半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 ドキドキ、ドキドキと鼓動が高鳴ってきた。

 いざとなると、改めて緊張しているらしい。

 誰もいない控え室で、一人大きく深呼吸をする。


「すー…………はー…………」


 深く息を吐き、深く吸う。

 何度か繰り返していると、鼓動が平常と同じ速度に戻っていくのが分かった。

 落ち着いた所で、これからの対戦に思いを寄せる。


 相手は、大切な幼馴染。

 オールマイト(No.1ヒーロー)エンデヴァー(No.2ヒーロー)が認める、最高のヒーローの卵。

 私の身も心も救ってくれた、私のヒーロー。

 想いを寄せている、大好きな男の子。

 轟凍夏という女の子の中でとても、とても大きな存在……緑谷出久。


 そんな彼と、今から一対一で戦うんだ。


 この対戦は、きっと体育祭が始まった時から決まっていた。

 期待や興奮で誤魔化していたけど、不安が無い訳じゃない。

 勝敗は勿論、私と出久の個性を使った戦いがどうシミュレーションしても簡単には終わらない事も分かっている。

 けど、不愉快な父親の前で言った事も事実。

 どんどん先へ進む出久に、置いていかれる訳にはいかないから。

 隣に並び立つ為に、足を止められないから。

 だから、その為にも。


「…………頑張る」


 笑え、轟凍夏(わたし)

 笑顔で戦いに向かうんだ。


 目標であるオールマイトのように。

 道標となってくれる出久のように。


 世の中は笑ってる人が一番強いんだって、思えるぐらいに笑顔で。


 私に出来る最高の笑みを浮かべて。


 同じように笑っている筈の出久と、正面からぶつかりに行こう。
 


20:vs出久。爆豪の解説付き。

―爆豪勝己―

 

 

『ついに準決勝! てか実質決勝!? 観客のリスナーたちも待ち望んでいただろう二名の戦いが!! 間もなく始まるぜェ!!!』

 

 

 グラサン先公のクソウゼェクソ実況で、モブ共の歓声が死ぬほどやかましくなる。

 次のこの俺の試合がおまけみてぇな言い方が頭にきたが、これからの試合に注目してるのは違いねぇ。

 

 言葉に出して認めはしねぇが、アイツらは今の俺と同等以上の力を持ってやがるから。

 悔しい事に一回戦で見せた奴らのパフォーマンスは、俺からしてもとんでもねぇと思っちまった。

 

「ねぇねぇ爆豪君! どうなると思う? どっちが勝つかな? 私、どっち応援したらええかな!?」

「耳元で叫ぶな丸顔ォ!! 知るか揺らすな触んなクソが!!!!」

 

 俺の隣に陣取っている麗日(まるがお)が、気持ち悪ぃぐらい興奮してやがって肩を掴みながらそんな事を聞く。

 言うなっつったアホ面のクソ発言の一件を、カエル(蛙吹)がペラペラ喋りやがったせいで、無駄に馴れ馴れしくなりやがった。

 

 あれは別にテメェを庇った訳じゃねぇ、俺の対戦相手の価値を下げようとしたクソアホを殺しただけだってのに。

 

「麗日君止めたまえ! 爆豪君が酔ってしまうぞ!!」

「この程度で酔うかよ馬鹿にしとんかクソ眼鏡!!」

「凄い面倒臭いなコイツ……」

「聞こえてんぞ耳ぃ……! テメェも馴れ馴れしいんだよ……!!」

「つって手を出さないだけ丸くなったよな」

「爆豪もクラスに馴染んでる証拠だな!」

「っ~~~~!!!!!!」

 

 クソが……どいつもこいつも馴れ馴れしくなりやがって……!

