原作との類似点
・出久と爆豪の関係性(いじめられっ子といじめっ子)。
・出久のOFA継承時期(オールマイトの個性弱体化を早めない為)。
・故に出久はOFAを制御できない。
原作との相違点
・出久は幼少期から鍛えている。
・オリ主の存在により、出久は原作ほど女の子の相手に緊張しない。
・出久の「ヒーローになる」志が原作より強い。
・爆豪は出久を下に見ている訳ではない。
一般入試の結果が送られて来た日、合格したと涙声で電話をくれた出久から衝撃の一言を告げられた。
「個性が出た……!?」
『う、うん……まだ全然コントロール出来ないんだけどね』
黙っててごめんと言われるけれど、そんなのはどうでも良かった。
目に熱いものが込み上げて、ぽろぽろと溢れだす。
出久は無個性で、出会った時から自身に絶望していた。
今の社会でヒーローになるのに、無個性では不可能だと言われてしまう。
それでも、彼は諦めずに今回の雄英受験へと挑んだ。
小さな頃から私と一緒にあの男に鍛練を教わっていたのも。
周りから何を言われてもトレーニングを続けてきたのも。
遊ぶ時間を削ってひたすら努力してきたのも。
ひとえに、オールマイトのようなヒーローになるため。
現段階でも、身体能力や格闘技能では並みの個性持ちよりも強い筈で。
誰よりも努力を怠らなかった彼を、神様は見捨てなかったのだと、嗚咽を漏らしてしまった。
電話の向こうで慌てる声が聞こえるので、大丈夫だと伝える。
詳しい話は会って聞きたかったから、出久と予定を合わせる。
そして電話を切る前に、改めて一言。
「ホントにおめでとう、出久」
『っ、うんっ……ありがとう、凍夏ちゃん』
貴方のヒーローアカデミアはここからだよって、心を込めて。
後日、自らをも破壊する超パワーだと聞かされてまた違う意味で泣いてしまうけれど、それは別の話。
■
1-A担任を名乗った相澤という教師の指示の元、私たちは体操服に着替えてグラウンドへと集合した。
そこで入学式やガイダンスを行わずに個性把握テストを行うと、相澤より知らされたクラス一同がざわめく。
一般入試実技一位の爆豪勝己が試しのソフトボール投げを物騒な掛け声と共に実行して、705.2mの高記録を出した。
それを見たクラスメイトたちが面白そうだのなんだのと騒いでいると、相澤が最下位は除籍処分だと宣言する。
別の意味で騒然となる中、推薦組女子同士の縁で八百万と一緒にいた私は、少し離れた所にいる出久の方へと視線を向けた。
一般入試で交流があったらしい麗らかな女子と例の眼鏡男子と一緒にいる彼は、ここからでも分かるぐらいに青ざめている。
が、目は真っ直ぐ前を向いており、諦めの色は見えなかった。
最近個性が発現したばかりの出久には難しい課題だと思うけれど、彼ならきっと大丈夫。
私も、ベストを尽くせるようにしないと。
「次、轟と葉隠」
最初の50m走に呼ばれたので、レーンへと進む。
一緒に走る葉隠は、体操服だけが浮いているように見える透明な女子。
よろしくね! と張り切った声で言うので、私は頷いてから一言だけ述べる。
「なるべくそっちには害がないようにするけど、気をつけてね」
「へ? あ、うん、分かった?」
……あんまり分かってなさそうだけど、私が注意すれば良いか。
隣のレーンから離れられるだけ離れて、スタートの準備をする。
『位置ニツイテ、ヨーイ』
記録装置がピストル音を鳴らすと同時。
私は後方より勢いよく氷と炎を噴出させ、一気に飛び出した。
氷で地面を凍結させながら進み、炎で推進力を上げる。
『3.22』
うん、隣に気を遣いながらならこんなものだろう。
一位の眼鏡男子には叶わなかったが、それなりに良い記録だと思う。
「すっご……あの子三秒台前半じゃん」
「てか氷と炎の二つとかチートじゃね!?」
