半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 感想・評価ありがとうございます。
 年始明けから風邪を拗らせていた作者は元気1/2ぐらいです。
 感想等返信出来ていませんが、ゆっくりしますのでご了承を。
 
 ちゃんねる風で微妙に詰まったので本編を書いてリフレッシュ。
 体育祭の後日談かつ轟家での一幕みたいな話。
 
 


26:翌朝の轟家。

 無事に体育祭が終わった後の話。

 放課後まで保健室で寝ていた私が、後で出久から聞いた顛末だ。

 

 表彰台の上でキスをした私たちは、恋人という関係を一気に知らしめる事となった。

 私を運び届けてから教室に戻った出久は、クラスの皆に詰め寄られたらしい。

 特に芦戸や葉隠、上鳴や峰田の追及から逃れるのに苦労したそうだ。

 何の説明も無しでは収まりがつかなさそうだと判断した出久は、準決勝後のやり取りを大分ぼかしてだけど伝えてしまったと頭を下げられた。

 私としては一向に構わないどころか、正しく認知されていく事に嬉しささえ覚えるので、謝る必要は全く無いのに。

 そう言えば少しほっとした彼に、出来れば今後は大勢の前でのああいう行為は勘弁してほしいと頼まれた。

 父親(仮)の暴挙で精神的余裕が奪われた状況とはいえ、人目を憚らずに甘えすぎたと思う。

 出久へ大きな負担を与えてしまったと落ち込んでいると、もう気にしてないと撫でられたけど。

 

 皆の追及は相澤先生の登場で一旦終わりを迎えて、始まったホームルームでは一日の労いと二日間の休日を告げられて。

 休み明けにプロからの指名がまとめられるらしく、どきどきしながら待っておけ、との事。

 私は何でも良いけど、出久にどれぐらいの指名が来ているかがとても気になる。

 多くのプロの目に留まっているだろうし、クラスでも一、二を争う票が入ってそうだ。

 

 ……後、私と出久、勝己は反省文の刑があった分は、休みの間に書いてくればいいとのお達しだ。

 出久も勝己も怪我していたし、私も倒れていたからの措置だとか。

 これについては反省点がはっきりしているから、すぐに書いて終わらせられる。

 

 ちなみに量は私、出久、勝己の順番で量が多い。

 本来、私以外の二人は同じ量だったんだけど、勝己は腕の怪我や故意的じゃなかった事を考慮して減量がされたらしい。

 私に関しては出久の三倍ぐらい。まあ、妥当な所だと思う。

 

 

 以上が、()()の学校での出来事。

 

 点滴を打たれながら寝ていたお陰で、なんとか立って歩けるぐらいには回復した私は、そのまま出久と一緒に帰宅の途についた。

 

 体調を気遣った彼が手配してくれたタクシーで、二人でゆっくりする事が出来たからか。

 

 今までの顛末や、クラスの皆の反応なんかを話しながら轟家に着いた後。

 

 気が抜けたらしい私は、家の敷居を跨ぐと同時に、再び倒れるように眠ってしまって。

 

 

「んー……あれ…………」

「あら、おはよう凍夏」

「…………おかーさん?」

 

 

 次に目が覚めたのは、翌日の朝。

 

 いつもより重い瞼をどうにか開き、ぼんやりした意識で視界に映ったのは、私のお母さん。

 

 もぞもぞと起きあがった私に、お母さんは優しい笑みを向けていた。

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

「出久くん、座って待っててくれて良いのに」

「そうよ出久。まだ疲れてるでしょう?」

「大丈夫、せめてこれぐらいはするよ」

 

 

 体育祭の翌朝。

 轟家に泊まった僕は、朝ご飯の準備を手伝っていた。

 と言っても、僕が来た頃には配膳するぐらいしかやる事が無かったから、手伝うと言える程ではないかもしれない。

 

 料理を作っているのは、同じく泊まった僕のお母さんと、轟家長女の冬美さん。

 冬美さんは小学校の先生をしていて、普段はこの家の家事を担当している。

 忙しい時は家政婦さんに頼っているけど、家の事はなるべく自分でしたいからと張り切っている人だ。

 お母さんとも仲が良く、昔から料理を教わっていて、味付けもよく似ていたりする。

 こういうと少し失礼かもしれないけど、お袋の味って感じかな。

 

 

 で、何故僕のお母さんも泊まっているのかと言えば。

 

 昨日、凍夏ちゃんとお泊まりの約束をした後の帰宅前、お母さんからも轟家で泊まる事になった主旨の連絡をもらった。

 理由は……お察しの通り、僕と凍夏ちゃんがキスした事によって関係の変化がバレたから。

 いや、元々お疲れ会的なものをやるつもりだったらしいし、どうあれお泊まりは確定事項だったんだろう。

 凍夏ちゃんが寝てしまったので、僕一人が追及されたのは恥ずかしいやら辛いやらで大変だった。

 体育祭後なのを考慮してか、ある程度で終わってくれたのは幸いなのかもしれない。

 

 

