――おっと」

 

 

ぺらぺらと喋っている瑞鶴を見て、隙だらけだと判断したのだろうか――海面から突然駆逐ロ級が飛び出した。その口からは、ゼロ距離で放つつもりなのだろう、主砲が突き出している。

 

瑞鶴は一歩後ろに下がると同時に、蠅でも払うかのような動作で右手の弓を振るう。と、同時に、かしゃりと音を立てて弓は曲剣へと変形する。

 

反った刃がロ級を直撃する。不快な金属音と粘着質な肉の裂ける音が混ざる。切り裂かれたロ級の皮から内容物が零れ落ちる。

 

致命傷であることは明白だが、それだけでは終わらない。瑞鶴はさらにもう一歩後退しながら、腰の矢筒から一本の鋼鉄の矢を抜き取り、右手を振りながら曲剣を弓へと戻す。

 

一切の澱みなく行われるその動作は、切り裂かれたロ級が水面に還ることさえ許さない。後退する勢いを殺さぬまま矢が番えられ、並々ならぬ膂力で金属の弦が引き絞られる。

 

瞬間、風切り音。

 

矢は空中に浮かぶ身動きも取れぬロ級を正面から捉え、超至近距離から最高速の矢を食らったロ級の身体は四散する。

 

肉塊がいくつか海に落ちる。一拍遅れて、血煙が海風に乗って瑞鶴に纏わりつく。一瞬にして衣服や肌が血に塗れた。

 

 

「ふふ、これであんたも返り血塗れの仲間入りね」

 

 

突撃してきた重巡ネ級の足を払い、倒れたその首元に鋸の先端をねじ込みながら、叢雲は嘲笑する。言いつつ、ネ級の動脈から噴き出す血に塗れているのは何処か皮肉気でもある。

 

 

「うげー。血腥ッ……あんたらよく平気ね」

 

 

「慣れよ、慣れ」

 

 

遠、中距離からの攻撃を行うことの多い瑞鶴は、近距離戦闘を主軸とする叢雲たちに比べて返り血を浴びることが格段に少ない。故に、頭から返り血を浴びることに慣れていないのだろう、口元を拭いながら顔をしかめている。普段ならば敵に接近を許すようなこと自体が少ないのだが――今回は敵の数が数だ。どうしても見逃してしまう獲物は出てくる。

 

 

「こうなると血避けの何かが欲しいところね……口元まで覆うコートとか……帽子とか?」

 

 

「嫌なら常時障壁でも展開していたらどう?」

 

 

「それこそ嫌、面倒くさいし」

 

 

瑞鶴はそう言うが、普通、艦娘は常時障壁を展開しているものだ。障壁がない状態で敵の攻撃を食らえば一撃大破……どころか、轟沈の可能性だってあり得なくはないのだから、当然である。

 

だが、障壁を展開するということはそれだけで艤装のエネルギーを消費している、ということでもある。艦娘の艤装から得られるリソースは有限だ。総量の話だけではない、一秒あたりの出力にも限度はある。よって、障壁を展開している艦娘と、展開していない艦娘では、その他の行動に使えるリソースの量が変わってくる。

 

動きは鈍る。火力は落ちる。逆に言えば、瑞鶴含む六隻が、これだけの膂力をもって深海棲艦を屠ることが出来るのは、天性の身体能力のみではなく、普段障壁にリソースを消費していないから、という理由もある。

 

どうしても躱せない攻撃がくるときだけ、障壁を張ればいい。

 

そんな自殺志願者のような考えを持っていて、なおかつ実行しているのは、彼女たちくらいなものだろう。

 

 

「ま、今夜ばかりはしかたないと思いなさい。この量よ、どれだけ血に塗れれば終わるのか想像もつかないわ」

 

 

未だにうじゃうじゃと湧き出てくる深海棲艦の群れを眺めながら、叢雲は言った。

 

 

「仕方ないわね。幸運の女神の力、見せてあげるわ」

 

 

――あんたについているのは女神ってより死神でしょ。

 

そう思いながらも、叢雲は口には出さない。そんなのは、自分だって同じようなものである。

 

 

「――本当に神様なんてのがいるならね」

 

 

代わりにそう呟きながら、彼女たちは粛々と狩りを続ける――

 

