半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 感想・評価ありがとうございます。
 本誌で何が起きるかビクビクしながらの投稿。
 原作での今後の展開次第では、投稿が遅れていく可能性がありますのでご容赦下さい。怖い。

 後半といいつつ大体ダイジェスト。

 微妙に不穏にも思える空気を添えて。



18:お疲れ様な一回戦後半。

 機嫌良く退場した私だったけれど、途中の通路に差し掛かった辺りで……機嫌が急降下していくのを自覚した。

 

 視線の先には、まだ誰も居ない。

 

 だけど、僅かな気温上昇を感じるから、この曲がり角の先には間違いなくアイツが居る。

 ここが迂回出来ない場所なのを分かって、待ち伏せしているんだろう。

 

 余計な知恵を回すあの男を腹立たしく思いながら、真顔を作りつつ角を曲がる。

 

 そこには予想通り、無駄に業火を纏う変な服の変態親父が居た。

 

 真顔の仮面で表情を隠して、口調を他所行きも他所行きな丁寧なものにする。

 

 

「こんにちはお父様……いいえ、貴方は警備に呼ばれたのでしょうし、エンデヴァー様とお呼びしましょう」

「別に他人行儀にする必要は無い。父と呼んでくれて構わんよ」

「ではエンデヴァー様。何かご用でしょうか」

「……むぅ」

 

 

 希望と逆の呼び方をすれば、少ししょんぼりとしている。

 似合わないし気持ち悪いから、止めてほしい。

 全身が燃えているガチムチな中年のしょげる様子なんて、目の毒でしかない。

 

「……試合前の激励をしようと思っていたのだが、直接向かったらしいな」

「出久が力を見せつけたので、私も目立ちつつ全力を見せつけようかと思い至っただけです」

「そうか……まあ、そんな所だろうとは思っていたが」

「お話はそれだけでしょうか。ここは本来現雄英関係者以外は立ち入り禁止ですので、早めに退去して頂けない場合は通報します」

「いや、もう一つある」

「手短にお願いしたいのですが」

 

 

「今日は、出久相手に戦えるのか」

 

 

 言われた言葉に、眉をピクリと動かしてしまう。

 

 成る程、こいつの言いたい事は分かった。

 出久に依存している私が、彼を相手にして醜態を晒さないかが心配なのだろう。

 

 確かに私と出久は、普段から組み手程度の手合わせしかやらない。

 

 個性を使ってのものなど、出久が無個性の頃から合わせても両手の指で数えられる回数だった。

 

 私自身、如何なるレベルだろうと大切な彼に大きな怪我を加える可能性を排除したかったから。

 

 

 けれど、今更その質問はとても不愉快だ。

 

 

「当たり前です。私は最高のヒーローを目指してるんですから。出久に……置いていかれる訳には、いかないの」

 

 

 それだけ言い残し、地球温暖化の一因を担っている環境破壊親父の横を通りすぎる。

 

 折角良い気分で戻ろうとしていたのが台無しになった。

 胸に言い様のないモヤモヤやイライラが溜まり、多分顔もしかめている。

 

 私のメンタルケアは、ここでは出久にしか出来ないのに。

 

 今の大事な時間を使わせてしまうのは申し訳ないけど、早く出久に甘えて回復しよう。

 

 

「――凍夏。()()()()()()()()()()()()()()だぞ……お前が彼に炎を使うなら、特にな」

 

 

 だから、私の意識はその時点で父親の事なんて忘却していて。

 

 ある意味では大事な、この一言を聞き逃していた。

 

 

 けど、仮に聞いていたとしても、今の私には関係ない話。

 

 

 だって、それは既に私にとって――

 

 

 

 

―緑谷出久―

 

 

「あっ凍夏! おかえ……り?」

「…………ただいま」

 

 飯田くんの試合が始まる前に観客席へと戻って来た凍夏ちゃんは、どこか機嫌が悪かった。

 声をかけようとした芦戸さんが、思わず躊躇したぐらいには、むすっとした顔をしている。

 その理由に心当たりがある僕は、隣に座った凍夏ちゃんの頭を撫でてあげた。

 それでもあまり機嫌は変わらず、僕の背中に腕を回して抱きついてくる。

 

 

「お疲れ様。炎司さんに会ったの?」

「んー……ストーキングされて、待ち伏せられて、虐められた」

「言い方。激励に来てくれたんでしょ?」

「やだ、あいつ嫌い。出久好き」

「はいはい」

 