「才能マン……いや女子だから才能ウーマンか!?」
「可愛いし出るとこ出てるし完璧だぜ……」
「凄い凄い! びっくりしちゃったよ!」
クラスメイトたちが何か騒いでいる中、私から遅れてゴールした葉隠が興奮気味に話しかけてきた。
「邪魔じゃなかった?」
「大丈夫! あっ、私葉隠透! 見ての通りの透明人間だよ!」
「轟凍夏。氷と炎が出せる」
「見てたよー! 派手で綺麗な個性だね!」
「……ありがとう」
下心のない声色で個性を褒められて、少し照れる。
あの男の血縁というフィルターがかかっていない称賛は、出久や彼の母以外では久しぶりだった。
個性柄か、存在を強く主張するように身ぶり手振りが大きい葉隠と話しながら、次の測定者へと視線を向けた。
丁度スタートした片方が爆破で飛んでいき、その後ろをもう片方……出久が普通に走っている。
記録は5.82秒。個性無しで考えればかなりの高記録だ。
声をかけようかとも思ったけれど、集中しているようなので止めておこう。
若干の寂しさを紛らわせるよう、次の種目に向かった。
握力測定。
複数の腕を持つ障子という男子の540kgと、八百万の個性で万力を造り出して最大値を叩き出したのが見所。
私は右は氷を、左は炎を手の中に作り出して圧力を加えたのでそれなりの記録。
立ち幅跳び。
お腹からレーザーを出す男子の青山と、爆破がある爆豪が個性で飛び続けて高記録。
私は氷を蛇のようにうねらせながら進んでみた。調整は難しいけど楽しい。
反復横飛び。
峰田という小さな男子が頭のブドウみたいなので跳ねて一位。
今回は流石に氷も炎も使い道が無さそうなので普通にやった。
ただ、胸が揺れを防ぐべく、腕で支えながらやっていたら数人の視線を感じたのはなんだったのだろう。
上体起こし。
八百万が頭や脚にバネを造りトップに立つ。
これも個性は特に使えないので、素の身体能力で頑張る。
ついでに身体を起こす時にまた視線が集まってたからそれとなく探ってみた。
まあ、おおよそが男子だったと判明した以外に何もなかったけども。
後、ペアの葉隠が透明なので、ちゃんと脚を支えられているか心配だった。
そしてソフトボール投げ。
出久と話していた麗らか系女子……麗日が浮かせる個性で∞の記録を叩き出す。
それ以外も個性が活かせる者は活かしつつ、順番にボール投げをこなしていく。
八百万の大砲を創るのはボール「投げ」ではないと思うけど、飛距離は麗日に次ぐ二位。
身体から産み出す物に限度はないのかな、なんて考えつつ私の番が回ってくる。
「――はぁっ!」
投げる直前に炎の噴射で勢い付けて、一投目が352.6m。
……爆豪の丁度半分だと気づきちょっと癪に触る。
けれど、炎の威力を上げすぎるとボールが耐えられるとは思えない。
なので二回目は氷でボールを包み、空気を冷やしに冷やしてから投げる瞬間に炎で熱を送り瞬間的に空気を膨張させて吹き飛ばすやり方でしようとした……けれど。
「危険過ぎるから止めろ」
と、相澤に一喝されたので渋々諦めた。
さて、次は出久の番。
幼少期から鍛えた身体能力で恐らく最下位にはならない点数をとっているとはいえ、未だに個性は使っていない。
その点が教師の目にどう映るか。
一度目のボール投げを終えた出久の元へ、相澤が何やら話に言っている。
内容を聞き取るべく、不自然じゃない程度に近づく。
「緑谷、お前ここまで個性を使ってないが、このまま使わないつもりか?」
「う……その、まだ制御が……」
「知ってる。実技の採点は俺も居たからな。つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」
溜め息を吐く教師の声色は低い。
それに肩を震わせた出久に、相澤は冷たく言い放つ。
「先に言っておく。このまま個性を使わないなら、順位に関わらずお前を除籍処分にする」
