怪獣に産まれて   作:どろどろ

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今期アニメの覇権はSAOより禁書よりグリッドマンに握って欲しい系作者です。
一話から胸熱すぎてハマりました。


番外編 IFストーリー
産・声


 そこはゴミ袋が乱雑に敷き詰められた狭い部屋だった。だが不思議なことに、どれだけ部屋が汚れていても一切の異臭は漂っていない。まるで、視覚情報だけを詰め込んだデータだけの空間であるかのように。

 電気は消されているが、窓のカーテンの隙間から夕暮れ時に特有の紅い光が僅かに差し込んでいた。

 そこに、直立不動で佇む一人の少年。

 黄金色の癖のある髪に、まるで鮮血で彩られたかのような深紅の瞳。身長は平均的な成人男性より少し高いくらいで、全体的に身体の線は細かった。身につけているのは白いローブのみ。

 

『んん~、人間態の段階だとだとあまり強そうじゃないけどねぇ、アカネくん?』

 

 そう言葉を発したのは、部屋のパソコン画面に映る男。しかし、その容姿は人間ではなかった。

 パソコンに映る怪獣のような男――アレクシス・ケリヴの声に、新条アカネは少し弾んだ声で答えた。

 

「大丈夫、怪獣に変身したらとってもかっこいいから!」

『ふむ……、それにしても思い切ったことをしたね。まさか、人間ベースの怪獣とは。自律的な思考能力も搭載しているんだろう?』

「そうそう、強い上に賢い怪獣ってかっこいいでしょ? これも全部アレクシスのおかげだよ」

『そんなことはないさ、アカネくんの独創的なアイデアがあってこそだよ』

 

 意気揚々と会話をする少女(アカネ)人外(アレクシス)。互いの声音は明るかった。

 

「ねぇねぇ、何か話してみてよ」

 

 アカネに言われて、少年はぼんやりとしていた自分の意識を覚醒させた。

 自分が産まれた経緯も、目的も分からぬまま、自分の正体だけを確かに自覚する。

 そして、アカネの指示の意味を理解するとゆっくりと口を開いた。

 

「──こんにちは、新条アカネ」

 

 少年は予備知識として蓄えられた言語能力を駆使して言葉を紡ぎ出す。正確な時間を把握していたなら、おはようございますと言い換えていたところだったが、少年の時計としての機能はまだ十分に発達していなかった。

 

『わお、とても流暢に話すんだねぇ。中身は生まれたての赤子と大差ないはずなんだが』

「こんにちは、アレクシス・ケリヴ」

『うん。どうもこんにちは。一応聞いておきたいんだが、君は自分が何者なのか、ちゃんと理解しているのかな?』

「僕はアドニス。それが僕の正体の全てだ」

 

 少年――アドニスは多くを語らなかった。抑揚のない無機質な声で、淀みなく淡々と短い言葉の羅列を並べていく。

 

「アドニスは怪獣なんだよ。私が作ったの」

 

 アカネが告げたアドニスの真実。それをやはりアドニスは事務的に理解して、「そうか」とたった一言だけ返事をした。

 その愛想の欠片もない様子にアカネは不満げに目を細めたが、聡明に設計したといってもアドニスはまだ赤子同然の怪獣なのだ。最低限の受け答えが出来ているだけで上々だと自分に言い聞かせた。

 

「早速なんだけど、あなたに殺してほしい人がいるんだよね」

 

 そう言いつつ取り出したのは、三人組の若い男の後ろ姿が映った写真。一人だけ横顔が映っているが、その他の二人は顔が見えない。

 写真の男たちを特定するとなると、相応の時間を労する筈だ。簡単なことではない。しかしアカネは、自分が設計したアドニスに不可能はないかのような前提で話し続ける。

 

「初対面のくせに、嫌がってる女の子にしつこく絡む男って最低だと思わない? 私は丁寧に断ってあげたのにさ。そんな男は、この世界にとって害悪そのものだと思うのです」

『おお、俗に言うナンパというものだね。アカネくんは美人だからなぁ。でも、確かにそれはいけないね。しっかりと殺しておかないと、また他の誰かに迷惑をかけるかもしれない』