 焼きたての鮭が乗ったお皿を渡されて、良い匂いを感じながら運んでいると、ゆっくりと歩いてくる二つの足音が聞こえてきた。

 少しして、先にひょっこりと居間に顔を出したのは、まだ眠そうにしている凍夏ちゃん。

 

「おはよう、凍夏ちゃん」

「あ、いずくー……おはよー……」

 

 お皿を配膳した僕は、ふにゃふにゃした笑顔でとてとてとこちらに来た彼女を抱き留める。

 凍夏ちゃんは朝が弱い訳じゃないから、まだ疲れが抜けてないんだろう。

 ねむねむオーラが出ている彼女を座布団へ誘導しながら座らせていると、クスクスと笑う声が聞こえた。

 

「凍夏ったら、相変わらず出久君にべったりなのね」

「冷さん……えっと、何かすみません」

「ふふ、謝る事じゃないわ」

 

 続いて居間へ入ってきた柔らかい表情で笑う白髪の女性……冷さん。

 凍夏ちゃんを起こしに行っていた彼女は、轟家のお母さんだ。

 

 精神を病んでいた彼女は五年前まで病院に入院していたが、今は復調して普段は母方の実家で過ごしている。

 轟家へは時々帰ってきて、子どもたちの様子や成長を見守っていた。

 冬美さんと同じくうちのお母さんと仲良しで、時々お茶会やお出かけをしてるのを見かける。

 昨日もこの家で二人一緒に、体育祭を観戦していたそうだ。

 

 凍夏ちゃんの隣の席に座った冷さんは、僕の肩にもたれ掛かる娘の頭を優しく撫でている。

 その姿には母親らしい慈しみがあり、何だか神々しくさえある。

 凍夏ちゃんが撫でられて嬉しそうにしていると、更に微笑みが深まってきて。

 優しい笑顔が凍夏ちゃんにそっくりで……いや、凍夏ちゃんの笑顔が冷さんにそっくり、なのか。

 

 ふわふわした親子の時間を見守っていると、冬美さんやお母さんが残りの朝食のお皿を持って戻ってきた。

 ああ、結局僕、殆ど手伝えてないな。

 

 

「おはよー凍夏。よく寝てたねー」

「おはよう凍夏ちゃん。昨日はお疲れ様」

「おはよー……」

「朝ご飯だよ。昨日は夜食べてないんだから、ちゃんと食べようね」

「んー……」

「ほら、起きて凍夏ちゃん」

「わ……うん、起きる……んーっ……」

 

 

 瞼が重そうな凍夏ちゃんの頬を軽くパチパチと叩けば、大きく伸びをしてから何度か目を瞬かせていた。

 無防備な姿がとても可愛くて、思わず頬が緩んでしまう。

 お母さんたちからも微笑ましそうに見られているのに気づいた凍夏ちゃんは、よく分かっていないのか、首を傾げていたけど。

 

 そこで、凍夏ちゃんのお腹がくぅ、と小さくなった。

 

 

「……おなかすいた」

「ふふ、可愛らしいお腹の音ね」

「凍夏ちゃんを待たせるのもあれだし、食べますか!」

 

 

 配膳を終えた冬美さんやお母さんも席に着き、食卓に皆が揃う。

 炎司さんは居ないけど……うん、仕方ないか。

 

 皆で手を合わせて……何故か僕に視線が集まった。

 あれ、僕が音頭を取る感じなのか。冷さんかお母さんじゃないんだ。

 別に拒む理由もないし、構わないんだけども。

 

 軽く周りを見渡してから、僕は口を開く。

 

 

「それじゃあ、いただきます」

「「「「いただきます!」」」」

 

 

 女性陣の明るく澄み渡った声が居間に響いてから。

 

 轟家での朝食が始まった。

 

 

 

 

 

 

 ぱくぱく、もぐもぐ、はむはむ。

 凍夏ちゃんが行儀良く、しかし黙々とご飯を食べている。

 

「おかわり」

「入れるよ凍夏」

「ん、ありがとー姉さん」

 

 冬美さんにお茶碗を渡し、いつもより多く盛られたご飯を受けとると、また黙々と食べ始める。

 盛られたご飯が卵焼きやウインナーと一緒にどんどん減っていく様子は、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。

 それなりに早い速度だけど食べ方が綺麗で、彼女の育ちの良さが出ている。

 

「あらあら、よっぽどお腹が空いてたのね」

「よく噛んで食べるのよ」

「もう三杯目かぁ。ご飯足りるかな?」

「んく……これで最後だから、大丈夫」

 

 喋る時も、口の中のものをちゃんと全部飲み込んでからだ。

 ずっと一緒にいると意識する機会は少ないけど、やっぱりお嬢様なんだなぁ、なんて思ったり。

 普段よりいっぱい食べる凍夏ちゃんを見守りつつ、僕も朝食を食べ進めた。

 

 パリパリした鮭の皮を頬張りながら、この後は何をしようかと考える。

 日課のトレーニングは凍夏ちゃんは控えさせて、僕も軽めに済ませるつもりだ。

 その後は……体育祭の昨日の今日だし、のんびりしたい。

 色々しでかした僕たちは間違いなく時の人だから、出歩くのは勘弁したいという思いもある。

 気を遣ってか、母さんたちは昨日から居間のテレビは付けていないけど、体育祭の話題で持ちきりの可能性が高い。

 

