怪獣に産まれて   作:どろどろ

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 アドニス生誕から一週間が過ぎた。

 アドニスはアカネから命令を下されない限り、何にも時間の制約を受けない自由の身である。この一週間は街の構造や社会勉強のため、一人で街中の公共施設などを徘徊することが多かった。

 服も新調し、現在は見窄らしいローブから一点、カジュアルなジャケットとパンツを着込んでいる。中性的な顔立ちと相まって、耽美な魅力を自然と発していた。

 

 さて、そんなアドニスだが、現在、

 

「王手」

『んんん~、やはり将棋は難しいなぁ』

 

 アレクシスと共に将棋をしていた。実物を使ったものでなく、液晶画面を介したテレビゲーム型である。アレクシスはコントローラーに触れられないが、どういう理屈かゲームを遠隔操作できるらしい。

 朝から初めておよそ三時間ほど。すべてアドニスの全勝だった。

 

「アレクシスは弱いな」

『ノンノン、君が強いんだよ、アドニスくん』

「いや、多分君が弱いだけだと思うぞ」

 

 わざと手加減しているとしか思えないほど、アレクシスは弱かった。いや実際、負けても全く悔しそうな素振りをしないため、本当に故意に負けている可能性もある。初心者のアドニスが全勝するのはどうかんがえてもおかしかった。

 

「ところでアレクシス。今更なんだが……アカネは昼間は家にいないが、仕事でもしているのか?」

『本当に今更だね。アカネくんは学生だから、平日の昼間には学校があるのさ』

「学校? あぁ、本で読んだな。そうだったのか」

 

 つい数日前のアドニスなら、アカネの時間が潰されているのだから学校の方を物理的に潰そう、と提案しただろう。だが今はある程度の社会常識を知った。学校は無益だけをもたらす機関ではない。

 

『もしかして、アドニスくんも学校に行ってみたいのかい?』

「む、どうしてそう思うんだ」

『いや何、少々寂しそうな表情だったのでね。的外れな指摘だったなら忘れてくれ』

 

 アレクシスの言葉は半分程度は的を射ていた。

 今までは自分の機械のように認識し、ほぼ無感情に行動していたアドニスだが、直接人間社会に触れてみてからといもの、自分の中に感情を自覚していた。

 

 そしてこれは本で得られた知識の一つだが、赤子はまず自分の欲求を満たすために泣くらしい。そしてその次に行う事が、他人への何かの譲渡。つまり思いやりの心が芽生える訳だ。

 人間とは本能的、あるいは遺伝的に他人や多種を庇護する性質があるのかもしれない。

 

 その点を踏まえるとアドニスは実に人間らしいといえるだろう。 

 人間は超エネルギーの光弾を放てないので間違いなくアドニスは怪獣だが、思い返してみると、アドニスが最初に抱いた使命感はアカネの命令を遂行すること。他人への従属、角度を変えて見るとそれはアカネに対する温情である。

 加えて、アドニスは一人が退屈だ。文書を読んで知識を蓄えるのは楽しいが、ずっと孤独というのも辛いものである。現に今、アレクシスとゲームをして孤独を紛らわせている。

 

「そんな筈ないだろ」

 

 反射的にそう答えたのは、アドニスの虚勢だった。

 そして自己分析してみる。孤独を畏れているのを知られるのを忌避した、つまり恥ずかしがった自分。見栄を張って嘘をついた。

 つくづく人間らしくなってくる。

 ただ、こうして背後にもう一人の自分がいるかのように、客観的に自己を分析できるところだけは機械じみていると言えるが。

 

『それは良かった。いらぬ心配だったようだねぇ』

「わざわざ心配しなくてもいい。僕には不要な情だ」

『おやおや、どうやらアドニスくんに反抗期到来のようだ。今日の夜、早速アカネくんに知らせてあげなくては』

 

 なんとなくそれは恥ずかしい気がした。

 気を逸らすためにアドニスは話を切り替える。

 

