怪獣に産まれて   作:どろどろ

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変・革Ⅲ

 

「ええっ、剣とかあるのぉ!?」

 

 アカネはドローンの視点を映すタブレットに顔を近づける。

 現れた剣によって、アドニスの攻撃は難なく切り裂かれた。

 

『大丈夫だよアカネくん。アドニスくんは君の望み通り勝つはずだ』

「だよねだよね、私のアドニスがあんなのに負けるはずないよね!」

『そうそう。だから映画でも見てると思えばいい。結果は決まっているんだから』

 

 アカネを落ち着かせるように気を配っているのか、アレクシスの声は朗らかだ。

 

『彼はアカネくんの作った最高傑作なんだ。正しく最強なら、負ける筈がないんだよ』

 

 まるでそれがこの世の条理であるかのように。

 当たり前の自然の理であるかのように。

 ――勝たなければおかしい、と。それが“定義”であるかのようにアレクシスは言った。

 

 

◇◆◇

 

 

 アドニスは攻撃の形態を変更することにした。

 直線的な黒雷は剣によって両断される。なら、今のグリッドマンに有効な攻撃の形態は広範囲に及ぶエネルギーの放出。

 簡単な話だ。斬れないほど広い面積の攻撃なら問題無く通る。

 

 アドニスは黒雷の状態にしていたエネルギーを一度戻し、“炎”を模して再構築した。

 グールギラスの火炎弾よりも強く、広い、黒炎。

 飛翔し、上空を目指す。

 グリッドマンの真上に移動すると、

 

【――喰らえ】

 

 容赦のない黒炎の放射。それは優にグリッドマンの全身を包み込むほど広範囲に及んだ。

 一般人を巻き込んだ攻撃は可能な限り避けてきたアドニスだが、もはやそれを気にする余裕は欠片もない。それに、かなり時間も経っているし近隣にいた者たちは避難しているだろう。残っていたとしたら、それは自分の愚かしい判断に殺されたようなものだ。

 

 故に、アドニスは躊躇わなかった。

 

『そんな事までできるのか――!』

 

 グリッドマンが間一髪、黒炎の範囲から脱出する。

 アドニスの推測通り、剣で炎は防ぎようがないらしい。

 

 

【そうか――

 

 

        ――躱すか。

       

 

    少し速いな――、

 

 

            ――だが足りない!】

 

 

 言うと、グリッドマンに再び黒炎を向ける。

 分離させて四方向から攻撃してみると、身体を一回転させて全ての炎を斬り払われた。やはり点や線の攻撃はいくらでも対処してくる。

 

【さっきから防御ばかりだが、攻撃してこないのか!?】

 

 グリッドマンから返答はない。

 

【では、炭になってしまえ!!】

 

 黒い炎が再び放たれた。

 

◇◆◇

 

「何となく分かってきたぞ」

「何が?」

 

 ふふ、と内海は得意げに微笑んでみせる。

 

「あの金色の怪獣の弱点だよ!」

「おおっ」

 

 六花の目には金竜が圧倒的な力を持っているようにしか見えなかった。付けいる隙を見つけたのだとしたら大した物だ。素直に凄いを思う。流石はウルトラマンオタクだ。

 

「今度から内海くんのことを怪獣博士って呼ぶよ」

「それは普通にやめて」

 

 六花なりに褒めたつもりだったが、不服そうな内海だった。

 

「あいつはさ、攻撃する度に羽が光るんだよ。それに雷を出すときは羽から、炎を出すときも羽からだ。普通炎を出すのは口からだろ?」

「……あー、なんか戦いが凄すぎて気付かなかった。そういえばそうかもね、変かも」

「つまり、きっと羽はあいつにとって重要な器官なんだよ。多分」

 

 話を聞いてみて、あまりに拍子抜けの言葉に六花は呆れた。

 

「多分ってなに」

「いやだって、そんな確証のあることをこーんな短期間で発見できるわけないだろ!」

「まぁ、それもそっか」

 

 内海なりに目を凝らして見つけたそれは、弱点で無かったとしても怪獣の特徴であることに変わりない。

 グリッドマンが怪獣と戦う上で参考になる情報になり得るかもしれない。

 

「裕太、聞えるか!」

『なに!?』

 

 内海がジャンクに声をかけるとすぐに裕太の返事が返ってきた。

 