「なっ……!?」
「当然だろう。これは『個性把握テスト』だ。個性を使わない奴を残す義理はない……かといって、入試のように身体をぶっ壊して動けなくなるようでも、結果がどうあれ除籍だ」
「っ!」
……なんだこの教師、というのが正直な感想だ。
元々成績に関わらず真剣に取り組まない者を処罰する、という可能性は考えていた。
国内最高峰のヒーロー科だ、それぐらいは当たり前だと私も思う。
しかし、個性の調整なんて今から幾らでも特訓する機会があるのに、それすらさせないのはどういうつもりか。
「昔、暑苦しいヒーローが、大災害から一人で千人以上を救い出すという伝説を創った。同じ蛮勇でも……お前は一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の力じゃヒーローにはなれないよ」
……カチンときた。
同時に、これがあの教師なりの優しさなのはなんとなく理解した。
中途半端なヒーローになり呆気なく命を落とすなら、最初から諦めさせるのが良い、そういう事なんだろう。
だけど、出久がヒーローになれない、というのは聞き捨てならない。
この男が、出久の何を知っている。
個性が無い事に悲観せず、努力してきた姿を知らない癖に。
ヒーローになれないと十年以上周りから言われ続けても、決して折れなかった姿を知らない癖に。
暴力を振るいかざす幼馴染なのに、ヴィランに捕まっているのを見て助けようとした姿を知らない癖に。
絶望の中にいた小さな女の子に、手を差し伸べてくれた事を知らない癖に。
自分の表情が険しくなっていくのを自覚しながら、一方的に言われていた出久を見る。
けれど、そこには沈んだ姿などなく。
「僕は、ヒーローになります」
少し震えながらも、はっきりとした声で彼は宣言する。
「投げた後に、動ければ良いんですよね」
「…………ああ」
「なら、やれます」
「……良いだろう」
強い意志を感じる言葉に、相澤は若干気圧されたかのように離れていった。
……私が何かを言わずとも、出久は大丈夫。今はソフトボール投げを見守ろう。
「何か指導を受けていたのか?」
「最下位じゃない筈だけど、個性使ってないから? 大丈夫かな……」
離れていく相澤と深呼吸をしている出久を見ながら、飯田と麗日が心配する言葉を漏らしている。
二人とも入試で彼に思う所があったのか、なかなか出久の評価が高そうで。
この二人とは私も仲良くなりたい、と思っていると、爆豪が憎々しげに吐き捨てる。
「除籍宣告だろ。個性把握テストに無個性のクソカスが居りゃそうなるわ」
……カチンときた、二回目。
さっきまでの穏やかさを返せと言いたいレベルで最悪な気分だ。
この汚物を詰め込んだ爆弾男、出久を無個性だという一点だけで見下している。
接触はもう少し様子を見るつもりだったが、これは我慢ならない。
「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
「は?」
反論、いや口論しようと汚物爆弾に近寄ろうとしたら、その前に飯田が咎めてくれた。
そして呆けたような爆豪の声の後。
「SMASH!!!!!!」
出久の掛け声と共に、ボールが勢いよく放たれた。
目を見開いた相澤が持つ端末に、記録が表示される。
『1057.9』
爆豪を遥かに上回る記録。
出久を見れば、右手の人差し指が変色する程にぐちゃぐちゃになってしまっているが、他は無事。
出力を制御出来ないなら、発動範囲を極々限定させるという荒業を成し遂げた。
「先生……! まだ、動けます!」
「こいつ……!」
涙目ではあるが笑う出久の姿は、とても格好良い。
間違いなく、今の貴方はヒーローだよ。
「やっとヒーローらしい記録だしたよー!!」