 頭をぐりぐりと僕の首に擦り付ける凍夏ちゃんは、ちょっと幼児退行している。

 お父さんとの接触で何か言われたのか、結構なストレスになったみたいで。

 二人とも素直すぎるというか……自分の意見を遠慮なく伝えるから、たまにこんな感じになっちゃうんだよなぁ……。

 

 

「あの、お二人が仲睦まじいのはいつもの事ですけれど、周りを置いていかないで頂けませんか……?」

 

 なんて遠い目をしていたら、八百万さんから言葉を挟まれる。

 クラスの皆からも生温かい視線を受けているけど、この一月ぐらいでもう慣れてしまった。慣れていいのかこれ。

 

 凍夏ちゃんは……僕の匂いでリフレッシュするつもりらしい。(改めて言葉にすればどんな日本語なんだよ)

 説明役は任せる、って事かな。丸投げされたとも言うけど。

 

「ごめんね。帰ってくる時に凍夏ちゃん、お父さんにあったみたいでさ。ちょっと不機嫌モードに入っちゃった」

「轟さんのお父様というと……その、例の」

 

 ああ……そういえばまだ皆には印象最悪なままだった。

 下手に重い空気になる前に、全部人任せにして寝ようとしている凍夏ちゃんの鼻を軽く摘まんでからフォローを入れる。

 

「んにゅ」

「今はもうエンデヴァーはプライベートだと親馬鹿なパパ、って感じだから大丈夫だよ。家族関係も殆ど修復出来てるしね」

「そう、なのですか?」

「うん。障害物競走の時も1位になった凍夏ちゃんにエール送ってたよ。ね、かっちゃん」

「俺に振んなクソが…………確かに聞いた。親馬鹿丸出しで唖然としたわ」

 

 普段から言葉を濁さないかっちゃんの発言だけに信憑性があるのか、皆が納得してくれだした。

 何だかんだでフォローの手伝いをしてくれる辺り、大分刺々しさが無くなってきたなぁ、と思う。

 あ、睨まれた。余計な事は考えないようにしよう。

 

 それと凍夏ちゃん、鼻を摘まんでいた僕の指を外して咥えようとしない。犬か何かじゃないんだから。

 逃げた手でそのまま彼女のふにふにしたほっぺをむにゅっと挟んで、咥えられないようにした。

 

「うー」

「それはそれとして凍夏ちゃんがお父さん嫌いなのと、エンデヴァーの娘に対する接し方の下手さが合わさって、時々こんな風に機嫌が悪くなっちゃうんだ」

「成る程……轟さんが充電中なのはそういう訳でしたか」

「充電……うん、まあ、そうかな」

 

 認識のされ方に突っ込むのもあれだし、正直否定しきれないので曖昧に頷いた。

 ついでに凍夏ちゃんの頬から手を放してあげると、掌に頬を擦り寄せされる。

 これはたまにされるけど、改めて考えたら何だかマーキングされてる気分になってきた。

 

 

「なあ峰田……多分緑谷は真面目に話してるんだろうけど、正直轟とイチャついてるのにしか目がいかないよな……」

「緑谷めェ……奴がさっきのを止めなきゃ轟の指舐めが見れたってのによォ……!!!!」

「おぉ…………流石の着眼点だ」

 

 

 上鳴くんに峰田くん、こそこそ話してても聞こえてるからね。

 気持ちは物凄く分かるし、されてる僕が言うのはどうかと思うけど、凍夏ちゃんが甘えてるのはそういうものだと受け止めてほしい。

 あと、無防備な仕種を止めさせてて良かった。

 

 

 そろそろ飯田くんの試合が始まる。真面目に見なければ。

 

「こら、寝ないの」

「あぅ」

 

 微妙に眠そうな凍夏ちゃんの頬を軽くパチパチと叩きながら、僕は観戦の態勢を整えた。

 

 

「最後までイチャついてただけじゃねぇか畜生め!!!!」

「いや峰田それどうやって小声で叫んでんだ?」

 

 

 ……呪詛と嫉妬の視線は、とりあえず気にしない事にした。

 

 

 

 

「すみません、あなた利用させてもらいました」

「嫌いだぁあーー君ーーーー!!!!」

 

 飯田くんが対戦相手のサポート科、発目さんに10分の間広告塔にされてからは、手早い試合が並んだ。

 

 芦戸さん対青山くん。

 芦戸さんがレーザーを出す青山くんの腰のベルトを酸で故障させて、狼狽えた隙に顎へ一発で芦戸さんのKO勝ち。

 前から思ってたけど、芦戸さんの動きがかなり良い。身体能力はクラスでもトップレベルだろう。

 

