半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 いよいよ体育祭の本番とも言えるトーナメントです。
 前半、と言いつつ三組だけ。

 今日発売の本誌で出久くんの新技出たりしないかちょっとわくわくしながらの投稿。

12/17,8:30追記:出久くんの個性が不穏な空気になってまいりましたね(震え声)


17:アピールしよう一回戦前半。

「オッケー、もうほぼ完成」

『サンキューセメントス! ヘイガイズ! アァユゥレディ!? 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!!』

 

 勝負の舞台を現国担当のセメントス先生がおおよそ作り上げて、トーナメントの準備が整った。

 マイク先生のシャウトを聞きながら、私はクラスの皆と生徒用の席から観戦する。

 

 二戦目の出久は居ない。流石に間隔が短いので、控え室のモニターで見るらしい。

 

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!!』

『ケガ上等!! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!! 道徳倫理は一旦捨ておけ!!』

『だがまぁもちろん命に関わるよーなのはクソだぜ!! アウト! ヒーローは敵を捕まえる為に拳を振るうのだ!』

 

 

 一気にされたルール説明。

 勝ち負けはとても分かりやすい。私の場合、氷漬けにしてしまえば勝ったようなもの。

 

 

『一回戦!! スパーキングキリングボーイ! ヒーロー科上鳴電気!!』

『対! ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科心操人使!!』

 

 

 初戦は上鳴対心操。

 上鳴の放電は生物である限り天敵とも言える個性だけど、その前に心操の個性を食らってしまえばどうなるかは分からない。

 

 

『そんじゃ早速始めよか!! Ready……START!!』

 

 

 スタートの合図と共に上鳴が駆け出した。

 

 

「なあ、あっちの可愛い女子がお前の応援してるぞ」

「マジで!? どこぉ…………」

 

 

 ……が、その動きはすぐに止まってしまった。

 集音器が拾った言葉から考えて、やはり彼の言葉に返事をすれば発動する個性なんだろう。

 

 いや、なんで上鳴は今のに引っかかったのか。

 

「上鳴ェ……一応忠告はしといたんだけどなぁ……」

 

 尾白が頭を抱えているから、大体の個性を聞いた上で反応したようだ。

 

 ボーッとした顔になった上鳴は、そのまま場外へと歩き、線の外へ出て行った。

 

 

「……上鳴くん場外! 心操くん、二回戦進出!」

『オイオイオイ!? ヒーロー科上鳴、まさかの為す術もなく敗退!! しかもめっちゃみっともねえ負け方したぞ!!!』

『アホ……』

 

「アホだ」

「アホだな」

「クソアホ面」

「ホントヒーロー科の面汚しだよ、あのアホ」

 

 

 どこからも散々な言われようである。

 ミッドナイト先生は呆れたようだったし、相澤先生の端的な罵倒も、頭が痛そうな声の気がする。

 

 クラスメイトも何が起こったかは分かってない人が多いが、とりあえず上鳴は醜態を晒したという認識みたいだ。

 特に耳郎は、チアの件での恨みも合わさってか、かなり辛辣だった。

 

 

『てか全っっっ然目立ってなかったけど、彼、ひょっとしてやべえ奴なのか!!?』

『はぁ……だからあの入試は合理的じゃねぇって言ったんだ……』

 

 

 相澤先生は手元に持っているらしい心操の個人データを見ながら話を始める。

 

 予想通り個性は「洗脳」

 問いかけに答えた者は洗脳のスイッチが入り、心操の言いなりになってしまうとか。

 他に殆ど類を見ない強い個性だけど、人にしか効果はないようで。

 話に聞く一般入試のロボット撃破では、心操はポイントが取れずに落ちてしまった訳だ。

 

 成る程、相澤先生が合理的じゃないと言うのも分かる。

 機械が相手では、対人には強い個性が活躍の場を発揮できずに、不合格となってしまうのだから。

 

 

「……とんでもない個性ですわ。都市部などの戦闘が容易でない場所や、立て籠り系統の犯罪にはとても有用でしょう」

「ああ、彼の前ではどんな力も等しく関係ない。敵が心操君の個性を知らなければそれで終わりだ」

 

 

 理解の早い八百万や飯田は、対敵への影響をすぐさま考えているようだ。

 観戦しているプロヒーローなどからも高い評価を得ていて、彼を落とした雄英へ残念だという意見も聞こえてくる。

 心操人使、きっと彼は遠くない内にヒーロー科(ここ)まで上がってくる男だ。

 

 