「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい……おかしな個性だ……」
「スマートじゃないよね☆」
クラスメイトが記録に騒いだり個性に首を傾げたりする中、唖然としている者が一人。
この短い時間でも奴がどういう反応をするのか理解したので、行動を注視する。
そしてやはりというか、爆豪は出久へ向かって爆破しながら飛び出した。
……なるほど、そこまで暴力的なら、最早手加減は必要ない。
「どういうことだコラ!! ワケを言えデクてめ…………!?」
「煩い」
空中の爆豪を氷で捕らえ、更に首から下を高密度の氷塊に閉じ込めてやる。
自慢の爆破はおろか、満足に話す事も出来やしない筈だ。
勿論死にはしない、なので問題なし。
突然の個性行使に周りが驚く中、私は爆豪の横を通り過ぎて、目を丸くしている出久の元へ歩みよる。
「指、出して」
「え、あ、う、うん」
戸惑い気味に出された出久の、赤黒くなった右手の人差し指を、私は右手で冷気を発しながら柔らかく触れる。
そして指の周りに薄い氷の膜を張り、軽く固定した。
応急処置にもなっていないけれど、テスト中ぐらいは多少痛みを紛れさせられると思う。
私の意図に気づいた出久は、申し訳なさそうに、けれど笑顔でお礼を述べた。
「ありがとう、凍夏ちゃん」
「うん。無理しないでね」
「あはは……頑張るよ」
「……轟、そろそろ爆豪を出してやれ」
何故か静まりかえっている場に、大きくない筈の教師の声が響く。
疲れた顔の相澤が指差す方を見れば、震えて声も出せない癖にとんでもなく目を吊り上げて私を睨む爆豪が居た。
敵。その文字が一瞬で頭によぎったので。
「出したら殺しに来そうなので嫌です」
「確かに」
「顔すげぇ……」
「敵でもこんなやばい顔の奴なかなか居ないぜ」
クラスメイトたちも当人が話せないから好き放題に言う。
それを聞いた爆豪の目が更に吊り上がっていくのは率直にやばい。
相澤も否定できないのか、頭を抱えながら面倒臭そうに告げる。
「まだテスト中だ、何かあったら俺が止める。だから氷を溶かしてやれ」
「…………はい」
先生の言葉に渋々炎を使って氷を溶かす。
体温を上げてやる必要性は感じないので、溶かすだけ。
自由になった爆豪はまだ身体を動かしづらいのか、ガチガチと震えながら此方を睨み続けている。
これからのテストは結果が低くなるかもしれないけど、私の知ったことじゃない。
鋭い視線を無視して先程までの居た位置へ戻ると、相澤がテストの再開を告げる。
皆も私や爆豪を気にしながらも、指示に従った。
■
全員が全種目を終えて、結果発表の時間。
ディスプレイに一括で表示される結果に、緊張が走る。
私は2位。個性で各種目に適切な物を造る八百万を抜けなかった。
持久走でバイクを作り出したのには、誰もが開いた口が塞がらなかった。
時間さえあれば、間違いなく無敵の個性だ。
「ちなみに除籍は嘘な。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
なんて相澤は白々しく言っているけど、出久に宣言していたように真面目にやっていなければ順位に関わらず除籍処分にしていたに違いない。
きっとクラスの皆に何かしらの見込みを感じて取り消してくれたのだろう。
怪我をしたままやり遂げた出久も私と同じように考えているのか、他のクラスメイトたちが叫ぶ中(特に最下位の峰田は慟哭している)で引き攣った笑いをしていた。
ちなみに彼は14位。突出した記録が一つだけの中でよく頑張ったと思う。
「あんなの嘘に決まってるじゃない、ちょっと考えればわかりますわ」
呆れたように言葉を溢していた八百万。彼女の認識を正しておくべきか。
……まあ出久との会話を聞いていなければ、この意見に頷いていたと思うし、余計な事は言わなくて良いか。