 常闇くん対八百万さん。

 先手必勝、常闇くんの黒影が八百万さんが厄介なものを作る前に攻めきり、場外へと叩き出した。

 何だか八百万さんの調子が悪そうに見えたけど、気のせいだろうか。

 

 そして今は切島くん対B組の鉄哲くん。

 個性が「硬化」と「鋼」という身体が硬くなる同系統の個性のぶつかり合い。

 現時点では両者の実力に殆ど差が無いようで、真っ向からの殴り合いが続いている。

 これは男臭い根比べの勝負になりそうだと思いながらも、僕は次の試合……一回戦最後の組へと意識を向けていた。

 

 かっちゃん対麗日さん。

 既に二人とも控え室へ行っており、観客席にはいない。

 正直な所、麗日さんにかっちゃんの相手はキツい。

 戦闘能力もそうだが、個性の相性が決して良いとは言えないからだ。

 普段から飛行しているかっちゃんには、無重力は対処される可能性が高い。

 何よりの痛手は、一度騎馬戦で無重力状態を経験させてしまった事。

 それでも、浮かせてしまえば主導権が握れるのは間違いない。

 

 最初は僕も控え室へ赴き、麗日さんにエールと、かっちゃんへの対策を送ろうかと考えていた。

 雄英に入ってから、もっと言えば入試の日から彼女にはお世話になりっぱなしだったから。

 お礼という訳じゃないけど、これぐらいなら贔屓にはならないと思って。

 

 しかし、凍夏ちゃんの試合が終わった辺りから彼女の表情が麗らかではなくなっていたのに気がついて、止めておいた。

 何となく、麗日さんが何を考えているのか察しがついたから。

 それはきっと騎馬戦で1位グループに混ざったのと無関係ではなく……僕が言葉にして良いものでもない。

 

 だから代わりに、ここまで来たのは間違いなく麗日さんの実力だと気持ちを込めて、先程送り出す時に声をかけた。

 

 

『麗日さん! 決勝で会おうね!』

『っ! ……うんっ!』

 

 

 言葉に含まれた意味をしっかり受け取ってくれた彼女は、闘志の籠った笑みでサムズアップを返してくれた。

 

 ……ちなみにこのやり取りで凍夏ちゃんの表情にほんのちょっとだけ影が差していて、慰め(頭なでなで)に少々時間を取られる事になる。

 

 

 切島くんたち個性だだ被り組の戦いは引き分けになり、決着が後回しになった。

 肩を落とした飯田くんも戻ってきたので、席に着いた彼を慰めて。

 

 そしていよいよ、一回戦の最後の試合が始まる。

 

 

『トップ3の最後の一人! 中学からちょっとした有名人!! 堅気の顔じゃねぇ、ヒーロー科爆豪勝己!!』

『対! 俺こっち応援したい!! ヒーロー科麗日お茶子!!』

 

 

 プレゼント・マイク先生の偏向実況宣言を聞き流し、フィールドの二人に注目する。

 

 麗日さんは勿論、かっちゃんも真剣な表情で向き合っているから、油断なんて欠片もしてない。

 粗暴な態度が目立つかっちゃんだけど、ここまで上がってきた相手の力を認めている。

 

 

「丸顔、退く気は……ねぇよな。この先は痛ぇじゃ済まねぇぞ」

「当然! 負ける気もない!」

「良い度胸だ。じゃあ死ね!!」

 

 

『START!!!!』

 

 

 スタートの合図と共に、麗日さんが駆け出した。

 低い姿勢で向かってくる彼女に対し、かっちゃんは右の大振りで迎え撃つ。

 初撃から容赦の無い範囲攻撃を、麗日さんは避けきれずに受けてしまう。

 けれど彼女もただでは転ばず、爆風による煙を利用してかっちゃんの背後を取った。

 

 しかし、見てから動けるかっちゃんにとっては、対処できる範囲内でしかなくて。

 迎撃された麗日さんはそれでも諦めずに、果敢に向かい続けている。

 ぱっと見、無鉄砲な攻めにしか見えないけど……いや、これは。

 

「お茶子の狙いは、上に視線を向けさせない事?」

 

 静かに観戦していた凍夏ちゃんが、疑問の形で僕に確認を取る。

 視線はスタジアムの上を向いていて、麗日さんの策に気づいている。

 

「うん。低姿勢で突っ込むのを繰り返して、かっちゃんの攻撃と意識を下に集中させてるね。麗日さんが何かを狙ってるのには気づいてるから、かっちゃんも迂闊に攻め込めないんだ」

「けど、あれぐらいじゃ……」

「…………」

 

 凍夏ちゃんが飲み込んだ言葉に、見当がついていた僕も難しい顔になる。

 スタジアム上空に()()()()()()()は良いアイデアだと思う。

 けれど、今ある量では恐らく……。

 

