半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

12 / 35
 
 毎日投稿は一旦ここまで。体育祭編は三日後からスタートします。

 オリ主のオリジン後編。ちょっと長め。
 幼少期の子どもたちは大体ひらがな喋りです。読みにくいのはご愛嬌ということで。



11:轟凍夏:オリジン②

 出久と初めて出逢った日。

 彼のどこか安心できる顔に、ふと弱音を漏らしてしまった。

 

 

「かえりたく、ないの」

「そうなの?」

「おとうさんのいるいえ……やなの」

「うーん、じゃあうちにおいでよ! あそぼう!」

 

 

 父親のいる家に帰りたくないと漏らした私の手を引いて、彼は自分の家へと連れていってくれた。

 

 

「おかあさん! ともだちつれてきたよ!」

「と、とどろきとうか、です。いずくとは、さっきともだちになりました」

「まあ……! まあまあ出久ったらこんなに可愛いお友達を!!」

 

 

 招待された家は私の家よりも小さくて、見慣れないフローリングの床だったけど、家族の温かさがあるのが一目で分かる。

 喜ぶ彼の母、引子さんに撫でられて、また少し泣きそうになったのは出久の後ろに隠れる事で誤魔化した。

「恥ずかしがり屋なのね」と都合良く解釈されて、そのまま出久の部屋へと通されたら。

 自分の家には全く無かったオールマイトグッズに、目を輝かせた。

 

「オールマイトがいっぱい……! いずく! これぜんぶいずくのなの?」

「うん! オールマイトだいすきなんだ! これとかすごいんだよ!」

 

 私にグッズを渡してくれて、一つ一つがどんなものなのか説明してくれる姿は、とても生き生きとしていて。

 私も楽しく聞きながら、時に気になるものを触らせてもらったりもした。

 

 そして途中で引子さんが持ってきてくれたおやつを食べながら、休憩していた時。

 

「そういえば、とうかちゃんはどんなこせいなの?」

「っ……」

 

 私は個性を聞かれて、父と母の事を思い出してしまった。

 嫌いな父の左側の炎と、嫌われた母の右側の氷。

 けど今は関係ないと、震える口で答えた。

 

「みぎが氷と、ひだりが炎」

「えっ、ふたつ!?」

「うん……おかあさんの氷と、おとうさんの炎をもらったの」

「そうなんだ! あ、じゃあふたつじゃなくてあわせてとうかちゃんのこせいだね! オールマイトがいってた!」

「…………えっ?」

 

 出久の言葉がよく分からなくて、思わず疑問符を上げた。

 出久もきょとんとしていたので、私はどういう意味かを尋ねた。

 

 

 それが一つ目の、私を救ってくれた言葉になると知らず。

 

 

「だって、おかあさんとおとうさんのこせいをもらったんでしょ?」

「う、うん」

 

 

 

「ならそれはもう、ひとつだけのとうかちゃんのこせいだよ」

 

 

 

 私の個性。

 

 半分ずつで両親のものではなくて、自分の力。

 

 同時に思い出したのは、母とテレビで見たオールマイトの言葉。

 

 きっと出久が言ったのと同じもの。

 

 

『"個性"というものは親から子へと受け継がれていきます。しかし……本当に大事なのはその繋がりではなく、自分の血肉、自分である! と認識する事。そういう意味もあって私はこう言うのさ! 「私が来た!」ってね!』

 

 

 私の個性は、私のものなんだと。

 

 

『いやだよおかあさん……わたし、おとうさんみたいになりたくない……おかあさんをいじめる人になんて、なりたくないよ……!』

 

 そしていつか、こんな弱音を溢した時に母から言われた言葉。

 

 

『でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?』

 

『いいのよお前は、血に囚われる事なんかない』

 

『なりたい自分に、なっていいんだよ』

 

 

 そんなに昔じゃないのに、いつの間にか忘れてしまっていた言葉。

 

 私は、父親のようなものにはなりたくなかったけど。

 

 オールマイトみたいなヒーローには、なりたかったんだ。

 

 そんな簡単な事を、忘れてしまっていた。

 

 

「と、とうかちゃん!? なんでないてるの!?」

 

 

 突然泣き出した私に、慌てる出久。

 何を気にする余裕もなかった私は、そのまま彼に抱きついて。

 

