半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 感想・評価ありがとうございます。
 ちょくちょく日刊ランキング上位に来てるみたいですね。ありがたき。

 オリ主の攻撃に炎を使わない理由の説明みたいな回。過去回想含む。



21:過去の自分を乗り越えて。

 夢を見ている。

 

 ぼんやりとした意識の中、その感覚だけははっきりとしていた。

 

 目の前には、木張りの床で仰向けに倒れている小学生ぐらいの男女の姿。

 

 というか、私と出久だ。

 

 見た目からして、十歳ぐらいの頃で。

 

 そして、今でも時折見るあの時の夢だと理解した。

 

 

 これは私が……()()()()()()()()()()()

 

 

 この日は夏休みが始まった頃で、日課の稽古で珍しく家に居た父にしごかれて、二人揃ってクタクタになって休んでいた。

 

 トレーニング室に仰向けで寝転ぶ私たちは歩くのも億劫なぐらい疲労困憊で、顔にタオルを掛けて呼吸を整えている。

 

 

「はぁ……はぁ……あー……もう、床とケッコンしたい……」

「ふぅ……ふぅ……やー……出久は、私とケッコンするのー……」

「あははー……はぁー……」

 

 

 へろへろの私が求婚したのを、出久は力無い笑いで流した。

 

 この頃はこういった二人きりの時間に、よく出久へと想いの丈をぶつけていたっけ。

 

 恐らく昔からこんな感じだったのせいで、普段の私の好意の籠った甘えが、いつもの事と認識されているのかもしれない。

 

 

「はぁ……それにしても、暑いね……」

「……わ、私の左のせい……?」

「へ……? ……いやいやちがうよ!? もう夏だからさ!」

「そ、そっか……あっ、冷やしてあげる!」

 

 

 そう言って私は転がりながら出久に近寄り、彼の腕に抱きついて右の個性を使った。

 

 ひんやりと冷気を発している筈のそれは、主観的に見ている私には感じられない。

 

 

「ひんやりー……凍夏ちゃんありがとー」

「えへー……出久に一人、轟凍夏だよー」

「あはは、何それー」

 

 

 過去の自分ながら、見ていて羨ましくなるぐらい出久に甘えている。

 

 出久に一人……多分、一家に一台みたいな事を言いたかったんだろう。

 

 この頃から出久の居ない生活なんて、全く考えていなかったんだなぁ、私。

 

 いや、勿論今もそんな未来を考えてはいないんだけど。

 

 それより、ここからだ。

 

 

「はぁー……ひえひえー……冷たいー……っていうか痛い!?」

「ふぇ? ……えっ、あっ!?」

 

 

 出久の腕に抱きついたまま寝ようとしていた私は、個性の加減を間違えて。

 

 氷の力を強くし過ぎて、彼の腕を少し凍らせてしまったんだ。

 

 

「あっ、あっ、いず、出久! ごめっ、すぐに、溶かしてっ!!」

「だ、大丈夫だよ。だからそんなにあわてなくても」

 

 

 出久がフォローしているけど、私はこの時、ただ早く氷を溶かす事しか考えてなくて。

 

 訓練後で疲れていたのもあって、また調整を間違えてしまった。

 

 

「うわあっ!!? あああ熱っっ!!?」

「あ……だ、だめっ!」

 

 

 氷を溶かして、そのまま腕まで燃やしてしまう程の火力に、私は更に慌てて炎を抑えたけど。

 

 少しだけ、でも確実に、出久の腕が火傷していて。

 

 大好きな出久に、危害を加えてしまったと。

 

 

「あ…………ああっ……や、やけどっ」

「痛た……ちょっと強すぎだよ……凍夏ちゃん?」

「ちがっ、ちがうの! 私、出久に!!」

 

 

 その事実に、まだ幼い私は耐えられなくて。

 

 

「と、凍夏ちゃ」

「や、やだ…………いやああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 慟哭と共に、個性を暴走させてしまった。

 

 

 夢の中の未熟な私から吹き出た業火と氷結。

 

 

 二人を見ていた今の私を、それらは遠くに吹き飛ばした。

 

 