 カエルのチクリにしてもそうだ。完全に俺を舐めてやがる。

 

 よォし決めた、体育祭が終わったら全員ノす。

 

 爆破予告代わりにギロリと周りを睨めば大体の奴は顔や目を逸らしたが、カエルにだけは何を考えているか分からん顔で見返された。

 

「爆豪ちゃん、私思った事は何でも言っちゃうの」

「あぁ? 言うなっつってもかァ!?」

「そっちもごめんなさい。お茶子ちゃんは知っておくべきだと思ったから」

「はぁ……? 何の話か端的に言えや!!」

 

「私、爆豪ちゃんはプロになってもキレてばっかりで人気出なさそうだと思ってたの」

 

「「「「梅雨ちゃん!?」」」」

「…………へェ、それで?」

 

 

 ここでこうも正面から喧嘩を売られるとは思わなかった。

 売られたからには買ってやる。だから最後まで話は聞いてやろう。

 

 幾つも青筋が浮かんでいる俺に周りが慌て始める気配がするが、カエルは気にする素振りも見せずに言葉を続けた。

 

 

「けど、爆豪ちゃんには爆豪ちゃんの決めた絶対的な線引きが幾つもあって、それを周りに認めさせる力もある。今日の選手宣誓とか、さっきの上鳴ちゃんの時とかね」

「……何が言いてぇ。端的に言えっつったろ」

「ケロ……要するに、爆豪ちゃんはプロになったら確実に人気になれるモノを持っているって思い直したわ、って言いたかったの。だからこっちもごめんなさい」

 

 

 簡単に締めて頭を下げるカエル。

 言わなきゃ分かんねぇ事を態々言う必要も、それに対して謝る意味も分からん。

 俺の評価は俺自身がする。他人の評価なんざ知ったこっちゃねぇんだ。

 

 だが、テメェがこの俺に正面から向かってきた事は評価してやる。

 

「はっ、当然の事を言ってんじゃねぇぞカエル。俺はオールマイトを越えるヒーローになる男だ。人気なんぞ腐る程出すわ」

「梅雨ちゃんと呼んで。それはそれとして、言葉遣いはどうにかした方が良いと思うけど」

「分かる」「それな」「暴言改めよ?」

「テメェらはうちのババァかクソ共……!!」

 

 タイミングがありゃあ馴れ馴れしく突っ込んできやがって……ちっ、まあいい。

 

 俺はそう簡単に俺を曲げるつもりはねぇ。

 自分の決めたゴール……オールマイトをも越えるヒーローになるのにも、俺が決めた道を進む。

 他所から口出しされて曲げる程度の意志で、俺のやり方を貫いてんじゃねえんだよ。

 

 委員決めでデクに票を入れるなんざ真似をしたのも、苦渋の決断だった。

 つってもあのクソボケはそれを蹴って、クソ眼鏡に譲りやがったがな。

 

 ……ちっ、思い出したら腹が立ってきた。

 諸々のイラつきは次の(常闇)との試合で発散するか。

 

 

『さあ! 雌雄を決する二人が今!! 入場だァ!!!』

 

 

 無駄な事を考える時間は終わりだ。

 

 アイツら二人のどっちかが、俺と決勝で戦う。

 

 欲を言えば両方をぶっ倒してやりたかったが、仕方ない。

 

 動作、個性、一挙一動たりとも見逃さねぇ。

 

 

 入場してきた奴らは……ケッ、似たような面しやがって。

 

 

『地味目な顔に派手な個性! 予選から圧倒的なパワーとスピードで勝ち上がってきた男!! 緑谷出久!!』

 

 

 デクはオールマイトを意識してんのか、力強い笑顔を浮かべている。

 

 

『対! 才色兼備な妖精少女!! 氷と炎の華麗な演舞! 轟凍夏!!』

 

 

 半分女はそのデクを真似た笑顔で、向き合っている。

 

 多分アイツらは互いの面構えが一緒なのに気づきながらあの顔をしてんな。クソキメェ。

 別に奴らが乳繰り合ってようがどうでもいいが、その様子を周りにばらまいてんのはどういう神経してんだか。

 