「へぇっ!? とととととうかちゃん!?」

「……り……がと」

「……えっ、と」

 

 

「ありがとっ、いずく……!」

 

 

 

 涙でぐしゃぐしゃの顔で、笑いながらお礼を言った。

 

 私が救われた日、私は私だと思えた日。

 

 母以外の前で、初めて涙を流した。

 

 

 

 その後いつの間にか泣き疲れた私は、出久に抱きついたまま眠っていたらしい。

 起きた時には目の前に滅茶苦茶どぎまぎしている出久と、すごく微笑ましそうな顔の引子さんが居て、恥ずかしくなった。

 この頃の私は同年代の子と触れ合う機会がなくて、ましてや同じ年頃の男の子に抱きつくなんて考えもしなかったから。

 引子さんは気を遣ってかすぐに部屋から出ていったけど、私の顔の熱は全く引かないまま。

 けれど、その居心地は不思議と離れたいとは思えないもので。

 鍛えられている自分よりも華奢かもしれない出久の身体が、私にはとても温かく感じられた。

 

 でもこのままだと彼に迷惑がかかるから、名残惜しさを感じつつも私は離れた。

 

 

「ごめんね、いずく」

「だだだだだいじょうぶ……とうかちゃんいいにおいだった、ってちちちがっ! なにいってんだぼく!?」

「いいにおい? よくわからないけど、もっとかいでいいよ?」

「だいじょうぶです!! とっ、とうかちゃんこそもうだいじょうぶ?」

「うん。ありがとう」

「……んんっ!!」

「わ」

 

 

 笑顔でお礼を言えば、何故か出久はキュンとして不細工な顔になった。

 感情や表情が豊かで、見ていて飽きないと思えて。

 

 それからまた二人で遊んで、それなりに良い時間になった頃。

 引子さんに「そろそろ帰らなきゃね。おうちの人も心配してるわ」と言われた私は、無意識に出久の手を握っていた。

 大切な事は思い出せたとはいえ、嫌な父親がいる家に帰る勇気は持てなかったのだ。

 そんな私に、出久が心配そうに手を握り返してくれる。

 

 俯く私を見てどう思ったのか、引子さんは私たちに対して。

 

「よかったら送っていきましょうか? 女の子の独り歩きも危ないし、出久も一緒に、ね?」

 

 なんて、優しい顔で言ってくれるから。

 

 この人たちの優しさから離れたくないなんて思ってしまったから。

 

 溜め込んでいたものが、溢れ出てしまって。

 

 

「……もう、かえりたくない。おかあさんはいなくなっちゃったし、おとうさんはいじめるから」

 

 

 私は、心の内をさらけ出した。

 

 驚愕を浮かべる引子さんと手を握ったままでいてくれる出久に、今までの嫌な事を吐き出す。

 

 厳しい父と優しい母の話。

 個性が出てから父からきつい鍛練をさせられている話。

 兄や姉と離されて、家族から疎外されている話。

 父が母に暴力を振るう話。

 

 そして母が、私を拒絶した話。

 

 最後は嗚咽混じりに漏らしていた私は、いつの間にか出久に抱きしめられていて。

 頭を撫でられる感触が、母とは違う落ち着きをくれて。

 このままずっと、ここに居たいと思ってしまった。

 

 けれど、現実にそれは無理だとも分かっている。

 出久に離してもらって、険しい顔の引子さんに頭を下げる。

 

 

「……ごめんなさい。かんけいないのに、こんなはなしをして」

「……いいえ、凍夏ちゃんの謝る事じゃないわ」

 

 

 とは言っても、彼女もどうしようもないと思っているのだろう。

 温かい人たちにそんな顔をさせてしまったと、後悔が募る。

 

 

「もう、かえります。またこれるかは、わからないけど……」

 

 

 だから、私は自分でどうにかしようと思ったのに。

 

 これ以上迷惑はかけたくなかったのに。

 

 ぎゅっと、手を握られる感覚に振り返れば。

 

 

 

「ぼくが、とうかちゃんについていく!」

 

 

 

 自分の母にそう宣言する、出久がそこにいた。

 

 

「い、出久…………でもね、他所の家庭問題で、しかもNo.2ヒーローのお宅なの。怖い人がいるかもしれないのよ?」

 

「かんけいないよ! ちいさなおんなのこをなかせるヒーローなんて、おかしいもん!」

 