 衝撃も氷結の冷たさも、一切感じないのに。

 

 

 業火の熱さだけは、夢なのにしっかりと分かってしまう。

 

 

 今までは、ここで頭が強制的に目を覚まさせてくれた。

 

 けど、今の私はその衝動を抑え込める。

 

 自らの過ち……トラウマから、目を背ける訳にはいかないから。

 

 

 私は、炎の中に歩みを進める。

 

 

 業火に全身を焼かれるような痛みを、夢の中だと、幻痛だと、自分に言い聞かせながら前に進んで。

 

 

 何分も、何十分もそうしていたように感じる程、苦しみを耐え抜いて。

 

 

 ようやく、発生源の小さな私の元に辿り着いた時。

 

 

 泣き喚く私を、炎も氷も気にせずに優しく抱きしめるように小さな出久が現れて。

 

 

 ふと、此方を向いて、笑ってくれた。

 

 

 そこで、私の意識は真っ白に塗り潰されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ん」

 

 ぼんやりとした視界に入ってきたのは、見慣れない天井。

 薬品の臭いもする、あまり落ち着かない雰囲気。

 病院のようにカーテンレールで仕切られているベッドで、私は寝ていたようだ。

 

 ぼーっとしたまま、さっきまで見ていた夢を思い返す。

 

 あの後、出久に火傷を負わせた私は、現実逃避からか意識を失った。

 後から聞いた話では、気絶した状態でもずっと謝り続けていたらしい。

 出久が手を握ってくれている間だけはうわ言が治まったらしく、彼は火傷の治療をしながらも、私が起きるまで傍に居てくれた。

 しばらくして目を覚ました私が、再びパニックになりそうなのを、背中や頭を撫でながら落ち着かせてくれて。

 再び泣きながら眠った私は、そのまま病院へと連れていかれた。

 そこで、一つのトラウマを抱えてしまった事が発覚する。

 

 私は人相手に、炎を向けられなくなっていた。

 

 出久や姉さんは勿論、父にさえ炎を使う攻撃を躊躇ってしまう。

 使おうとすれば身体が震えて、出久に火傷させた光景がフラッシュバックしたのだ。

 体温調節や炎の発動自体には問題が無かったのは、不幸中の幸いと言えるのだろうか。

 ヒーローになるのには致命的なトラウマ(モノ)、私は絶望に飲み込まれかけた。

 一時は引き籠りかけてさえいたのを、出久や姉さんの献身のお陰で、どうにか夏休み中には精神的に立ち直れたけれど。

 それから今まで、私は炎を直接攻撃には使わずにいた。

 

 だけど、それはこの間までの話。

 

 雄英のヒーロー科に入った私は、その程度で立ち止まっている暇は無いと思い知らされたから。

 

 

 人に炎を向けるより――――出久に置いていかれる方が、もっともっと怖かったんだ。

 

 

 自問してその事実に辿り着いた時、私は攻撃に炎を使おうとしても身体が震えなくなっていた。

 

 自分の事ながら呆れる程単純で、思わず脱力してしまった程。

 

 まあでも、私らしいとも思う。

 

 恥ずかしい言い方をするなら……愛の力ってやつだから。

 

 

 

 と、その話は置いておくとして。

 

 はっきりしてきた意識に従い、ベッドに寝ていた身体を起こしながら周りを見回す。

 

 なんだか、思った以上に身体が怠い。というか、妙に疲れている。

 それに、自分の腕や顔などに包帯やガーゼがされているのに気がついた。

 

「おや、起きてたのかい」

「あ、リカバリーガール」

 

 身動きの音で気がつかれたらしく、外からカーテンを開けたリカバリーガールが近づいてくる。

 

 怠いのは彼女に治癒されたからだと気がついたけど、同時に今の状況に疑問を持った。

 

 私は体育祭の準決勝で出久と戦っていた筈なのに、どうして寝ているんだろう。

 

「その様子だと意識も大丈夫そうだね。左腕の骨折以外は大した怪我じゃなかったけど、爆発の衝撃で意識を失ってたんだよ」

「爆発…………いず、出久は!?」

 