「剣で相手の羽を斬れ! 多分そこが弱点だ!」

『羽? ……分かった、やってみる!』

 

 ◇◆◇

 

『(羽を狙う――なるほど)』

 

 グリッドマンは炎を紙一重で躱しながら考える。

 

『(時間はもうかけていられない)』

 

 建物は幾つも炎上している。この街に甚大な被害が広がるのも時間の問題だ。

 壊れた街はどういうわけか翌日には元通りだが、人の命だけはそうもいかない。

 

 グリッドマンはアドニスの羽に注目する。確かに、虹色に光ったり黒に変色したりと異彩を放っている。だからといって羽が急所だという根拠にはなり得ないが、今は内海の話を信じる他ない。

 

 アドニスの戦闘スタイルは上空を飛び、黒雷や黒炎を放つ遠距離で戦うタイプだ。前回とは全く異なる。今更ながらに思い知らされるが、やはり手を抜かれていたのだろうか。

 上空にいるとはいえ、グリッドマンの脚力ならジャンプして一気に距離を詰めれる。

 

 炎に隙はない。多少喰らうことは覚悟しなければならないだろう。

 

 アドニスが黒炎を放ち終わり、次のエネルギーを溜めている最中に跳躍する。

 

【ッ!】

 

 捨て身覚悟で近づいてくるのは予想外だったらしい。アドニスの顔が固まる。

 が、それでも問題ないと言わんばかりの黒炎がグリッドマンの視界を覆い尽くした。

 

 元より躱すつもりはない。炎の中を突っ切り、アドニスの姿を見えた瞬間、剣を振るった。

 

『――』

【――】

 

 その後の自由落下。無防備になったその瞬間、アドニスからの追撃はない。

 グリッドマンが道路の上に降り立つと、三枚の羽を斬られたアドニスが共に落ちてきた。

 アドニスは頭から着地した。何とか立とうとしているが、半分の羽が消えてバランスがとれないようだ。

 効いている――グリッドマンは間合いを詰めた。

 

【良いぞ、見つけたか――!】

 

 一閃。

 残る三枚の羽のうち、二枚を斬り裂いた。

 切断された羽は霧散して消えていく。残る羽は一つきり。

 

『――終わりだ』

 

 アドニスの目と鼻の先に剣先を向けた。

 

【何を言う、終劇はまだ先だろう。僕は敗れていない】

『これ以上戦っても意味はない』

 

 グリッドマンはいつまでもアドニスに最後の一撃を加えようとしない。

 諦めたようにアドニスが膝をつく。

 

【なぜ、トドメを刺さない?】

『……今度こそ答えろ、お前は人間なのか』

【……そうか】

 

 アドニスは答えようとしない。口を閉ざして時間を稼ぐ(・・・・・)

 

『答えろ。でなければ、私はお前を――』

【……】

『その沈黙が、お前の答えか』

 

 剣を両手持ちに代える。

 今度こそ、勝敗を決するために剣を振るった。

 

『――グリッドキャリバーエンド!』

 

 超高速で前進しながらの一太刀。

 それは違わずアドニスの右脇から左肩までを切り裂いた。

 

 金竜の身体が溶けるように消えていく。

 勝負は決した。再戦を経て、グリッドマンは金竜を打ち倒した――。

 

 

 

 

 ――が、竜は死んでも金色はまだ死なない。

 

「君が躊躇ったおかげで、局所怪獣化に必要なエネルギーを溜める時間が出来たよ」

『――なんだと……!?』

 

 怪獣が消えた中から、金髪の優男が姿を出した。

 怪獣状態よりも小さいとはいえ、六枚の“翼”を持ち、変わらない紅の目でグリッドマンを見据えていた。

 

 

「教えて欲しいんだ、グリッドマン。もしも僕が人間だったら――君は僕をどうするんだ?」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 完全怪獣状態で敗北したのは初めてだった。

 だが、アドニスはグリッドマンの言動の節々から小さな活路を見出した。

 

(――君は、人間を殺せないんだろ)

 

 アドニスはきっと人間よりも怪獣依りの存在だ。人間は数十メートルの巨体にならないし、翼だって持っていない。

 だが、人間の心なら知っている。それを持っているのだ。

 