 

 相手が誰でも関係ない、そう言わんばかりの剣幕で。

 引子さんが驚いた顔をしているから、こんな一面を見せたのは初めてなのかもしれない。

 出久は私に振り返って、笑顔でこう言った。

 

 

「とうかちゃんだいじょうぶ! ぜったいぼくがたすけるから!」

 

 

 助けるから。

 

 そう言われて私はようやく、自分が求めていた事を知った。

 

 

 私は、誰かに助けてほしかったんだと。

 

 

 出久はそれに世界でただ一人、気づいてくれたんだ。

 

 

 また泣きそうになったけど、ぐっと我慢して、笑顔を作る。

 

 せめてそれぐらいは、私が彼に返せるものだと思ったから。

 

 

「うん、おねがい、いずく。わたしをたすけて」

 

 

 助けを求められた彼は、力強くうなずいた。

 

 

 

 

 

 

「漸く戻ったか、凍夏」

 

 

 引子さんに連れられて、出久と手を繋ぎながら家に着いたと同時。

 存在感だけで威圧的な父が、玄関で私を出迎えた。

 気弱な引子さんは、それだけで震えている。

 いや、これは誰だってそうなるだろう。

 私だって、逃げられないと思い直してしまうほどなのだから。

 

 

「うちの娘を保護してくださり感謝する。行くぞ」

 

 

 そう言い私に手を伸ばす父。

 

 

 立ち竦み、動けない私。

 

 何も出来ない無力感に。

 

 また涙が溢れ出してきて。

 

 

 その間に、出久が入ってきたのに気がついた。

 

 

「……なんだ君は」

「とうかちゃんの、ともだちです」

「友達? 悪いがそれは特別な仔でね。友など必要……」

「No.2ヒーローの、エンデヴァーですよね」

「……そうだが」

 

 

 父が思わず言葉を止めて、出久の言葉に反応する。

 

 どこか覚悟を決めた声の出久の背中を、私は見つめる事しか出来ない。

 

 

「きょう、とうかちゃんからはなしをきくまでずっとすごいヒーローなんだとおもってました」

「何……? 凍夏、どういう」

 

 

「けど、あなたはヒーローじゃなかったんですね」

 

 

「……なんだと」

 

 

 険しい顔と声になる父に、出久は一歩も引かずに私の前に立っている。

 視界の端で引子さんがおろおろとしているが、気にする余裕はない。

 

 

「ぼくはオールマイトがすきです。どんなこまってるひとでもえがおでたすける、ちょうかっこいいヒーローだとおもってます。そんなオールマイトをこえようとしてるあなたも、すごいとおもいます」

「……そのオールマイトを越えさせる為に作った仔が凍夏だ。何を聞いて何を言いたいのか知らんが、さっさと返して」

 

「けど! あなたはオールマイトばっかりみてとうかちゃんをみてないんです!!」

 

 

 言葉を遮られ続けて、既に苛立ちを隠さない父の眉が、ぴくりと動いた。

 

 そんな状態なのに、出久の背中がとても大きく見える。

 

 

「とうかちゃんはとうかちゃんです!! あなたじゃないんです!!」

「そんなものは当たり前だろう!!」

 

 

「あたりまえなら!! なんでとうかちゃんはないてるんだ!!!!」

 

 

 小さな身体のどこからそんな大きな声が出ているのか、出久の怒声が響き渡る。

 それ以上に、今の出久にはどこかで感じたような強い気迫すら感じる。

 

 誰にも止められなかった筈の父の勢いが、止まった。

 

 

「何、を……」

「エンデヴァーはヒーローなんでしょう!! ないてるひとをたすけて、えがおをまもるのがおしごとの!!」

「……凍夏には、俺の野望を叶える義務がある」

「どうしてあなたはあきらめてるんですか!! エンデヴァーとオールマイトはちがうのに!!」

「っ…………」

「とうかちゃんをなかせて!! とうかちゃんにあなたみたいになりたくないっていわせて!! どこがヒーローなんですか!!」

「…………まれ」

「そんなのでオールマイトをこえれるとおもってるんですか!! とうかちゃんにほこれるヒーローになれるんですか!!!!」

「……黙れ! 貴様のような餓鬼に、何が分かる!!」

 

 

 怒鳴る父に、いつもの迫力はない。

 

