いつも感想や評価ありがとうございます。
今回もそんなに展開が進みませんがご容赦を。
その分イチャイチャさせてるつもり(?)です。
「こんなものでしょうか?」
「うん、良いと思う」
八百万が作ったチアの衣装の出来に頷きながら、私は渡された衣装を手に取った。
お昼ご飯を食べた後、上鳴と峰田が相澤先生から預かったらしい伝言……午後からは女子全員がチアリーダーの格好で応援する、という話に従うべく、私たちは更衣室へ訪れている。
「うわ、結構露出高いな……」
「これ着るのかー。ちょっとハズイかも」
「まあ私のコスチュームには勝てないけどね!」
「それは殆ど裸よ、透ちゃん」
微妙な表情で着替えている皆を横目に、私も着替えを始める。
正直あの合理主義の塊の相澤先生がそんな事を言うとは考えられないし、やるにせよ服を用意していないなんてミスをする筈も無いと思う。
十中八九嘘だろうなあと思いながらも、まあ良いかと気にしない事にした。
多分皆も気づいてて付き合ってるんだろう。緊張を解す意味でも悪くはないし。
それに私としてはチアリーダーの服を着るのに抵抗は無い。
むしろ、新鮮な気持ちや好奇心の方が強いぐらいだ。
なのでこういう格好をする機会なんて無いからと、少しわくわくさえしていた。
けれど他の子はそこまで乗り気じゃないらしくて、どうやら私の感性はちょっとずれているみたい。
育った環境が影響しているのかもしれない、ここはエンデヴァーに責任を押しつけよう。
それはそれとして、初めて着たチア服は結構スースーする。
スカートも短いしアンダースコートが無ければ下着が見えそうだ。
これは確かに、不特定多数の見ている前でするには少し恥ずかしい格好かもしれない。
……私はただ、出久に変に思われないかどうか、それだけが心配なんだけども。
少し不安な面持ちで付属のポンポンしたやつ(後で調べたら正式名称もポンポンだった)に顔を隠しながら、着替え終わった皆と一緒にスタジアムに向かった。
『ん? アリャ? どーしたA組!!?』
『なーにやってんだ……?』
そして案の定、チアの格好なのは私たちだけだった。
「峰田さん! 上鳴さん!! 騙しましたわね!?」
「「ウェーイ!!」」
犯人二人はどこかへ向けてサムズアップをしている。
女子は峰田たちに憤怒したり、無表情になったりしていて、大分暗い空気だ。
というか、これはもしかして。
「皆、気づいてなかったの?」
「うん……って、凍夏は分かってたの!?」
「わ」
耳郎の叫びに女子全員(葉隠は多分)の視線がこちらに向いた。
あれ、もしかしなくても気づいてたのは私だけか。
「だって、普通に考えて相澤先生がこんな指示する訳ないし」
「ケロ……言われてみればそうよね」
「言ってよ凍夏ー!」
「皆分かってて付き合ってるんだと思ってた」
「うぐっ……」
「轟さんは気づいていたのに……何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
ズーンと落ち込んでしまった八百万に、何だか申し訳ない気持ちになる。
「何にせよアイツらはアホだろ……」
耳郎もポンポンを投げ捨てながら恨めしそうに言う。
私まで罪悪感が沸いてきてしまった、ごめん耳郎。
今度から、気づいた事は口に出そう。
「まァ本戦まで時間空くし、張りつめててもシンドイしさ……いいんじゃない!!? やったろ!!」
「透ちゃん、好きね」
そんな中で葉隠だけはオラァァ、とやる気を出している。
元々目立たない個性なだけに、目立てる事は嫌いじゃないのか。
なら私も、その手伝いをしなきゃ。
「私もやる。氷と炎のチアガール」
「イイね! 凍夏ちゃんもやったろ!!」
「うん。あ、その前に」
私は男子の方へ視線を向けて、幼馴染を探す。
見つけた出久は峰田たちに何とも言えない視線を送っていたが、私が見ているの気がつくと少し顔を赤くしながら小さく手を振ってくれた。
良かった、反応は悪くないから変には思われていない。