「そういう事。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目を通しとけ」
八百万に便乗した相澤が出久に保健室利用の紙を渡してグラウンドから立ち去って行く。
皆が肩の力を抜く中、私は出久の元へ駆け寄った。
「お疲れ、出久」
「あ、凍夏ちゃん……凍夏ちゃんもお疲れ様。それと氷の固定、改めてありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。保健室、行くの?」
「うん……着替えたりする時間もあるし、先に行ってるね」
「分かった。また教室で」
表情を柔らかく崩した出久が一足先に校舎へ早足で戻っていくのを見送り、私も着替えるべく更衣室へと向かう。
手早く着替えて教室へ戻り、机の上に置かれたカリキュラム等の書類に目を通していると、皆も続々と戻ってきた。
隣の八百万も戻ってきて、座ったところで声をかけてくる。
「はぁ、初日から少し疲れましたわね」
「うん。あ、八百万。1位おめでとう」
「ありがとうございます! 轟さんも個性の使用法がとてもお上手で素敵でしたわ」
「そう? なら良かった」
にこにこと笑う八百万に釣られて私も笑顔になる。
まだ初日だけど、彼女のような気の良い人が隣で良かった。
それより、笑う度に多くの視線を感じるのは、そろそろ突っ込んだ方がいいんだろうか。
視線を感じる方向を見渡せば、目が合ったクラスメイトたちは視線を反らしたり、曖昧な笑みを浮かべている。
なんだろう、少しだけど反応している八百万なら分かるかもしれない。
「八百万、なんで私が笑うと注目されるの?」
「……ご自覚無し、でしたか……その、笑顔がとてもお綺麗だからかと思いますわ」
「綺麗? 顔、火傷の痕があるけど」
「そのアンバランスさも含めて、整っていらっしゃいますもの」
首を傾げながら再び周りを見れば、おおよそ同意の頷きを返される。
この顔で、笑顔が綺麗、か。
「初めて言われたな、それ」
「そうなのですか?」
「うん。中学まで友達、いなかったから」
「……………………轟さん!」
「わ」
何故か涙目になり始めた八百万に、ガシッと両手を両手で握られる。
訳が分からず戸惑っていると、そのままブンブンと手を振られる。
「私たちはもうお友達です!」
「そう、かな?」
「ええ! なので何か困った事があれば、すぐにおっしゃって下さいませ!!」
「うん、ありがとう」
よく分からないが、八百万とはもう友達らしい。
謎の勢いに疑問はあれど、素直に嬉しいので私は手を振られたままお礼を述べた。
……朝と似たような光景をクラスメイトたちが再び温かい目で見守っているのに、既視感と共に気がついた八百万がまた羞恥に顔を染めるまでもう少し。
■
その日の帰り道。
初日なのでと交流を深める皆を横目に、疲れ気味な出久と共に帰路につく。
リカバリーガールに怪我を治してもらうのにはそれなりに体力を使うらしく、精神的な疲労もあわさって結構参っている状態だ。
綺麗に治った出久の指をにぎにぎと触りながら校門辺りまで来たところで、後ろから現れた人物が彼の肩に手を置いた。
「指は治ったのかい?」
「わ!? 飯田くん……! うん。リカバリーガールのおかげで」
「そうか、良かった……と、そちらは轟君だったな、体力テストでは見事だった!」
「ありがとう」
少し驚きながらも笑みで返答する出久に、飯田も安心した表情で頷く。
そして今度はこちらを向き、妙に手を動かしながら称賛する。
彼の襲来で出久に指を触っていた手をさりげなく離されたので、手持ちぶさたになった私が飯田の手の動きを何となく目で追っていると、グッと腕を引いて顎に手を当てた状態で止まる。