 まるで自分を守る為に虚勢を張るような姿は、身体の大きさとは逆に小さく思えるほどで。

 

 

 

「かぞくをなかせるような!!!! おんなのこがひとりでないてるのにきづけないようなひとが!!!! オールマイトをこえられるわけないだろ!!!! ……おまえがオールマイトをあきらめてどうすんだ、ばかやろー!!!!!!」

 

 

 

 そう言い切った出久の背中に、テレビで見たヒーローの背中が重なった。

 

 同時に本能が理解する。

 

 彼はもう、ヒーローなのだと。

 

 肩で息をしている彼は、とっくにヒーローの精神を持っていたんだと。

 

 私を助けてくれた、私のヒーロー。

 

 そして、私が憧れたヒーローと同じ背中で。

 

 こんなヒーローになりたいんだと思わせてくれる、かっこいい背中。

 

 それが、緑谷出久にはあった。

 

 私の目の前の、私と年が変わらない少年に。

 

 

 

「……諦めてなど……違う、俺は、俺がしたかったのは……」

 

 

 思い詰めたように呟く父に、おろおろしていた筈の引子さんが近づいていく。

 

「……横で震えてみていただけの私が、口を出すのはおかしいかもしれませんけど、言わせてください」

「きっとエンデヴァーさんは、前ばかり見ていたせいで、家族との接し方を、間違えていただけだと思うんです」

「だから一度、ご自身の在り方を振り返ってみてはどうですか?」

「…………」

 

 

 柔らかく紡がれる言葉を、父は黙ったまま聞いている。

 

 

「出久が……この子がこんなに強い口調で怒鳴ってるのを、初めて見ました」

「気弱で、いっつも幼馴染の子の後ろを付いてくこの子が、本気で怒ってるところなんて」

「きっと、放っておけなかったんだと思います」

「事情は反対でも、個性で振り回されている凍夏ちゃんが」

 

 

 事情は反対でも。

 その言葉に、父はぴくりと反応して未だに睨み続けている出久を見る。

 

 

「…………彼は、無個性なのか」

「ええ……けどそれとは関係なく、この場の誰よりも凍夏ちゃんのヒーローだったように、私には見えました」

「…………それが俺に、無いもの、か」

 

 父は珍しく、弱く自虐的な笑みを浮かべてからそう呟くと、背中を向ける。

 そして私に向かって、威圧の消えた声で言葉をかけた。

 

「凍夏、明日からは訓練の調整をする」

「……えっ?」

「今日は時間も遅い。二人には泊まっていってもらいなさい。家政婦には言っておく」

「あ、おと……」

 

 

 声をかける間もなく家の奥へと消えていった父。

 残された私と出久、引子さんはぽかんとしたまま立ち尽くしていた。

 

 我に返ったのは、出久がその場にへたり込んだ音を聞いてからで。

 

 

「い、いずく!?」

「……………………こ」

「こ?」

「こわかったあぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

「わ」

 

 

 びゃっとすごい量の涙を溢れさせる出久。

 さっきまでの威勢は何処へ行ったのか、普通の男の子に戻っていた。

 それが何だかおかしくて、けれど会った時の出久と同じで、とても安心できた。

 泣いてる出久の頭を撫でながら、彼の母へと向き直って頭を下げる。

 

「……ごめいわくをおかけしました。おとうさんはとまっていけといってましたが、むりならだいじょうぶです」

「い、いいえ、私たちは良いんだけど……」

「なら、えんりょなさらず。いずく、いこ」

「う゛、う゛ん゛っ゛…………」

 

 涙声の出久と手を繋ぎ、家の中へ入る。

 おっかなびっくりの引子さんをすぐに来た家政婦の人に頼み、客間に案内してもらう。

 出久は、私の部屋に来てもらった。

 使う機会のなかった客用座布団を出して、そこに座ってもらう。

 私も隣に座って、ぐずっている出久をあやしていた。

 涙が収まってきた頃合いに、話しかける。

 

「へいき?」

「うん……ごめんね、ありがとう」

「おれいをいうのはわたしだよ」

 

 出久の手を私の両手で包み込むように握って、心の底からのお礼を言う。

 

 

「いずくのことばで、おとうさんがわたしたちかぞくのことをかんがえてくれるようになりそうだから…………すごく、かっこよかった」

 

