怪獣に産まれて   作:どろどろ

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六花ママの口調難しい


覆・没Ⅱ

 

「――いや~、いかにもって感じの店だなぁ~」

 

 入店してきた童顔の少年。小学生くらいの身長で、オレンジの髪をツインテールにして纏めてある。一見しただけでは少女と見間違えそうだ。

 少年の後に続いて二人の男が姿を見せる。身長2メートルを越えるマスクをつけた大男と、同じく長身の好青年。三人ともキャリバーと同じスーツを着込んでいた。

 

「……来たか」

「おおキャリバー、いたいた。いやぁ探したぞ、お前場所教えるの下手すぎ~」

「す、すまん」

「……えと、あなたたちがグリッドマンの仲間?」

 

 スマホから顔を上げて六花が聞いた。

 六花は入店してきた三人組に声をかけたつもりだったが、答えたのはグリッドマンだ。

 

『彼らは新世紀中学生。私の仲間だ』

「ちゅ、中学生ぃ……? いやいや、前のおチビさんはどう見ても小学生だし、後ろの二人はどう見ても成人……あ痛っ!?」

 

 内海は指差した少年に脛を蹴られ、その場で悶絶する。

 

「あん? こらガキ、誰が小学生だああん!?」

 

 全く威圧感の無い声と風貌で威嚇する少年。むしろ愛らしいくらいに感じた内海はそれを鼻で笑った。

 

「いやお前だよ……――って痛い痛い! すんませんすんません!! 勘弁してください!」

 

 悶える内海の尻を何度も蹴る。

 運動不足の軟弱者とはいえ高校性の内海が小さな身体の少年にされるがままだ。グリッドマンの仲間というだけあって、身体能力が常人より高かったりするのだろうか。すぐに手が出る所はグリッドマンの仲間らしくないが。

 

「ったく、失礼なガキだぜ。――んん? 奥が喫茶店になってんじゃん! なんだこの店!?」

「はしゃぐのは後だ、ボラー。まずは自己紹介が先だ」

 

 大男が少年を諭す。

 

「キャリバーから話は聞いている。響裕太、宝多六花、内海……うん、君たちがグリッドマン同盟だな?」

「ねぇ、なんで俺のフルネームだけ覚えてないの!?」

「すまんな。……私の名はマックスだ、よろしく頼む」

 

 一番大柄な男――マックス。

 

「俺はボラー。よろしくな」

 

 口より先に手が出る系の少年――ボラー。

 

「……ん、ああ俺か。あ~、ヴィット、です? よろしくね」

 

 絵に描いたような好青年――ヴィット。

 そして常に刀を携えるサムライキャリバーの四人で新世紀中学生らしい。ちなみにボラー以外は見た目から中学生ではないが、内海以外にそこを指摘する者はいなかった。

 

「おお、ともあれ一気に仲間が増えたな!」

「うん。なんか『グリッドマン同盟』って感じがしてきた」

 

 新世紀中学生とグリッドマン含め、同盟の人数は遂に八人だ。

 同盟が盤石なものになってきているのを感じる。

 つい先日までは子供たちの秘密組織だったのが、もはや確実に怪獣と戦うための戦力を有し街の平和を守る秘密結社だ。それが裕太が抱いた印象だった。 

 

 ◇◆◇

 

 一日休息をとったアドニスの身体の傷は八割方が癒えていた。

 だが、傷の修復に力を集中していたため、戦闘時に使える備蓄エネルギーはほとんど空である。エネルギーを補充するには一度完治させた方が効率が良い。

 

 新聞配達を終えて、一休みするとアドニスは今日の身の振り方を考える。

 アカネから戦闘の指示はしばらくこないらしい。昨日は珍しく別の怪獣が街に出現することもなかった。

 だが、二日も続けて無為に生活するのも気が引ける。アレクシスが最後に残した意味深な発言も無視できない。

 

「……では、今日は僕も動くか」

 

 おそらくグリッドマンは当面の脅威になり得る。一度は倒しても復活した相手なのだ。アカネやアレクシスがどう考えるのかは定かではないが、アドニスはまたグリッドマンが現れる可能性を考えていた。

 

 倒した瞬間、グリッドマンは身体ごと消失した。おそらく肉体的に滅ぼした訳ではない。何らかの理由でその場から肉体ごと何処かへ離脱した。

 そう、死んだのではなく消えたのだ。もしかすると消失ではなく転移かもしれない。ならばこそ、また現れても何も不思議はないだろう。

 