「ベラベラ喋る暇があるならもう一局だ。試してみたい戦法がある」

『まだやるのかい? とほほ、私はもうつかれてしまったよ。どうやっても君に勝てるイメージがわかないなぁ』

「勝ちたかったら、今度こそ本気で勝負するんだな。僕のことを舐めているのか知らないが、君が手を抜いているのは分かっている。己の底を測られているようで気分が悪いぞ」

『いいや、結構本気のつもりなんだけどね。まぁそう言うのなら仕方が無い、心ゆくまで付き合うとしよう』

 

 そして対局が始まる。

 時折アドニスは頭を悩ませながら唸り、最善の一手を考察する。対してアレクシスは終始余裕の笑みである。その割には全敗しているが。

 

「はぁ、なぁアレクシス」

『どうしたんだい』

「もしかすると、これは触れてはいけないことなのかもしれないが」

 

 言葉を濁らせつつ、アドニスはずっと抱いていた疑問を吐き出した。

 

「アカネの部屋、少々、というかかなり汚くないか? 普通ではないことだと思う」

 

 アドニスは背後に君臨するゴミ袋の山を見た。おそらくだが、分別もしていないのだろう。

 

「きっとこれは、女子としてあるまじき状態なのではなかろうか」

『ふむ、こっちからはよく分からないんだが、そんなに不愉快なのかい?』

「不愉快だね。不思議な事に臭くないが、肺が圧迫されているのかと錯覚するほど居心地が悪い。このゴミ山の威圧感はどうにかすべきだろう」

 

 糸が切れたように、少し毒づいて続ける。

 

「きっとアカネは頭が悪いんだ、だからこのゴミに何も思わない。ハムスター並に脳みそが小さいに違いないな。その証拠として、あの豊満な胸。嘆かわしいことに、脳に向かう栄養分が胸囲の成長のために使われてしまっている」

『それは個体差があるから、ほら、人間は異なる個体同士で身長が異なるだろう? それと同じだよ』

「バカな、母体でもないのに胸が肥大化するなどあり得るか。それにどうして身長の話が出てくる。今、僕は胸の話をしているんだ!」

『え、あれ……? ゴミの話じゃなかったかい?』

 

 珍しくアレクシスが困惑した声を出し、アドニスは少し気分が良くなった。別にアレクシスの事を嫌っている訳ではないが――むしろ好意的に思っていると言ってもいい――いつも自分を見下すアレクシスが困る様というのは、見ていて愉快だった。

 別に悪意の芽生えではない。友人同士の悪ノリみたいな感覚だった。

 

「じゃあアレクシス、作戦会議だ。僕は今から掃除をする。二人で具体的なプランを練ろう」

『アカネくんに怒られないかなぁ? 大事なものとかが紛れてたりするかもしれないよ』

「大丈夫だ、問題無い」

 

 かくして、アドニスの新条家大清掃作戦が決行された――

 

 

 

 

「なんだこの赤い液体の入ったパックは!? トマトジュース……? うっ、まだ中見が残っている! ……賞味期限が一年前だと!?」

 

 

 

 

「これは写真、か? ふぅむ、釘が打ってある藁人形まで出て来たぞ。黒魔術でもしていたのだろうか……アカネの趣味ならばあり得るだろう」

 

 

 

 

「……僕はとんでもないものを発見してしまった。紐がブチ切れたブラジャーだ。なぁ、アレクシス、君は僕が何を言っているのか分からないだろうが、僕も自分で何を言っているのかよく分かっていない。だが、このブラジャーは間違いなく紐が千切れている……まるで内側から何かに圧迫されたかのようにな」

 

 

 

 ――理由は不明だが、帰宅したアカネにぶったたかれて三日間外に閉め出されるアドニスだった。

 

 

 




アレクシスが将棋で手を抜いていた理由
・アドニスの成長速度を測るため

アレクシスが本当に心配していたこと
・アドニスくんが寂しそうで心配だなぁ×
・アドニスに人間性が芽生えて、アカネくんによからぬ影響を与えそうで心配だなぁ○

アカネちゃんが藁人形を使って誰かを呪おうとしていた件について。
・半分くらいキャラ崩壊ですねすみません。適当に書いたんで怒らないでください。

アドニスのキャラ
・ちょっと天然の入ったラスボス気質の達観系(のつもりの)主人公。見た目は大体18~20歳くらい。実はめちゃくちゃイケメン。

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