『更に聞くところによれば、緑谷はエンデヴァーの愛弟子だとか!! イレイザーこれマジ?』

 

 お、デクの口元が引きつって、半分女の眉間に皺が寄った。笑える顔だわ。

 デクに関しちゃあプレッシャーに弱いタマじゃねぇが、下手に注目されんのには慣れてねぇから止めてほしかったんだろうな。

 半分女はあれだろ、無駄に父親の功績増やして欲しくなかったんだろ。

 

 そういやエンデヴァーの姿が見えねえな、応援の一声でも上げてそうなもんが。

 ぱっと見聞きした親馬鹿具合を考えても、観戦してない筈はねえ。どこにいるのやら。

 

 ……なんで俺はどうでもいい事を気にしとんだ。

 周りを見るようになって増えた悪い癖だな、クソ。

 

『急にマジトーンになるな。障害物競走の時に叫んでただろ』

『そういえばそうだった! 意外と親馬鹿弟子馬鹿なんすね。それはそれとして弟子対娘の対決! これは面白い勝負になりそうだァ!!』

 

 思わぬ情報に会場のボルテージが更に上がる。うるせぇ。

 

 つか紹介なんぞ今更だろうが。さっさと始めろやクソグラサン。

 

 

『そんじゃあ始めるか! 準決勝第一試合!!』

 

 

 俺の睨みが通じた訳じゃねえとは思うが、ようやく試合が始まる。

 

 

「ねえ、出久」

 

 

 静かになっていく会場に、集音器に拾われた半分女の声が拡がる。

 

 この期に及んでまだ何か話すンかい。

 

 

「何、凍夏ちゃん」

 

「本気で来てね。顔とか、殴って良いから」

 

「……そ、それは、時と場合によるかな……」

 

 

 なんだそれ、もうちょっと言い方なかったんか。

 どう返すべきかデクも返事に戸惑ってんじゃねーか。

 そもそも本気でやんのと顔面殴んのは別にイコールじゃねえだろ。

 

 締まんねぇやり取りだったが、そういや半分女はそういう奴だった。

 

 

『えー……START!!!!』

 

 

 そんで締まんねぇまま、試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

穿天氷壁(がてんひょうへき)!」

 

 

 試合の開始直後、さっきのやり取りから一転して切り替えた轟が、一回戦で使った大氷壁(技名がダセェ)を展開していく。

 膨大な質量に対して、デクがどう対処するのか観察する。

 

 

「さん、じゅっ、パーセントォ!!!!」

 

 

 全身に緑光を纏ったアイツは、細かい拳のラッシュで発生する衝撃波を使って、自分に迫り来る氷を破壊している。

 それはいい。今のデクにはそれぐらい余裕で出来る。

 

 だが、今の技は……!

 

「オイオイあれ! さっき俺が爆豪にやられたのと似てねーか!?」

「クソが……真似しやがったなデク……!」

 

 クソ髪(切島)が叫んだ通り、二回戦で俺が使った絨毯爆撃と同じ発想の攻撃だ。

 ご丁寧に動きまで模倣してんのは、俺の動き方が効率的だと分かってやがるからだ。

 忌々しいが、周りを見て取り入れられるものを取り入れているアイツらしいとも言える。

 

 パンチの連打をしながら、そのまま完成した大氷壁に飲み込まれるように消えたデク。

 

 だが、氷壁がしょうゆ顔(瀬呂)ん時程の規模じゃねえ。

 轟も一発を狙っちゃいたが、仕留めきれるとは思ってなかったんだろう。

 

『轟いきなりかましたぁ!! 緑谷との接戦を嫌がったか!!』

『いや、まだだ』

 

 クソ担任の言葉と同時、会場に地響きが起こる。

 一回、二回と続き、三回目。

 

 

「……流石!」

 

「――――SMASH!!!!」

 

 

 叫び声と共に、氷山が登頂から崩壊しながら、突き破るようにデクが姿を現した。

 

 派手な破壊と轟の氷壁の攻略に、会場の歓声が一気に大きくなる。

 

 個性といい、技といい、マジでどんどんオールマイトみたいになりやがって……!