 これまでの傾向から考えて、グリッドマンは街を荒らす怪獣を退治するヒーローという立場と考えるのが妥当だ。だからこそ自発的に姿を現す期待はすべきではない。街を守る立場として、脅威となり得る怪獣が出現した時だけグリッドマンは動く。

 故に、こちらから動いて正体を突き止めることが出来る訳だ。

 完全怪獣化すればグリッドマンを炙り出すのは容易だが、怪獣としての能力を振るうのは万全な状態になってからが好ましい。それに、どうせ人間態の顔も割れているのだから普段通りに過ごすだけでグリッドマン側の何者かから接触されることも考えられる。つまり、完全怪獣化の必要性は皆無なのだ。

 

「――グリッドマン。……彼――もしくは彼女は、僕の名前を知っていたからな。当てはある」

 

 それに、何も情報がないという訳ではない。

 しかもグリッドマン関係者候補をたった三人に絞りこめる貴重な情報だ。

 

 アドニスは記憶の中の三人の少女を掘り起こす。記憶を失われて以来は直接顔会わせしたことはないが、遠目に目撃したことはある。だからか、三人の姿はまるで今視認したかのように鮮明に頭の中に浮かんだ。

 彼女たちには恩義がある。傷付ける予定は今後も絶対に出てこないだろう。だが、敵対するというのなら相応の対処を取り、グリッドマンを無力化しなければならない。

 

「グリッドマンはきっと最終的にアカネを倒すだろう。……やはり野放しにするのは危険だ」

 

 グリッドマン捜索の決意を新たにする。

 グリッドマンの人格は大方掴めている。人間――もしくは人間の姿をした生物を殺せない博愛主義者か、又は性根から温和な者のどちらかだ。

 しかしどちらにせよ、怪獣を作っている者の正体がアカネと知られた場合、殺されないと断言することができない。

 

 アカネを泥沼から掬い上げるには時間が必要だ。アドニスはそろそろアカネの暴挙から目を逸らせなくなってきているが、それでもグリッドマンという存在の危険性は承知していた。

 

 アカネのため。

 今後も恙なく怪獣に暴れて貰うため。

 グリッドマンはこの上なく邪魔である。

 

「――よし、行くか」

 

 外出していようが家で寝ていようが治癒量に大きな変わりない。怪獣の能力を使わなければいいだけだ。

 休暇を貰ったからといって家に籠っている義務は発生しない。

 それにだ。グリッドマンがいる――その事実が存在しているだけで、おちおち休憩もしていられなかった。

 

 

 

 

 久方ぶりに訪れた「絢JUNK SHOP」。

 アドニスは小さな感動すら覚えた。ここが、人間としてのアドニスの人格発祥の地といっても過言ではない。

 訪れた目的は、宝多六花と会い自分の事を覚えているか確認することだ。記憶が抜けていないのなら、アドニスを見て平然を装える筈がない。

 自分を見れば何かのアクションを起こすだろう――アドニスはそう踏んでいる。

 

「緊張するなぁ。……さて、いざ」

 

 覚悟を決めて入店した。

 そこには、見慣れたようなジャンクショップと喫茶店の融合した店の内観がある。アドニスが覚えている状態と全く同じままで、商品もあまり売れていない気がする。

 

 思わず店の景気を心配してしまったが、客がいないということはなかった。

 スーツの四人組が喫茶店の席に着いていた。どうやら一応の客足はあるらしい。

 

(ほう、団体客か。正直部外者は邪魔だが、やむを得んか)

 

 四人組が店を出るまで待っても良かったが、別に聞かれて困る話をするわけでもない。怪獣やグリッドマンがどうなのと直接的な物言いをするつもりは毛頭なかった。仮に聞かれても妄想の類として言い訳できる。

 

 カウンター席に近づくと、鉄と木材と珈琲の香りがした。

 四人組と椅子二つ分離れた場所に腰を下ろす。

 

「あら、お客さん? いらっしゃい~、すっごくカッコいい顔してるわねぇ」

「それはそれは。恐縮です」

 

 接客に当たってくれた女性はどことなく六花と似た顔立ちをしていた。フランクな雰囲気も六花に通じるものがある。

 姉と呼ぶには年の差を感じるが、母と呼ぶには若すぎる気もする。

 どちらか迷ったが、アドニスはこの女性が六花の母という結論を出した。

 