「なぁグリッドマン! 僕はさ! 人間なんだ! だから、もう僕を追い詰めるのはやめてくれ!!」

 

 制止したグリッドマンにわざとらしく語りかける。

 誰から卑怯と言われても構わない。普通の怪獣なら絶対に為し得ない、“最賢”の怪獣だからこその言葉で、グリッドマンを追い詰める。

 きっとアカネはあまり好まないだろう。派手に暴れて、敵を蹂躙する方が彼女の趣味だ。

 だがアドニスが最後に選択した戦い方は『言葉』だった。

 

「聞いてくれよグリッドマン! 本当は、僕だって戦いたくないんだ! でも、僕は悪い怪獣(・・・・)に脅されて仕方なく戦っている!」

『な、に――?』

「本当だ! 思い出してくれよ! 昨日、僕は全力で戦っていなかっただろう。心の中で、街の破壊を恐れていたからだ! けど君が現れてしまったから、今日の僕は本気を出さざるを得なかった……!」

『――まさか。そう、だったのか。君は今までそんな思いで戦って……!?』

 

 ここでアドニスは確信を突くような言葉を吐いた。

 

「もう戦いたくないんだ。グリッドマン――どうか、僕を救ってくれ……!」

 

 グリッドマンが構えていた剣の先を下ろし、戦う姿勢を崩す。

 想像よりも簡単に相手の戦意を削げた。

 アドニスの方も、たった今、ちょうど必要なエネルギーを補充し終わったところだ。

 

「あぁ――だからさぁ、グリッドマン!」

 

 アドニスの翼が黒く輝いた。

 グリッドマンはたじろぐ。しかしアドニスの言葉による猛攻は収まらない。

 

 

「【僕は全力で君を倒すけど、もちろん君は手加減してくれる(・・・・・・・・)んだよな!?】」

 

 

 黒く淀んだアドニスの翼は白い光を含み始める。

 今までになかった攻撃のモーションに警戒したグリッドマンが、剣を構えるが。 

 

「【嘘だろ、まさか僕を救ってくれないのかよ。街は救うくせに、僕だけ殺すのかよ! 

 

  ――この人殺し(・・・・・)!!

 

  結局は君もそうなのか。僕を殺すことに、何の感慨も、罪悪感も無いんだろ! 僕を人間じゃないと思ってるんだろ! 化け物に見えるんだろ!?】」

 

 言葉に乗せられた感情は徐々に熱くなっていく。もはやどこまでが演技でどこまでが本音か、アドニスですら識別できないほどだった。

 だからか、アドニスの真実味のある声は、グリッドマン(裕太)の胸を抉り続け、鋭い痛みを植え付けていく。

 

『ち、違う、()は――』

 

 エネルギーの精製が完了する。

 

「【――往くぞ】」

 

 アドニスの冷たい声に、グリッドマンが目を覚ましかける。

 だがもう遅い。

 すぐ足元にまで近づいてきていたアドニスは、攻撃準備を完了していた。

 

 全身の管という管でエネルギーを循環する。身体が壊れてもいい、今ある全てをそれに込める。

 正真正銘の、アドニスが持つ最強の力が顔を出した。

 完全怪獣状態でないため本領は発揮できない。だが、弱り切ったグリッドマンを倒す威力はあった。

 

 

「【残念だ、優しい人よ。僕のようなペテン師に耳を傾けるその美徳が、君の敗因だよ】」

 

 

 六つの翼を広げて、胸の前に光が収束した。 

 そして放たれる、天への道。

 地はその光を仰ぎ見るのみで、触れることはあり得ない。

 

「【喰らいて、誇るがいい――

 

 ――『ネグロシュバイン』!】」

 

 蒼い稲妻を纏った黄金の光芒が駆けた。

 それは世界に実存するあらゆる物質より高次のエネルギーに変換したもの。

 無防備なグリッドマンに防ぎきる手立てはない――

 

 

 

◇◆◇

 

 

 ある少女は、煌びやかな愁い黄金を見た。

 

 かつてひと時浸かった、優しい色の男の面影を見た。

 

 その人は変わらず嘆いていた。

 

 

 

 

 

 ある茜色の想いがあった。

 

 その想いから生まれた金色の人は、新たに願った。

 

 願いは何処かの誰かに聞き届けられ、少年をその場に繋ぎ止めた。

 

 

 