 思わぬダークホースの登場に会場の興奮が冷めない中、無表情の心操と何も分からないままに敗退していて困惑している上鳴が退場していく。

 少ししてから沈んだ顔の上鳴がとぼとぼと観客席へ戻ってきた。

 

「お、アホが帰ってきたぞ」

「お疲れアホ。いや疲れてないか」

「寄んなアホ面、アホが移る」

「酷くない!? 気づいたら負けてたのよ俺!!」

「女子に応援されてるって言われて反応して負けたアンタが悪いよアホ」

「うぐぅーっ!!」

 

 最早扱いが虐めだった。

 言い返せないのか胸を押さえて蹲る上鳴が、だいぶ哀れだ。

 

 普段ならフォローに入る出久が居ない為、誰も彼を慰めない。

 一応、私が入れとこうか。

 

「あの個性相手なら、仕方ないよ」

「轟ぃ……!」

「アホか、尻尾から個性聞いてた癖にアホみてぇな嘘に引っかかるアホ面の落ち度だわアホ」

「爆豪お前アホアホ言い過ぎだかんな!? 俺だって傷つくんだぜ!?」

「寄んなっつってんだろアホ面菌!!!!」

「ヒドイ!!!!」

 

 駄目だった。爆豪に論破されてしまった。

 ぽつんと体育座りしてしまった上鳴に、なんて言葉を掛ければよかったのか。

 ……きっとその内復活するだろう、放っておくしかなさそうだ。

 

 

 

 

『お待たせしました!! 続きましてはこいつらだ!』

 

 そんなやり取りがされている内に、二戦目が始まる。

 ステージ上には、出久とB組の塩崎が上がっていた。

 

 

『ここまで成績トップの一人! なのになんだその顔! ヒーロー科A組緑谷出久!!』

『対! B組からの刺客!! 綺麗なアレにはトゲがある!? ヒーロー科B組塩崎茨!!』

 

 

 やる気十分に見える両者。

 しかしマイク先生の紹介で、塩崎が実況席へと身体を向けた。

 

「申し立て失礼いたします。刺客とはどういうことでしょう。私はただ勝利を目指しここまで来ただけであり――」

『ごっごめん!!』

 

「B組にも飯田君みたいな人がいるんだ」

「む、彼女と俺は全く似ていないぞ?」

 

 ぽつりとお茶子が溢した呟きに、聞こえていたクラスメイトたちは頷いていた。

 確かに飯田と同タイプの、真面目な子みたいだ。

 当の本人は見当違いな事を言って首を傾げていた。うん、良く似ている。

 

 それとプレゼント・マイク先生、さっきの出久の紹介はどういう意味なのか、是非とも詳しく教えてほしい。

 場合によっては、教師と言えども怒らせてもらう。

 

 

『すっ、START!!』

 

 

 あ、色々と誤魔化してスタートの合図を切った。

 塩崎は言い足りなさそうだけど、諦めて出久へと向き直る。

 苦笑していた出久も顔を引き締めて、構えをとった。

 

 

「それじゃあ、宜しくお願いします」

「ええ。どうか正々堂々と勝負をいたしましょう」

「そうだね……塩崎さん」

「はい、まだ何か?」

 

 

「正面から行くけど、気をつけて」

 

 

 言葉と同時、出久が身体に緑の雷光を纏って、左腕を構える。

 

 そして離れた距離から、塩崎に向かって拳を振り抜いた。

 

 

「40%――デトロイトスマッシュ!!」

「ぐぅっ――!?」

 

 

 拳から放たれた風圧は、ステージ自体に大きな衝撃を与えながら塩崎へとぶつかる。

 

 辛うじて反応した彼女は、トゲトゲのツル状の髪を後ろの地面に突き刺して衝撃を抑えて、正面にツルの盾を作り、場外をギリギリ免れた。

 

 

「もう、一発!!」

 

 

 けれど、出久はそこで間髪入れずに、右腕も振るっていて。

 

 同レベルの衝撃を耐えきる事は、今の状態の塩崎には出来なかったらしい。

 

 ツルごと飛ばされた彼女は空中に放り出されて、スタジアムの壁にぶつかるまで止まらなかった。

 

 

 シン、と余りの光景に会場内が静まり返る。

 

 

「し、塩崎さん場外! 緑谷くんの勝ち!!」

 

 

 いち早く復活したミッドナイト先生のコール。

 

 止まっていた空気が、大歓声に変わった。

 

 

『こいつァやべぇ!! A組緑谷、塩崎のツルもなんのその!! パンチ二発でブッ飛ばしたぁ!!!』

『緑谷は件の襲撃以降、個性の扱いが格段に上手くなったな……今のところ、A組では頭一つ飛び抜けてる内の一人だ』

 