 

 

『正面突破! 緑谷、轟の大氷壁を真正面からぶっ壊したぁ!!』

『力業だが……これは敢えてサイズのでかい氷塊を残すように壊したな』

『へ? なんでわざわざ邪魔なモンを?』

『お前もちっとは考えろよ……使う為だ』

 

 

「っ、そう来るの!」

「使わせてもらうよ凍夏ちゃん!」

 

 

 デクが宣言する直前、轟が身体に炎を展開する。

 

 

「30%セントルイススマッシュ……アイスバレット!!」

 

「っ――赫灼熱拳・ヘルスパイダー!!」

 

 

 そしてデクは近くにある氷塊を、次々と蹴り飛ばして轟に撃ち込んでいく。

 轟はそれを左手の指からレーザーのような炎を幾つも展開。クモの巣状の網の形にして氷塊を受け止めるようにしながら溶かしている。

 

 成る程、さっきの大氷壁は氷の密度を高く作ったせいで、普通の炎熱じゃすぐには溶かしきれねえのか。

 

 デクのやつ、そこまで分かって氷塊を武器にしやがった。

 

 まあ、アイツは今のうちに()()()()()()()()()()()()からな。

 

 つーか轟のあの攻撃、昔エンデヴァーが使ってんのを見た記憶がある。

 どうでもいいが何だかんだで親父の技を真似してる辺り、本格的に嫌ってる訳じゃねえらしい。

 ついでにネーミングセンスの無さも親父譲りかよ。こっちはもっとどうでもいいわ。

 

「やはり緑谷君は上手いな……相手の作った物を利用して攻撃するとは」

「逆に私は自らを見直さなければならない所ですわ。創造で作った物を利用されないよう、立ち回りを気を付けないと……」

 

 クソ眼鏡(飯田)変態女(八百万)がクソ真面目に考察しながら観戦してるが、着眼点が甘ぇ。

 

 一見じゃデクが攻めてるように見えるが、この試合で分が悪いのはアイツの方だ。

 

 別に指摘してやる義理はねえが……考察を声に出してみりゃあ気づける事もあるか。

 

「デクは直接攻撃出来ねえからあれやってんだ。轟に触れりゃあ眼鏡ん時みてぇに凍らされて終わるからな」

「む、それは分かるが、彼には触れずとも衝撃を飛ばす術があるだろう。超スピードで撹乱しつつ、遠距離攻撃を狙っていけば良いのではないか?」

 

 眼鏡の指摘は分からんでもねえ、が。

 

「だとしても、簡単に撃たせてやる程、轟は甘くねぇだろ」

 

 ついでに言えば、今のデクにも弱点がある。

 

 そんでそこには、轟も気づいてる筈だ。

 

 

「不動氷陣!」

「っ、不味い! フルカウル、10%!!」

 

 

 視線の先では飛んできた氷塊を溶かしきった轟が、合間の隙を突いてフィールド全部をスケートリンクみてーにツルツルに凍らせていた。

 

 デクには跳んで避けられたが、それは想定済みっぽいな。

 

 あそこまで器用な事が出来るとは知らなかったが、あれは良い手だ。

 

 これでデクは踏ん張りが利かなくなると同時に、()()()()()()()()()()()()

 

 着地した瞬間を氷結で狙われて、滑りながらも逃げるデクに俺の考えは間違ってなかったと証明された。

 

「デクの野郎は見たとこ、まだ細かい個性の威力の切り換えが苦手だ。出力の変更や攻撃ん時にわざわざ「(なん)%」つって声に出してんのは、そうした方がやりやすいからか」