 少年が願ったことだった。

 だから少女の奥底から湧き上がってくる。

 

「――アドニス……?」

 

 願いは伝播する。

 全てを救うため、ヒーローに託された。

 

 

◇◆◇ 

 

 アドニスの放った攻撃は容易にグリッドマンを戦闘不能にまで追い込んだ。

 まだグリッドマンが実体を保っていられるのは人間である(・・・・・)裕太の意思がその場から離れようとしなかったからだ。

 

 ジャンクの向こうで六花の声が聞こえた。

 六花の口から発せられたのは聞いたことのない“名”だ。呟いただけで、おそらく裕太に向けたものではない。

 だが、ヒーローは苦しんでいる者を逃しはしなかった。

 

 聞こえた言葉を、ただ自分の口で繰り返しただけ。

 奇しくもその最後の無意識が、世界を明日へと繋げた。

 

 

『――アド、ニス――』

 

 

 グリッドマンを下した翼の少年――アドニスの肩が動いた。

 

「……君は誰だ」

 

 血管が浮き出て赤熱化し頬の皮膚が溶けている顔は表情を完全に失い、毛細血管が切れて充血しきった瞳から赤い涙が落ちた。

 アカネ以外の人間の記憶にアドニスの名前は残っていないはずだ。全身が沸騰する痛みに絶えながら、アドニスには更に口を開く。

 

「……それは僕の名だ。どうして君が知っている!?」

 

 震えていたグリッドマンの身体が止まる。

 もう身体を動かすエネルギーすら、とっくに無くなっていた。

 

 

 

「――お前はァ!!」

 

 

 

 アドニスの慟哭のような絶叫が響き渡る。

 

 

 

「誰だァァァ嗚呼ああAAaaaarrrrrhhhh!!」

 

 

 

 

 今にも爆発しそうな身体の回路を酷使して二つ翼を出す。

 もう身体が壊れても構いやしない。

 我が身も、愛しい人が見ているということすら顧みず、醜態を晒しながらアドニスはグリッドマンの元へと飛んで行った。

 

 ――その時、グリッドマンの姿が消滅する。

 

 死んだ訳ではない。実体化に必要なエネルギーが尽きて、「絢JUNK SHOP」のジャンクへと帰還していっただけだ。

 

 勢いの付いたアドニスの方は、彗星のように一直線にグリッドマンのいた場所へと突っ込む。減速はしない。もはやアドニスにも意識は朦朧としてきている。

 アドニスはその背後にあったビルに衝突し、完全に意識を失った。 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 裕太とキャリバーが帰ってきた。裕太は頭を押さえて苦しそうだが、キャリバーの方は平気な顔をしている。

 

「また、負けた……?」

 

 今度は一人ではなかった。共に戦ってくれる者がいたというのに、怪獣を倒しきれなかった。

 そう思い込んでいた裕太の肩にキャリバーを手を置く。

 

「怪獣の気配は完全に消失した。引き分けだ」

「引き、分け」 

 

 でも勝ったわけではない。

 裕太は無力な自分を呪うように拳を強く握った。

 

「……おい、最後のアレなんだよ」

 

 内海の声だった。

 

「アドニス、とかなんとか――あの怪獣の名前らしいじゃんか」

「……分からない。声を聞いたんだ、その名前を呼ぶ声。……六花の声だった」

「ああ、俺も確かに聞いたよ」

 

 裕太はジャンクが拾った声を繰り返しただけだ。

 『アドニス』という単語の発生源は間違いなく六花だった。

 内海は訝しみの色を浮かべた目で六花を見た。

 

「――私も、わかんないよ。気が付いたらそう言ってた」

「は、六花さんまで記憶喪失ですか」

「そういうんじゃなくて! なんて言えばいいのか……」 

 

 言いにくそうに言葉を濁す六花。

 

「怪獣の中から人が出てきた時、その言葉が頭に浮かんだ。あの人の名前だったんだとすると……もしかして私、あの人とどこかで逢ったことがあるのかも」

「てことは何か。……まさか、怪獣の仲間なのか?」

「はぁ!? 何でそうなるの! 私だって訳分かんないし!! ……だいたい、そういう内海くんだってやけに怪獣に詳しいじゃん。本当は怪獣の仲間なんじゃないの?」

「あ、有り得ねぇよそんなこと! つーか俺は怪獣よりヒーロー依りの存在だから、怪獣の仲間とか一番有り得ないんですけど!?」

「うーわ、ヒーロー依りの存在とか自分で言ってて恥ずかしくないんですかー」

「……は、恥ずかしいに決まってんだろうが!!」

「――落ち着け、二人とも」

 