「しかし相澤先生にはやられたよ。俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった! 教師が嘘で鼓舞するとは……」
「はは……そうだね……」
今度は腕を組み直して唸る飯田に、出久が何とも言えない笑みを浮かべている。
除籍は嘘でも冗談でもなかったんだと知っているからこそ、どうにも返せず濁した感じの笑いだ。
それよりも私は謎の手の動きが気になる。なんであんなに動かしているんだろう。
「おーい! 三人とも~! 駅まで? 待って~!」
私がそんな事をぼんやり思っていると、たったかたったかと駆ける足音とこちらを呼ぶ声が聞こえる。
後ろを見ると、麗らかな女子こと麗日が私たちの方へ駆け寄ってきた。
「君は∞女子!」
「麗日お茶子です! えっと、飯田天哉君に轟凍夏ちゃん、緑谷……デク君! だよね!」
「で、デク!?」
∞女子なんてネーミングセンスが尖っているのが気になったが、それよりも訂正しなければならない事がある。
「デクじゃなくてイズク。出るに久しいで出久と読むの」
「うん……その、デクはかっちゃん……爆豪くんが小さい頃にバカにして付けたあだ名なんだ」
苦笑いで述べる出久の、表情に隠された劣等感。
彼の自己評価が低いのは十中八九あの男のせい。
木偶の坊のデクなんて、酷いにも程がある。
「蔑称か」
「そうなんだ~ごめん!」
けれど、次の麗日の一言。
「でも『デク』って『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ、私」
それを聞いた出久は、目を見開いて。
「っ――――デクです!!」
嫌いな筈のあだ名を、肯定した。
私はそれに驚き、同時に納得する。
出久にとって、今の言葉はそれほどまでに衝撃的だったのだ。
きっと、木偶の坊と蔑まれた日々も無駄ではなかったと、言われた気がするぐらいには。
「緑谷君!? 浅いぞ、蔑称なんだろ!?」
「う、うん、けど、コペルニクス的転回が……」
「こぺ?」
「発想が180°変わるって意味だよ」
「へー、デク君も凍夏ちゃんも物知りやね!」
ほわほわとうららかオーラを発する麗日にとっては、感覚的で何気無い発言。
それで出久が報われたのは、とても嬉しくて。
私以外が彼を救った事が、ほんの少しだけ悔しくて、寂しかった。
それを誤魔化すように出久の髪を撫でると、彼は不思議そうな顔で目を瞬かせている。
「凍夏ちゃん、どうかした?」
「ううん、なんでも」
そう言ってにっこりと笑みを向ければ、首を傾げながらも人を安心させる笑みが返ってくる。
出久の人畜無害な笑顔は、とても好き。
そんな私たちのやり取りを、麗日が不思議そうに見ている。
「デク君と凍夏ちゃんって仲良しやけど知り合い? 凍夏ちゃん教室で友達おらんかったって話が聞こえたけど」
「あ、その、幼馴染なんだ……って凍夏ちゃんそんな事言ったの!?」
「? 幼馴染は幼馴染だから、友達じゃない」
「んんっ! 何が言いたいのか分かるような分からないような!」
「ふむ、幼馴染を友人や知り合いの関係性にカテゴリーとして加えるのならば友人とは別になるのも納得だな」
「飯田君真面目や!!」
「む? 何故笑う!」
口を手で押さえて吹き出す麗日に、妙な手の動きを添えた飯田が突っ込む。
その光景を、出久は楽しそうな笑顔で眺めていた。
友達が居なかったのは出久も同じだったから、こんな学生っぽい下校が嬉しいのだと思う。
雄英高校での生活は、まだ始まったばかり。
初日から前途多難で、この先も大変な事がたくさんあるだろうけれど。
出来れば楽しく頑張れたらな、なんて思いながら、私はこれからの高校生活に思いを馳せた。
三話以降は暫く一日一話ペースです。
オリ主は普通に炎も使います。
前書きで色々書いてるのは描写が大分先になりそうな部分を先に書いてるものと思って頂ければ。