 

 

×      ×

 

 

 

車輪が振るわれる。

 

敵が挽肉になる。

 

車輪が振るわれる。

 

敵が挽肉になる。

 

車輪が振るわれる。

 

敵が挽肉になる。

 

淡々と繰り返される光景。何度も何度も行われる凄惨な殺戮。彼女の周囲の海は既にすり潰された肉片で溢れている。

 

ただでさえ高い戦艦の膂力。噂では敵の砲弾を裏拳で弾き返した戦艦もいると言う。それを、血に酔ったとさえ称される彼女が振るえば、果たしてどれほどのものとなるのか。

 

小細工など要らない。小手先の技術や、敵を破壊するための工夫など必要ない。ただ、上から下に潰す。車輪を用いてすり潰す。ただそれだけで、たった一撃で、深海棲艦の装甲は砕かれ、肉は潰れ、皮膚は破れ、その内側の粘膜を全てさらけ出すことになる。

 

正しく暴力の体現と言ってもいいだろう。酷使された車輪は、獲物の血肉を啜って、ぬらぬらとどす黒い光を放っている。通常であればそのあまりの悍ましさに深海棲艦でさえ攻勢に出ることを躊躇する。だが、今回の敵は何かがおかしい。そんな山城の、処刑じみた虐殺を目の当たりにしても……命など惜しくないかのように、次々と飛び掛かっていく。

 

車輪が振るわれる。

 

敵が挽肉になる。

 

車輪が振るわれる。

 

敵が挽肉になる。

 

車輪が振るわれる。

 

敵が挽肉に――

 

 

「――不幸だわ……」

 

 

「なんだ、藪から棒に」

 

 

次々と飛び掛かりくる深海棲艦を挽肉に加工する山城の傍ら……山城の暴力的な殺戮とは真逆に、華麗な太刀捌きで軽巡ツ級の首を刎ねる木曾は呟いた。

 

これほど大量に獲物をすり潰しておいて不幸とは。一体何を言っているのだろう。

 

 

「だってそうじゃない……久しぶりの出撃だって言うのに……こんなどうでもいいようなモノをすり潰すだけの作業……いい加減飽き飽きするわ……」

 

 

「そりゃお前がそんなもん振り回しているからだろうが」

 

 

「私はもっと、こう……戦いがしたいのよ……戦いを求めていたの……別に一撃で潰れるな、なんて言わないわ……もっと、こう、駆け引きとか……色々あるじゃない……」

 

 

喋りながら、山城は飛びついてきた駆逐ハ級を左手で鷲掴みにする。二秒ほど、その感情の見えない目と目を合わせ、そのまま自身の左後方へとハ級を放り投げる。

 

瞬間、山城の後方……ハ級が着水した付近の水面が、派手に爆発した。夜の空間に炎の赤色が混じり、彼女の物憂げな横顔を照らす。水柱が作られ、水飛沫なのか、血飛沫なのか、肉飛沫なのか、もはや解らないような、深海棲艦の死体と海水の混ざり物が降り注ぐ。

 

後方から魚雷が迫っていた。それを見もせず、避けもせず防いだ。敵を投げて起爆させるという方法で。

 

――下らない。

 

なんとも退屈だった。この分では、自身が宿す怪奇――彼女はそれを神秘と呼んでいるが――を、使うまでもなくすべてが終わってしまうように思える。

 

前方の重巡リ級の主砲が火を噴く。夜の闇を一瞬照らす。迫る砲弾を、山城は回避する素振りさえ見せず、ただ右手の車輪を振り回して弾く。その隙を縫うように軽巡ヘ級がその主砲を突き出しながら迫るが、その頭を容易く蹴り潰す。頭部がザクロのように弾ける。

 

浮力を失って沈みかけるヘ級の身体を右前方に蹴り飛ばし、迫る魚雷を誘爆させ防ぐ。そしてついでのように、闇に乗じて静かに背後をとっていた軽巡ト級へと車輪を振り抜いた。

 

ト級の上半身が削れ、いくつかの肉の塊となって吹き飛ぶ。

 

 

「もう、服にこんなに血が……不幸だわ……」

 

 

そりゃあまあ、それだけ派手な殺し方していたらそうなるのも当然だろ。と、木曾は心の中で苦笑する。

 