 

 恥ずかしかったので照れながらの言葉に、泣き腫らした目の出久が弱々しく笑みを浮かべる。

 

「その、おもったことをいいたいだけいったみたいで、ぜんぜんおぼえてないんだ」

「そうなんだ。ひっしだったもんね」

「うん……ぼ、ぼくぶたれたりしないよね!?」

「だいじょうぶだよ。かったのはいずくだもん」

「そ、そっか…………」

 

 笑みを浮かべてそう言えば、安心したらしい出久はほっと息を吐いた。

 ようやく落ち着いた彼に私もほっとして、ふともう一つ言っておきたい事を思い出した。

 

 先程の父と引子さんの会話で、気づいた事。

 

 出久は無個性で、それ故に振り回されていると。

 

 ヒーローに憧れている様子や、オールマイトについて楽しそうに話していた様子。

 きっと彼はヒーローになりたくて、けれど無個性という事実が邪魔をしている。

 彼は、ヒーローになりたくてもなれないと言われているんだろうと。

 

 それでも、諦めたくない思いを抱えているんだと。

 

 なので出久の正面へと回り、しっかり彼を見据える。

 

 

「ね、いずく」

「な、なに?」

 

 

 不思議そうにしている彼の目をまっすぐ見て、満面の笑顔を作りながら言葉を紡ぐ。

 

 

 

「いずくは、ヒーローになれるよ」

 

 

 

「……えっ……?」

 

 

 驚く彼から目を反らさずに。

 

 今の私が出久の為に言える言葉を。

 

 思いの丈を、伝える。

 

 

「いずくはむこせいだからヒーローになれないっておもってるんだよね」

「っ……そ、そうだよ……ぼく、むこせいなんだよ。なのに、なんで」

「こせいなんてかんけいないもん。だってわたしは、むこせいのいずくにたすけてもらったんだから」

「け、けど……!」

 

 

 信じたいけど、信じられない。

 

 そんな思いの詰まった否定を、私は否定する。

 

 

「いずくはもう、わたしのヒーローだから」

 

「ーーーーっ!」

 

「だからいずくは、ヒーローになれるよ」

 

 

 言い切った私に、出久は目を潤ませて。

 

 

「あっ…………ありがっ…………とうっ……!! うぁぁぁぁ………………!!!!」

 

 

 涙ぐみながらお礼を言うと、私に抱きつきながら嗚咽を溢し始めた。

 

 先ほどとは違う、肯定された事による嬉しさでの涙は、何だかこちらも泣きそうになって。

 

 

「なか、ないで、いずく。わらって」

「うん……うんっ…………!!」

「ふふっ、へんな、かおだよっ……」

 

 

 泣きながら無理矢理笑顔を作る出久に、私も笑いとともに涙が溢れてきた。

 

 お互いに抱きしめ合いながら泣き笑う姿は、端から見れば奇妙な光景だったかもしれないけれど。

 

 私たちにとっては、とても大切な時間だったから。

 

 そのまま泣き続けた私たちは、お互いを強く抱きしめたままいつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

 この日が、私の始まりの日。

 

 なりたい自分になっていいと、思い出して。

 

 なりたい自分の姿と同じ、小さくも大きな背中を見た日。

 

 

 これが、私のオリジン。

 

 

 泣いている小さな女の子の手を取れるような、優しくて強いヒーローになりたいと、そう決めた日だった。

 

 

 

 

 

 

「出久と会った日は、そんな感じかな」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……なんで凍夏ちゃん一語一句違えず覚えてるのさぁぁぁぁ…………!!」

 

 

 終始機嫌良く話していた私と、羞恥に耳まで赤くした出久の呪詛にも近い叫びが響いていた出久の部屋。

 聞いていた側の反応もかなりすごくて、飯田やお茶子などは途中から涙を流していた。

 

 

「ぅぉぉぉぉ……緑谷くんは五つの時から立派だったのだなぁぁぁぁ…………!!」

「そんなんもぉ……むりやんかぁぁ……デク君もぉぉ…………凍夏ちゃんべたべたになるん、当然やんかぁぁ…………」

「カンベンシテクダサイ…………」

 

 

 二人に揺すられながら褒められる出久が片言で話しながら顔を覆っている。

 少しだけ申し訳なく思うけど、昔から出久は格好いい事を知ってもらえてとても嬉しい。

 