 

「おい!! それでもヒーロー志望かよ! そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!」

 

 

 と、どこからかブーイングが飛び始め出した。

 観客から見れば、確かにかっちゃんがヤケになった麗日さんをいたぶっているように見えるのかもしれない。

 

 けれど、それは見当違いも良いところだ。

 麗日さんは本気でかっちゃんを倒そうとしていて、かっちゃんは何かをしようとしている麗日さんを警戒して攻めに行けていないだけ。

 そのブーイングはかっちゃんはおろか、麗日さんすら侮辱しているのと同意義だと、観戦しているお客さんに思考を回せと求めるのは……流石に酷だろうか。

 

 

『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』

 

 

 そんな僕の思いを代弁するかのように、相澤先生が静かに怒っていた。

 かっちゃんの警戒を、麗日さんを認めるが故の本気を、圧のある声で語ってくれる。

 

「……相澤先生のこういう所、好き」

「……うん、何だかんだで僕らを、よく見てくれてるよね」

 

 ブーイングにむっとしていた凍夏ちゃんが、嬉しそうな笑顔で頷いた。

 厳しい所が多い先生だけど、それは僕たちに立派なヒーローになってほしいから。

 かっちゃんも麗日さんも今、その為に全力でやっているのだから、外からの野次が許せなかったんだ。

 

 そして、戦闘が進展する。

 麗日さんが個性を解除した事で、貯めたステージの破片がかっちゃんへ向かって降り注ぐ。

 同時に、麗日さんもかっちゃんへと向かって行く。

 

 とんでもない捨て身の策。

 

 かっちゃんはそれを――真正面から突破した。

 

 大火力の爆破を上に向けて、破片を全て消し飛ばしたのだ。

 

 しかし、あの規模の火力はかっちゃんにとってもそれなりに無茶をした筈で。

 間違いなく掌にダメージがあるから、試合への影響は確実に出る。

 

 

 だけど、その前に麗日さんが力尽きた。

 

 

 彼女は、容量重量(キャパ)をとっくに超えて戦っていたんだ。

 

 

「麗日さん……行動不能。二回戦進出、爆豪くん――!」

 

 

 まだ立とうとしている麗日さんに、様子を見ていたミッドナイト先生は難しそうな顔をしながらも、ゆっくりとかっちゃんの勝利を告げた。

 かっちゃんは一息吐いて、リカバリーガールの元へ運ばれる麗日さんを見送るとステージを後にした。

 

 ……僕の二試合目も近い、控え室へ向かおう。

 

「そろそろ下に降りてるね」

「あ、出久。私も行く」

「ん、そっか」

 

 凍夏ちゃんの提案に、頷きながら席を立つ。

 多分、麗日さんが心配で様子を見に行きたいんだろう。

 発破を掛けた手前会いづらい僕とは違い、女の子同士ならきっと話せる事もある。

 

 クラスの皆に見送られて、僕は凍夏ちゃんと控え室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けてしまった!」

 

 出久と共に控え室に行くと、お茶子は開口一番にそう言った。

 一見いつもの調子に見えるが、私からすれば無理をしているのが丸分かりだ。

 出久もよく、躓きそうになるとこういう顔をして誤魔化すから。

 

「最後行けると思って調子乗ってしまったよ、くっそー……」

「……お疲れ、お茶子」

「ありがとー、凍夏ちゃん」

 

 けど、今はにこにことしている彼女に合わせた方がいい。

 

「麗日さん……ケガは、大丈夫?」

「うん。リカバリーされた! 体力削らんよう程々の回復だから、すりキズとかは残ってるけどね」

 

 下手な気遣いはせずにケガの心配をする出久に、笑いながら答えるお茶子から少しだけ視線を逸らす。

 今の彼女を見ているのは、私にとっても辛さがあった。

 

 その調子のまま爆豪の強さを語るお茶子に、出久も声のかけ方が分からないようで言葉が途切れる。

 けれど、放送のスピーカーから引き分けだった切島対鉄哲の簡易勝負の決着が着いた旨が流れて、二回戦の開始が近いと知らされた。

 

「じゃあ、僕は行くね」

「ああごめん! 私おってデク君全然準備が……見とるね、頑張ってね!」

「行ってらっしゃい、出久」

「うん、頑張る。行ってきます」

 

 出久が小さく笑いながら控え室を出ていった。

 だから、私とお茶子の二人だけ。

 

「あ、ごめんすぐ出るね。凍夏ちゃんも次は――」

 