「む……言われてみれば」

「ついでに高出力の増強にも慣れきってねえ。思った通りに動けんのは大方10%まで。それ以上はまだ意識下の行動が追い付いてねえのか、直線的な動きが精々だ」

「……思い当たる節はあるな」

「そもそも、デクのパワー押しスタイルは急造もいいとこだろ。元々アイツは相手の動きや癖を考えて、素早く対処出来るように動く分析・予測型の戦闘タイプだ。個性の使い方と、身体に染み付いた型が噛み合ってなさすぎんだよ」

「そ、そこまで分かっておられたのですね……」

「今までの戦いでそんなに見破ってんのか……」

「スゲーな爆豪!」

「やっぱ才能マンだわ……」

「これぐらい気づけやバカが。そんで何喋っとんだアホ面!!」

 

 いつの間にか周りも俺の話を聞いてたらしい。盗み聞きしてんなよモブ共が。

 そんで隣の麗日、また肩を掴んで揺らそうとするんじゃねえ!

 

「でもでも! それじゃあデク君が不利って事?」

「いちいち寄んな丸顔ォ!! デクが使い慣れねえ力押ししてんのは、付き合いの長ぇ轟相手なら効果あるからだろアホが!! それでも分が悪ぃのはデクだが、轟にも突ける隙はあっからまだ分かりゃしねえよクソボケ!!!!」

「めっちゃ罵倒されてもた! っていうか凍夏ちゃんに隙って? 爆豪君いつの間に見つけたの?」

「はぁ!? てめえの方がつるんでんだろが……アイツ、今まで()()()()()()()使()()()()()()

「「「「……あっ!」」」」

 

 まじかよ……誰も気づいてなかったンかい。

 炎は移動と防御と氷解にしか使ってねえのに、よくもまあ。

 授業でも威嚇射撃に火球を撃つ程度の攻撃しか見た事ねえんだし、コイツらは気づいとかなきゃやべぇだろ。

 

 使ってねえ理由は知らんが、舐めプのつもりじゃねえのは見てりゃ分かる。

 無意識の仕業か、相手を目に見える形で傷付けんのを躊躇ってる、ってトコかね。

 轟は氷だけでも圧倒的な実力でゴリ押せてるから、使う必要がねえってのもあるかもしれんが。

 

 

 しっかしデクやエンデヴァーも気づいてるだろうに、矯正しねえ意味が分からん。

 何か都合が悪ぃのか……ちっ、止めだ止めだ。

 つかこんなん俺の考える事でも、知った事でもねえわ。

 

 何にせよ、俺と戦う時に使わねえなら殺す。理由がどうあれ使えんのに力を使わねえのは舐めプと変わらん。

 舐めプのカスに勝った所で、そんな勝ちに意味はねえからな。

 

 

 そこで、氷結から逃げ回っていたデクが思い切った行動に出た。

 

 

「――45%、マンチェスタースマッシュ!!!!」

「くっ……!?」

 

 

 軽く飛び上がり、真下に思いっきり踵落としを入れて、フィールドを氷共々バキバキに破壊している。

 

 あれなら足場は悪くなるが、滑らねえ。

 

『滑りながら逃げてた緑谷、ステージをぐっちゃぐちゃにしやがった!! 最早原形留めてねえ!!』

『本格的に場外のラインが分からんが……あの二人なら覚えてるか』

 

 だろうな、そもそも場外負けなんぞ詰まらん終わり方は許さねえ。

 

 と、デクがバランスを崩した轟にすかさず接近して、()()を掴んだ。

 

 あのままじゃ轟は投げ技を食らう。右での対応は間に合わない。

 

 

 状況を打開するには、炎を使うしかねえ。

 

 さあ、どうする。

 

 

 

 そこで轟は――笑ってやがった。

 

 

 

「――氷炎舞闘(ひょうえんぶとう)!」

 

「っ!? 危なっ!!」

 

 