「そうそう! 流石はアレクシス、よく分かってるねぃ!」

 

 それは狂気じみた会話だったが、二人の間に猜疑心や違和感といったものは介在しない。まるで夕飯のメニューを決めるかのように、どのような殺し方がいいか会議し始めた。

 その間、アドニスは受け取った写真を瞬きもせずに凝視していた。三人の後ろ姿を記憶に頑強に固着させる。

 

「僕が殺すのはこの三人か」

「そうだよ。ちゃんとこなせたらご褒美あげるから、頑張ってね」

「その前に一つ聞かせて欲しい。殺すとは、何だ? そいつの頭を潰せば良いのか、胴体を刻めばいいのか、それとも心臓を壊せば良いのか。僕は死んだことがないし、死んだ人間も見たことがない。死の定義についても深い理解を得られていない。十分な知識がなければ、アカネの指示を正確に全う出来ない可能性がある」

 

アドニスには命令に背く選択肢がなかった。本能的に、アカネの望んだことをこなすのが道理だと直感したのだ。些かも疑問を抱いていないのだがら、反対することも有り得ない。

 そのため、唯一懸念するのは命令の抽象性。

 

「な――」

 

 流石にアカネも驚愕したのか、目を見開いて数秒唖然とすると――

 

「――なんかすごい賢いっぽい喋り方じゃん! いいねいいね! やっぱり君は最高の怪獣だよ! ねぇアレクシス!」

『アカネくんの手腕によって生み出された怪獣なんだ。聡明に作ったのだからそうなるのは当然さ』

「私、怪獣から質問されたのなんて初めてだよ! いやぁ、感激しちゃうなぁ」

 

 アカネは親から玩具を与えられた子供のように喜んでいた。奥のパソコンのモニターでは、アレクシスが笑顔で同調するように頷いていた。 

 アドニスは、無言でアカネの回答を待つ。

 

「殺しの定義かぁ、改めて言われるとちょっと難しいよね~。けど簡単だよアドニス、相手を心臓の鼓動が止まるまで痛めつければ良いの」

「指定の手段はあるだろうか?」

「別になんでもいいよ、確実に殺してくれさえすれば。あぁでも、怪獣化して倒す事、これが条件ね。怪獣化すれば人間なんてイチコロでしょ~?」

「……分かった」

「期待してるよアドニス♪」

 

 アドニスは写真を潰すほど強く握り、踵を返して部屋の外へと通じる扉へ向かう。

 

『さて、それでは新人くんのお手並み拝見といこうか』

 

 最後に後ろでアレクシスの声が聞えた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

(……では、まず、そうだな)

 

 アドニスは白の薄いローブだけという奇抜な格好のせいか、周囲から好奇の視線に晒される。

 それを意にも介さぬまま、アドニスが取った行動は足を使った地道な捜索だった。

 できる限り高い建造物を足場にして、忍者のように掛ける。途中から、何人もの人間に自分が目撃されていることに気付いて、道路を歩く人たちからの死角となる場所を選んで移動していく。

 

 

 

「……いた」

 

 目的の三人組を見つけたのは捜索開始から約五時間が経過した頃だった。丸一日走り回っても見つからないことも考えられたので、こんなに速く発見できたのは幸運といえるだろう。

 背丈、体つき、髪の色、そのほとんどが写真の男たちと一致していたため、アドニスは彼らが目的の男たちだと断定し、

 

「僕はアカネの命令に、従う」

 

 自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 

「君たちは、死ななくてはならない!」

 

 激情が露わになったように、怒鳴り散らした。しかし幸か不幸か、周囲に部外者の人間は少ない。

 三人組の男たちは電柱の上で叫ぶアドニスを見つけて、物珍しそうにスマホで写真を撮り始めた。彼らに危機感というものはない。だからこそ、想像だにしない出来事と直面した時、抵抗することすらできないだろう。

 

 尤も――仮に何らかの方法で抵抗できたとしても、彼らの死は確定事項なのだが。

 