 しかし続く言葉に直前の状況が頭の中で再生され、つい声を荒げてしまった。

 私の最大火力技と、出久の現段階の許容上限いっぱいのパンチが合わさった、とんでもない衝撃を思い出したから。

 

「落ち着いて、凍夏ちゃん」

 

 リカバリーガールに詰め寄りかけた私は、近くから聞こえた声に身体を止めた。

 半端に閉じたままのカーテンの向こう、隣のベッドに出久が居たらしい。

 

「出久!」

「こら、まだ安静にしてな。起きたばっかりだろう」

 

 ベッドから降りてカーテンを開けようとする私を、リカバリーガールが制して代わりに開けてくれて。

 そこには五体満足でベッドに寝転がる出久が居て、こちらに苦笑気味の笑顔を向けていた。

 右腕に包帯を巻いているけど、他はそんなに酷い怪我じゃなさそうだ。

 

「おはよう……って言っても、僕もちょっと前に起きた所なんだけどね」

「……はぁぁぁ…………良かった…………」

 

 出久が無事だった安心感から、私は大きな溜め息を吐く。

 本当に良かった。私は彼を必要以上に傷つけずに済んだんだ。

 乗り越えたとはいえ、誰かに……ましてや出久に怪我をさせるのは、心が痛むのに変わりはないから。

 

 そんな私を見て、何故か出久は少し怒ったような顔になる。

 

「それ、こっちの台詞でもあるからね。僕だって凍夏ちゃんが目を覚まさなかったら……って、思ったんだから」

「あ……ご、ごめんね……」

「あ、いや、謝らなくていいよ。こっちもごめん、心配させて」

「ううん、私の方こそごめんなさい。威力、ちょっとやり過ぎた」

「凍夏ちゃんは観客席に行かないように技の方向も威力も考えてたでしょ。何も考えずにぶつけた僕の方がごめんだって」

「私が――」

「僕が――」

 

「はいはい、譲り合いはその辺にしときな」

 

 呆れたようなリカバリーガールの声で、出久との謝罪合戦は終わりを告げる。

 本当に私の方が悪いと思うけど……これ以上はお互いに譲らなくなって泥沼になるかな。

 同じ事を思ったらしい出久と顔を合わせ、苦笑しあってからリカバリーガールへと向き直った。

 

「さて、緑谷にはもう話したけど、改めて二人にミッドナイトから伝言だよ」

 

 あ、そういえば試合の事を忘れてた。

 私たちはどっちもここにいるけど、勝敗はどうなったんだろう。

 出久を見れば、困った顔で微笑まれた。

 

「試合結果は引き分け。最後の技のぶつかり合いで二人とも、ステージの外に飛ばされて場外さ」

「はい」

「その時点でどっちも意識を失ってたから、お嬢ちゃんと緑谷は下に降りてきてたエンデヴァーに抱えられて此処に運ばれたんだ」

「え゛」

「決着は場の修復と次の組が終わってからだと。ちなみに今はアンタたちが跡形もなく消し飛ばしたステージの復旧作業をセメントス主体でやってる所さね」

 

 

 待って。その前に、なんて?

 

 エンデヴァーに、抱えられて、運ばれた?

 

 

「炎司さん、さっきまで居たんだよ。僕と戦って、凍夏ちゃんが不安定にならないか心配してくれてたんだ」

「…………それ、ホント?」

 

 

 あの男が待機してたのは、まあ、百歩譲って許す。

 

 けど、抱えてここまで連れてきた?

 

 わざわざアイツが出しゃばって? 輸送用ロボがいるのに?

 

 あまつさえ、多くのお客さんが見てる前で?