 ……まあ、今更気にしても、か。

 

 僕も凍夏ちゃんも、覚悟は決まっている。

 

 ヒーローへの道を、二人一緒に進んでいくのは何を言われたとしても変わらないから。

 

 

 なんて改めて決心を確認しつつ、僕は美味しい朝食を食べ終わる。

 同時に凍夏ちゃんも満腹になったらしく、満足そうな顔でお茶碗を置いていて。

 

 ふとこちらを見た凍夏ちゃんも僕が食事を終えたのに気づいたらしく、パチリと視線が交差する。

 

 何となく見つめ合った後、お互いに微笑みあって。

 

 そして手を合わせ、食後の一言。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 声を揃えてそう言えば、お母さんたちには少し呆れた笑みを溢されてしまった。

 

 

 

 

「あ」

 

 二人で食後に温かいお茶を飲んでいると、凍夏ちゃんが何かに気づいたような声を漏らした。

 

「どうかした?」

「昨日、クールダウンしてないや」

「ああ……そういえばそうだね」

「うん。お風呂も入ってないし、早めに済ませなきゃ」

「あ、身体は軽くだけど、私が拭いといたよ」

「わ、ありがとう姉さん」

 

 冬美さんにお礼を言う凍夏ちゃんを横目に、それだったら……と予定を組み立てていく。

 

 激しい運動をした後はストレッチなどで身体を解さないと、筋肉への痛みが後々に響きやすくなる。

 柔軟性を伸ばす意味もあるし、早めにやっておいた方が良い。

 

 しかし、これなら僕にも手伝える事もある。

 

「クールダウン、一緒にやろっか」

「ん、良いの?」

「うん。元々軽いトレーニングはするつもりだったからね」

「そっか。じゃあ一緒にする」

 

 嬉しそうな凍夏ちゃんが、僕の腕に抱きついてくる。

 頭を首元へ寄せられ、鼓動の高鳴りを自覚ながらも優しく撫でてあげれば、彼女はほわほわとした空気を醸し出した。

 

 

 今までと変わらないようで、どこか感情が浮わついているのは、関係の変化によるものなのか。

 

 髪を撫でていた手を頬へと移動させれば、凍夏ちゃんは顔を上げてくれて。

 

 目に熱を帯びている彼女と、じっと見つめあう。

 

 そして、お互いの顔が徐々に熱くなっていくのが分かってしまった。

 

 

 理由は簡単…………ただの幼馴染だった頃とは違い、この先の行為が可能だから。

 

 

 小さく漏れてしまった吐息に、凍夏ちゃんがびくりと震える。

 

 

 瞳を潤ませていく彼女が、ゆっくりと目を閉じて。

 

 

 このまま、唇を重ね合いそうな雰囲気になった所で。

 

 

 

「二人ともー。私たち居るからねー?」

「「っ!」」

 

 

 

 冬美さんの一言で、我に返った。

 

 ぱっと顔を離して周りを見れば、冬美さんやお母さんは生暖かい目でニヤニヤとしていて、冷さんはきょとんとした目をしていた。

 

 

「出久くんってば、凍夏と同じぐらい大胆になっちゃったねぇ」

「い、いや、あああの、ええっと」

「早く孫の顔が見たいわねぇ」

「まっ……!? ななな何言ってんのお母さん!!?」

「凍夏、キスしないの?」

「さ、流石にお母さんの前じゃ無理……!」

 

 

 冷さん、天然でド直球のストレートを投げてこないで! 凍夏ちゃんが恥ずかしそうにあわあわしてる!

 そもそも家族の前で何をしてんだよ、って話でもありますけど! 

 昨日のあれでふっ切れすぎだろ! そういうプルスウルトラは要らないよ、僕!

 

 凍夏ちゃんも珍しく羞恥で困ってるし、ここはもう一つしか手がない。

 

 ヒーローとしては褒められた手段じゃないけど、仕方ない。

 

 そう、それは――

 

 

「と、凍夏ちゃん! 行こう!」

「あっ、う、うんっ!」

 

 

 ――逃げの一択!

 

 凍夏ちゃんの手を引いて、この場を立ち去るのみ。

 

 体育祭でもこんな逃げ方したけど、許してほしい。

 

 他に方法が思い付かないというか、心臓が持たないんだ。

 

 

「あらら、ごゆっくりねー」

「お昼はカツ丼とお蕎麦作るからねー」

「私、気にしないのに……」

 

 

 保護者の声を背に居間を離れる僕たち。

 

 冬美さんは含みを持たせないで、お母さんはありがとう。

 

 そして冷さん、微妙に残念そうに言わないで下さい。凍夏ちゃんも僕も気にします。

 

 

 




 お母さんズを登場させておきたかった回。
 後日談は一話の予定でしたが微妙に収まらなかったので、(掲示板回は除き)次で体育祭編は終わり。
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