ほっとしながら出久の元へ小走りで駆け寄って、彼の前に行く。
何故か周りの視線が集まったが特に気にせず、私はポンポンで口元を隠しながら出久に尋ねた。
「出久、似合ってるかな」
「う、うん。か、可愛い、よ」
「……えへへ」
顔を真っ赤にしながらもちゃんと褒めてくれた出久に、思わず変な声が出てしまった。
だって、嬉しい。すごく嬉しい。
出久がこういう反応をしてくれるのは、つまり、私を女の子として見てくれている時だから。
多分今の私は、滅茶苦茶表情が緩んでる。
ポンポンが無かったら、みっともない顔を晒す所だった。
この服、八百万に頼んで譲ってもらおう。
「もう、隙あらばイチャついてんなコイツら……」
「轟っぱいの揺れを目に焼き付けたぜ……へへっ、緑谷だけに堪能させてたまるかよ……」
「……言ってて虚しくなんねえ?」
「なるわ!! 地味マリモの癖にモテやがって!! 畜生めぇ!!!!」
視界の端で峰田が何かを叫んでいるけど、殆ど気にならなかった。
と、そこで出久が何かに気づいたように固まり、何故か自分の着ていた体操服の上を脱ぎ始めた。
そしてそれを、私に押し付けるように渡してくる。
「凍夏ちゃん、羽織ってて」
「? この後これで応援するつもりなんだけど」
「……駄目かな」
「……ううん、分かった」
出久が、今まで見た事が無い感じの困ったような……いや、焦った顔で頼んでくる。
どうしたのかは判らないけど、出久の頼みなら断る理由はない。
着るのに邪魔になるポンポンと引き換えに出久の体操服を受け取った私は、手元のそれを少しだけ見つめてから袖を通した。
背は私の方が大きいけど、出久も男の子なので、胸以外は丁度良いサイズ感。
前は閉めずに着衣完了。出久からポンポンを返してもらう。
……服から出久の匂いがするので、くんくんしようとしたら本人に止められてしまった。悲しい。
今は諦めて、後で隠れて嗅ごう。
『さァ! 仲良し男女のイチャイチャも一息吐いたところで皆楽しく競えよレクリエーションの時間だ!!』
私たちのやり取りが終わった所で、止まっていた体育祭の進行が進む。
わざわざ待たせてしまってたみたい。ちょっと反省。
どうでも良いかもしれないけど、ここまでの私と出久のやり取りをイチャイチャと評したマイク先生の好感度が少し上がった。
珍しく出久も反論してないし、今日は良い事が続く日だ。
『それが終われば最終種目! 進出した4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!』
スタジアムのモニターに、大きくトーナメントの図が表示される。
去年はスポーツチャンバラだったから、今年はより戦闘が重視されるみたいだ。
出久が決意の籠った顔に切り替わり、ぐっと拳を握った。
「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ!」
そこからは続きをミッドナイト先生が引き継いで説明に入る。
レクリエーションに関しては進出者16人は参加しなくても良いらしい。
私は応援に回るつもりだけど、出久はどうするんだろう。
と、そこで尾白と、B組の庄田の二人がミッドナイト先生の前へと進み出た。
「「すみません。俺(僕)たち、辞退します」」
突然の二人の発言に、周りがざわつき始める。
「尾白くん! B組の庄田くんも、何で……!?」
「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
戸惑いながら皆が疑問をぶつける中、彼らは小さく笑って話を始める。
「騎馬戦の結果がどうあれ、最初から決めてたんだ」
「僕たちは騎馬のチーム決めの時に、彼に一本取られてしまったからね」
そう言いながら二人が視線を向けた先には、普通科の心操が居た。
注目された彼は軽く肩を落として、口角を上げている。
その様子から、尾白たちは彼の個性の行使をされたのだと判断できる。
これは自分たちは心操に敗北したと、認めているからこその辞退なのだろう。