 それでも私を気遣おうと、出ていこうとした彼女を。

 

 

「――――へ?」

 

 

 私は、胸に抱えるように抱きしめた。

 

 

「お茶子」

「え、ちょ、ど、どないしたん凍夏ちゃん!?」

「……無理、しなくていいよ」

「――――っ」

 

 

 私の言葉に、お茶子は身体を震わせる。

 

 これは、別に私がしなくてもいい事かもしれない。

 お茶子の両親や、梅雨ちゃんたち他の女子でも良いのかもしれない。

 

 

「今は、私しか居ないから……」

「とうか、ちゃ……」

 

 

 けど、私も彼女の友達だから。

 

 友達の弱音を吐ける場所に、なってもいいんじゃないかなって、思ったから。

 

 

「……最後ね、焦り過ぎてん」

「うん」

「打開策も、何もあらへんかってん」

「うん」

「……勝ち進んで、アピール、したかってん」

「うん」

「早く、父ちゃんや母ちゃんに、ひっく、楽させて、うぅ、あげたかってん」

「うん」

 

 

 徐々に涙声になるお茶子の頭を、背中を、優しく撫でる。

 

 出久が心が不安定な私を、慰めてくれた時のように。

 

 

「わたし……わたしね……」

「…………」

「めっちゃ……悔しく、て……ぇ……!」

「……うん、頑張ったね」

 

 

 限界だったらしいお茶子が、私の胸に顔を埋めながら声を押し殺して泣いている。

 

 彼女はきっと、ここでの涙と悔しさをバネにして、良いヒーローになる。

 

 

「お疲れ様、お茶子」

「うんっ……ありがと……!」

 

 

 私はそんな未来を確信しながら、お茶子が泣き止むまで胸を貸していた。

 

 







 一足先に観客席に戻った爆豪は、クラスメイトに迎えられた。

「おーう、何か大変だったな悪人面!!」
「組み合わせの妙とはいえ、とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」
「うるせえんだよ、黙れ」

 瀬呂や梅雨の言葉に静かな調子で罵倒を吐く爆豪。
 皆がいつも通りだと思う中、上鳴が彼を指差しながら何でもない調子で話しかける。

「まァーしかしか弱い女の子相手によくあんな思い切りの良い――」


「今、なんつったアホ面」


 瞬間、爆豪が上鳴の胸ぐらを掴み上げた。


「ぐえっ……!?」
「ちょっ!? 何してんだお前!?」
「お、お止め下さい爆豪さん!!」

「黙ってろ」

 突然の暴挙にクラスメイトたちが彼を止めようとするが、選手宣誓の時のような威圧に固まってしまう。
 それでも比較的動じていない障子や砂藤などが二人を引き離そうとする。


「アホ面、テメェの尺でモノ言ってんじゃねぇ。あいつは、麗日はこの俺に対して本気で勝ちにきてやがった」


 けれど、続く爆豪の台詞に動きを止める。


「無茶やって倒れて、それでも立って向かって来ようとしやがった。最後は這いずってでもっつー気迫見せてな」


 彼の怒りは、上鳴の失言へと向かっていた。


「それをか弱い女の子だァ? ……フェミニスト気取って馬鹿にすんのも大概にしとけやクソが!!!!」


 それだけ言って上鳴を突き飛ばすと、一番端の空いた席へドカッと座った。

 ゲホゲホと咳き込む上鳴を横目に、思いの外早く終わった一連の流れについて、クラスメイトたちは安堵や納得、意外性を含めた溜め息を漏らしていた。

「成る程。爆豪の怒りはそういう事か」
「お茶子ちゃんも全力でやったのだもの、なのにか弱い女の子って言われたら嫌よね」
「確かに上鳴さんの発言は、麗日さんに失礼でしたわ」
「う…………すんません…………」
「上鳴ザマァ。てか爆豪、アンタそんなキャラだったっけ」
「うるせえ黙れ殺すぞ」
「ああそうそう、それでこそ爆豪って感じ」
「喧嘩売ってんのか耳……!!」
「や、ごめんって」
「爆豪ちゃん、それを直接言ってあげたらお茶子ちゃんも喜ぶと思うわ」
「態々言う事かよ。テメェらも言ったら殺す」
「そう……(でも、教えてあげた方が良いわよね)」



 少しずつ丸くなってきているかっちゃんでした。
 ちなみにお茶子は帰って来てから梅雨ちゃんに聞いて、爆豪にまとわりついてアイアンクローをかまされます。

 何か前話から上鳴の扱いが酷いですが、彼が嫌いな訳ではないのであしからず。作者はお調子者キャラは好きです。
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