 

 あの相澤先生からも称賛されている出久。

 

 入学当初、個性がコントロール出来ずに除籍されかけていたなんて、今の姿からは到底思えない。

 

 オールマイトから受け継いだ個性、ワン・フォー・オール。

 

 100%はまだ出せずとも、今の力は十分過ぎる程に彼を連想させた。

 

 

「コントロールされた超パワーヤバすぎだろ……」

「緑谷ちゃん、本当にオールマイトみたいだわ」

「っ……上等じゃねぇかデク……!!」

 

 A組の皆もあのレベルの力を見るのは初めてだったので、唖然としている。

 梅雨ちゃんのオールマイトみたいという発言にも、ほぼ全員が頷いていた。

 爆豪も笑っては居るが、冷や汗を流しているのを隠せていない。

 

 私は嬉しさもあるけれど……少しだけ、怖い。

 

 いつの間にか置いていかれたように感じてしまったのは、きっと気のせいではないから。

 

 

 だからこそ――私は負けられない。

 

 

 その出久はと言えば、吹き飛ばした塩崎に駆け寄って、立つのに手を貸している所だった。

 集音器の範囲外なのか、さっきの衝撃で壊れたのかは分からないけど、音が拾えていないので何を話しているかは聞き取れない。

 お互いに礼をし合っているので、悪い雰囲気ではなさそうだ。

 

 

『対戦相手を気遣う姿も合わせて、まるで小さなオールマイトォ!! 緑谷出久、圧倒的なパワーを見せつけ二回戦に進出ゥ!!!』

 

 

 小さなオールマイト、まさにそれだ。

 本人は過大な評価だと思ったのか慌ててペコペコ頭を下げているが、そんなに低姿勢にならなくてもいいのに。

 No.2に鍛えられて、No.1に見初められた事実を、もっと誇ってほしい。

 

 

 出久によって破壊されたステージを修復するのに少し時間が掛かるようで、それまでは休憩時間になった。

 

 ちょっとしてから、出久が戻ってくる。

 

「デク君お疲れさま!!」

「凄ぇよ緑谷!! マジでオールマイトみたいだった!!」

「あ、ありがとう……けどオールマイトみたいなんて、そんな畏れ多い……」

「そこはぶれないのね、緑谷ちゃん」

 

 皆からの高すぎる評価に、出久は大分恐縮しているみたいだ。

 私の隣に空けられていた席に座った彼は、ふぅと一息吐いていた。

 

「お疲れ様。二回戦進出おめでとう」

「ありがとう、凍夏ちゃ……ってあれ? 凍夏ちゃん次の試合じゃなかったっけ?」

 

 出久の言葉に、皆がはっとして私を見る。

 

「そうだよ! なんでまだここに居るの!? 瀬呂はもうとっくに行ってるよ!!」

「忘れてた……訳じゃないよね!?」

「早く控え室に向かいませんと!!」

「わ」

 

 皆が、というか女子勢がすごい勢いで詰め寄ってきた。

 いや、ここに居たのは出久の試合が見たかったからだし、流石に忘れてはいない。

 

「大丈夫。すぐに行くから」

「……って言いながらのんびりしてるけど!?」

「あー、凍夏ちゃんまさか……」

 

 慌てる皆を置いて、一人答えに辿り着いたのはやっぱり出久だった。

 考えてる事をすぐ分かってくれるのは、とっても嬉しい。

 

「そうだよ。流石出久」

「まあ、良いのかな……?」

「なになに! 以心伝心してないでどういう事!?」

「いや、うん――」

 

 

『ステージも直して次の対決!! どんどん行こうぜ!!』

 

 

 丁度良い、始まりそうだ。

 立ち上がった私は、観客席の前へと進んでいく。

 

「……俺どうやって行くか、なんとなく分かったわ」

「ウチも」

「えっ? えっ??」

 

 引きつった切島や耳郎の声や、疑問符を上げる八百万の声を後ろに聞きながら、手すりに手と、足を掛けた。

 

 そのまま勢い良く蹴って、同時に個性を発動する。

 

 

 最小限の大きさの氷で道を作りながら進んで、フィールドの上まで飛び上がった後に炎を出す。

 

 大きな羽根のような炎と氷を背中から出して、推進力を利用しながら着地する。

 

 最後に個性を解除して、会場全体にぺこりと礼をした。

 

 

 今までにない派手な登場に、多くの観客が沸き上がった。

 