 轟は両半身にそれぞれ炎と氷を纏うように展開させたので、デクは慌てて手を離して飛び下がった。

 

 身体の右半分は氷の鎧、左半分は炎の鎧を着ているような姿。

 

 ンだそりゃ。炎、攻撃に使えんのかよ。

 

 けどデクも驚いてっから、予想外の行動なのかもしれねえな。

 

 

「その技は……!」

「? 知ってるでしょ、氷炎舞闘。出久のフルカウルを見て、ちょっと改良したけど」

「あ、確かに……じゃなくて、凍夏ちゃんいつの間に炎を……!?」

「出久に、置いていかれる訳にはいかないから!」

 

 

 惚けみてえなキメェ台詞を言い切るなり、轟は氷結を重ねる移動でデクとの距離を詰める。

 

 積極的な掴みかかろうとする姿勢に変わって、デクも攻めあぐねてんのか合間合間の牽制レベルの風圧攻撃しか出来てねえ。

 

 氷炎舞闘。氷と炎を纏う技っつー事は、容易には触れられねえ訳だ。

 

 氷の方は触れれば凍結なのが既に明らかで、その理屈で行くなら炎に触れれば炎上させられる可能性が高ぇ。

 

 とどのつまり触れれば終わりの技。近接主体の奴には天敵も良いトコじゃねえか。

 

 デクもデカい一発を狙ってるみてぇだが、詰めてくる轟にそんな隙はねえか。

 

 ……なら、ある程度のダメージは覚悟して突っ込む選択肢が出て来るかもな。

 

『……当たり前のよーに必殺技使ってんなー……ヤバくね? どう思うよイレイザー』

『実況じゃなくて普通に喋るノリになってんぞ……今までの轟を見てたんなら、あれぐらいはしてくると思っとけよ』

『そっかぁ』

 

 ボーッとすんなやクソグラサン。

 仮にもプロならシャキッと実況やれや、気ィ抜ける声出すなクソが。

 

「緑谷君が防戦一方になるとは……」

「凍夏ちゃんの近接技と、緑谷ちゃんの個性じゃ相性が悪いわ」

「デク君攻められん……凍夏ちゃんのペースだ」

 

 コイツらの方が実況やってんぞ、いっそ変われや。

 

 チッ、気が散ってしゃあねぇ。試合に集中させろ。

 

 

「――行くよ!」

 

 

 お、デクがダメージ覚悟で攻めの姿勢に切り替えたか。

 

 攻勢の轟に合わせて、カウンターを入れるように右の拳をこめかみ辺りを狙って繰り出した。

 

 

「っらぁ!!」

「くぅっ……うあぁぁっ!!」

 

 

 轟はそれを炎を纏った左腕でガードするが受けきれず、眼鏡ん時よりもブッ飛んだ。

 

 眼鏡の蹴りと同レベル以上のパンチに、氷を纏える右と違って物理的な防御が無理な左側なら、ああなるのは可笑しくねえ。

 

 氷重ねて踏みとどまったが、ガードした左腕が変な方向に曲がってたのも見えた。

 多少受け流したトコで、ありゃあダメージデケェぞ。

 

 

「ぐうぅぅ……!!」

 

 

 ……が、無理に攻撃したデクの代償もかなりキテんな。

 

 殴った瞬間、右手から肩にかけて全体的に燃やされてた。

 

 すぐに個性使って振り払っちゃいたが、この距離からでも分かるぐらい酷ぇ火傷をしてやがる。

 

 使用不可って訳じゃねえだろうが、力入れた攻撃はほぼ無理だ。

 

 つーかマジで触れただけで発動かよ……反射レベルにするまで、どんだけ個性の訓練したんだか。

 

『ダメージ覚悟の緑谷の特攻!! 手痛い火傷は食らったが、轟にも重いのが入ったぞ!!』

『お前今日テンションの振り幅どうした……轟の方は折れたな。実質痛み分けだが、近接主体の緑谷の分が悪いのは変わらん』

 