「この間来た時は高校性くらいの麗人の店員さんがいましたが、もしやその方の母君ですか?」

「あら、六花のことかしら。そうよ、私の娘」

 

 どうやら予測は的中したようである。よく見たら毛穴とか汚いし、高校性の母として年相応の容姿のような気がしないでもない。

 

「へぇ、彼女は六花さんと言うのですか。今はいらっしゃないんですか」

「当たり前ですよ~、だって高校生ですもん」

 

 そういえば、学生は平日の昼間は学校なる施設に居るのだったと思い出すアドニス。あまり意識しなかったが、アカネが平日には毎朝のように出かけていたのも学校だ。

 

(しくじったな、来る時間をミスったか。だがこのまま帰るのも不自然だし、少しお金を使ってくか。……本当に少しだけ)

 

 メニュー表を軽く流し読みする。

 六花にはハンバーグを作って貰ったことがあるが、店のメニューにそのような品はない。あれは六花のオリジナルだったようだ。

 

「じゃあ、カプチーノとカステラを」

「はいは~い」

 

 注文を終えて一息つく。

 六花がいないのだからここに訪れた目的は根底から破綻した。

 なら、グリッドマンのことばかり考えて心の沈まない時間が続いたので、この瞬間くらいは肩の荷を下ろしても良いだろう。

 何をするでもなく頬杖をついて放心する。すると、傍から見るとよほど不自然な図だったのか、先に入店していた四人組から視線を浴びせられているのを感じた。

 

(……めっちゃ見られてるんですけど。何、あの人たち)

 

 本当にずっと凝視されていて居心地が悪くなったアドニスは、遂に四人組の方を向いた。

 

「――あの、何か?」

 

 一番近くの席にいた猫背の男の肩が震える。

 

「お、お前は何しにここに来た」

 

 いきなり喧嘩を売られたせいでアドニスも言葉を失う。

 好戦的な物言いだが、籠ったような声だ。あまり圧は感じない。

 

「お邪魔でしたらすぐに帰りますけど、僕がここにいると何か問題でも?」

「……特にない。気にするな」

「そう、ですか」

 

 だったら突っかかってくるなと言いたくなったが、荒事は望む所じゃない。

 言葉足らずで不審な男から顔を逸らした。もう目も合わせない方が良いだろう。アドニスは男から不吉な何かを感じ取った。

 だが同時に、奇妙な好奇心が胸をくすぐってくる。まるで、あの男には何かあるぞと背後に控えた冷静な自分が助言してくるかのように。

 

「はい、お客さんどうぞ~」

「ありがとうございます」

 

 出されたカプチーノに口を付けて、

 

「……おお、とても美味しいです。機会があればもう一度来てもいいですか」

「そりゃあもちろん!」

 

 またここを訪れても不自然のないように会話を回した。

 アカネが帰ってくるのは基本的に夕方なので、学校はそれと近い時間帯に終わるのだろう。

 アドニスは今日の内に六花に会いにまたこの店に来ることを決めた。

 

 

 

 

 

 

「――あいつだ」

「どうした?」 

「金色の怪獣の正体……あの男だ」

「何だと!!」

 

 潜めた声で会話する新世紀中学生たち。

 キャリバーの発言にマックスが驚きのあまり大声をだした。

 

「おいマックス、声でけーよ。聞かれたらどうすんだ」

「す、すまん。だがまさか、怪獣がここまで乗り込んでくるとはな。もしや我々の正体に気付いたのか……!?」

 

 万が一の事態に備え、四人で少年(アドニス)の挙動を観察する。

 アドニスは注文を終えて頬杖を突いていた。ついつい魅入ってしまうほど優美な横顔だ。深紅の瞳はルビーのようで、金色の髪は純金から出来ているかのように美しい。たしかにここまで可憐な男なら、神々しさすら纏った黄金の竜に変身してもおかしくない気がする。

 

 実に落ち着いた様子だ。見ている方まで和んでしまいそうだった。

 新世紀中学生やグリッドマンの正体には気付いていないのだろうか。戦闘の意志は感じられない。

 だが、

 

「――何か?」

 

 視線を向けられていることに勘づいたらしく、アドニスが不快そうに目を細めてこちらを見てくる。

 

「お、お前は何しにここに来た」

 

 キャリバーが怖じ気づくことなく言い返す。

 

「お邪魔でしたらすぐに帰りますけど、僕がここにいると何か問題でも?」

「……特にない。気にするな」

「そう、ですか」

 