 

『おおォォ!!? 轟、観客席から華麗に登場!! 容姿と個性が相まってまるで幻想世界の妖精だァ!!!!』

『何言ってんだお前。しかし、轟にそんなに目立ちたがりなイメージは無かったんだが……ああいや、何となく分かった。言わんでいい』

「出久が目立ったので、私もと」

『言わんでいいと言ったろ』

 

 

 多分睨まれてしまった。なんだか今日はよく怒られている気がする。

 まあ相澤先生には看破されてしまったけど、そういう事だ。

 

 出久が全国に実力を見せつけたなら、私もそれに続かなければならない。

 

 彼の隣に立っていても、恥ずかしくないように。

 

 

『目立つ登場の理由はさておき、次の対戦はこいつらだ!!』

『優秀!! 優秀なのに拭いきれぬその地味さは何だ! ヒーロー科瀬呂範太!!』

「ひでぇ言い種」

『対! 緑谷に引き続きトップ3の一人! 氷と炎の美少女! 同じくヒーロー科轟凍夏!!』

 

『START!!』

 

 

「轟も会場の空気持っていっちまうし……実際勝てる気はしねーんだけど……」

 

 スタートと同時、こちらが行動する前に瀬呂がテープを伸ばして私を拘束して。

 

「つって負ける気もねーー!!!!」

 

 そのまま引っ張られて、私は場外へと飛ばされそうになる。

 成る程、これは拘束かつ速攻で相手に何もさせない良い手だ。

 

 けど、それは――

 

 

『場外狙いの早技(ふいうち)!! この選択はコレ最善じゃねえか!?』

『悪くはない、が』

 

 

「残念だけど、私には効かない」

 

 

 ――相手が私じゃなければ、の話。

 

 氷と炎を同時に出現させて、テープの拘束を凍らせ燃やす。

 

 そして右の出力を一気に上げて、瀬呂に向けて発動した。

 

 規模は、スタジアムの半分を覆うレベル。

 

 ドームの上から突き出て、かつ観客には当たらないようギリギリまで展開した巨大な氷壁に、会場から一切の声が消えた。

 

 コントロールと規模の合わせ技。

 

 これが私がこの場所で出来る、氷結の最大限。

 

 

 唖然とするミッドナイト先生に視線を向ければ、慌てたように宣言される。

 

「瀬呂くん行動不能! 轟さん二回戦進出!!」

 

『まっ、またもや! またもや短期決戦!! しかもフィールドどころかスタジアムの半分を覆う大・氷・壁!!! リスナーたちに当たらねえ、絶妙な巨大さだァ!!!!』

『……緑谷のインパクトを容易く書き換えたな。それはそれとして溶かせ。はよ』

「はい」

 

 自分を起点として、炎を出さない程度の熱を会場に行き渡るように個性を発動する。

 瀬呂から始まり会場の奥まで熱が届き、氷が溶かされていく。

 ざわめいていた会場が、今度はどよめきに包まれた。

 

「や……やりすぎだろ……さみぃ……」

「ごめん。ちょっと、アピールしたかったから」

「さいで……」

 

 ガクンと肩を落とす瀬呂に、会場からドンマイのコールがされる。

 広がっていくドンマイコールに瀬呂が更に落ち込む中、私はA組が居る観客席へと視線を向けた。

 

 

 そこに居る出久と、ついでに爆豪に、不敵な笑みを送ってみれば。

 

 出久からは、強い笑みと一緒に握られた拳が突き出されて。

 

 爆豪からは、歯を剥き出しにした睨みと親指で首を切るジェスチャーを送られた。

 

 うん、出久は良いけど、爆豪は凍らせてやる。

 

 

 ともかく、実力を……出久に並べる力を全国に見せる事に成功した。

 

 これで少しは、彼に相応しいと思ってもらえるのではないか。

 

 この後の試合でも、全力で行って。

 

 轟凍夏という存在を、アピールさせてもらおう。

 

 

 会場から多くの視線を受けたまま、私は気分良く退場ゲートへと歩みを進めたのだった。

 

 

 




 大体予想できた結果。

 上鳴くんを引き立て役にしてしまったけど、良く考えたら原作でもそうでしたね。ウェーイ。
 塩崎さんはごめんなさい。出久くんの個性の威力の高さを出す為の犠牲にしてしまいました。
 原作では20%の蹴りで木の幹が剥がれてたので、その倍なら拳の一振りでもこれぐらいはなりそう。

 ちなみに許容上限はもうちょっといけます。詳細は近いうちに本編にて。

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