 調子戻りやがったグラサンクソうるせぇ、やんならもう担任だけで実況しろや。

 

 後、ついでに加えんならデクは利き腕を使えなくなった。

 轟は氷の方が使い勝手が良いだろうし、差は歴然としてきたな。

 

 

 そんで今フィールドじゃ、火傷した右腕を庇うように立つデクと、折れた左腕を氷で固定している轟が向かい合っていた。

 

 

「このぐらい……出久の骨折に比べればっ……!」

「それ、僕が言えた事じゃないけど、比較対象がおかしいからねっ……!」

「ホント、出久が言えた事じゃないよ……!」

 

 

 ……アイツら、この場面でまだ笑ってやがる。

 

 奴らの目標とするヒーロー像を知ってる身からすりゃ、理由は分からんでもない。

 

 デクと轟は、助けるヒーローになりてえ。

 

 どんな時でも、笑顔で人々を救うヒーローに。

 

 だから奴らは、いつでも笑って戦うんだ。

 

 勝つ為に笑う俺には、理解出来ねえ話だが。

 

 ……それが奴らの強さだってのは、嫌って程知ってるからな。

 

 

「凍夏ちゃん」

 

 

 会場が固唾を飲んで展開を見守る中、デクの声が響いた。

 

 

「何、出久」

 

 

 

 

「もう、大丈夫なんだね」

 

 

 

 

 デクは、何かを確認するように問いかけている。

 

 それに対して、轟は今日一番じゃねえかってぐらい、ウゼェ笑顔を作って返した。

 

 

 

「出久に置いていかれない為になら、私は何だって出来るよ」

 

 

「……あはは、そっかぁ」

 

 

 

 返事を聞いたデクも、苦笑した後に似たような笑顔になりやがって。

 

 他が知らねえ何かを、轟が乗り越えたんだろう事は予想が付いたが。

 

 それはそれとしてイチャついてんじゃねえ。試合中だぞクソ色ボケ共。

 

 

 

「これで、決めよう」

 

「ん、加減無しだよ」

 

 

 

 改めて構え直したアイツらは、次の一撃で決着を着けるつもりだ。

 

 普通に続けりゃ轟に軍配が上がりそうだが……互いに怪我がデケェ以上、下手に長引かせるのは得策じゃねえ、か。

 

 

「身体許容、上限っ――――60%!」

 

 

 デクは今まで以上の圧と雷光を纏い、左腕を構えた。

 

 ……いや違う、左だけじゃねえ。

 右腕もかなり痛むだろうに、無理矢理力を入れてやがる。

 

 

「もっと冷たく――もっと熱く!」

 

 

 轟が身体から今までに無い勢いの炎を巻き上げた。

 

 ここまで熱が来るぐらいの、エンデヴァーのにも負けてねえ炎。

 

 

『馬鹿待てお前らっ!! セメントス!!!!』

 

 

 とんでもない惨状が生まれそうな光景に、担任が慌てて指示を飛ばす。

 

 多分抹消の個性も使ったんだろうが、一歩遅かったな。

 

 

 

「デラウェア・デトロイト・スマッシュ!!!!」

 

 

「アブソリュートゼロ・プロミネンスバーン!!!!」

 

 

 

 デクからは、二連続パンチでの衝撃波が。

 

 

 轟からは、特大規模の爆炎と氷結が。

 

 

 同時に放たれて、そして。

 

 

 

 フィールドで、とんでもねえ大爆発が巻き起こった。

 

 

 

 




 
 
「……出久も凍夏も、無茶をする」

「しかし……そうか、俺の心配は見当違いだったか」

「全く、オールマイトの事を言えんな」

「子どもの成長は早いな。大人の知らぬ間にどんどんと大きくなっている」

「……ならば俺は、せめて二人を回収するとしよう」
 
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