 そして話を要求した爆豪はと言えば、しかめっ面で目を瞑っていた。

 

 自分の知らない出久の話を聞き、この男は何を思うのか。

 

 私の視線を感じたのか、爆豪は目を開いて此方を見た。

 

 

「……んで、テメェとデクはエンデヴァーに鍛えられてった、って訳か」

「そう。無個性なら地力と技術を鍛えなきゃって、あいつが言ってね。それからずっと」

 

「って、ちょっと待って! ずっと不思議に思ってたんやけど、デク君個性あるよね? 無個性ってどういう事なん?」

「む、そういえば……」

 

 

 私と爆豪の間に、横からお茶子が突っ込みを入れてきた。

 言われてみれば、出久の個性が遅咲きな理由の表向きの件についても、まだ話していなかったっけ。

 同じく疑問に思ったらしい飯田にも視線を向けられた出久も、そういえばといった表情で話し出した。

 

「僕って個性の発現が遅かったんだ。具体的には、雄英の一般入試の日に分かったんだけど」

「ええっ!?」「何だって!?」

 

 驚くのも分かる。どんな確率だって話だから。

 なので信憑性を持たせる為の話を、出久は既に考えている。

 

「僕の個性って、自分もバキバキになっちゃう超パワーでしょ? それなりに身体が出来ててもこれだから、もし小さい頃に出てたら、こう、四肢が爆散しちゃってたかもしれないってお医者さんに言われてさ」

「四肢が!!」「爆散!!」

 

 合わせたように腕を押さえるリアクションを取る二人。

 こういうノリの良さは良いところだと思う。好き。

 

「だから身体が出来るまでは脳がリミッターをかけてたんじゃないか、って言うのが専門の人の予想なんだ」

「な、成る程……個性についてはまだまだ謎が多いものな……」

 

 顎に手をやり考え込む飯田は、その説明に納得してくれたらしい。

 しかしお茶子はわなわなと震えており、出久の肩を掴んで彼に顔を近づけている。

 

「って事は……もしかしてデク君、私を助けてくれたあの時が、個性使うの初めて!?」

「あ、あー、うん、そうだね」

「ーーっデク君ホント凄いよ! 私もデク君みたいなヒーローになれるよう頑張ろう、って思えるもん!!」

「おおおお落ち着いて麗日さん!!」

 

 興奮するように出久を揺するお茶子。

 

 気持ちは分かるけど、ちょっと離れてほしい。

 

 その距離は……幾らなんでも近すぎる。

 

 出久の良さは知ってほしいけど、もしも女の子として好きになられてしまったら、その、すごく困る。

 

 

「麗日君! 緑谷君が目を回してしまうぞ!?」

「あっ……ごご、ごめんデク君!!」

「う、ううん……大丈夫……」

 

 

 飯田の声でお茶子は何事もなくすんなり離れたけど、一度思い浮かんだ嫌な想像は中々頭から離れない。

 

 

 もし、他の子が出久に惚れて、出久もその子を好きになったら。

 

 

 幼馴染なだけで、あんな父親が居て火傷痕のある醜い私なんて。

 

 出久にとっての過去になって、すぐに忘れられてしまうんじゃないか。

 

 

 嫌、そんなのは嫌だ。

 

 

「凍夏ちゃん?」

 

 

 名前を呼ばれてはっと顔を上げると、出久が心配そうに覗き込んでいる。

 

 危ない、この暗い感情は表に出してはいけない。

 

 ちょっと他の女の子と触れ合っただけで、こんな事を考える重い女だと思われてしまうのは嫌だ。

 

 出久に、嫌われたくない。

 

 

「ごめん、何? ぼーっとしてた」

「……ううん、ちょっと元気が無さげに見えて、気になっただけだから」

 

 

 にっこり笑いながらそう言えば、どうにか誤魔化せた、筈。

 ……いや、此処で追及しなかっただけで、中身は分かっていなくても私が不安を感じていた事には気づかれているか。

 付き合いの長さが、悪い方向に働いてしまった。

 

 と、今まで私たちの会話を無言で聞いていた爆豪が、不意に立ち上がり部屋を後にしようとした。

 

 

「あっ、かっちゃん帰るの?」

「聞きたい事は大体聞けたからな。これ以上いる意味はねぇ」

「そっか。また明日」

「……俺のやる事は変わんねぇ。前に言った通りだ」

 