 アドニスの周囲に光の粒が集合する。それはアドニスの身体を覆い尽くして、巨大な竜の姿を形成すると、鮮やかな金色で全身を彩った。

 艶のある光沢は本物の純金のようだが、男たちを射貫く瞳は溶岩のように深い朱色。

 全長はおよそ30メートルといったところだ。

 虹色に輝く六つの羽根は空を覆い尽くさんばかりに広がる。

 

【――ghraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!】

 

 大地が震えるほど力強い雄叫び。

 その声はまるで地獄の底から天にまで突き抜けていくようで、容易に男たちから士気を奪い取っていった。

 代わりに彼らが感じるのは、絶望的なまでに果てしない恐怖。

 

「な、なんなんだよ、アレ……。なん、なんなんだよ!」

「なぁ、オレらヤベぇって! あいつこっち見てるぞ!!」

「ふざけんな、ふざけんな畜生!!」

 

 震える足に鞭を打って男たちは走り出した。怪獣化したアドニスから見れば、人間態のときに虫が走っているのを眺めているのと、そう大差ないであろう感覚だった。

 アドニスはまず観察した。人間たちが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死にどこかへと走る様子を。その間、アドニスの挙動は制止する。

 

「……え、なんかあいつ、止まって――」

 

 男の一人が困惑したような、それでいて少し安心したような、先程より恐怖の色が薄い声を出した。

 するとそれを遮るように、アドニスは告げる。

 

【――くたばれ】

 

 先程の咆哮とは一変して、重たく冷たい声音。それは確立した死の宣告だった。

 アドニスの翼が広がり、七色に輝きながら周囲の光エネルギーを吸収していく。七色だった輝きはやがて赤黒く染まり、そして、放たれる。

 

 それは空間を切り裂く闇の矢。または、大地を穿つ悪しき雷。

 

 道路を焼き焦がし、ビルを消し飛ばし、雲を断絶するまで止まらない。

 地獄の業火よりも強力な闇の光が通った後には、男たちの影はなかった。

 近辺の建造物や人間をも巻沿いにしながら、アドニスの一撃は、間違いなく男たちを塵芥にしたのだ。

 

【オォォ……】

 

 アドニスの声は喉ではない何処かから発せられていた。

 

【オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――ッッ!!!!】

 

 誰に向けたのか分からない彼の声は、猛々しく虚空に響いた。

 もしかするとそれは――()()()()()()の産声だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 アカネは、カメラを搭載したドローンを操作してアドニスの暴れる姿を見ていた。

 最初は顕現した黄金の竜を神々しいと思ったが、そのすぐ直後に竜は地獄を作る鬼に変貌した。そしてアカネは純粋に、アドニスの破壊を楽しんでいた。

 

「すごい、すごいすごいすごい!! あはははっ、流石はアドニス! 徹夜して作ったかいがあったよぅ!!」

『ふむ、彼は実に強力な怪獣だねぇ』

 

 アカネには憎き男たちが死んだことよりも、アドニスの力の方が強く印象付けられた。

 アドニスの能力は、光エネルギーを吸収して己が扱える超自然エネルギーに変換する。今のように強力な光弾にも変換できる上、シールドや自己修復力に転換することも可能である。

 

 設計者であるアカネはアドニスの能力の全容を知っていたが、やはり想像するよりも実際に使われている場面を目撃する方が気分の高揚は激しかった。

 最賢であり、最強として生み出されたアドニス。

 それを自由に使役できるアカネはさながら、この街の事実上の支配者だろう。

 

「やっぱりかっこいいなぁ、アドニス。どんな怪獣を使おうが結果は変わらないけど、せっかくなんだから強くてかっこいい怪獣を使ってみたいって思うのは、当然のことだよね」

『相変わらず、アカネくんの前向きな心意気は素晴らしいね』

 

 アカネが持つタブレットの画面には、勇ましさをそのまま具現化させたような雄叫びを発し続けるアドニスの姿。

 それをもう一度見ると、アカネは心底愉快そうな無邪気な笑みを浮かべた。

 

 

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