「詳しくは言えないけど、俺と庄田は轟の氷結が無ければ何も出来ずに終わる所だった」
「今回此処に居られるのは偶然に偶然が重なったからだ……そんな何もしていないに等しい状態でこのトーナメントの場に上がる事は出来ないと、僕と尾白君は話し合ったのです」
顔を見合わせて頷き合う尾白と庄田は、残念そうではありつつも後悔は無いらしい。
周りは気にしすぎだとか本戦で成果を出せば良いとか言っているけど、撤回する気はなさそうだ。
「そういう青臭い話はさァ……好み!!!」
そしてミッドナイト先生の主審判断(好み)により、二人の棄権が認められた。
ついでに同じ騎馬のもう一人、青山はやるらしい。お腹は大丈夫なのか少し心配。
空いた二枠には次点のB組の話し合いの結果、鉄哲と塩崎の二名が入る事になった。
とやかくあったけど、そこからはスムーズにくじ引きが行われて。
少しだけ時間を置いて、モニターに全ての組み合わせが表示された。
・ 上鳴vs心操
・ 緑谷vs塩崎
・ 瀬呂vs轟
・ 飯田vs発目
・ 芦戸vs青山
・ 常闇vs八百万
・ 鉄哲vs切島
・ 爆豪vs麗日
対戦相手は、こんな風になっている。
私の一回戦は三組目、相手は瀬呂だ。
彼へ視線を向ければ、ひきつった顔をしている。
あ、私が見ているのに気がついて取り繕った。
テープの個性は拘束や移動においてとても厄介だし、もう少し自信を持っても良いと思う。
まあそれでも、負けるつもりは全くないけれど。
それより、気になるのは出久と爆豪だ。
爆豪は反対のツリーにいるので、やるとしても決勝になる。
万能型の八百万、攻防に長けた常闇や切島などの実力者が多い組なので、激戦区になりそうだ。
初戦のお茶子には厳しい試合だけど、精一杯頑張ってほしい。
そして、出久。
順当に行けば、戦うのは準決勝になりそうだ。
障害物競走4位のB組塩崎や、洗脳系個性と予想される普通科心操がいて、油断はできないけれど。
出久なら、必ず越えてくる。
気合を入れている出久の前にポンポンをふりふりすれば、苦笑気味の笑顔が返ってきた。
『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間! 楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』
そんな訳で、ここから暫くは息抜きタイム。
ヒーロー科とか普通科とかは関係なく、普通の高校の体育祭のようなレクリエーションが始まった。
クラス別対抗だったり個人種目だったりするけど、なんだかんだで結構楽しそうに見える。
大玉転がしでは、複製腕の障子だと安定感が違ったり。
3対3の三角ベースでは、砂藤の全力投球がB組の物間に渾身のデッドボールとして当たったり。
借り物競走では、峰田が背脂なんてお題を引いて絶望の顔をしていた。
トーナメント進出者たちはそれぞれで、瀬呂や上鳴は普通にレクリエーションに参加していたけど、飯田や常闇、爆豪なんかは参加していない。
出久も姿を見なかったので、きっとどこか精神を研ぎ澄ましているんだろう。
私は他の女子たちと一緒に、チア服で皆を応援をして、逸る心を落ち着かせていた。
お茶子も初戦から爆豪相手という緊張を、応援する事で解きほぐそうとしているように見えた。
そしてあっという間にレクリエーションも終わり、いよいよトーナメントが始まる。
ちょっとだけ組み合わせを変えました。
影響はそれなりにあるかも。
書く事思い付かないので、騎馬戦時に判明したオリ主の必殺技の説明でも。
○不動氷陣(ふどうひょうじん)
自分を基点(右手や右足)として、広範囲を氷結させる。
敵が居れば足から首まで好きな範囲を凍らせて動けなく出来る。
時間を掛ければ相当に密度を上げられる。
USJ時、騎馬戦時共に発動待機する時間があったので強い拘束が可能だった。
氷結範囲はスケートリンクのようにツルツルにも、氷河のように凸凹にも自在に変化させられる。
名前から漂う厨二感、常闇には好評だった。