 

 

「………………………………出久」

「はいはい、凍夏ちゃん」

 

 

 俯く私に、全てを察してくれた出久は、少し呆れながらも私のベッドへと歩み寄る。

 

 そして両手を広げてくれている彼の胸に、しなだれるように抱きついた。

 

「すごく……つらい…………」

「よしよし……あんまり嫌ってあげないでね。炎司さんなりのお詫びだったんだから」

「やだ……もうアイツと口利かないもん…………」

「そう言わないで、ね?」

「……出久と一緒なら、話すかも」

「そんな限定的な……一人でも話してあげて」

「…………今日、出久がお泊まりに来てくれるなら」

「んんん……ホントに君って子は……まあ、良いけどさ」

「やったぁ」

 

 言質を取れて嬉しくなった私は、抱きついたまま出久の胸に頬擦りする。

 息をすれば、焦げた体操服の臭いと、出久の汗や体臭の香り。

 嗅ぐと心がほわほわする匂い。しあわせ。

 

「……緑谷、伝えなくて良いのかい」

「あー、そうですよね……凍夏ちゃん、真面目な話をしたいから、ちょっと離れてくれる?」

「ん……分かった」

 

 出久の声から真剣な空気を感じ取ったので、名残惜しく思いつつも彼から離れた。

 

 向かいのベッドに座り直した出久は、私の目を見ながら言葉を告げる。

 

「準決勝、引き分けたんだよね」

「うん」

 

 

「でもね、勝負は僕の負けだと思う」

 

 

「…………え?」

 

 

 一瞬、出久が何を言っているのか分からなくなった。

 

 私たちは場外同士で、そこに差は無いと思うんだけれど。

 

 

「さっきも言ったけど、凍夏ちゃんはあの場面でも周りに被害が出ないように個性を使ってたでしょ? 僕は許容上限をコントロールするのに手一杯で、そこまで頭が回ってなかった」

「それは、出久は個性に慣れてきたばっかりだし……」

「そこだよ。まだまだ個性に振り回されている僕と、完璧にコントロールしている凍夏ちゃんとじゃ、どうみても君が上だ」

「出久も個性以外を合わせたら!」

 

 

 私の反論を、出久は首を横に振って否定する。

 

 

「そして、一番の理由だけど……僕は、凍夏ちゃんが攻撃に炎を使ってくるって、思ってなかったんだ」

「……? それがどうしたの?」

 

 

「――これって、油断だろ」

 

 

 出久の、今まで聞いた事の無いような苦々しい声。

 

 私は目を見開いて、眉を寄せている彼を凝視する。

 

 

「ずっと一緒に居て、実力も分かってる幼馴染に対して、あろうことか僕は油断をしてたんだ……実際それで、ダメージ覚悟の攻撃とはいえ手痛い反撃を食らったしね」

「け、けど、出久は私のトラウマを知ってたし、私も驚かせようと思って黙ってたから」

「知ってるからこそ、君が克服している可能性も考えなきゃいけなかった」

「う…………」

「だから、今回は僕の完敗だよ……それを、ミッドナイトに伝えても良いかな」

 

 

 はっきりと言い切った出久に、考えは変えないという強い意志を感じる。

 

 例え私でも意志を変えられないと、付き合いの長い幼馴染だからこそ解ってしまった。

 

 こういう時の出久は、とても頑固だから。

 

 それに、もし私が彼の立場なら、きっと同じ事を述べる。

 

 要約すれば、これはプライドの話だ。

 

 尾白や庄田が、トーナメント進出を辞退したのと変わらない。

 

 なら、私が出来る事は一つだけ。

 

 

「…………分かった。それなら私は決勝に行って……ううん、優勝してくるね」

 

 

 少しだけ考えて、力強く想いを伝えれば。

 

 

「うん、応援してる」

 

 

 出久も少し固いけど、笑顔で想いを返してくれて。

 

 

 こうして私は、幼馴染の想いを背負って決勝へと進出した。

 

 




 決勝進出はオリ主ちゃんでした。
 出久くんと爆豪の戦いはまた次の機会に。

 オリ主は炎を人に向ける=傷つけるという意識を持ってました。
 火傷という結果を見たのもありますが、圧力のある父親の影響も多少なりともあったりして。ドンマイエンデヴァー。

 原作で焦凍くんが全く使わないのよりは大分炎を使ってたので、USJや体育祭で攻撃に使わなくても原作に合わせてるのとそう変わらないので、伏線としては分かりにくいものになってしまい……まあいっかと開き直りました。
 後は爆豪が出久くんに酷い事した時とかに「凍らせてやる」とは思っても「燃やしてやる」とは思ってなかったりと。うん、これじゃあ分からないですね。
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