 険悪になっていく内海と六花の間にキャリバーが割って入る。裕太に二人を止める気力は無かったので、キャリバーがこの場にいて本当に良かった。

 

「そんなことより、大事なことがある」

 

 裕太はなんとかして声を絞り出す。

 

「内海の仮説が当たってたかもしれない。怪獣の中身が、人間だってやつ」

 

 裕太の脳裏に、金色の人(アドニス)の最後の顔が張り付いて離れなかった。

 

 

 ◆◆◆

 

『あーあ、勝てなかったねぇ。まさか引き分けなんて結果になるとは』

「……うん」

 

 アレクシスの声には落胆の様子はない。

 この結果を予期していたのか、至って平常な声音だ。

 それどころか、いつもより抑揚が強く弾んでいるような気さえする。

 

『でも収穫はあった。お客様の名前はグリッドマンというらしいよ。いやはや、まさか、アドニスくんの問いにバカ正直に答えてくれるとはねぇ』

「……うん」

 

 だがアカネの返事は虚ろで、アレクシスは不審に思った。

 

『おや、坊やが引き分けたのがそんなに悔しかったのかい?』

「……うん」

 

 やがてゆっくりと、アカネは言葉を紡いでいく。

 

「アドニス……私の前で、あんな顔したことない。……なんで初めてが私じゃなくて、グリッドマンな訳……?」

『ああ、最後の突進のことかい。アレは見るも無様だったねぇ。どうしてあんな寄行に走ったのかな』

「……そんな風に言わないで」

『おっとっと、ごめんごめん。あれでもアドニスくんはアカネくんのお気に入りだったね』

 

 アドニスは決してアカネの側を離れない。だから束縛こそせず野放しにしているが、存外にアカネはアドニスに執着している。それこそ、怪獣以上の何かを見出しているように。

 

『うん、グリッドマンと交戦して二回とも撃退してるし、まぁ弱くはないよ。しかし、君も見たとおり彼は非常に不安定だ。何か不具合がおきているんだろうねぇ。どこか壊れているかもしれないし、一度作り直した方がいい』

 

 あくまで二人にとってのアドニスは怪獣だ。先の戦闘で露わにした激情は演技を越えた本心が現れていた。それを見破ったアレクシスはアドニスの再製造を提案する。

 アドニスの思考能力は本来、感情を育むために与えられたものではないのだ。それは、アカネの意志を汲み、必要な言動と不必要なものの線引きをし、更には戦闘面で汎用的な動きを実現するためのもの。

 怪獣に――玩具に感情はいらない。

 

「そんなこと……」

 

 今のアドニスに思い入れのあるアカネはアレクシスの進言に賛成することを渋っていた。

 

『でもアカネくんだって、もっと強くてかっこいいアドニスくんが見たいだろう?』

「…………それは見たいけど」

『だったら新しく作ればいいじゃないか!』

 

 言質は取れたぞと言わんばかりに大きく言い立てた人外は、そして嗤った。

 

 

『そうなると、新しいものを前に、古いものはもういらないねぇ』

 

 

 




アドニスの攻撃技一覧


『黒光』『黒雷』『黒炎』
超エネルギーを変質させて相手にぶつける技。アドニスが産まれた日(本編第一話『産・声』)にてアドニスが使ったのは黒光です。


『ネグロシュバイン』
自然界に実在するどんな物質よりも高次のエネルギーを精製して、黒光と同じ要領で相手にぶつける技。
全身のあらゆる管を利用してエネルギーを循環させるので、全力で打てばめちゃめちゃ痛いことになるトンデモ理論なわけだす。極力使わないでくだちい。
簡潔に言えば究極奥義的なやつ。連発できないから基本は決め技です。

ネグロは「ネグレクト(無視すること)」をちょっともじって出てきた言葉で、「シュバイン」はドイツ語で豚って意味。
作者的には二つ合わせて「見放された豚」ってニュアンスの技名です。夕飯はステーキよ。
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