 どうやら本当にここへ戦いに来た訳では無いらしい。一瞬だけ警戒心を露わにしたアドニスだが、それ以降は四人に全く関心を向けてこない。

 それどころか、カプチーノとカステラを全力で味わっている。実は敵同士で隣合っているというのに、和んだ空気が場を流れた。

 

 が、このまま簡単に帰すわけにもいかない。

 

「……向こうは私たちのことを知らない様子だ。だが、私たちは奴のことを知っている」

「つまり、情報をゲットするチャンスってことだな。よし、そうと決まれば全員で襲って――」

「――待て、この店ごと壊す気か」

 

 すぐに実力行使したがるボラーをマックスが諫める。

 

「奴がこの店を出た後を、私たちで尾行する」

「……で、では俺が一人でいこう」

 

 真っ先に名乗りを上げたのはキャリバーだ。

 

「俺は奴の戦い方を知っている。最悪の場合、一番優位に戦えるのは俺だ」

「なるほど、一理あるな。全員で行っても尾行に気付かれたら終わりだ――ではキャリバー、頼めるか」

「心得た」

 

 ――しばらくして、アドニスが会計を済ませた。

 最後に一瞥だけされたが、何か勘づいた素振りはない。問題無しと判断して計画通りにキャリバーが尾行に行った。

 

「行ってくる」

「キャリバー、無理だけはすんなよ。向こうはいざとなりゃ怪獣になれるんだ」

「わ、分かっている」

 

 そうキャリバーが返事したものの、その場の誰もこの計画がいかに軽率なことなのか分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 ――結論から言うと、アドニスは尾行の存在にすぐに気付いた。

 怪獣の感覚は人並み外れている。ずっと同じ人物から目を向けられたら嫌でも気付くものだ――それも、明確な敵意を向けられたなら尚更である。

 

(何かあるんじゃないかと思ったが……まさか、本当にあの四人組が――?)

 

 確証はないが、尾行者は店にいた四人組の内の一人である可能性が高い。

 それに、食事もせずに店にいた四人は最初からどことなく怪しかった。

 

(どちらにせよ、普通の尾行者じゃないなコレは。屋根の上を伝って追ってきている。まぁ、僕にはバレバレなんだがな)

 

 まずグリッドマンの関係者と考えるべきだろう。人間の身体能力ではない。

 さしずめ、アドニスの後を付けて敵の本拠地を把握するという魂胆だろう。そもそも休暇をもらってからというもの、アカネの家にはもう丸一日以上寄りついていない。敵の魂胆は最初から徒労だ。アドニスの住処など知られても何の不利益もない。

 

 ――折角自ら名乗り出てくれた魚だ、とっとと釣ってしまおう。

 

 アドニスがその後とった行動は至極明快だ。

 人気のない河川敷まで移動して、尾行者のいる方向を視る。

 ――目が合った。尾行者はやはり店にいた四人の内の一人。刀を持った猫背と隈が特徴の男だ。

 

「そんな所に隠れていないで、出てくると良い。でなければ今からあの店をぶっ壊しにいくよ」

「……ッ」

 

 もちろん嘘の脅迫だが、男の表情が強ばった。

 これで逃げたならそれもいい。アドニスには逃げる男を逆に追って捕まえる自信があった。

 だが、すぐに逃げだそうとしないということは、脅迫された内容の事を敢行されると困る理由があるということだ。

 やはり六花の家には重要な何かがある。

 

「聞こえなかったか――今すぐ、僕の前にこい」

 

 今度は威圧感を込めて言い放った。

 男は電柱を経由して河川敷に降り立った。かなり身体を動かせるようだが、やはりアドニスの敵ではない。

 負傷していてかなりリスキーとはいえ、怪獣の力が使えない訳ではないのだ。背に腹は代えられない、当初の予定を変更して、アドニスは戦闘を覚悟した。

 

「お、お前の目的は何だ……!?」

「答える義理はない。僕は今から君を捕縛するが、異論はある? ない? ないよな、うん。ならばよし」

「あるに――決まっている!」

 

 男――キャリバーが腰の刀に手をかけた。

 

「――やれやれだなぁ。戦う気なら仕方ない」

 

 言って、アドニスは一枚だけ翼を出した。

 力を行使しても痛みは伴ってこない。一枚くらいの翼なら使っても問題ないようだ。

 

「君には少しの間だけ気絶していてもらおうか」

 

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