 

「ただでさえ夜戦は好きじゃないのよ……嫌なことを思い出すから」

 

 

「そりゃなんだ、昔の記憶か?」

 

 

「ええ、まあ……昔の……随分昔の記憶よ」

 

 

「はん」

 

 

訊いておきながら、興味がないとでも言わんばかりに木曾は呟き、背後から近づく敵に長刀の柄を突き刺す。そのまま手首を回し、刃を一回転させ、哀れな獲物の身体を縦に両断する。

 

大抵の場合、夜戦は近接戦闘になりやすい。ただでさえ、海の上では人間サイズの敵に主砲や魚雷を当てるのは難しいのだ。夜の闇に覆われた海上であれば、なおさらである。夜間では偵察機による弾着観測も難しい。そんな状況で、敵に有効打を加えようとするならば、必然的に近距離での砲撃、雷撃がデフォルトとなる。

 

その分、駆逐や軽巡の火力であっても、戦艦や空母といった高い装甲を持つ敵へと致命傷を負わせることが出来るという利点はあるが――それはそっくりそのまま、自軍へのデメリットにもなり得るということでもある。

 

夜戦はよい。だが、慢心することなかれ。

 

 

「……しかし、この辺も随分と片付いてきたな」

 

 

周囲に大量に浮かぶ深海棲艦の死体……一見すると死体にさえ見えない肉片も多いが……を、眺めながら、木曾は呟く。先ほどから蠢く瞳の数も減ってきた。

 

 

「そうね……この分ならあと一時間もあれば、この辺は片付きそう……」

 

 

「ほかの奴らのところはどうなってるかね……まあ、心配はいらないだろうが」

 

 

言いながら、木曾は残りの敵を掃討するべく一歩踏み出す――その瞬間だった。

 

 

からん……っ

 

 

 

虚空に耳慣れない音が僅かに響く。

 

 

「……なんだ」

 

 

からん……からん、からん……。

 

どんどんと、音が大きくなっていくように思える……まるで、頭蓋骨の裏側に直接反響するような、不愉快な音が。

 

からん、からん……からん、からん……。

 

響く。

 

これは。

 

 

「……鐘の音?」

 

 

山城が、小さく呟く。

 

そして。

 

ぞぞぞぞぞぞ……と、まるで血溜まりから何かをゆっくり引き抜くような、何処か冒涜的な音と共に――海面から赤いオーラを纏った深海棲艦が。

 

深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。深海棲艦が。

 

溢れだす。

 

何処までも深く、酷く遥かな深海の底から。まるで呪いのように。落とし子のように。無数の深海棲艦が蠢きだす。

 

無機質な瞳の群れが、山城と木曾を捉える。

 

 

「……無限湧き、ね。確かにその言葉通りみたいだな」

 

 

ぎゃりん、と、自身の得物である落葉を、長刀と短刀に分離させながら、木曾は呟いた。その口元にはシニカルな笑みが浮かんでいる。

 

 

「そうね……はぁ、またすり潰す作業が始まるのね……」

 

 

山城は憂鬱そうに愚痴を零すと、そっと車輪を背負い直す。既に血肉に塗れた巨大な車輪は、ぬらぬらと不気味に光っている。

 

 

「――それなら、心配はいらなさそうだぜ」

 

 

山城の愚痴に対して、木曾は無数の生まれ落ちる深海棲艦……その奥で、一際大きく蠢く水面を見つめながら言った。

 

水面が泡を立てている。赤く、不気味な光を放ちながら。その奥底から一つの腕が伸びる。真っ白な、人のものに酷似した腕が。

 

水面を揺らしながら出づるは、背後に巨大な異形を従えた人型。黒のワンピースのように見える装甲に身を包み、濡れた長い黒髪を靡かせ――その合間から二本の小さな角が生えている。

 

華奢な見た目にそぐわぬ装甲。背後に従えた異形の艤装から放たれる砲は、戦艦の装甲だろうと容易く打ち砕く。

 

幾度相見え、幾度沈めただろうか。

 

 

「……戦艦棲姫」

 

 

視界の奥で不敵に笑う獲物の、その名を呼びながら、山城は楽し気に口元を歪めた。

 

 

 

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