 

 それだけ言い残して、爆豪は部屋から出ていった。

 前に、というのは多分戦闘訓練後の事だろう。

 人を助けるヒーローになりたい出久の在り方が、勝利に執着している爆豪にどう影響を与えたのか、それは当人たちにしか分からない。

 

 爆豪が帰ったのを見て、時間を確認した飯田も荷物を持って立ち上がった。

 

 

「もうこんな時間か。あまり長居をしては緑谷君宅に迷惑がかかるな。もう少し話したかったが、今日はここら辺でおいとまさせてもらうよ」

「わっ、ホントだ! 私も帰るね。お邪魔しました!」

「うん。二人とも今日はありがとう。また明日学校で」

「ああ、それでは失礼する。轟君もまた」

「またね、二人とも」

「また明日から頑張ろうね! デク君、凍夏ちゃん!」

 

 

 笑顔で手を振るお茶子に手を振り返し、二人を玄関まで出久と一緒に見送った。

 ……爆豪はともかく、お茶子たちには気を遣わせてしまったらしい。

 

「凍夏ちゃんはまだ帰らなくて大丈夫?」

「……もう、ちょっとだけ」

「そっか、なら部屋に戻ろう」

 

 出久は何も聞かずに笑って、私に背を向けて自室へ歩みを進める。

 その背が離れていく光景だけで先程の不安を思い出してしまった私は、少し俯きながら後に続く。

 

 出久の部屋に戻ると、彼はベッドに腰かけた。

 私は隣に行くのを堪えて、他の場所に座ろうと思った。

 の、だけれど。

 

 

「凍夏ちゃん、おいで」

 

 

 出久が優しい顔で、手を広げながらそんな事を言うものだから。

 

 蓋をしようとした暗い感情を溢れさせた私は、涙を溜めながら出久の胸に飛び込んだ。

 

 

「よしよし、大丈夫大丈夫」

「いず、く……」

「どうしても、凍夏ちゃんには辛い話だったからね。ちょっとの事で不安定になるのも仕方ないよ」

 

 

 頭を撫でられながら、背中をポンポンと叩かれる。

 昔から私が何かに不安になったりした時は、いつも出久がこうしてくれた。

 暗い気持ちが、醜い心が、優しく支えられる事で和らいでいく。

 

 

 これは依存だ。

 

 出久が居なくなってしまったら、きっと私は壊れてしまう。

 

 あの日、出久に助けられた日から、私は彼無しでは生きられなくなってしまった。

 

 出久もなんとなく、その事に気づいているんだろう。

 

 

 それでも、私はオールマイトのような、出久のようなヒーローになりたいと憧れたから。

 

 私のように助けを待っている子がいるなら、手を差し伸べられるようになりたいと思ったから。

 

 笑顔で人々を救うヒーローになる出久を、一人で死なせない為にも。

 

 私は、最高のヒーローになる。

 

 

「……ありがと、出久。もう大丈夫」

「どういたしまして」

 

 

 そしてできれば、隣には出久が居てほしい、なんて。

 

 笑顔の彼に満面の笑みを返しながら、私はそう思った。

 

 

 

 

「と、ところで凍夏ちゃん……さっきの話、本当にクラスの皆にもするの?」

「ううん、やっぱり止めとく」

「えっ、そうなの? 僕としては過去の暴挙が知られないからありがたいけど……」

「このままエンデヴァーが嫌われてる方が良い事に気がついたから」

「んんっ、そっちかー!」

 

 

 口元に手をやりながら唸る出久には、半分だけの理由を信じてもらおう、

 

 もしも女の子に話して、出久を好きになられても大丈夫な日まで。

 

 

「……話すなら、出久と結ばれてから、かな」

 

 

「? 何か言った?」

「何でもないよ」

 

 

 




※この二人はまだ付き合っていません。

 書きたかった事は大体書けた感じです。オリ主が出久にベタ惚れの理由とか。
 オリ主が幼少期から大人びてるとか、出久が子どもなのに難しい事言ってるとか、エンデヴァーがあっさりし過ぎとか、突っ込みは多々あれどご都合主義でどうか一つ。
 出久と焦凍の二次創作とかでもよく見る展開なのもご都合主義で(ry
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。